千葉市花見川区で2013年11月に発生した死亡ひき逃げ事件は、公訴時効の成立まで1カ月に迫った9月28日、自動車運転処罰法違反(過失致死)の疑いで容疑者の男性が県警に逮捕された。しかし、被害者遺族の悲しみは癒えない。両親は10年前の出来事を振り返り、悲痛な胸中を口にした。
10年前の死亡ひき逃げで37歳容疑者逮捕 有力情報で時効目前に 13年11月5日。その日の朝はいつもと違っていた。舘下敬子さん(当時47歳)は出勤前にいつも、自宅2階のベランダで洗濯物を干している母政子さん(84)に、玄関を出た後、手を振って「行ってきます」と声を掛けてくれたが、いつの間にか出発していた。父明彦さん(88)も言葉を交わさなかった。

そして、いつもの帰宅時刻に戻らず、遅くなる時に来るはずの連絡もなかった。心配になって午後8時半過ぎ、携帯電話を鳴らしたが、つながらない。 同11時ごろだった。「娘さんをお預かりしています」との病院からの電話に、慌てて向かった。病院では、白い包帯で顔を覆われ、酸素マスクを付けた敬子さんが横たわっていた。 「呼び掛けたら分かりますから」。医師に言われ、明彦さんは必死に声を出した。「起きろ、起きろ。仕事遅れるよ」。手を握ったが、応答はない。徐々に冷たくなっていくのを感じた。そのまま、目を覚まさなかった。 翌6日午前10時40分ごろ、酸素マスクが外された。 「最後に何も話せなかったことが悔しくて、心残りで。今でもさみしくて悲しくて仕方がない」。政子さんは声を震わせる。いつも一緒に出掛けていた。野球観戦が趣味でお人よしだが、人に好かれる性格。大事な、大事な一人娘は、夫婦の宝物だった。 事件直後は警察官が頻繁に自宅を訪れ、捜査の状況を伝えてくれた。最初はすぐに犯人が捕まるものと思っていた。しかし、手がかりが少なく、捜査は難航。担当する警察官が交代するたびに、あいさつに訪れた。「必ず捕まえますから」。その言葉だけが心の支えだった。 当時、新聞配達員だった明彦さんは、しばらくの間、現場を通ることができなかった。しかし命日の夜には夫婦で事故現場に行き、線香を手向けて燃え尽きるまで見守った。 事故からまもなく10年が経過しようとしている中で、捜査に進展があった。容疑者が逮捕されたと警察から報告を受けた。「頭が真っ白になってぼうぜんとした」。明彦さんは言葉が出なかった。 逮捕された印西市の自称無職、戸田昌宏容疑者(37)は容疑を否認している。千葉北署は事故発生後の14年にも戸田容疑者に事情を聞いたが、容疑を否認。今回、戸田容疑者の関係者からの情報提供で、容疑を裏付ける証拠が見つかった。 事件当日何があったのか――。夫婦は捜査の行方を見守っている。「まだ解決したわけではありませんから。本人の言葉で、ちゃんと説明してもらえたら」【林帆南】
13年11月5日。その日の朝はいつもと違っていた。舘下敬子さん(当時47歳)は出勤前にいつも、自宅2階のベランダで洗濯物を干している母政子さん(84)に、玄関を出た後、手を振って「行ってきます」と声を掛けてくれたが、いつの間にか出発していた。父明彦さん(88)も言葉を交わさなかった。
そして、いつもの帰宅時刻に戻らず、遅くなる時に来るはずの連絡もなかった。心配になって午後8時半過ぎ、携帯電話を鳴らしたが、つながらない。
同11時ごろだった。「娘さんをお預かりしています」との病院からの電話に、慌てて向かった。病院では、白い包帯で顔を覆われ、酸素マスクを付けた敬子さんが横たわっていた。
「呼び掛けたら分かりますから」。医師に言われ、明彦さんは必死に声を出した。「起きろ、起きろ。仕事遅れるよ」。手を握ったが、応答はない。徐々に冷たくなっていくのを感じた。そのまま、目を覚まさなかった。
翌6日午前10時40分ごろ、酸素マスクが外された。
「最後に何も話せなかったことが悔しくて、心残りで。今でもさみしくて悲しくて仕方がない」。政子さんは声を震わせる。いつも一緒に出掛けていた。野球観戦が趣味でお人よしだが、人に好かれる性格。大事な、大事な一人娘は、夫婦の宝物だった。
事件直後は警察官が頻繁に自宅を訪れ、捜査の状況を伝えてくれた。最初はすぐに犯人が捕まるものと思っていた。しかし、手がかりが少なく、捜査は難航。担当する警察官が交代するたびに、あいさつに訪れた。「必ず捕まえますから」。その言葉だけが心の支えだった。
当時、新聞配達員だった明彦さんは、しばらくの間、現場を通ることができなかった。しかし命日の夜には夫婦で事故現場に行き、線香を手向けて燃え尽きるまで見守った。
事故からまもなく10年が経過しようとしている中で、捜査に進展があった。容疑者が逮捕されたと警察から報告を受けた。「頭が真っ白になってぼうぜんとした」。明彦さんは言葉が出なかった。
逮捕された印西市の自称無職、戸田昌宏容疑者(37)は容疑を否認している。千葉北署は事故発生後の14年にも戸田容疑者に事情を聞いたが、容疑を否認。今回、戸田容疑者の関係者からの情報提供で、容疑を裏付ける証拠が見つかった。
事件当日何があったのか――。夫婦は捜査の行方を見守っている。「まだ解決したわけではありませんから。本人の言葉で、ちゃんと説明してもらえたら」【林帆南】