沖縄の美しい海が赤く染まった――。
「朝起きて外を見ると、普段はきれいな海が一面、変色していたのです。赤と黒を混ぜたようなどす黒い色でした。こんなことは初めてです」(周辺住民)
沖縄の名護湾で6月27日、工場で使う冷却水が海へ流出する事故が起きた。近くにあるオリオンビール名護工場から漏れ出たのだ。
「海から600mほど離れた場所に工場はあります。オリオンビールの説明では、設備を冷やす冷却水がパイプから漏れ出し川から海へと流れ出たそうです。冷却水は『プロピレングリコール』という化学物質で色を付けていました。すでに流出は止まっていますが、どのくらいの量が漏れたのかは調査中とのこと。海はショッキングな色に変わってしまいました」(地元紙記者)
プロピレングリコールは食品添加物にも使用される物質だが、決して無害ではない。環境省によると、目を刺激し、目に入ると赤くなり痛みを感じるという。何度も触れると、皮膚が刺激に対して過敏に反応するようになる。猫に長期投与したところ、脾臓や肝臓に異常が見られたとの実験結果も報告されているのだ。
オリオンビールは地元の漁業関係者などに謝罪し、安全に影響が出ていないことを説明。管轄する保健所は工場への立ち入り検査を行い、危機管理の甘さを指摘した。漏れ出た物質の回収はできず海水に拡散されるのを待つことになるため、不安の声も上がる。
前出の地元住民が心配そうに話す。
「いくら食品添加物に使われている物質とはいえ、適量を超えたら体によくない。海が真っ赤に染まるほどなので今回の流出量はかなり多いはず。貝や小魚にプロピレングリコールが吸着し、大型の魚がそれを食べ、だんだんと生物濃縮されれば濃度は高くなる。そんな魚を人が食べてしまって大丈夫なのか気になります」
観光業への影響を懸念する声もある。
「新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着き、ようやく沖縄に観光客が戻りつつあります。そのタイミングでこんなショッキングな事故が起きてしまい……。沖縄へ旅行を計画している人が、名護を避けるようにならないか心配です」(地元の観光関係者)
オリオンビールのCSR・広報部はこう話す。
「ビールタンクの冷却設備へ冷却水を送っている配管のうち、1年半使用していなかった配管を3月から再稼働しています。6月26日の定期点検では異常がみられませんでしたが、何らかの原因でこの配管にヒビが入り、冷却水が流出しました。二度とこのような事態が生じないよう防液提の容量を増やし、漏れを感知するセンサーを取り付ける予定です」
同じく工場からの流出では’22年6月、日本製鉄の東日本製鉄君津地区から猛毒物質「シアン」が漏れ出し付近の川を赤く染めた。水面には死んだ魚が浮き、東京湾にもシアンが流出したことから千葉海上保安部は水質汚濁防止法違反の疑いで今年1月、同社を家宅捜索している。
繰り返される工場からの有害物質の流出。管理体制を強化しないと、住民はリスクにさらされ続けることになる。
取材・文:形山昌由ジャーナリスト