今さら聞けない披露宴におけるテーブルマナー、あなたは大丈夫ですか?(写真:Fast&Slow/PIXTA)
コロナが落ち着き始め、外出や会食が緩和されたこともあり、結婚式の開催数が回復傾向にあるという。『ジューンブライド』と呼ばれる6月に、結婚式にお呼ばれされたという人も多いのではないだろうか。
そこで気になるのは、披露宴におけるテーブルマナーだろう。特に、コロナで会食を経験したことがない人や、数年ぶりの会食となる人にとっては、婚礼料理のような格式高い食事の場に不安を感じることもあるだろう。今回は、24時間食のことばかり考えている生粋の「食のオタク」である小倉朋子氏の著書『世界のビジネスエリートが身につけている教養としてのテーブルマナー』から、結婚式で使えるテーブルマナーを紹介する。
「マナーは自分のためのものではなく、まわりへの配慮である」
そもそも何のためにマナーがあるのかというと、なるべくまわりとの差異や不調和音をなくし、歩調を合わせるためです。食事のマナーという共通コードを互いに使うことで、みなが心地よく過ごせるわけです。自分だけ豊かな知識があればいい、正しいマナーを実践できればいい、ということではなく、食事の場を共に豊かに過ごすために役立ててこそのマナーなのです。
マナーを気にするあまり、心も体もガチガチに固くなっては本末転倒です。食事の席では会話を楽しむもの。いくらカトラリーを正しく扱って美しく食べていても、会話を楽しもうという態度がなかったら、食のマナーの半分も守れていないことになるでしょう。会話を楽しんでこそ、教養あふれる大人の振る舞いといえるのです。
フランス料理で、まず私たちが手に取るのはナプキンです。ナプキンを広げるよいタイミングは、「全員が席につき、料理のオーダーを終えた後」。
ナプキンは2つ折りにし、折り目を手前にして膝の上に広げます。そして、手や口を拭うときは折り目の内側で拭うようにすると、拭った後の汚れた面が人目につかず、最後まで美景を保つことができます。
(画像:『世界のビジネスエリートが身につけている教養としてのテーブルマナー』より)
披露宴の場合、席につくと、カトラリーが、整列しているのが目に入るでしょう。すべてをお箸で完結させる日本人からすると、ズラリと並んだカトラリーに圧倒されてしまいそうですが、いっさい複雑ではありません。この並び順は、「料理が出される順」にそっています。したがって、「一番外側に置かれているカトラリーから順に使っていく」と覚えておけば間違いありません。
また、ナイフとフォークの配置は、お店の人へのメッセージになります。ナイフとフォークをプレート上に「ハ」の字に置くのは、「食べている最中です」ということ。ナイフとフォークをプレートの右下に斜めにそろえて置くのは「食べ終わったので、下げてください」ということです。
ワインを注いでもらうときは、必ず、ワイングラスはテーブルに置いたままです。和食の席でビールや日本酒を注いでもらうときは、盃やグラスを持ち上げますね。しかしフランス料理は違います。ワインを注いでもらうときに、こちらからワイングラスを持ち上げるような真似はしません。
ワイングラスの持ち方は、2種類ありますが、世界的に一般的なのはボウル下部(丸い部分)を指先で支え、軽く包み込むようにする持ち方です。ワインを飲むとき、ワイングラスを傾けるのと同時にアゴも一緒にグイーッと上げてしまうと、ワインを呷って飲み干しているような、はしたない印象になります。
(画像:『世界のビジネスエリートが身につけている教養としてのテーブルマナー』より)
「傾けるのはワイングラスだけ」と心得ておきましょう。
ワイングラスは繊細です。乾杯ではグラスをカチンと合わせず、自分の胸の高さくらいまで軽く持ち上げるのが正式です。乾杯は、「食べましょう」の合図ではなく、心の表現です。相手とちゃんと目を合わせ、ニッコリ笑ってグラスを持ち上げる。こうして「おめでとう」「集まれてうれしい」などの気持ちを通わせることを一番に考えてください。
