どこもかしこも人、人、人であふれる行楽地。このお盆は台風直撃で交通機関が乱れたこともあり、国内旅行はもうウンザリ!なんて嘆く方も多いだろう。だが、これは来(きた)るべき嵐の序章に過ぎない。いよいよ中国からの団体旅行客が大挙して来日するというのだ。
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【衝撃写真!】浅草寺の境内で“水浴び”する中国人観光客 実に3年半ぶりの解禁である。コロナ禍で団体旅行の渡航制限を設けていた中国政府が、突如として日本や欧米への渡航を認めたのは8月10日のこと。その第一陣が18日に大阪の関西空港へと降り立ったのだ。

社会部デスクが解説する。「今年7月の訪日外国人は232万人余り。過去最多だった2019年の同月比8割近くに回復していますが、そこに中国の団体客が加われば、コロナ前をしのぐ数になる可能性は十分あります」中国人旅行者 コロナ禍以前のピーク時は、中国からの観光客が月100万人超も日本を訪れ、訪日外国人の3割強を占めていた。ゆえに“爆買い”に象徴される国内消費額もズバ抜けていたという。9月末から本格化の気配 第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏によると、「訪日外国人全体の消費額は年間4兆8千億円ですが、その内訳を見ると中国人が約4割にあたる1兆7千億円。このままのペースで訪日客が増加すれば、全体でプラス2兆円の増加が見込まれており、中国人の買い物代だけで8700億円ものお金が日本の百貨店やドラッグストアなどにもたらされます」(同) 中国からの団体旅行解禁の一報を受け、東証では観光業界や百貨店など関連銘柄の株価が上昇したのもうなずける。目下、中国では「国慶節」と呼ばれる建国記念日の10月1日前後が大型連休にあたり、9月末から団体客の襲来が本格化しそうな気配なのだ。 いやしかし、インバウンド華やかなりし頃の日本で社会問題となっていたのは、中国人観光客によるマナー問題である。すでに都内をはじめ京都など主要な観光地では、訪日外国人が集中してオーバーツーリズムと呼ばれる観光公害の問題が深刻化。そこにマナーの悪さで定評のある中国からの団体様がやってくるとなれば、大混乱は間違いない。中国各地の景勝地で混乱「実は中国が団体旅行を認めた背景には、深刻な国内事情があるのです」 そう明かすのは、現地事情に詳しいジャーナリスト。「渡航制限で中国人の旅行熱が自国内へ向けられた結果、今年上半期だけでのべ23億人が国内旅行に出かけたとされています。シルクロード観光で有名な甘粛省の敦煌では、1日5万人もの観光客が殺到し、砂漠の周遊ツアーで人気のラクダが酷使され、過労死したなんて話まで出ています」 かの国でも人気の動物といえばパンダだが、そこでも“大渋滞”が起きた。「パンダの保護施設がある四川省の成都では、見学客が列を成して半日待つこともザラで、世界遺産の万里の長城に至っては今シーズンの入場チケットが完売しています。対応する旅行業者の不満も限界で、待遇改善を求めストライキを起こすなど、各地の景勝地で混乱が起きています」(同)「個人客、家族連れよりも団体客の方がタチが悪い」 そうした事態を収拾するための“ガス抜き”として、中国政府は団体旅行の解禁へと舵を切ったわけだ。 とはいえ、そうした中国人の熱烈な旅行欲を、日本側に受け止める余地がないのは明らかだろう。実際、すでに個人旅行で訪れている中国人によるトラブルが各地で相次いでいるのだ。「連日の猛暑とはいえ、境内で水浴びをする中国人たちがいて驚きましたよ」 とは、お盆の時期に東京・浅草を訪れた日本人観光客。「仲見世から浅草寺の境内へと入ると、柄杓ですくった水で手を清める手水舎があるんですがね。そこへ直に手を突っ込んだ中国人男性が、顔を洗って汗を流していたんですよ。その彼はずうずうしくもペットボトルに水をくみ、参拝もせず仲見世へと姿を消しました」 そんな浅草の近くには、日本随一の品ぞろえを誇る調理器具の専門店が並ぶ「かっぱ橋道具街」がある。