梅雨時は、細菌が好む高温多湿の気候になることから、食中毒が発生しやすくなります。その多くは、食品の加熱や速やかな冷蔵・冷凍保存を怠ったことが原因です。もし感染し、重症化するようなことになれば命に関わる場合もありますので、日頃から食品の取り扱いや管理をきちんとしておくことが重要です。夏の食中毒の原因となる細菌や実際の事例、対策をご紹介します。
【写真】食中毒でよく見られる症状* * * * * * *夏の食中毒の原因となる細菌は?夏の食中毒の原因となりやすい菌の中から、「黄色ブドウ球菌」「カンピロバクター」「ウェルシュ菌」「サルモネラ菌」「腸管出血性大腸菌O157」の5つについて解説します。

特に、「カンピロバクター」「ウェルシュ菌」「サルモネラ菌」は集団食中毒の発生報告が非常に多いため注意が必要です。・黄色ブドウ球菌健康な人でも30%程度が保菌しているとされ、多くはのどや鼻の中などに検出されます。この菌は、食べ物の中で増殖するときにエンテロトキシンという毒素をつくり、この毒素を食品と一緒に食べることにより食中毒が引き起こされます。吐き気、おう吐、腹痛が主な症状で、高熱を伴うことは少ないとされています。潜伏期間は比較的短く、30分~6時間程度です。おにぎりや寿司、肉、卵、乳など、さまざまな食品に繁殖します。・カンピロバクター鶏をはじめ、ペットや野鳥、野生動物など、多くの動物が保菌しているとされています。腹痛、下痢、発熱、頭痛などが主な症状で、潜伏期間は1~7日程度です。カンピロバクターに感染した数週間後に、手足の麻痺や顔面神経麻痺、呼吸困難などを起こす「ギラン・バレー症候群」を発症し、後遺症が残ってしまうという事例も報告されています。生または加熱の不十分な鶏肉から感染する例が多いようです。・ウェルシュ菌土壌や水中など自然界に広く生息するほか、健康な人の腸にも検出されることが多い菌です。この細菌は熱に強い芽胞(耐久性の高い細胞構造)を作るため、高温でも死滅しないという特徴があります。腹痛と下痢が主な症状ですが、重症化することは少ないとされています。潜伏時間は6~18時間程度です。大鍋などで調理したカレーやシチューといった食品が、そのまま室温で放冷されることで増殖します。調理した食品はすぐに食べ切るか、あるいは冷蔵・冷凍保存するようにしてください。・サルモネラ菌河川や下水など自然界に広く生息し、ペットや家畜などの動物が保菌していることが多い菌です。加熱の不十分な卵や牛、豚、鶏などの肉などから感染します。主な症状は吐き気や腹痛、38℃前後の発熱、下痢です。潜伏期間は6~72時間ほどとされています。・腸管出血性大腸菌O157牛などの家畜が保菌していることのある菌です。毒性の強い「ベロ毒素」をつくりだし、出血性の大腸炎を引き起こします。牛レバー刺し、ハンバーグ、牛タタキ、ローストビーフ、サラダなど、さまざまな食品や食材からの感染事例が報告されています。激しい腹痛や下痢、血便が主な症状で、子どもや高齢者は重症化すると死に至ることもあり、ほかの食中毒とは違い後遺症が残ってしまう危険性もあります。菌が出す毒素で貧血や急性腎不全になる「溶血性尿毒症症候群(HUS)」には特に注意が必要です。潜伏期間は4~8日程度です。ニュースやSNSで見られる食中毒の事例梅雨を前に、すでに毎週のように各地で食中毒が発生し、ニュースとなっています。・医療機関の職員食堂で食事をした72人が下痢や腹痛などの症状を訴え、うち18人からウェルシュ菌が検出された。前日の残りを冷蔵庫で保管し、提供されたものとみられる。(2023.5.9.大阪府)・ラーメン店で食事をした男性7人が下痢や発熱などの症状を訴え、うち4人からサルモネラ属菌が検出された。(2023.4.29.埼玉県)・飲食店で串焼きなどを食べた8人グループのうち5人が腹痛や下痢、発熱などの症状を訴え、カンピロバクターが検出された。(2023.4.27.静岡県)またSNSでも、「作ってから2日が経過したカレーを食べたところ、ウェルシュ菌による食中毒を起こした」「外食先で鶏の生レバーを食べてカンピロバクターに感染した」といった報告が上がっています。