ゲームをする様子を動画投稿サイトで配信し、若年層を中心に人気を集める「ゲーム実況」をめぐり、配信者が著作権法違反容疑で初めて逮捕された。
逮捕された男は、ストーリーを楽しむのが売りとされる「アドベンチャーゲーム」のあらすじや結末が分かる動画を投稿し、広告収入を得ていたとされる。こうした「ネタバレ動画」の投稿はゲームの購買意欲を下げ、クリエイターの努力も台無しにしかねない逸脱行為で近年問題視されている。短時間で効率の良さを求める「タイムパフォーマンス(タイパ)」を重視する若年層の志向が、配信者の「暴走」の背景にあるとの見方もある。
あらすじや結末を明示
男は名古屋市千種区千種の自称ユーチューバー、吉田忍容疑者(52)。宮城県警南三陸署などが17日、著作権法違反の疑いで逮捕した。
逮捕容疑は昨年6~7月、ゲーム会社のニトロプラスなどが著作権を持つアドベンチャーゲーム「STEINS;GATE 比翼恋理のだーりん」のあらすじや結末が分かる約1時間分のネタバレ動画や、人気アニメ「SPY×FAMILY」などを無断で編集した動画などをユーチューブに投稿したとしている。
吉田容疑者はユーチューブで「うさぎとびチャンネル」を開設し、約1万人の登録者がいた。署員がサイバーパトロールで違法動画を発見。「違法と分かっていながら動画を投稿したことは間違いない」と容疑を認めており、再生時間に応じた広告収入が目的だったとみて調べている。
ネタバレは「営業上の大きな損失」「ユーザー体験を台無しに」
ゲーム実況をめぐる逮捕は全国初とみられるが、ネタバレ動画の投稿は珍しいことではなく、映像業界団体「コンテンツ海外流通促進機構」(CODA)はホームページで「昨今問題視されている」と指摘。吉田容疑者の逮捕について「極めて悪質な事例であったため、このような対応となった」と説明している。
新作を中心にゲームの魅力を知ることできるゲーム実況は近年、若年層を中心に人気が上昇。国内のゲーム市場は2兆円規模といわれ、販促につながると期待して多くのゲーム会社が容認している。
とはいえ、無制限に許可されているのではなく、各社はガイドラインを策定。配信者の動画は独自色のあるものが前提とするのが一般的で、任天堂は「ゲームのサウンドトラックやムービーシーン、イラスト集などをコピーしただけの投稿は、認められない」と明記している。
各社が強く警戒するのが、ネタバレ動画の投稿だ。ボタンなどの操作でキャラクターを動かす「アクションゲーム」は操作性が重視され、プレーヤーの技術力や作品解説が作品の宣伝にプラスに働くのに対し、ストーリー性が重視されるアドベンチャーゲームでは売り上げ減などにつながりかねない。
アドベンチャーゲームを手掛けるプロトタイプは「内容を公開されてしまうことは営業上の大きな損失となる」と訴える。カプコンも「ユーザーの体験を台無しにする可能性がある」と指摘し、「積極的に避けている人々に故意に情報を開示するような行為はしないで」と呼びかけている。
若年層の教育も課題に
それにも関わらず、ネタバレ動画の投稿は後を絶たない。CODA代表理事の後藤健郎氏は「配信者がアクセス数を稼ぎ、それに応じた広告収入を得るための『おいしい餌』として、短時間で内容が分かるネタバレ動画が使われている」と指摘する。
背景には若年層のタイパ重視志向があるとみており、「映画、ドラマ、ゲームが、コンテンツ鑑賞というよりも情報処理として視聴される傾向がある」と分析する。
ネタバレ動画の投稿を無くすには、配信者がゲーム会社のガイドラインを遵守することが不可欠だが、デジタルコンテンツに日常的に親しむ若年層への教育も課題となる。
CODAは今春から、中高生が著作権保護に対して主体的に関わり、デジタル社会のマナーを学べる教育プログラム「10代のデジタルエチケット」を無償で提供。学校の動画教材として活用できるようにした。
アニメ映像を使って、プロかどうかや年代などに関係なく、あらゆる創作物が著作権で守られることなどを分かりやすく紹介している。
CODA事業本部プロジェクト担当部長の湯口太郎氏は「子供たち自身も気軽に動画を作ってアップロードでき、クリエイターとして権利者になり得る。正しくコンテンツを楽しむことを考えるきっかけにしてもらいたい」としている。(宇野貴文)