「東京都を襲ひて一瞬の間に之を粉砕し尽したり」。100年前の未曽有の地震を、当時の新聞はこう報じた。来る天災に備え、少しでも生き残る確率を上げたい―東京に安心できる場所はあるのか。
Photo by gettyimages
1923年9月1日11時58分、東京を壊滅的な状況に追い込んだ関東大震災から今年で100年の節目を迎える。そして今、我々は再び大地震の危機に頻している。「今後30年以内の発生確率が70%」といわれる首都直下地震だ。
’22年に東京都が10年ぶりに見直した被害想定によれば、起こりうる最大クラスの「都心南部直下地震」(M7.3)では、約20万棟の建物が全壊・全焼、約6100人が死亡すると試算されている。
もちろん、この数字はあくまで想定値にすぎない。東京での大地震という「国難」の前では、より多くの人命が失われる可能性もある。まずは「自分の住んでいる町はどれだけ危険なのか?」を知ることが、準備となる。そこで今回、だいち災害リスク研究所の所長であり、地盤災害のプロフェッショナルである横山芳春氏に、地震の最新理論に基づき、東京の中で被害が大きくなる可能性が高い町を分析してもらった。「よく参考にされるのが、都が公表している『地震に関する地域危険度測定調査』です。これは、大地震が発生した際のリスクに関して、5年に一度、行政上の区画である町丁目をすべて調べ上げ、危険度の順位付けをしたものです」「山の手」も危ないPhoto by gettyimages実際に’22年に公表された、最新の「地震に関する地域危険度測定調査」を調べてみた。危険度が高い上位5つの町丁目は以下の通りだ。1位/荒川区荒川6丁目2位/荒川区町屋4丁目3位/足立区柳原2丁目4位/足立区千住柳町5位/墨田区京島2丁目こうして見ると、荒川区、足立区、墨田区と、「下町」エリアが上位に来ていると分かる。危険とされている理由のひとつは、その軟弱な地盤だ。「東京都は東西に長く、西ほど標高が高い地形となっています。詳しく見ると、西から関東山地、多摩丘陵、武蔵野台地、東京低地と分類できます。 山地は数百万年以上、丘陵地は100万年などと長い時間をかけて自然の地層の重みで締め固められているため、硬く揺れにくいことが多い。しかし、いわゆる下町は、東京湾が内陸に入り組んでいた頃の泥と砂の堆積物でできた低地に属します。地層の歴史は長くても5000年ほどと浅く、緩い地盤で揺れやすいわけです」下町は危ない。これは紛れもない事実のようだ。では、武蔵野台地の東端にあたる「山の手」はどうだろうか。「高台は地盤が強い」というのは定説であり、住宅を買う上での目安とする人も少なくないはずだ。だが、横山氏の解説では、そんな常識が覆る。「確かに数万年以上前に作られた武蔵野台地は、概ね固い地盤です。しかし、ここ最近の研究で、台地の地盤の地下に、厚い泥の層からなる緩い地盤がある場所がいくつも見つかっています。こうした場所は低地と同等か、それ以上に揺れやすく、地震に弱いのです」高級住宅地が次々全滅「週刊現代」よりでは、そんな「隠れ揺れスポット」ともいえる町を探すにはどうすればいいのか。横山氏が注目するのが「表層地盤増幅率」という数値だ。「表層地盤増幅率の数値が大きい場所ほど、地盤は弱く、地震の揺れも大きくなります。例えば増幅率1.0の町と2.0の町とでは、揺れ幅の大きさは2倍になり、震度の階級も1~2級変わるのです。目安としては1.6~1.8程度で注意が必要となり、2.0以上になると特に揺れやすい危険な場所と考えたほうがいいでしょう」各地の表層地盤増幅率は、国立研究開発法人防災科学技術研究所が運営するウェブサイト「地震ハザードステーション」内にあるJ-SHIS Map(https://www.j-shis.bosai.go.jp/map/)で確認できる。