「自分が希望していた手術法とは違う手術を行われた」「仕上がりのイメージが全く違っていた」「当初予定していた金額よりも何倍も高い請求になった」。近年の美容整形のカジュアル化に伴い、全国の消費生活センター等には美容医療サービスに関する相談件数が年々増加傾向にあり、この5年で倍増。割安感を前面に定義が曖昧なモニター契約や、不安をあおる即時契約、高額施術による金銭トラブルが続出している。そんな状況を危惧する日本美容外科医師会理事で共立美容外科・歯科の久次米秋人理事長が、美容整形の適正価格や悪質なクリニックの見極め方などを消費者の視点で注意喚起する。
【ビフォーアフター写真】元おニャン子・内海和子の娘・ゆりあんぬ、全身整形に800万「整形前から自分をかわいいと思ってた」◆横行する悪質なモニター割引 何割引までなら適正なのか?――独立行政法人「国民生活センター」による8月30日の報道発表では、美容医療サービスに関する相談件数が2022年度では3700件(2018年度の2倍)を超え、過去5年で最多となりました。久次米先生は第107回日本美容外科学会の学会長ほか、日本美容医療協会理事、日本美容外科医師会理事などを歴任されていますが、こうした現状をどう見ていますか?【久次米秋人さん】 このような声は多く聞こえるようになってきましたが、まだまだ氷山の一角ではないでしょうか。いま一番問題になっているのは、いわゆる“ぼったくり”。例えば、二重まぶた手術が3万円と格安広告で集客して、カウンセリングで「こうしたほうがいい」「これもしないとダメ」と不安をあおり、山盛り、メガ盛りに施術を肉付けしていって、見積もりは30万円からと10倍の金額になっていたり、今日契約すれば半額になるといった即時契約をするといったやり方です。――なぜそのような状況が生まれてしまうのでしょうか?【久次米秋人さん】 美容医療は自由診療なので、美容を商売にしている現状があります。ただ、9割以上の美容クリニックはまっとうな運営をしているのですが、残り1割の悪質な美容商売をするところが、それだけ多くの問題になる症例を出しているのです。――インターネットには美容医療の情報があふれています。それを鵜呑みにしてはいけないのでしょうか?【久次米秋人さん】 インターネットの広告やYouTube、SNSを利用した悪質な美容商売はあまりにもひどい状況です。みなさんも目にしたことが一度はあるかと思います。ネットの口コミなどの情報も、専門の会社に運営を任せていることだってあります。不確かな情報に騙されないこと。悪質な病院ほどネットを活用した集客が上手いのです。――モニター契約等による大幅な割引を提案することで、消費者に即日契約・施術を急かすこともあるようです。「モニター契約/価格」とは、どういったものでしょうか?【久次米秋人さん】 1つは、双方の同意を得て施術前後のお写真を撮影させていただき、院内で他の患者様にご覧いただく参考資料や、ホームページ等で使用させていただくことを条件に、その謝礼としてモニター価格で施術をお受けいただけるケースです。もう1つが悪質なパターンです。モニターセールという建前で100万円の施術を30万円で受けられるといったお得感を出しつつ、実際は前述のぼったくりと同様で、もともと高額な料金設定から安く見せているだけのケースがあります。――美容医療業界では「モニター契約/価格」は、一般的なのでしょうか?【久次米秋人さん】 最近は一般的になりつつあります。ただ、本当のモニターなのか、建前のモニター割引なのか、消費者にはわかりにくい。悪質なケースが横行している可能性はあります。――そういった悪質なケースは見分けられますか?【久次米秋人さん】 難しいです。ただ、極端な値引きは1つの判断材料になります。例えば、モニター割引でもともとの料金の半額とするのは怪しい。2割引くらいが適正な割引額でしょう。また、いつもモニターを募集している、モニター募集広告をよく見かけるという病院は注意してください。◆医者がカウンセリングしない病院は要注意 即時契約はせず複数来院を――これだけオープンにネットが普及している世の中で、悪質な病院は淘汰されないのでしょうか?【久次米秋人さん】 そういった病院は、広告量が多いほか、YouTubeやSNSなどのマーケティングに長けていて集客が上手い。