政府の規制改革推進会議が1日に是正を求めたJA共済の不適切な営業問題。関係者への取材を重ねると、農林水産省が1月に監督指針を厳格化したことから、職員による「自腹契約」がなくなりつつある実態が見えてきた。ただ厳しい指導で過度なノルマの達成を要求するJAはあり、さらなる改善が求められる。
「監督指針が厳しくなったので対応しなければならない。これを機に良い方向に変えていきたい」。福岡県のあるJAでは4月、全職員の集った会議で、幹部が本年度の共済事業について説明した。全体の営業目標を前年度から約4割減らした上で、個人ごとのノルマを廃止する方針が示された。
男性職員は「これまでは共済担当以外もノルマが課され、自腹契約をしないと達成できなかった。大きな変化だ」と話す。JA高知県では、職員本人による契約を実績としてカウントしないように変更した。
福岡県の別のJAでは、西日本新聞が問題を報じた昨年11月ごろから、「自腹契約をするな」との指示が出始めたという。一方で1人当たりのノルマは変わらず、「いつまでに達成するんだ」と指導が続く。女性職員は「自腹契約で楽になれた側面はある。逃げ道がなくなり、最近も若い職員が辞めた」と嘆いた。
関東の職員も「毎年100万円近くの自腹掛け金でノルマをこなしてきた。今後どうすればいいのか」と途方に暮れる。
農水省の改正指針は、上司が過度なプレッシャーを与える行為を「不祥事」と明記した。ただ不祥事を監督官庁である都道府県に報告するのはJAとも定めている。現場には「上司から圧力を受けているのに、職場に申告できるはずがない」との声がある。
JA福岡県労働組合の本部役員は「実績をやみくもに求める指導が続けば、職員のモチベーションが下がり、離職につながる。労組としても引き続き改善を求めていく」と語った。
JAには、新規契約の実績に応じ、上部団体の全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)から「奨励金」が払われ、重要な収入源になっている。兵庫県の職員は「共済事業に依存した経営構造を変えないと、根本的な解決はできない」と話す。JA共済連は取材に「職員に過度なプレッシャーを与えたりすることがないよう各組合に指導を行っている」とコメントした。 (宮崎拓朗、竹次稔)