腹の立つことがあっても、立場上や性格上、または今後のことを考えて言動に出さず我慢して気持ちを静めることも多いのではないだろうか。「そういう状況のときに最適の方法がある」とアドバイスしてくれたのは、長年コンビニで働いている衣川久志さん(仮名・47歳)。◆夜中のコンビニやってきた迷惑客
衣川さんが働くコンビニ周辺にはビルもあれば、古くからの店や住宅も残る地域。朝は平均的な出勤時刻より前から、夜は夜中近くまで忙しい。そして、比例するように迷惑客も結構多いのだとか。そのため、理不尽な思いをすることも少なくないという。
「この前も、つい怒鳴りたくなるようなイライラする出来事がありました。見かけない男性客が携帯代金のコンビニ支払い用ハガキを持ってきたのです。決済をおこなったところ、翌日の早朝にその男性が来店。鋭い目つきをし、怒りのオーラを身にまとっていました」
そして衣川さんをみつけると、猛スピードで走り寄る。そして、「電話が止まった。料金を払ったのに、どうなっている?」と迫り、「間違って処理したんだろうが」とレジカウンターに昨日決済をおこなったコンビニ支払い用ハガキを叩きつけ、怒鳴り散らしてきたのだ。
◆コンビニ払いが決済されずに激怒
「コンビニ側は、機械でバーコードをピッと読み込むだけ。その瞬間に電話会社へ情報が送信されるため、間違えようがないのです。けれど、それを知らない男性は興奮状態。『確認いたしますので』と声をかけても、怒りはおさまらず怒鳴り続けてきます」
店内にお客がいなかったことは幸いだったが、一方的に怒鳴られ、怒りも募る。それでも男性をどうにかなだめて確認したところ、やはりきちんと処理されていた。そのことを伝えて電話会社にもう一度確認するよう言ってみたが、「は? そんなわけないだろう」と信じない。
「そこでさらに男性が持って来たハガキをよく確認すると、それは今月分の請求書でした。でもこれまでのお客さんの傾向から、そのキャリアは“カードや口座から落ちなかった先月分が支払えない場合に電話が止まる”という感じだったので、おかしいと思ったのです」
◆先月の代金を払わないと電話が止まる?
そこで男性に、「ハガキに、代金を支払わないと電話が止まると書いていませんでしたか?」と丁寧な口調で尋ねてみた。ところが彼は、「あぁっっん? 書いてあったけど、それがなんや?」とハガキも確認せず、こちらに向かって怒鳴りつけてくる。
「確認を促しても聞き入れず、勝手にこちらを悪者にして理不尽に怒鳴り散らす。この時点で、私の怒りはピークに近づいていました。でも、こちらが何か言うと本部に電話されてお叱りを受けることもありますし、トラブルになったら面倒臭いことになります」
そこで衣川さんは怒りを抑え、さらに丁寧な口調で「これと同じようなハガキ、もう1枚来ていませんでしたか?」と尋ねてみた。すると、「来ていた」「支払が遅れていたから3000円ぐらい利息がついていた」という。しかも男性は、もう1枚のハガキを持っていたのだ。
◆ミスを指摘するとしどろもどろに
「ハガキは車の中にあると言うので、取って来て見せてもらうことにしたのです。するとやはり、車にあったハガキのほうが先月分。請求金額が異なっていたのは利息ではなく、請求月が違っていたからでした。電話が止まった原因も、間違えて先月分を払ってしまったから」

「男性は、やっと自分が先月分の請求書と間違えて今月分を支払ったことに気づき、一瞬だけですが固まりました。そのあとは気まずそうに、『あっ、こっちを払うはずだったのに。どこでミスったんやろか……』と、しどろもどろ」
◆クレーマーに効果的な対処法
男性の態度には、つい「間違ったのはお前だろ? きちんと謝れよ!」と怒鳴りたくなった。けれど気持ちをグッと抑え、「電話会社に問い合わせていただけますか?」と誠実に対応。さっきまでの威勢を失い、焦って退店していく男性客の後ろ姿を満足気に見送ったとか。
「実は長年のコンビニ勤務経験から、こういうお客さんに最適かつ効果的な独自の方法を編み出しています。それが、“丁寧すぎるぐらい丁寧に対応する”こと。すると間違いに気づいたお客さんは、さっき話した男性のように自責の念に囚われ、恥ずかしくなるようです」
さらに、「間違いに気づいたお客さんのアタフタする姿を見ると、やはり少しはスッキリします。なかには、まったく動じない人もいますけど」と続けた。接客の難しさが問題になる昨今、怒りを丁寧さに変える対応も、トラブル回避へのひとつの手段といえるかもしれない。
<TEXT/夏川夏実>