他の病院と迷うお客さまをかなり高い割合で取り込んでいるようです。本来であれば美容医療は医療行為なので、カウンセリングは医者が行うのが当たり前。しかし、医者ではないカウンセラーが巧みな話術で契約に結びつけ、医者はその後に施術をするだけといったケースが多くあります。また、そこで勤めていた医者が独立して同じ手法で開業し、悪質な病院のピラミッドを形成していく。その積み重ねで悪質な症例が増えています。――医師がカウンセリングを行わないクリニックは、気をつけた方が良いのでしょうか?【久次米秋人さん】 一般的には医者がカウンセリングを30分ほど行い、その後に受付や事務担当が契約や精算の話を5分ほどします。ところが、悪質なクリニックではその逆です。カウンセラーと称する医者ではないスタッフが、まるで医者のように施術を説明します。そこで、「あなたの場合はこうした方がいい」「こうしないとできない」など不安をあおり、急かしたりして、高額な契約を結ばせます。その後、医者は組み立てられたものをただ施術するだけ。――カウンセリングの際に気をつけたほうが良いことを教えてください。【久次米秋人さん】 カウンセリングでまずは相手が医者であるかを確認すること。傷が残る場合の手術リスクや、術後の腫れ、ダウンタイムといった経過説明がなく、良い話ばかりで固めてきたら怪しいと思ったほうが良いでしょう。たちの悪いクリニックでは、簡単な施術だからとその日に手術室に連れて行かれたという乱療の話も耳にします。その場では決して契約せずに、他の病院でも話を聞くことをお勧めします。――美容外科で一番多いのは「二重まぶた手術(埋没法/切開)」と聞きます。その適正価格を教えてください。【久次米秋人さん】 大きく分けて、糸でまぶたを止める埋没法と切って二重にする切開法の2つの施術があります。いま多い症例は切らない埋没法です。10~30代であれば、9割以上は埋没法を適用できます。糸を外せば元に戻せますので、気軽に受けられます。埋没法の適正価格は10万円前後からやや高めだと20万円まで。2~3万円はありえません。また5万円以下は、なんだかんだ費用がかかる仕組みになっている場合があるので、安い理由は何かあると考えてください。一方の切開法は、30万円前後。一時期デフレで手術費が下がりましたが、現状は安くて20万円、高くて40万円。60万円と言われたら怪しんでください。――提示額が埋没法では“安すぎる”、切開法では“高すぎる”と一歩踏みとどまったほうが良い。どのような違いがあるのでしょうか?【久次米秋人さん】 二重まぶた手術で多いトラブルは、カウンセリングで「眼瞼下垂だから埋没法はできないので、裏側からとめる特別な施術が必要」などと、不安をあおって高額な治療費を請求する悪質なケースです。当院にも「眼瞼下垂と言われた」と若者が来院することもあります。しかしそのほとんどが、実際には眼瞼下垂ではありません。若い世代の眼瞼下垂であるケースは本当に少ない。それを言われたら、その病院は要注意です。◆料金パターンの多い広告は要注意 裏に金額を釣り上げる仕掛けも――インターネットなどの広告を見てカウンセリングを受けるケースが多いと思います。「広告に掲載されたプランとは別の高額なプランを不意打ち的に勧誘された」といったこともあるようです。トラブルを避けるために広告で注意する点を教えてください。【久次米秋人さん】 施術ごとに定額を提示している病院を選んだほうが良いでしょう。キャンペーンを乱発していたり、糸や針などの医療用器具や、麻酔などの薬剤、技術の難易度などの違いが見えないにも関わらず同じ施術でA、B、Cなど料金パターンがあるのは、バリエーションが多く親切に見えますが、実は方法論ではなく料金を釣り上げるための仕掛けです。――施術によって定額ではないというのは、実際にどういったことなのでしょうか?【久次米秋人さん】 例えば、脂肪吸引で施術する部位が増えたり、範囲が広がれば料金は上がりますが、同じ場所で吸引した脂肪の量で金額が上がるのが、その手法です。一般的に脂肪吸引は同じ部位であれば、吸引量に関わらず料金は一定です。しかし料金パターンが多い病院は、いろいろと盛り込んでアップセールスしようとしますので注意してください。