中でも特に多く見られたのは、外食先で加熱の不十分な肉を食べたことによる食中毒の報告です。新型コロナが5類に移行したことで、これから外食の機会も増えていくと思われますが、肉料理については、なるべく信頼できる店で食べるようにした方がよいでしょう。『食中毒での入院が引き金で「せん妄」になった母。寝たきり状態を救ったのは夢に出てきた猫だった』はこちら食中毒の予防と対策食中毒予防には「つけない・増やさない・やっつける」の3原則が重要です。具体的には、「細菌を食べ物につけない」「食べ物に付着した細菌を増やさない」「食べ物や調理器具に付着した細菌をやっつける」ことがポイントとなります。イメージ(写真提供:Photo AC)1.「つけない」・食品に触れる場合はよく手を洗う・生の肉や魚を切った包丁やまな板は、使用後に洗剤や台所用殺菌剤で洗って熱湯をかけておく・焼肉などの際は、生肉を取る箸と、食べる箸は必ず分ける・肉や魚を購入して持ち帰る際や冷蔵庫で保存する際はビニール袋などで包んでおき、他の食品に汁がかからないようにする2.「増やさない」・冷蔵や冷凍の必要な食品は、持ち帰ったらすぐに冷蔵庫や冷凍庫に入れる・調理前の食品や調理後の食品は、室温に長く放置しない・残った食品は、早く冷えるように浅い容器に小分けして保存する3.「やっつける」・調理の際はよく加熱する(肉料理の場合、中心部を75℃で1分以上加熱するのが目安)「勝間和代 私が4日分しか食材を冷蔵庫にストックしない理由。スーパーや通販を巨大な自宅の冷蔵庫として使う。短い時間で調理できれば、作り置きを温めるより実は効率的」はこちら食中毒が疑われる場合食中毒が疑われる症状が表れた場合、おう吐や下痢による脱水症状を防ぐため、水分をよくとることが最も重要です。また、以下のような症状が見られたらすぐに病院に行ってください。・水分がとれないほどの激しい吐き気やおう吐・おう吐や下痢が数週間続く・血便そのほか、重症化リスクの高い子どもや高齢者、基礎疾患のある人の場合は、たとえ軽症であっても早めに病院を受診するようにしてください。なお、食中毒によく見られる下痢の症状は、原因菌を体内から排除しようとする身体の防御反応によるものです。自己判断で下痢止めを使用して無理に止めようとすると、より症状を悪化させてしまう恐れがあるため控えましょう。
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夏の食中毒の原因となりやすい菌の中から、「黄色ブドウ球菌」「カンピロバクター」「ウェルシュ菌」「サルモネラ菌」「腸管出血性大腸菌O157」の5つについて解説します。
特に、「カンピロバクター」「ウェルシュ菌」「サルモネラ菌」は集団食中毒の発生報告が非常に多いため注意が必要です。
・黄色ブドウ球菌
健康な人でも30%程度が保菌しているとされ、多くはのどや鼻の中などに検出されます。
この菌は、食べ物の中で増殖するときにエンテロトキシンという毒素をつくり、この毒素を食品と一緒に食べることにより食中毒が引き起こされます。
吐き気、おう吐、腹痛が主な症状で、高熱を伴うことは少ないとされています。潜伏期間は比較的短く、30分~6時間程度です。
おにぎりや寿司、肉、卵、乳など、さまざまな食品に繁殖します。
・カンピロバクター
鶏をはじめ、ペットや野鳥、野生動物など、多くの動物が保菌しているとされています。
腹痛、下痢、発熱、頭痛などが主な症状で、潜伏期間は1~7日程度です。
カンピロバクターに感染した数週間後に、手足の麻痺や顔面神経麻痺、呼吸困難などを起こす「ギラン・バレー症候群」を発症し、後遺症が残ってしまうという事例も報告されています。
生または加熱の不十分な鶏肉から感染する例が多いようです。
・ウェルシュ菌
土壌や水中など自然界に広く生息するほか、健康な人の腸にも検出されることが多い菌です。
この細菌は熱に強い芽胞(耐久性の高い細胞構造)を作るため、高温でも死滅しないという特徴があります。
腹痛と下痢が主な症状ですが、重症化することは少ないとされています。潜伏時間は6~18時間程度です。
