子ども時代だけでなく、成人しても子どもに過度な接触をしてくる毒親たち。法律相談では「縁を切れますか?」と聞かれることが多いといいます。ではどう対応すればよいのか。毒親問題を専門に扱う吉田美希弁護士に聞きました。
–毒親に悩む方は「法的に縁を切りたい」と考える方も多いようです。そもそも法的に縁を切るということは可能ですか
よくある相談なのですが、結論から言えば、無理です。非常に残念ながら、実の親子関係を法的に切るということはできません。 毒親問題で多い相談としては、親からストーカーのような行為を受けているというものです。赤ちゃんの時は、ミルクをあげて着替えさせて全部親がやる必要がありますよね。
毒親は、大人になってからも過干渉で、子どもに執着してくる。子どもの力を奪って自分たちに依存しないと生きていけないようにするので、子どもの成長に合わせて、自立させることができないんです。
普通の健全な親であれば、その子どもの状況に合わせて少しずつ手を離していくとか、少しずつ子どもの自由な行動を認めるという方向にシフトしていく。ところが毒親の場合、子どもの自由を絶対に許せないので、大人になっても着るもの、帰宅時間、交友関係、交際相手、友人関係、食事内容まで全て逐一コントロールしようとしてくるんですね。
そういった親に子どもの方が耐えかねて一人暮らしを始めたり、結婚を機に家を出たりするとストーカー化するケースが多いです。
付きまとってくる親に対して、皆さん「縁は切れないんですか」と相談をされるのですが、先ほど申し上げたように縁は切れません。
そのかわり、まず事実上とにかく疎遠にすることを助言します。
–具体的にどのように離れることができるのでしょうか
毒親に悩んでいる方たちが何が一番つらいかと言えば、子どもが息苦しくなってしまうくらい親が距離を詰めてくること。その状況を解消するために「縁を切りたい」ということを多分おっしゃってると思うんですね。
縁を切れない以上は、親からのいわば「侵略」を解消できるような方法を取るしかないと思ってます。その方法として、親に対して自分の明確な意向を示すことを勧めています。
毒親は長年に渡って心理的なコントロールや支配を続けます。そんな中で、「自分はもう両親と関わりたくない」「距離を置いてほしい」と子どもから伝えるのはすごく勇気が要りますし、仮に自分で伝えたとしても、親の耳には全然届かないんですね。
まさか子どもが反旗を翻して自分達から離れていこうなんて予測もしていないので、全くその言葉は耳に響かないんです。
そこで、弁護士の方から「こういう意向なんです」と伝えます。意向に反する行動を執拗に続けるようであれば、何らかの法的措置を取りますよと予告し、警告するという形を取ります。
–内容証明で送るのでしょうか
そうですね。後々のことを考えて内容証明で送ります。
–これに対して、毒親側の反応はどうでしょうか。
何の音沙汰もないという反応が実は多いです。内容証明の効果があると考えて差し支えないのかなとは思っていますね。
いわゆる毒親と言われている人たちは、社会的な地位とか世間体をすごく気にしています。もしかしたら法的措置を取られてしまって、場合によっては警察に捕まったり、訴訟を起こされたりするのではないかと、不利益を恐れて何もしてこないという方が多いのではないかなと推察してます。
–逆上して押しかけてきたり、納得しなかったり……、新たなトラブルには発展しませんか
納得はしてないんだろうなとは思うんですね。自分達の子育ては正しいと揺らがずに思っているはずで、納得していない。ただ、逆上してくるケースは殆どないです。
ただ実際に何か起きてからでは遅いですから、内容証明を送るタイミングに合わせて警察にも相談をしたり、何かあった時には必ず警察の協力を得られるように意識して事件を進めています。
–そこまで深刻なケースもあるのでしょうか
相談を受けるケースでも、成人して家庭もあるのに毎日連絡があり、既読にしなかったり、いわゆる既読スルーをしたりしていると、「なぜ返信しないのか」「どこにいるのか」「音沙汰がなくて心配なので会社に行きます」「管理人さんに家を開けてもらいます」というメッセージが届く。
「仕事が忙しい」「体調が悪い」と言って帰省しないと、「もう私たちのこと、どうでもいいのね」「どうでもいいと思うんだったら死んでやる」などと、自殺をほのめかすようなメールを送ってくる。
–実際に会社に来てしまうこともあるんですか
あります。受付で断られると警備員さんが来たり、警察を呼ばれたりしたケースも。中には親が来ているってなると会社の方も対応してしまう会社も多いんですよね。そして「娘もしくは息子と連絡が取れないので、連絡を取るように言ってください」「連絡を取らせないなんてあなたの会社はどうなってるんですか」と言うケースもありました。