――料金パターンが多いこと以外に、気をつけた方が良いことはありますか?【久次米秋人さん】 もう1つは、アフターフォローがしっかりしているかどうか。悪質な病院では、術後に問い合わせをしてもなんだかんだ言って医者が診ない。術後の相談に行っても医者が対応する場合は、追加で法外な料金を請求されるケースがあります。一方、広告で「一生保証」とうたっている病院がありますが、それも注意が必要です。医者は、5年後、10年後でも患者さまの調子が悪ければ診ないといけない。そもそもこういった手術は言うまでもなく「一生保証」なんです。―― 一方で、ユーザー自身の迷いから、施術への意思表示が不明確な状況も多々あると思います。その場合、クリニック側から強く施術を推すことはあるのでしょうか?【久次米秋人さん】 お客さまから「やったほうが良いですか?」と聞かれたら、やりません。お客さまがやりたいのであれば、より良くするための知恵を出します。でも、そうでないならやる必要がないからです。ところが、いろいろなことを提案する医者もいます。そういった商売をする病院も増えています。――成人年齢引き上げによって18歳からでもローンを組めるようになったことで、若年層の金銭トラブルも続出しているようです。「クレジット会社の与信審査に通らない」から虚偽の年収や貯金額を申請するよう案内しているケースもあると聞きます。【久次米秋人さん】 18~20歳の若者が「ぼったくられている」「ローンを組まされている」ということを耳にします。信販会社も良し悪しで協力しているところもあるようです。そこは消費者庁などとも連携して業界として注意喚起していかないといけないでしょう。◆過激化する美容商売にコーションできない実情 “切らない施術”増加も要因に――なぜ、昔と比べてトラブルが増えているのでしょうか?【久次米秋人さん】 トラブルの内容が変わっています。昔の美容医療の方法として“切開”がほとんどでした。それによって「切っても治らない」「美容手術のできが悪い」といった大きなトラブルが多かったんです。ところが、技術の進歩で“切らない美容医療”が多くなり、効果のほとんどない虚像を多額で売るような悪徳商売が横行し、それに対するトラブルの数が増えています。――技術進歩も1つの要因になっているということなのでしょうか?【久次米秋人さん】 いまの問題の1つには、 “切らない施術”が増えたことで研修医から医者になってすぐの技術力のない医者でもできる施術が増えてきていることがあります。ある病院では、学生の延長線上のような経験のほとんどない若い医者が、数日先輩の手術を見た後、現場に1人で立っています。そういった方たちの分母が増えているのが現状です。――その窮状を業界としては、どう考えているのでしょうか?【久次米秋人さん】 自由診療の常識の範囲を超えて美容商売が過激化している実態があり、エスカレートして節度がない一部の病院が増えているのは、大きな問題だと認識しています。本来は厚生労働省が動くべきでしょう。しかし、昔から医療に関してコーション(忠告)しにくい構造があり、医療全体の中の一部である自由診療の美容医療に対して動きが鈍い。刑事罰の対象になるような大きな問題になれば、メディアが本格的に動き、消費者がもっと声を上げて状況が変わるかもしれません。 我々としても忸怩たる思いですが、こうしてメディアに出て実情を伝えています。美容医療を正常化するために各医師会、学会、協会などでも、いままさに議論をしています。この記事の読者が美容整形を受ける際は、ぜひ上記のことを思い出して、医師がカウンセリングを行い、施術を行う美容医療を提供しているクリニックを選んでいただけたらと思います。(文/武井保之)共立美容外科・歯科 久次米秋人理事長(日本美容外科学会学会長/日本美容外科医師会理事/日本美容外科学会認定専門医)1983年、金沢医科大学医学部を卒業。1983年、高知医科大整形外科に入局。1989年、共立美容外科東京本院(品川)を開院(2002年、新宿に本院移転)。2018年、『第107回日本美容外科学会』学会長に就任。主な著書に、『しわ伸ばしクリニック』(竹書房)や『脂肪吸引クリニック』(双葉社)など。
◆横行する悪質なモニター割引 何割引までなら適正なのか?