「中国人は1本数万円もする包丁を気前よくポンと買ってくれることもあるので、ありがたいんだけどね」 とは、さる老舗の調理器具店を営む男性だ。「久しぶりに中国語を話す中高年の団体客が来てね。ウチは小さい店だからトイレは貸してないのに、どうしてもって言うからOKしたら、仲間がゾロゾロと5人くらい現れてトイレを借りていった。さすがに何か買っていってくれるかと思ったら、誰一人としてお金を落とさず退店するので頭にきましたよ。中国人は個人客や家族連れよりも、団体客の方がタチ悪いね」 銀座では、免税品などの買い物目当ての中国人を乗せた団体バスが大通りに大挙し、路上駐車は当たり前。おまけにバスから降りてきた集団は平気で所かまわず喫煙。紫煙を通行人に向けて吐き出す様を見ると、憤りを越えてあきれるばかりなのだ。大麻でキメた中国人 そればかりではない。ここ最近、中国人観光客は都心から郊外へも多く足を運んでいる。中でも富士山は、東南アジアや欧米からの観光客にも人気で、装備も不十分なのに夜通しで山頂を目指す無謀な“弾丸登山”が問題となっている。 山梨県側における富士登山の玄関口・富士急行河口湖駅前に立つ食堂に聞くと、「この夏、明らかに大麻でキメた50~60代の中国人男性が店に来て驚きました。あまりに恐くて追い返すこともできませんでしたよ。体からすえたような独特の変な臭いが漂っていて、異常に陽気で道行く人たちに話しかけたかと思えば、独り言をブツブツと呟いていましてね。なぜか手にマイクを握って、爆音で音楽を流して歌うこともあった。河口湖の治安もここまで落ちたかと感じました」 加えて懸念されるのが、国内で増加傾向にある性感染症「梅毒」のまん延である。 さる医療ジャーナリストに言わせると、「日本では若い女性を中心に梅毒が広まっており、今年の上半期だけでも感染者は7448人と昨年を上回る勢いです。このペースを加速させる恐れがあるのが中国からの観光客。実は中国国内の梅毒患者数は48万人を超え、人口比を勘案しても日本の4倍以上なんです。中国人にとって歌舞伎町は人気があり、金払いのいい上客として受け入れる店もあるので、今後が心配です」キャパオーバーになるリスク こと最近のインバウンド需要は、われわれの平穏な日々を脅かしつつある。『「無理しない」観光――価値と多様性の再発見』の著者で、観光産業に詳しい流通経済大学准教授の福井一喜氏によれば、「中国は政治体制上、政策が急に大きく変わることがしばしばあります。今回の団体旅行解禁にしても、一気に大人数で押しかけられてしまえば、経済的なメリットとは別にキャパオーバーになるリスクも負うことになってしまいます。最近はSNSの発達で、今まで観光地とはいえなかった場所が脚光を浴びるケースも増えています。観光客は定番とされる場所以外にも、地元の人しか知らないスポットやお店などにも興味を示すからです」 漫画「スラムダンク」に登場した鎌倉界隈が、中国からの訪日客の聖地となってしまったのが象徴的な例だとして、こう続ける。「特に日本は治安がよいので、海外なら危険とされる地元の人しか足を運ばないようなエリアも、人気の観光地として成立してしまいます。こうした場所は、観光客を受け入れるキャパシティーが小さいので、トラブルが起きやすいのです」宿泊料が上がる悪影響 さらには、物価高騰で苦しむわれわれの財布にまで、影響が及びそうなのである。 前出の熊野氏に聞くと、「総務省の消費者物価指数を見ると、先月の宿泊料はコロナ禍でボトムだった昨年11月に比べて1.5倍以上になっています。今後、訪日中国人が急増すると宿泊費の高騰に拍車がかかることは免れません。観光庁の宿泊旅行統計によれば、今年6月におけるシティホテルの稼働率は約70%とコロナ前の水準にほぼ近づき、混雑しています。そのため、ホテル側も人手不足を補おうと時給を上げて従業員を雇う、人件費の高騰を賄うため宿泊料が上がる、という悪影響が生まれます」 来る秋の行楽シーズンには、こんな懸念もあると熊野氏が続けて話す。「日本人観光客が国内旅行を楽しもうとしても、予約が取れない上に宿泊料も高騰する傾向にあります。円安のせいで海外は高いからと国内旅行に振り替えている人が多いのに、このままでは旅自体を断念せざるをえなくなります。正直、今の行き過ぎた円安は、日本の高いホスピタリティーやサービスを安く売りたたいているように見えて屈辱的で、あまり賛同できません」 一刻も早く政府・民間が一丸となって対策を打たねば、“日本の危機”となること必至なのだ。「週刊新潮」2023年8月31日号 掲載