場合によっては、グラスを鳴らそうとグイグイ差し出してくる人もいるかもしれません。そこで頑なに拒否するのは無粋というもの。グラスを傷つけないように気をつけながら、そっと合わせればよいでしょう。
フランス料理は「ソースを楽しむ料理」ともいわれます。それだけに、ソースを堪能するのも、フランス料理のマナーの1つです。ここで重要なのは「戦略」です。肉や魚を食べ終えたときにソースがたっぷり残っていた……ということにならないよう、お皿の全体を見渡し、ソースの量を勘定に入れつつ、一切れごとに絡めながら食べていきましょう。ただ、その一点に集中するあまり、会話がおろそかにならないよう注意してください。
食べものは元々は命のあった神様の食事であり、お箸は、その神様の食事のお裾分けをいただくための神聖な道具。そして、おしぼりは、神様と共に食事をする前に手を清めるためのものです。したがって、おしぼりを使うのは自分の手を清めるときだけ、つまり「食事の前だけ」と覚えておいてください。食事の最中に誤って手が汚れたときは使ってもかまいませんが、おしぼりで口を拭くのはNG。口を拭いたいときや何かを少しこぼしてしまったとき、グラスから落ちた水滴を軽く拭きたいときなどは、まず自分のティッシュやハンカチ、懐紙で押さえましょう。
会席は宴会料理のこと。お酒を楽しみながら\萇佞陰吸い物→お造り→ぜ冓→ゾ討物→ν箸科→Ьし物→┸櫃諒→お食事→水菓子(旬の果物)の順に出されます。
「食い切り料理」とも呼ばれる会席は、一品ずつ運ばれてくるスタイルです。いつまでも食べ終えずに、膳の上に料理が溜まってしまうのはマナー違反です。例外的に先付けは、お酒と一緒に楽しむために残しておいてもかまいませんが、それ以外は、一品運ばれてくるごとに速やかにおいしくいただきます。先付けを含めて、お膳の上にあるのは「最大2品」と心得て置きましょう。
正式な陰陽五行説の順序はあるものの、現代ではお造りを食べるときは、「あっさり→こってり」と覚えておくのが一番無難です。
(画像:『世界のビジネスエリートが身につけている教養としてのテーブルマナー』より)
白身魚のような淡白な味わいのものから始め、青魚やマグロの赤身、トロなどは後にするイメージで食べていくと、先に食べたものの味が後に食べるものの味を邪魔せず、すべてをおいしく食べられるのです。
「ワサビは刺身に直に乗せるもの」と思い込んでいる人は多いようですが、ワサビを醤油に溶くのもマナー違反ではありません。ただ、いったん溶いてしまうと醤油がワサビ風味一色になるので、私のおすすめは、どちらかというと刺身にワサビを乗せる食べ方です。こうしたほうが、魚の種類によってワサビをつけるかどうか、どれくらいつけるかを自分で加減できるので、最後まで醤油の香りを楽しみつつ、お造りをおいしく食べられるでしょう。
尾頭付きの魚はハードルが高いと感じている人は多いと思いますが、怖がる必要はありません。最大のポイントは「魚の構造」に従って食べていくこと。まずエラの脇にお箸を入れ、頭側から尾側へと順に食べていくと、きれいに身が取れます。
片手をお皿のように添えて食べている人を、よく見かけます。なぜ、そうしたくなるのかというと、お箸から食べものが落ちてしまいそうな気がするからでしょう。だとしたら、「私はお箸から食べものが落ちるような食べ方しかできないんです」と表明しているのと同じことです。
(画像:『世界のビジネスエリートが身につけている教養としてのテーブルマナー』より)
解決策は簡単です。「お箸で持てる量」「自分の一口に入る量」を、ちゃんとわかっておくこと。そうすれば、適量を箸で取り、一口で食べることができます。手で持てる器ならば、背筋を伸ばしたまま器を胸元まで持ち上げ、適量を取って食べましょう。
テーブルマナーとは「心の表現」であって「目的」ではありません。「おめでとう」の気持ちを大事に、周りに気を配り、会話を楽しむことが、婚礼料理をいただく際の1番大事なマナーになるでしょう。
(小倉 朋子 : フードプロデューサー。亜細亜大学・東京成徳大学非常勤講師。)
(小倉 朋子 : フードプロデューサー。亜細亜大学・東京成徳大学非常勤講師。)