――独立行政法人「国民生活センター」による8月30日の報道発表では、美容医療サービスに関する相談件数が2022年度では3700件(2018年度の2倍)を超え、過去5年で最多となりました。久次米先生は第107回日本美容外科学会の学会長ほか、日本美容医療協会理事、日本美容外科医師会理事などを歴任されていますが、こうした現状をどう見ていますか?
【久次米秋人さん】 このような声は多く聞こえるようになってきましたが、まだまだ氷山の一角ではないでしょうか。いま一番問題になっているのは、いわゆる“ぼったくり”。例えば、二重まぶた手術が3万円と格安広告で集客して、カウンセリングで「こうしたほうがいい」「これもしないとダメ」と不安をあおり、山盛り、メガ盛りに施術を肉付けしていって、見積もりは30万円からと10倍の金額になっていたり、今日契約すれば半額になるといった即時契約をするといったやり方です。
――なぜそのような状況が生まれてしまうのでしょうか?
【久次米秋人さん】 美容医療は自由診療なので、美容を商売にしている現状があります。ただ、9割以上の美容クリニックはまっとうな運営をしているのですが、残り1割の悪質な美容商売をするところが、それだけ多くの問題になる症例を出しているのです。
――インターネットには美容医療の情報があふれています。それを鵜呑みにしてはいけないのでしょうか?
【久次米秋人さん】 インターネットの広告やYouTube、SNSを利用した悪質な美容商売はあまりにもひどい状況です。みなさんも目にしたことが一度はあるかと思います。ネットの口コミなどの情報も、専門の会社に運営を任せていることだってあります。不確かな情報に騙されないこと。悪質な病院ほどネットを活用した集客が上手いのです。
――モニター契約等による大幅な割引を提案することで、消費者に即日契約・施術を急かすこともあるようです。「モニター契約/価格」とは、どういったものでしょうか?
【久次米秋人さん】 1つは、双方の同意を得て施術前後のお写真を撮影させていただき、院内で他の患者様にご覧いただく参考資料や、ホームページ等で使用させていただくことを条件に、その謝礼としてモニター価格で施術をお受けいただけるケースです。もう1つが悪質なパターンです。モニターセールという建前で100万円の施術を30万円で受けられるといったお得感を出しつつ、実際は前述のぼったくりと同様で、もともと高額な料金設定から安く見せているだけのケースがあります。
――美容医療業界では「モニター契約/価格」は、一般的なのでしょうか?
【久次米秋人さん】 最近は一般的になりつつあります。ただ、本当のモニターなのか、建前のモニター割引なのか、消費者にはわかりにくい。悪質なケースが横行している可能性はあります。
――そういった悪質なケースは見分けられますか?
【久次米秋人さん】 難しいです。ただ、極端な値引きは1つの判断材料になります。例えば、モニター割引でもともとの料金の半額とするのは怪しい。2割引くらいが適正な割引額でしょう。また、いつもモニターを募集している、モニター募集広告をよく見かけるという病院は注意してください。
◆医者がカウンセリングしない病院は要注意 即時契約はせず複数来院を
――これだけオープンにネットが普及している世の中で、悪質な病院は淘汰されないのでしょうか?