大鍋などで調理したカレーやシチューといった食品が、そのまま室温で放冷されることで増殖します。調理した食品はすぐに食べ切るか、あるいは冷蔵・冷凍保存するようにしてください。
・サルモネラ菌
河川や下水など自然界に広く生息し、ペットや家畜などの動物が保菌していることが多い菌です。
加熱の不十分な卵や牛、豚、鶏などの肉などから感染します。
主な症状は吐き気や腹痛、38℃前後の発熱、下痢です。潜伏期間は6~72時間ほどとされています。
・腸管出血性大腸菌O157
牛などの家畜が保菌していることのある菌です。毒性の強い「ベロ毒素」をつくりだし、出血性の大腸炎を引き起こします。
牛レバー刺し、ハンバーグ、牛タタキ、ローストビーフ、サラダなど、さまざまな食品や食材からの感染事例が報告されています。
激しい腹痛や下痢、血便が主な症状で、子どもや高齢者は重症化すると死に至ることもあり、ほかの食中毒とは違い後遺症が残ってしまう危険性もあります。菌が出す毒素で貧血や急性腎不全になる「溶血性尿毒症症候群(HUS)」には特に注意が必要です。潜伏期間は4~8日程度です。
梅雨を前に、すでに毎週のように各地で食中毒が発生し、ニュースとなっています。
・医療機関の職員食堂で食事をした72人が下痢や腹痛などの症状を訴え、うち18人からウェルシュ菌が検出された。前日の残りを冷蔵庫で保管し、提供されたものとみられる。(2023.5.9.大阪府)
・ラーメン店で食事をした男性7人が下痢や発熱などの症状を訴え、うち4人からサルモネラ属菌が検出された。(2023.4.29.埼玉県)
・飲食店で串焼きなどを食べた8人グループのうち5人が腹痛や下痢、発熱などの症状を訴え、カンピロバクターが検出された。(2023.4.27.静岡県)
またSNSでも、「作ってから2日が経過したカレーを食べたところ、ウェルシュ菌による食中毒を起こした」「外食先で鶏の生レバーを食べてカンピロバクターに感染した」といった報告が上がっています。中でも特に多く見られたのは、外食先で加熱の不十分な肉を食べたことによる食中毒の報告です。
新型コロナが5類に移行したことで、これから外食の機会も増えていくと思われますが、肉料理については、なるべく信頼できる店で食べるようにした方がよいでしょう。
『食中毒での入院が引き金で「せん妄」になった母。寝たきり状態を救ったのは夢に出てきた猫だった』はこちら
食中毒予防には「つけない・増やさない・やっつける」の3原則が重要です。具体的には、「細菌を食べ物につけない」「食べ物に付着した細菌を増やさない」「食べ物や調理器具に付着した細菌をやっつける」ことがポイントとなります。
イメージ(写真提供:Photo AC)
1.「つけない」
・食品に触れる場合はよく手を洗う
・生の肉や魚を切った包丁やまな板は、使用後に洗剤や台所用殺菌剤で洗って熱湯をかけておく
・焼肉などの際は、生肉を取る箸と、食べる箸は必ず分ける
・肉や魚を購入して持ち帰る際や冷蔵庫で保存する際はビニール袋などで包んでおき、他の食品に汁がかからないようにする
2.「増やさない」
・冷蔵や冷凍の必要な食品は、持ち帰ったらすぐに冷蔵庫や冷凍庫に入れる
・調理前の食品や調理後の食品は、室温に長く放置しない
・残った食品は、早く冷えるように浅い容器に小分けして保存する
3.「やっつける」
・調理の際はよく加熱する(肉料理の場合、中心部を75℃で1分以上加熱するのが目安)
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食中毒が疑われる症状が表れた場合、おう吐や下痢による脱水症状を防ぐため、水分をよくとることが最も重要です。
また、以下のような症状が見られたらすぐに病院に行ってください。
・水分がとれないほどの激しい吐き気やおう吐
・おう吐や下痢が数週間続く
・血便
そのほか、重症化リスクの高い子どもや高齢者、基礎疾患のある人の場合は、たとえ軽症であっても早めに病院を受診するようにしてください。
なお、食中毒によく見られる下痢の症状は、原因菌を体内から排除しようとする身体の防御反応によるものです。自己判断で下痢止めを使用して無理に止めようとすると、より症状を悪化させてしまう恐れがあるため控えましょう。