実に3年半ぶりの解禁である。コロナ禍で団体旅行の渡航制限を設けていた中国政府が、突如として日本や欧米への渡航を認めたのは8月10日のこと。その第一陣が18日に大阪の関西空港へと降り立ったのだ。
社会部デスクが解説する。
「今年7月の訪日外国人は232万人余り。過去最多だった2019年の同月比8割近くに回復していますが、そこに中国の団体客が加われば、コロナ前をしのぐ数になる可能性は十分あります」
コロナ禍以前のピーク時は、中国からの観光客が月100万人超も日本を訪れ、訪日外国人の3割強を占めていた。ゆえに“爆買い”に象徴される国内消費額もズバ抜けていたという。
第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏によると、
「訪日外国人全体の消費額は年間4兆8千億円ですが、その内訳を見ると中国人が約4割にあたる1兆7千億円。このままのペースで訪日客が増加すれば、全体でプラス2兆円の増加が見込まれており、中国人の買い物代だけで8700億円ものお金が日本の百貨店やドラッグストアなどにもたらされます」(同)
中国からの団体旅行解禁の一報を受け、東証では観光業界や百貨店など関連銘柄の株価が上昇したのもうなずける。目下、中国では「国慶節」と呼ばれる建国記念日の10月1日前後が大型連休にあたり、9月末から団体客の襲来が本格化しそうな気配なのだ。
いやしかし、インバウンド華やかなりし頃の日本で社会問題となっていたのは、中国人観光客によるマナー問題である。すでに都内をはじめ京都など主要な観光地では、訪日外国人が集中してオーバーツーリズムと呼ばれる観光公害の問題が深刻化。そこにマナーの悪さで定評のある中国からの団体様がやってくるとなれば、大混乱は間違いない。
「実は中国が団体旅行を認めた背景には、深刻な国内事情があるのです」
そう明かすのは、現地事情に詳しいジャーナリスト。
「渡航制限で中国人の旅行熱が自国内へ向けられた結果、今年上半期だけでのべ23億人が国内旅行に出かけたとされています。シルクロード観光で有名な甘粛省の敦煌では、1日5万人もの観光客が殺到し、砂漠の周遊ツアーで人気のラクダが酷使され、過労死したなんて話まで出ています」
かの国でも人気の動物といえばパンダだが、そこでも“大渋滞”が起きた。
「パンダの保護施設がある四川省の成都では、見学客が列を成して半日待つこともザラで、世界遺産の万里の長城に至っては今シーズンの入場チケットが完売しています。対応する旅行業者の不満も限界で、待遇改善を求めストライキを起こすなど、各地の景勝地で混乱が起きています」(同)
そうした事態を収拾するための“ガス抜き”として、中国政府は団体旅行の解禁へと舵を切ったわけだ。
とはいえ、そうした中国人の熱烈な旅行欲を、日本側に受け止める余地がないのは明らかだろう。実際、すでに個人旅行で訪れている中国人によるトラブルが各地で相次いでいるのだ。
「連日の猛暑とはいえ、境内で水浴びをする中国人たちがいて驚きましたよ」
とは、お盆の時期に東京・浅草を訪れた日本人観光客。
「仲見世から浅草寺の境内へと入ると、柄杓ですくった水で手を清める手水舎があるんですがね。そこへ直に手を突っ込んだ中国人男性が、顔を洗って汗を流していたんですよ。その彼はずうずうしくもペットボトルに水をくみ、参拝もせず仲見世へと姿を消しました」
そんな浅草の近くには、日本随一の品ぞろえを誇る調理器具の専門店が並ぶ「かっぱ橋道具街」がある。
「中国人は1本数万円もする包丁を気前よくポンと買ってくれることもあるので、ありがたいんだけどね」
とは、さる老舗の調理器具店を営む男性だ。
