「平成レトロ」が流行している。
平成時代に人気を集めた商品に再び注目が集まっているのだ。平成から令和へと年号が変わって4年あまり。まだ「振り返る」にはいささか早いような気もする。調べてみると、「平成」の持つパワーの一端が見えてきた。(デジタル編集部 古和康行)
■平成に熱視線
「平成」が熱い。2000年前後に流行した「Y2Kファッション」やカセットテープにコギャル文化……。こうした流行がどんどん生まれる。
インスタグラムには、「#平成レトロ」というハッシュタグが付いた投稿が8月中旬時点で約4万7000件もあった。プリクラ手帳やキャラクターグッズを紹介する投稿であふれかえる。
企業も熱視線を送る。日本マクドナルドは5月、「平成バーガー大復活」と題し、「焙煎(ばいせん)ごま えびフィレオ」などの商品を復活させた(現在は販売終了)。同社は「令和になって5年たち、平成時代を過去として思い出してあの時代特有のエネルギーをキャンペーン化したいと考えた」とその狙いを話す。客からは「なつかしい」「復活してくれてうれしい」と好評だったという。
1986年に誕生し、平成時代に一世を風靡(ふうび)したレンズ付きフィルム「写ルンです」もブームが再燃している。ズームもなく、ピントを合わせることもできず、スマートフォンのカメラの方が性能は良い。だが、現像された写真の持つ色味とソフトなタッチが若者の心をつかんだ。製造元の富士フイルムは「物心ついた頃からデータで写真を撮れる若い世代にとっては『何が写っているか分からない』というワクワク感と、独特な色合いなどが評価されたのでは」と分析している。
若者世代のトレンドを調査するシンクタンク「Z総研」(東京)によると、平成レトロに注目が集まったのは、2020年頃からだという。「若者世代の中でも平成時代を生きた世代には『懐かしく』、記憶にない世代には『新しい』。一手間かかるところも若者にとっては愛着を生み出し、流行になったのでは」と分析する
■平成=ウチら文化
平成時代に誕生したものを独自の視点で収集しているのが、「平成レトロ研究家」として活動している山下メロさんだ。「平成レトロとは平成の中の懐かしめる要素のことです。単に古いと言いたいわけではなく、平成年代のものをみんなで懐かしもうという思いでジャンルを作りました」と話す。
山下さんが「平成レトロ」という言葉を使い始めたのは2017年から。ポケットベル(ポケベル)や携帯電話の光るアンテナ、スケルトンの家電など、今では忘れられてしまったものの「保護活動」を始め、その魅力を雑誌などに発表していた。平成から令和に切り替わる時期に、この活動が注目を集めるようになり、昨年には著書「平成レトロの世界 山下メロ・コレクション」(東京キララ社刊)も発刊している。
なぜ山下さんは平成に魅力を感じるのだろうか。「平成時代は、子どもたちが『ウチラ文化』を作り、それが世の中を動かしていた。そんな時代のエネルギーに引かれます」と語る。
ポケベルはその好例だ。ポケベルのサービスが始まったのは昭和時代だが、着信音を鳴らすだけだったポケベルに、1987年から端末に数字を表示できる機能が追加され、平成時代から女子高生ら若者のコミュニケーションツールとして広がった。
営業マンなど大人の持ち物だったポケベルに「4649(ヨロシク)」「999(サンキュー)」など数字を暗号にしたメッセ―ジを送る手法が誕生。ポケベルを通じて連絡し合う友達を『ベル友』と呼んだ。山下さんは「平成時代には、大人の持ち物の使い方を若者が組み替えることが増えた」と指摘する。「ポケベルもケータイもデコる文化がありました。平成は“ウチら”なりに表現する方法が広まった時代だと思います」。
山下さんが収集したポケベルの一部を見せてくれた。電波がなくなり鳴らなくなったポケベルには思い思いのキャラクターシールなどで“デコった”跡が残る。仲間内の言葉にせよ、持ち物を仲間内の流行でデコるにせよ、そこには大人から提供されるものを若者たちが「ウチら」なりに表現する姿があるようにも思える。
山下さんは「平成の若者たちは商品を手にしたあと、自分たちなりの使い方や“デコり方”で個性を表現し、モノを消費していった。そうしたパワーが大人たちに子ども向けの商品を作らせた。若者の“ウチら”というエネルギーこそが『平成レトロ』として評価されるモノを生み出していったのではないでしょうか」と語った。