結婚は当人同士が行うものだが、親以上の世代の中には“家と家がするもの”と考えている者も少なくない。確かに、昔はそれが一般的な結婚に対する価値観であり、そうした一面があるのも事実だ。 ただし、困るのは「嫁いできた以上は、義実家に尽くして当たり前」と思っている人たち。8年前に入籍した中堅商社に勤める植木礼司さん(仮名・39歳)の母親もその典型で、結婚当初から隣町に住む妻を実家に呼び出しては家事や買い物をさせて家政婦のように扱っていたそうだ。
◆長期出張で地方に行っている間に…
「私が知ったのは後になってから。実は、結婚後すぐに数か月間の長期出張で地方支社に行くことになったんです。その間も妻とは連絡を取り合っていましたが、彼女は心配をかけたくなかったのか辛かったはずなのにずっと黙っていたんです」
ちなみに母親が妻をこき使っている事実を知ったのは定時報告のために本社を訪れた時。その日、妻は仕事で帰りが遅くなると聞いていたので母親に会いに行こうとしたが、実家近くでちょうど買い物帰りだった隣の家に住んでいた女性から声を掛けられる。
◆息子の異性関係に拒絶反応を見せていた母親
「子供の頃から知っているおばさんで最初は単なる世間話でしたが、『そういえば最近、礼司君の奥さん、よく来てるみたいね。時々見かけるわよ』って言われたんです。でも、母に尋ねてみても『最近会ってないわね』と否定。おばさんは近所でも面倒見のいい人で町内会の役員を務めたこともあり、周りからは信頼されていました。だから、とてもウソをつくようには思えなかった。そうなるとウソをついているのは母ということになる。息子として信じたくなかったですけど、思い当たるフシはいくつもありました」
植木さんは弟と2人兄弟で、母親は子供の頃から息子たちのことを溺愛。特に女性の交友関係にはうるさく、中学や高校の頃は恋愛感情はなくてもクラスメイトの女友達と遊ぶことにも反対したほど。
また、高校2年のときにバイト先で知り合った他の高校の女性と付き合っていた時は、母親が勝手に電話して別れるように迫ったとか。彼女がいることは隠していたが知らない間に携帯電話でのメールのやりとりをチェックしていたのだ。
◆「息子の嫁なら私にも尽くして当然」と開き直り…
「大学時代や社会人になりたての頃に交際していた女性は母に教えませんでしたが、結婚を考えていた今の妻はさすがに紹介しないわけにはいきません。ただ、母は結婚を喜んでいるように見えましたし、妻に悪い感情を抱いているようには見えなかったんです。入籍を済ませて杞憂に終わったと思ったのですが、それは大きな誤りだったようです」
この日は自宅に泊まってから翌日出張先に再び戻る予定だったため、帰宅した妻に確認。そのときは否定していたが、それからしばらく経ったある晩、「実は……」と母親から週に何度も実家に呼び出されたことを打ち明けられる。
◆転勤して物理的な距離を置くことに
「母は元気なのにもかかわらず、妻に家のことをあれこれとやらせていたのが許せませんでした。しかも、そのことを母に追求すると開き直った様子で『息子の嫁なら私にも尽くして当然』と言い、本人に謝罪するように求めるも拒否。それどころか『あんなあばずれとはさっさと離婚しろ』って。話がとても通じる様子ではなかったため、妻には母からの連絡をブロックするように伝えました。ところが、これに腹を立てたのか今度はアポなしで自宅に押しかけてきたんです」

「彼女はこの提案を受け入れてくれ、この2か月後には実家からは飛行機の距離の地方都市に引っ越しました。父は私が結婚する数年前に病気で亡くなっており、今は母のストッパーとなる存在がいません。この騒動の2年後には弟も結婚し、その奥さんにも同じことをしようしたみたいですがかなり勝気な性格のお嫁さんで、母のことを返り討ちにしたそうです。その話を聞き、妻と大笑いしました」
◆未だに妻を「あの女」呼ばわりする母親に失望
現在、植木さんと妻の間には1男1女の2人の子供がいるが、実家に戻る時はいつも自分と子供だけ。妻はあれ以来、母親とは疎遠になったままだ。
「未だに『あの女』呼ばわりしており、会わせたらろくなことになりませんから。本当は子供を実家に連れて行くつもりはなかったのですが、彼女が『さすがにそれはかわいそうだから』って言うので会わせたのに。恩を仇で返すのですから息子として本当に情けないですよ」
彼が立派なのは、最初から一貫して妻を守り続けていること。いくら自分にとってはよき母親でも妻にとってよき姑とは限らない。そこを勘違いして姑の味方をした場合、最悪離婚になりかねないのでくれぐれも注意しよう。
<TEXT/トシタカマサ>