–子が成人したり、孫ができたりすることで変わることはありますか
法的に虐待と評価できるのは、その子どもが18歳になるまでの間ですけれども、親が急に変わることもないし、おばあちゃんになっても変わらないんですよね。
相談に来られる方の中には、50~60代の相談者さんもいらっしゃいます。親が80代、90代なのですが、子どもを昔の延長で支配しようとしてくるんですね。
教育虐待で言うと、大学受験、就職、資格試験さらには結婚相手にも口を出してきます。結婚も更に自分の支配を強めるためのイベントと捉えているので、結婚相手の職業や出身大学、相手の親の職業などにケチをつけてくるんです。孫が生まれれば、孫と会わせろと執着したり、その孫の教育に口を出してくることも多いです。
–いざ親が衰えて「助けて欲しい」と言ってきた時、子どもは拒否しても良いのでしょうか
一番重要なのは、「自分の人生を自分は守っていい」という意識を持つことだと思います。親の介護が必要なような状況になって、親から離れることについて、自分を責めてしまう面もあると思うんです。
ただ、その罪悪感から何とか無理して関わろうとしても、結局は共倒れしてしまうというケースが本当に多いので。そういう場面に際しての心構えとしては、別に一人で全てを抱え込んで対処する必要はないと伝えたいですね。
–「自分も、もしかしたら毒親かもしれない」と思う人もいるかもしれません
「自分が毒親かもしれない」って思っているのであれば、「あなたは毒親ではないです」とほぼ間違いなく言えるかなと思います。
毒親は、子どもの前ではまるで全知全能の神であるかのように振る舞うし、そういう扱いを受けなければ子どもに対して憤慨する特徴があります。だからこそ、子どもとの関係で間違ったことをしても絶対に謝らない。絶対に謝らない上に子どものせいにすることが多い。
親が間違ったことをした時に子どもに対してきちんと謝れば、子どもの方も「そういう風に(自分のことを大切に)思ってくれているんだ」と、その傷は癒えていくし、お父さんお母さんは信頼できる人だと思えるんです。
でも、毒親の場合は絶対に謝らない。そして、更に子どもに対して「そんなことで傷つくなんてお前は弱い人間だ」とか、「そんなこといつまでも根に持って随分執念深い人間だな」と、子どものせいにしてしまう。
子どもは小さくても、しっかりと理解していますので、間違った時にはきちんと謝罪をし、どこが間違っていたと考えているのか等、きちんと謝罪の意味も伝えることが大切です。気恥ずかしいとか、自分の親としての威厳が保てなくなると思って謝罪をしなかったり、自分の気持ちを伝えることを怠ると、毒親になる可能性が出てきてしまうと思いますね。
–毒親を持って悩んでいる子どもに伝えたいことはありますか
周りの信頼できる人がいれば、相談して欲しいですね。親との関係では自分が大切な存在に思えないかもしれないけど、あなたは間違いなくかけがえのない存在ですよ、と伝えたいと思います。
自分の親は毒親だと思っていて、すでに親から経済的に自立した人たちには、もし本当に親から逃げたいのであれば、逃げていいっていうことをまず伝えたいと思います。
長年親から支配やコントロールを受けてきたこともあり、「親を見捨ててはいけない」「親から離れてはいけない」という罪悪感のようなものを強く感じていることが多いと思いますが、自分を大切に扱ってくれない人の側にいなければいけない理由というのはありません。
大人になっても子どもに対し、なお支配やコントロールをしようとする親や、過剰に依存してくる親に対し、子どもの方が親に対して親の満足するように機嫌を取る義理は本当にないので、ご自身の人生を大切にしていただきたいと思います。
【取材協力弁護士】吉田 美希(よしだ・みき)弁護士幼少時からの虐待を含む自身の家庭での経験を踏まえ、親子問題(毒親・機能不全家族の問題)に積極的に取り組む。親子問題のうち、子の立場に立脚した弁護活動に特化しており、2015年の事務所開設以来、相談に乗ってきた子の立場の相談者はのべ700名を超える。親との間で問題を抱える人たちが、問題を解決し、前向きな人生を歩むための出発点に立てるよう、弁護活動に加えて、自身の体験や日々の発見をベースに、毒親や機能不全家族で悩む人たちに向けた情報発信も行っている。note:https://note.com/yoshida_miki/事務所名:法律事務所クロリス事務所URL:http://chloris-law.com/