36人が死亡、32人が重軽傷を負った令和元年の京都アニメーション放火殺人事件で、殺人罪などに問われた青葉真司被告(45)の裁判員裁判の初公判が5日、京都地裁で始まり、刑事責任能力を中心に検察側と弁護側の主張が対立した。
双方の冒頭陳述を3回に分けて詳報する。被告が「筋違いの恨みによる復讐(ふくしゅう)」に至った経緯を明かした検察側の冒頭陳述は次の通り。

責任能力がどの程度あったかが争点。検察は犯行が妄想に支配されたものではなく、被告のパーソナリティー(思考と行動の傾向)が表れたに過ぎず、完全責任能力があったと主張する。
今回の事件の本質は、筋違いの恨みによる復讐。京アニ大賞に応募した渾身(こんしん)の力作を落選とされ、小説のアイデアまで京アニや同社所属のアニメーターである女性監督に盗用されたと一方的に思い込み、京アニ社員も連帯責任で恨んだという、被告の自己愛的で他責的なパーソナリティーから責任を転嫁して起こした事件。うまくいかないのは自分が悪いのではなく京アニが悪いと考えた。
9歳のときに両親が離婚。父、兄、妹の4人で生活するように。父親による虐待や貧困による転校や不登校を経験した。親子の適切なコミュニケーションが取れていなかったため、独りよがりで疑り深いパーソナリティーがみられる。定時制高校を皆勤で卒業し、やればできるんだと思うようになった。
定時制高校を卒業後、約8年間コンビニでアルバイトを続けたが、店長らに仕事を押し付けられることや人間関係に嫌気がさして辞めた。うまくいかないことを人のせいにするパーソナリティーが認められる。収入がなく生活が困窮し、食品を万引するようになった。
「投げやり」な人生
人生がどうでもいいと投げやりになり、怒りを強めて、自宅のものを破壊することがあった。不満をため込んで攻撃的になるパーソナリティーが認められる。下着泥棒や女性への暴行で逮捕され、執行猶予付きの有罪判決を受けた。
30代前半は派遣社員として再出発するも、人間関係がうまくいかずに職を転々とし、無職に。このころ、京アニのアニメに感銘を受けて小説家を志した。遅くともこのころからライトノベル小説を執筆し始め、ライトノベル業界や京アニの女性監督に共感するようになった。
ただ、執筆しても満足できずに消去を繰り返し、人生を悲観して自殺を考えるも、死にきれず投げやりになった。ここでも不満をため込んで攻撃的になるパーソナリティーがみられる。
(34歳だった平成24年に)コンビニ強盗事件を起こし、取り調べで「秋葉原の無差別殺人犯と同じ心境」と述べたり、ガソリン放火に言及したりすることがあった。この事件で、懲役3年6月の実刑判決を受けた。
小説の執筆を始めた後、2ちゃんねるの掲示板などで、有名な編集者や京アニの女性監督とやりとりをしていると誤解するようになった。被告はやりとりを通じて編集者にほめられ、女性監督とは恋愛関係にあるという妄想を抱くようになった。過度な自尊心が要因と考えられる。
コンビニ強盗後には、掲示板で女性監督から「レイプ魔」と書き込まれて前科者であることを嘲笑されたと思い込み、投げやり感を強めた。こうした妄想も疑り深いパーソナリティーがみられる。
また、掲示板に政治的な書き込みをした後に、ある政治家が死亡したことをきっかけに、公安から監視されているとの妄想も抱くようになった。