婚活市場において「恋愛弱者」と「恋愛強者」の差が残酷なほどに出てしまうのには正当な理由がある(写真:PIXTA)
マッチングアプリや結婚相談所など「婚活」が一般化する一方で、婚活そのものが「結婚を遠ざけてしまっている」という問題が提起されています。実際、婚活という用語が提唱された2006年以後、婚姻数は減少を続けています。
本稿では、『婚活との付き合いかた:婚活市場でこじらせないための行為戦略』の著者で、東京都立大学の高橋勅徳准教授が、男性の場合、婚活の形態によって「恋愛強者」と「恋愛弱者」で出会いに大きな差が生じてしまう理由を解説します。
前回「マッチングアプリで「急激にモテる女性」の勘違い」では、マッチングアプリや結婚相談所といった婚活支援サービスを利用するにあたって、男性は「ある程度のざっくりとした条件を決めて、その範囲に当てはまる女性全てにマッチングを申し込む」というショットガンアプローチが最善手になってしまうことを指摘しました。
恋人を作るにも、結婚するにも「まず出合いの機会」が必要なことは、確かなことであるように思えます。ところが、大多数の婚活男性が婚活支援サービスの利用を通じて経験するのは、「出合いの数の増加=結婚の可能性の増大」というバラ色の未来ではなく、強者男性と弱者男性の残酷なほどの格差の増大という現実ではないかと、私は考えています。
確かに、男性は婚活支援サービスを利用しショットガンアプローチを展開していくことで、出会いの機会を増やしていくことは可能です。しかし、実際にそれを交際から結婚につなげるためには、女性に「交際」や「結婚」を決断させるだけの魅力が男性に備わっている必要があります。
恋愛・結婚において重要だとわかっているが、どうにもぼんやりとした「魅力」について、近年の社会学では「恋愛資本」という概念が提唱されています。
例えば小林・大(2016)は、「人びとは恋愛経験によって、対人魅力やコミュニケーション能力を恋愛資本として蓄積し、それを有効活用することで結婚として回収する」という仮説のもとで、過去の恋人の人数と恋愛経験(キス)の数と、結婚の因果関係について調査を行っています(※1)。
この調査では、既婚者のうち過去の恋人の数は男女合計で平均2.6人となっていますが、既婚男性は過去の恋人の人数が5.6人、キスをした人数は12.9人の男性がピークになっていたことが指摘されています。
恋愛資本は単純化すると、対人魅力(容姿・社会的地位・収入・資産)×異性とのコミュニケーション能力と考えることができるでしょう。対人魅力は社会的地位や収入はある程度までは努力で改善できるものの、親から受け継ぐ容姿や資産については生得的な差を覆すことが難しいと考えられます。
それに対してコミュニケーション能力は、経験と学習を通じて後天的に向上させること比較的容易です。おそらく、思春期から結婚適齢期までの間に、積極的に異性とコミュニケーションをとり、失敗を含めて恋愛経験を積み重ねていった男性が、恋愛資本を蓄積した強者へと成長すると考えられます。
※1 小林盾・大裕子(2016) 「恋愛経験は結婚の前提条件か:2015年家族形成とキャリア形成についての全国調査による量的分析」『成蹊人文研究』第24号, pp.1 -15.
この恋愛資本という考え方と、婚活市場のもつ独自の力学を組み合わせて考えると、「出会いの機会の増大」が、必ずしも男性の交際・結婚につながらない理由が明確になってくると思います。
婚活支援サービス(特にマッチングアプリ)は対人魅力(容姿・社会的地位・収入・資産)で検索して、出会いたい人をピッキングする機能を実装しています。そうすると、婚活市場では対人魅力の重要性が遥かに高くなり、優れた容姿、優れた社会的地位や収入、資産を有する恋愛強者男性が女性との出会いの機会を寡占し、恋愛弱者男性は女性とマッチングすることすら困難となってしまいます。
とはいえ、日常生活において恋愛強者男性であるからと言って、婚活市場で安泰とは言えないのが婚活市場の面白いところです。例えばマッチングアプリを利用している女性が、自分が交際相手に求める対人魅力(容姿・社会的地位・年収・資産)をもとに好みの男性をピッキングした際、どう見えてしまうでしょうか?