それをまとめたハザードマップが上の通りである。さっそく東京の町々を見ていこう。 先述の通り、都の調査で危険度が判明した下町エリアは総じて「地盤が弱い危険地域」と再確認できた。東京の「住みたい街ランキング」上位に名を連ねる北千住が2.66、赤羽が2.09と、いずれも2以上を示した。「下町と同じく、2以上の増幅率が密集しているのが湾岸エリアです。2.31の豊洲など、埋め立て地は基本的に地盤が非常に弱い場所が多いと考えるべきです」後編記事『「世田谷、目黒、杉並区も危ない…」最新指標《表層地盤増幅率》が警告する「東京の住みたい街ランキング上位」で危険な街はどこなのか』に続く。「週刊現代」2023年5月6・13日合併号より
もちろん、この数字はあくまで想定値にすぎない。東京での大地震という「国難」の前では、より多くの人命が失われる可能性もある。
まずは「自分の住んでいる町はどれだけ危険なのか?」を知ることが、準備となる。そこで今回、だいち災害リスク研究所の所長であり、地盤災害のプロフェッショナルである横山芳春氏に、地震の最新理論に基づき、東京の中で被害が大きくなる可能性が高い町を分析してもらった。
「よく参考にされるのが、都が公表している『地震に関する地域危険度測定調査』です。これは、大地震が発生した際のリスクに関して、5年に一度、行政上の区画である町丁目をすべて調べ上げ、危険度の順位付けをしたものです」
Photo by gettyimages
実際に’22年に公表された、最新の「地震に関する地域危険度測定調査」を調べてみた。危険度が高い上位5つの町丁目は以下の通りだ。
1位/荒川区荒川6丁目
2位/荒川区町屋4丁目
3位/足立区柳原2丁目
4位/足立区千住柳町
5位/墨田区京島2丁目
こうして見ると、荒川区、足立区、墨田区と、「下町」エリアが上位に来ていると分かる。危険とされている理由のひとつは、その軟弱な地盤だ。
「東京都は東西に長く、西ほど標高が高い地形となっています。詳しく見ると、西から関東山地、多摩丘陵、武蔵野台地、東京低地と分類できます。
山地は数百万年以上、丘陵地は100万年などと長い時間をかけて自然の地層の重みで締め固められているため、硬く揺れにくいことが多い。しかし、いわゆる下町は、東京湾が内陸に入り組んでいた頃の泥と砂の堆積物でできた低地に属します。地層の歴史は長くても5000年ほどと浅く、緩い地盤で揺れやすいわけです」下町は危ない。これは紛れもない事実のようだ。では、武蔵野台地の東端にあたる「山の手」はどうだろうか。「高台は地盤が強い」というのは定説であり、住宅を買う上での目安とする人も少なくないはずだ。だが、横山氏の解説では、そんな常識が覆る。「確かに数万年以上前に作られた武蔵野台地は、概ね固い地盤です。しかし、ここ最近の研究で、台地の地盤の地下に、厚い泥の層からなる緩い地盤がある場所がいくつも見つかっています。こうした場所は低地と同等か、それ以上に揺れやすく、地震に弱いのです」高級住宅地が次々全滅「週刊現代」よりでは、そんな「隠れ揺れスポット」ともいえる町を探すにはどうすればいいのか。横山氏が注目するのが「表層地盤増幅率」という数値だ。「表層地盤増幅率の数値が大きい場所ほど、地盤は弱く、地震の揺れも大きくなります。例えば増幅率1.0の町と2.0の町とでは、揺れ幅の大きさは2倍になり、震度の階級も1~2級変わるのです。目安としては1.6~1.8程度で注意が必要となり、2.0以上になると特に揺れやすい危険な場所と考えたほうがいいでしょう」各地の表層地盤増幅率は、国立研究開発法人防災科学技術研究所が運営するウェブサイト「地震ハザードステーション」内にあるJ-SHIS Map(https://www.j-shis.bosai.go.jp/map/)で確認できる。