【久次米秋人さん】 そういった病院は、広告量が多いほか、YouTubeやSNSなどのマーケティングに長けていて集客が上手い。他の病院と迷うお客さまをかなり高い割合で取り込んでいるようです。本来であれば美容医療は医療行為なので、カウンセリングは医者が行うのが当たり前。しかし、医者ではないカウンセラーが巧みな話術で契約に結びつけ、医者はその後に施術をするだけといったケースが多くあります。また、そこで勤めていた医者が独立して同じ手法で開業し、悪質な病院のピラミッドを形成していく。その積み重ねで悪質な症例が増えています。
――医師がカウンセリングを行わないクリニックは、気をつけた方が良いのでしょうか?
【久次米秋人さん】 一般的には医者がカウンセリングを30分ほど行い、その後に受付や事務担当が契約や精算の話を5分ほどします。ところが、悪質なクリニックではその逆です。カウンセラーと称する医者ではないスタッフが、まるで医者のように施術を説明します。そこで、「あなたの場合はこうした方がいい」「こうしないとできない」など不安をあおり、急かしたりして、高額な契約を結ばせます。その後、医者は組み立てられたものをただ施術するだけ。
――カウンセリングの際に気をつけたほうが良いことを教えてください。
【久次米秋人さん】 カウンセリングでまずは相手が医者であるかを確認すること。傷が残る場合の手術リスクや、術後の腫れ、ダウンタイムといった経過説明がなく、良い話ばかりで固めてきたら怪しいと思ったほうが良いでしょう。たちの悪いクリニックでは、簡単な施術だからとその日に手術室に連れて行かれたという乱療の話も耳にします。その場では決して契約せずに、他の病院でも話を聞くことをお勧めします。
――美容外科で一番多いのは「二重まぶた手術(埋没法/切開)」と聞きます。その適正価格を教えてください。
【久次米秋人さん】 大きく分けて、糸でまぶたを止める埋没法と切って二重にする切開法の2つの施術があります。いま多い症例は切らない埋没法です。10~30代であれば、9割以上は埋没法を適用できます。糸を外せば元に戻せますので、気軽に受けられます。埋没法の適正価格は10万円前後からやや高めだと20万円まで。2~3万円はありえません。また5万円以下は、なんだかんだ費用がかかる仕組みになっている場合があるので、安い理由は何かあると考えてください。一方の切開法は、30万円前後。一時期デフレで手術費が下がりましたが、現状は安くて20万円、高くて40万円。60万円と言われたら怪しんでください。
――提示額が埋没法では“安すぎる”、切開法では“高すぎる”と一歩踏みとどまったほうが良い。どのような違いがあるのでしょうか?
【久次米秋人さん】 二重まぶた手術で多いトラブルは、カウンセリングで「眼瞼下垂だから埋没法はできないので、裏側からとめる特別な施術が必要」などと、不安をあおって高額な治療費を請求する悪質なケースです。当院にも「眼瞼下垂と言われた」と若者が来院することもあります。しかしそのほとんどが、実際には眼瞼下垂ではありません。若い世代の眼瞼下垂であるケースは本当に少ない。それを言われたら、その病院は要注意です。
◆料金パターンの多い広告は要注意 裏に金額を釣り上げる仕掛けも
――インターネットなどの広告を見てカウンセリングを受けるケースが多いと思います。「広告に掲載されたプランとは別の高額なプランを不意打ち的に勧誘された」といったこともあるようです。トラブルを避けるために広告で注意する点を教えてください。
【久次米秋人さん】 施術ごとに定額を提示している病院を選んだほうが良いでしょう。キャンペーンを乱発していたり、糸や針などの医療用器具や、麻酔などの薬剤、技術の難易度などの違いが見えないにも関わらず同じ施術でA、B、Cなど料金パターンがあるのは、バリエーションが多く親切に見えますが、実は方法論ではなく料金を釣り上げるための仕掛けです。
――施術によって定額ではないというのは、実際にどういったことなのでしょうか?
