教員の長時間労働やなり手不足が全国的な課題となるなか、正規の教諭をカバーする高齢の講師の存在感が大きくなっている。
講師の確保は各学校の裁量に委ねられており、講師確保は学校間の争奪戦の様相という。その結果、70歳以上の講師も少なくない状況で、福岡県教育委員会は教員免許を所持しながら教職に就いていない「ペーパーティーチャー」のスカウトに乗り出すなど人材開拓に力を入れている。
福岡県内の県立高校で常勤講師として教壇に立つ72歳の男性は一般の教諭とほぼ同じ週18コマを担当し、副担任や部活動の副顧問も請け負っている。勤務時間は午前8時から午後4時半までだ。
勤務するのは県内有数の進学校で、男性は「手抜きの授業は考えられない。自習もさせないので、別の教員が休んだら他の人がカバーする。他の先生に迷惑をかけると思うと休めない」と語る。
教員は定年後、希望すれば65歳まで再任用され、その後は講師として登録できる。男性は65歳まで教諭として勤務した後、管理職になった同僚から「空いていたら講師としてきてほしい」と請われた。
生徒と関わるのは楽しく、やりがいを感じるが、指導力が衰えないよう、休日も問題集を解いてトレーニングし、大学の入試問題を参考に手作りの課題を作る。
運動会の練習では炎天下のグラウンドに日焼け止めを塗って出る。学校が自宅から離れていることもあり、教材作りを終えて帰宅するのは午後8時半ごろ。7月には肺炎を患った。
勤務する高校は非常勤を含め10人ほどの講師がおり、男性は「各校とも講師を確保しないと回らない現状がある。もう年なので体調には十分気を付けている」と語った。
福岡県教委によると、講師は65歳以上の元教諭のほか、教員免許を保有しているが、採用試験を受験・合格していないなどの非正規雇用の人を指す。正規教員は教育委員会によって配置されるが、生徒数に変動が生じた際の調整や育休取得者の代替などで各校とも一定の講師が必要で、確保は各学校が行う。近年は定年退職者が増加傾向で多くの学校で講師不足が発生。今年5月1日現在で、県立高94校で計10人程度、講師枠がうまらなかったという。
福岡教育連盟によると、県立高では今年3月の人事異動発表後、「講師が全く足りない」「年度途中で育休に入る人の代替講師が見つからない」「非常勤講師が増加して時間割作りに苦労した」「教員のつてで招いた非常勤の方は70代でパソコンが不得手」などの声が上がった。講師は各校が県の講師登録リストなどから勤務可能な人を探すが、学校間で争奪戦が起きており、70歳以上の講師も複数いるという。
同県教委によると、定年退職後に県立高校に再任用された教員は令和3年度に500人を超え、今年度は577人と増加が続いている。いまでは60、70代の高齢人材が重要な戦力となっている。
県教委は今年1月、教員免許保持者で教職に就いていない「ペーパーティーチャー」を対象に、教員の魅力を紹介するセミナーを初開催した。約60人が集まり、民間企業から転身した教員らが体験談を紹介。民間で働く人の中には「働きながら教員免許を取得するのにハードルがある」という声があることから、社会人経験者を対象に特例として、採用試験合格の2年後までに免許を取得すれば取得後の採用とする制度も新たに設けた。教職員課の担当者は「潜在教員の方の背中を押し、新しい層を開拓したい」と語る。
高校だけでなく小中学校を含めた教員不足は常態化している。文部科学省が3年度に実施した教員不足の実態調査では、全国の公立校で始業日時点で計2558人が不足し、不足に陥った学校の割合は小学校が4・9%、中学校が7・0%、高校が4・8%に上った。特に九州は小中学校の不足率が高い傾向にあり、小学校での教員不足率は熊本県が全国ワースト2位、長崎県が同5位、福岡県は同6位。中学校では熊本県が同1位、長崎県が同2位、福岡県が同3位となっている。文部科学省の担当者は「講師を含め教員不足は全国的な課題で、退職後に勤務を続けている人も一定数いる。教師の魅力発信や勤務環境の改善のほか、教員免許を持っている人で教壇に立っていない人を学校現場とマッチングするなどの取り組みを進めている」としている。(一居真由子)