「久しぶりに中国語を話す中高年の団体客が来てね。ウチは小さい店だからトイレは貸してないのに、どうしてもって言うからOKしたら、仲間がゾロゾロと5人くらい現れてトイレを借りていった。さすがに何か買っていってくれるかと思ったら、誰一人としてお金を落とさず退店するので頭にきましたよ。中国人は個人客や家族連れよりも、団体客の方がタチ悪いね」
銀座では、免税品などの買い物目当ての中国人を乗せた団体バスが大通りに大挙し、路上駐車は当たり前。おまけにバスから降りてきた集団は平気で所かまわず喫煙。紫煙を通行人に向けて吐き出す様を見ると、憤りを越えてあきれるばかりなのだ。
そればかりではない。ここ最近、中国人観光客は都心から郊外へも多く足を運んでいる。中でも富士山は、東南アジアや欧米からの観光客にも人気で、装備も不十分なのに夜通しで山頂を目指す無謀な“弾丸登山”が問題となっている。
山梨県側における富士登山の玄関口・富士急行河口湖駅前に立つ食堂に聞くと、
「この夏、明らかに大麻でキメた50~60代の中国人男性が店に来て驚きました。あまりに恐くて追い返すこともできませんでしたよ。体からすえたような独特の変な臭いが漂っていて、異常に陽気で道行く人たちに話しかけたかと思えば、独り言をブツブツと呟いていましてね。なぜか手にマイクを握って、爆音で音楽を流して歌うこともあった。河口湖の治安もここまで落ちたかと感じました」
加えて懸念されるのが、国内で増加傾向にある性感染症「梅毒」のまん延である。
さる医療ジャーナリストに言わせると、
「日本では若い女性を中心に梅毒が広まっており、今年の上半期だけでも感染者は7448人と昨年を上回る勢いです。このペースを加速させる恐れがあるのが中国からの観光客。実は中国国内の梅毒患者数は48万人を超え、人口比を勘案しても日本の4倍以上なんです。中国人にとって歌舞伎町は人気があり、金払いのいい上客として受け入れる店もあるので、今後が心配です」
こと最近のインバウンド需要は、われわれの平穏な日々を脅かしつつある。
『「無理しない」観光――価値と多様性の再発見』の著者で、観光産業に詳しい流通経済大学准教授の福井一喜氏によれば、
「中国は政治体制上、政策が急に大きく変わることがしばしばあります。今回の団体旅行解禁にしても、一気に大人数で押しかけられてしまえば、経済的なメリットとは別にキャパオーバーになるリスクも負うことになってしまいます。最近はSNSの発達で、今まで観光地とはいえなかった場所が脚光を浴びるケースも増えています。観光客は定番とされる場所以外にも、地元の人しか知らないスポットやお店などにも興味を示すからです」
漫画「スラムダンク」に登場した鎌倉界隈が、中国からの訪日客の聖地となってしまったのが象徴的な例だとして、こう続ける。
「特に日本は治安がよいので、海外なら危険とされる地元の人しか足を運ばないようなエリアも、人気の観光地として成立してしまいます。こうした場所は、観光客を受け入れるキャパシティーが小さいので、トラブルが起きやすいのです」
さらには、物価高騰で苦しむわれわれの財布にまで、影響が及びそうなのである。
前出の熊野氏に聞くと、
「総務省の消費者物価指数を見ると、先月の宿泊料はコロナ禍でボトムだった昨年11月に比べて1.5倍以上になっています。今後、訪日中国人が急増すると宿泊費の高騰に拍車がかかることは免れません。観光庁の宿泊旅行統計によれば、今年6月におけるシティホテルの稼働率は約70%とコロナ前の水準にほぼ近づき、混雑しています。そのため、ホテル側も人手不足を補おうと時給を上げて従業員を雇う、人件費の高騰を賄うため宿泊料が上がる、という悪影響が生まれます」
来る秋の行楽シーズンには、こんな懸念もあると熊野氏が続けて話す。
「日本人観光客が国内旅行を楽しもうとしても、予約が取れない上に宿泊料も高騰する傾向にあります。円安のせいで海外は高いからと国内旅行に振り替えている人が多いのに、このままでは旅自体を断念せざるをえなくなります。正直、今の行き過ぎた円安は、日本の高いホスピタリティーやサービスを安く売りたたいているように見えて屈辱的で、あまり賛同できません」
一刻も早く政府・民間が一丸となって対策を打たねば、“日本の危機”となること必至なのだ。
「週刊新潮」2023年8月31日号 掲載