【久次米秋人さん】 例えば、脂肪吸引で施術する部位が増えたり、範囲が広がれば料金は上がりますが、同じ場所で吸引した脂肪の量で金額が上がるのが、その手法です。一般的に脂肪吸引は同じ部位であれば、吸引量に関わらず料金は一定です。しかし料金パターンが多い病院は、いろいろと盛り込んでアップセールスしようとしますので注意してください。
――料金パターンが多いこと以外に、気をつけた方が良いことはありますか?
【久次米秋人さん】 もう1つは、アフターフォローがしっかりしているかどうか。悪質な病院では、術後に問い合わせをしてもなんだかんだ言って医者が診ない。術後の相談に行っても医者が対応する場合は、追加で法外な料金を請求されるケースがあります。一方、広告で「一生保証」とうたっている病院がありますが、それも注意が必要です。医者は、5年後、10年後でも患者さまの調子が悪ければ診ないといけない。そもそもこういった手術は言うまでもなく「一生保証」なんです。
―― 一方で、ユーザー自身の迷いから、施術への意思表示が不明確な状況も多々あると思います。その場合、クリニック側から強く施術を推すことはあるのでしょうか?
【久次米秋人さん】 お客さまから「やったほうが良いですか?」と聞かれたら、やりません。お客さまがやりたいのであれば、より良くするための知恵を出します。でも、そうでないならやる必要がないからです。ところが、いろいろなことを提案する医者もいます。そういった商売をする病院も増えています。
――成人年齢引き上げによって18歳からでもローンを組めるようになったことで、若年層の金銭トラブルも続出しているようです。「クレジット会社の与信審査に通らない」から虚偽の年収や貯金額を申請するよう案内しているケースもあると聞きます。
【久次米秋人さん】 18~20歳の若者が「ぼったくられている」「ローンを組まされている」ということを耳にします。信販会社も良し悪しで協力しているところもあるようです。そこは消費者庁などとも連携して業界として注意喚起していかないといけないでしょう。
◆過激化する美容商売にコーションできない実情 “切らない施術”増加も要因に
――なぜ、昔と比べてトラブルが増えているのでしょうか?
【久次米秋人さん】 トラブルの内容が変わっています。昔の美容医療の方法として“切開”がほとんどでした。それによって「切っても治らない」「美容手術のできが悪い」といった大きなトラブルが多かったんです。ところが、技術の進歩で“切らない美容医療”が多くなり、効果のほとんどない虚像を多額で売るような悪徳商売が横行し、それに対するトラブルの数が増えています。
――技術進歩も1つの要因になっているということなのでしょうか?
【久次米秋人さん】 いまの問題の1つには、 “切らない施術”が増えたことで研修医から医者になってすぐの技術力のない医者でもできる施術が増えてきていることがあります。ある病院では、学生の延長線上のような経験のほとんどない若い医者が、数日先輩の手術を見た後、現場に1人で立っています。そういった方たちの分母が増えているのが現状です。
――その窮状を業界としては、どう考えているのでしょうか?
【久次米秋人さん】 自由診療の常識の範囲を超えて美容商売が過激化している実態があり、エスカレートして節度がない一部の病院が増えているのは、大きな問題だと認識しています。本来は厚生労働省が動くべきでしょう。しかし、昔から医療に関してコーション(忠告)しにくい構造があり、医療全体の中の一部である自由診療の美容医療に対して動きが鈍い。刑事罰の対象になるような大きな問題になれば、メディアが本格的に動き、消費者がもっと声を上げて状況が変わるかもしれません。
我々としても忸怩たる思いですが、こうしてメディアに出て実情を伝えています。美容医療を正常化するために各医師会、学会、協会などでも、いままさに議論をしています。この記事の読者が美容整形を受ける際は、ぜひ上記のことを思い出して、医師がカウンセリングを行い、施術を行う美容医療を提供しているクリニックを選んでいただけたらと思います。
(文/武井保之)
共立美容外科・歯科 久次米秋人理事長(日本美容外科学会学会長/日本美容外科医師会理事/日本美容外科学会認定専門医)