全国各地で再び新型コロナウイルスが猛威をふるう。しかし、世間はすっかりアフターコロナ、日常が戻りつつある。一方で、新型コロナとは別の感染症問題も浮上している。その一つが、麻疹(大人のはしか)だ。4年ぶりに流行の恐れが懸念されている。
重症化すると死に至るおそれもあるこの病について、感染症問題に詳しい白鴎大学の岡田晴恵教授が注意を呼び掛ける。
麻疹(はしか)という感染症が注目されています。インバウンドが復活したことで、海外から麻疹ウイルスが持ち込まれ、日本人への感染が起こっているからです。
そもそも日本ではワクチン政策が功を奏し、2015年3月27日、WHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局によって日本は麻疹の排除状態にあると認定されています。かつて大流行を起こしていた土着ウイルスは認められなくなり、海外からの輸入感染とそれからの少数の二次感染事例以外の麻疹の発生がなくなったからです。
そのため、私たち日本人に麻疹という病気の記憶が薄れている中で、再び注意喚起が必要となっているのが現在の状況です。
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麻疹は、麻疹ウイルスによる急性熱性発疹性の感染症で、10日から12日の潜伏期間の後に発熱、かぜのような上気道炎症状や結膜充血を起こし、コプリック斑という麻疹特有の白斑が頬の内側の粘膜に現れます。
この数日のカタル期を経て、全身に発疹が出る発疹期となり、重症にならないで済めば10日程度で回復していきます。
しかし、現在でも麻疹ウイルスに直接に効く薬はなく、治療は対症療法しかありません。
さらに麻疹には、肺炎と脳炎という重大な二大合併症があります。
肺炎には、麻疹ウイルスによるウイルス性肺炎、二次感染による細菌性肺炎、免疫不全状態時に起こる巨細胞性肺炎などがあります。
脳炎は麻疹患者の1000人に0.5~1人の頻度で起こり、患者の約6割は完全に回復しますが、2~4割は中枢神経系の後遺症を残し、致死率は15%です。
細菌の二次感染による中耳炎が患者の5~15%に合併し、血小板減少性紫斑病や妊婦が感染した場合には、流産や死産を起こすこともあります。
また、10万人に1人と稀ですが、麻疹に罹患後、数年から10年を経て発症する亜急性硬化性全脳炎(SSPE)は知能障害、運動障害が進行し、予後不良を引き起こす疾患です。
さらに重要なことは、麻疹ウイルスによって起こる強い免疫抑制です。
麻疹罹患後に一時的に免疫が抑制され、普段では問題にならない病原性の弱い病原体による日和見感染症を誘発したり、もともと持続感染していた病原体が再度活性化して重症化することも知られています。結核の再燃、増悪や他の感染症による重症化や死亡が起こる可能性があるのも麻疹の特徴です。
麻疹ウイルスは「最強とも言われる強い感染力」を持っていることも、意外と知らない人が多いでしょう。
患者の咳などで飛び出した飛沫や飛沫核に含まれる麻疹ウイルスが空間を漂い、空気の流れによって移動します。麻疹患者とすれ違ってもうつるし、患者と離れていても同室していただけで感染します。
また、麻疹にかかったことも、麻疹ワクチンを接種したこともない、つまり免疫を持たない麻疹感受性者がウイルスに曝された場合、ほぼ100%の人が発症します。
この二つの特性によって、かつては春から初夏にかけて地域の麻疹感受性者のほとんどが感染するような大流行を全国的に繰り返していたのです。このため、国は麻疹ワクチンの開発とその定期接種を進めてきました。
そんな中、特にいま注意が必要なのが、30代と40代の人たちなのです。
続く後編記事『【専門家が警鐘】注意すべきは30代と40代…インバウンドの復活で危惧されている「麻疹(大人のはしか)大流行」の意外すぎる理由』では、30代と40代の感染が懸念されているワケと、麻疹の感染から自衛することの大切さについて、さらに詳しく説明します。