先程指摘したように、女性はマッチングアプリ上では対人魅力で比較検討して、好みの範囲に入る男性をピッキングしていくことが可能です。さしあたってプロフィールページを一目で比較できてしまう容姿と、フィルタリング可能な収入で求める男性を探索していく中で、女性の目の前には、々蘯入イケメンの超ハイスペック、▲ぅ吋瓮鵑世低収入の容姿モテ男、M道僂縫魯鵐任あるが高収入のリッチマン、ぞ魴錣亘たしているが、突出したものがない平均的モテ男、の4パターンの男性が現れることになります。
男性側がショットガンアプローチを繰り返している婚活市場で、数多くのマッチング申込みの中から、女性が最優先で申し込む対象が超ハイスペック男であることは容易に予想できると思います。そうすると、日常生活の中では「魅力的」に見える男性も、婚活市場では「超ハイスペック男性」と「それ以外」という格差が生まれてしまいます。
「平均的モテ男」と「リッチマン」、「容姿モテ男」のどちらが婚活市場で有利になるかは微妙なところですが、おそらく容姿や収入・資産で突出した価値を有するリッチマンや容姿モテ男の方が、突出した価値が見えやすい分、若干有利になるのではないかと私は考えています。
このように、「まず対人魅力でフィルタリングされる」という婚活支援サービスの持つ特徴と、比較されて格差が生じてしまうという婚活市場の力学を踏まえると、男性の婚活戦略は「自分磨きとショットガンアプローチ」という、単純なものではないと言えるのではないでしょうか。
ここまでの論考を踏まえて、婚活男性にまず求められるのは、自分が恋愛弱者/恋愛強者のどちらに当てはまるのかを確認しておくことです。さしあたって、小林・大(2016)の調査を参考に、過去に3人以下の女性としか交際経験のない男性を恋愛弱者男性としておきましょう。
恋愛弱者男性の中には、対人魅力に優れた方がいらっしゃると思います。その場合は、特に対人魅力で選別されやすいマッチングアプリを利用して出会いの機会を増やし、コミュニケーション能力を磨き上げていくことで、リッチマン・容姿モテ男・ハイスペック男性のどれかにクラスチェンジしていく可能性があります。
それに対して、対人魅力とコミュニケーション能力が共に少ない真の意味での恋愛弱者男性は、かなりの苦戦が予想されます。対人魅力への比重が高くなるマッチングアプリ、対面コミュニケーション能力が比較的効く婚活パーティーでは、恋愛強者男性との競争に負けてしまいます。
おそらく、女性の細かなニーズ(趣味や容姿の好み)を把握し、マッチングを試みてくれる結婚相談所に、一縷の望みがあるのではないでしょうか。他方で恋愛強者男性が何らかの理由で婚活支援サービスの利用を決意した場合は、逆に婚期を逃す危険性と隣合わせであることに注意が必要です。小林・大(2016)は、男性は過去の恋人の人数が5.6人、キスをした人数は12.9人という経験数のピークを超えると、逆に婚姻数は低下していくことを指摘しています。対人魅力に優れている恋愛強者男性が婚活支援サービスを利用すると、短期間で出会いの機会が大幅に膨れ上がることになると予想されます。その状況に置かれたとき恋愛強者男性は、さまざまな女性と出会い、恋愛を楽しむことが自己目的化し、「いつでも結婚できる」と考えて結婚を先送りする「拗らせ」を発症してしまうかもしれないのです。このように、婚活市場における男性の婚活戦略は、自分が恋愛弱者と恋愛強者のどちらかを自覚した上で、上手く婚活支援サービスを選ぶといった「婚活との付き合い方」をまず追求していく必要があるのかもしれません。(高橋 勅徳 : 東京都立大学大学院経営学研究科准教授 )
おそらく、女性の細かなニーズ(趣味や容姿の好み)を把握し、マッチングを試みてくれる結婚相談所に、一縷の望みがあるのではないでしょうか。
他方で恋愛強者男性が何らかの理由で婚活支援サービスの利用を決意した場合は、逆に婚期を逃す危険性と隣合わせであることに注意が必要です。
小林・大(2016)は、男性は過去の恋人の人数が5.6人、キスをした人数は12.9人という経験数のピークを超えると、逆に婚姻数は低下していくことを指摘しています。
対人魅力に優れている恋愛強者男性が婚活支援サービスを利用すると、短期間で出会いの機会が大幅に膨れ上がることになると予想されます。その状況に置かれたとき恋愛強者男性は、さまざまな女性と出会い、恋愛を楽しむことが自己目的化し、「いつでも結婚できる」と考えて結婚を先送りする「拗らせ」を発症してしまうかもしれないのです。
このように、婚活市場における男性の婚活戦略は、自分が恋愛弱者と恋愛強者のどちらかを自覚した上で、上手く婚活支援サービスを選ぶといった「婚活との付き合い方」をまず追求していく必要があるのかもしれません。
(高橋 勅徳 : 東京都立大学大学院経営学研究科准教授 )