それをまとめたハザードマップが上の通りである。さっそく東京の町々を見ていこう。 先述の通り、都の調査で危険度が判明した下町エリアは総じて「地盤が弱い危険地域」と再確認できた。東京の「住みたい街ランキング」上位に名を連ねる北千住が2.66、赤羽が2.09と、いずれも2以上を示した。「下町と同じく、2以上の増幅率が密集しているのが湾岸エリアです。2.31の豊洲など、埋め立て地は基本的に地盤が非常に弱い場所が多いと考えるべきです」後編記事『「世田谷、目黒、杉並区も危ない…」最新指標《表層地盤増幅率》が警告する「東京の住みたい街ランキング上位」で危険な街はどこなのか』に続く。「週刊現代」2023年5月6・13日合併号より
山地は数百万年以上、丘陵地は100万年などと長い時間をかけて自然の地層の重みで締め固められているため、硬く揺れにくいことが多い。しかし、いわゆる下町は、東京湾が内陸に入り組んでいた頃の泥と砂の堆積物でできた低地に属します。地層の歴史は長くても5000年ほどと浅く、緩い地盤で揺れやすいわけです」
下町は危ない。これは紛れもない事実のようだ。では、武蔵野台地の東端にあたる「山の手」はどうだろうか。
「高台は地盤が強い」というのは定説であり、住宅を買う上での目安とする人も少なくないはずだ。だが、横山氏の解説では、そんな常識が覆る。
「確かに数万年以上前に作られた武蔵野台地は、概ね固い地盤です。しかし、ここ最近の研究で、台地の地盤の地下に、厚い泥の層からなる緩い地盤がある場所がいくつも見つかっています。こうした場所は低地と同等か、それ以上に揺れやすく、地震に弱いのです」
「週刊現代」より
では、そんな「隠れ揺れスポット」ともいえる町を探すにはどうすればいいのか。横山氏が注目するのが「表層地盤増幅率」という数値だ。
「表層地盤増幅率の数値が大きい場所ほど、地盤は弱く、地震の揺れも大きくなります。例えば増幅率1.0の町と2.0の町とでは、揺れ幅の大きさは2倍になり、震度の階級も1~2級変わるのです。目安としては1.6~1.8程度で注意が必要となり、2.0以上になると特に揺れやすい危険な場所と考えたほうがいいでしょう」
各地の表層地盤増幅率は、国立研究開発法人防災科学技術研究所が運営するウェブサイト「地震ハザードステーション」内にあるJ-SHIS Map(https://www.j-shis.bosai.go.jp/map/)で確認できる。それをまとめたハザードマップが上の通りである。さっそく東京の町々を見ていこう。
先述の通り、都の調査で危険度が判明した下町エリアは総じて「地盤が弱い危険地域」と再確認できた。東京の「住みたい街ランキング」上位に名を連ねる北千住が2.66、赤羽が2.09と、いずれも2以上を示した。「下町と同じく、2以上の増幅率が密集しているのが湾岸エリアです。2.31の豊洲など、埋め立て地は基本的に地盤が非常に弱い場所が多いと考えるべきです」後編記事『「世田谷、目黒、杉並区も危ない…」最新指標《表層地盤増幅率》が警告する「東京の住みたい街ランキング上位」で危険な街はどこなのか』に続く。「週刊現代」2023年5月6・13日合併号より
先述の通り、都の調査で危険度が判明した下町エリアは総じて「地盤が弱い危険地域」と再確認できた。東京の「住みたい街ランキング」上位に名を連ねる北千住が2.66、赤羽が2.09と、いずれも2以上を示した。
「下町と同じく、2以上の増幅率が密集しているのが湾岸エリアです。2.31の豊洲など、埋め立て地は基本的に地盤が非常に弱い場所が多いと考えるべきです」
後編記事『「世田谷、目黒、杉並区も危ない…」最新指標《表層地盤増幅率》が警告する「東京の住みたい街ランキング上位」で危険な街はどこなのか』に続く。
「週刊現代」2023年5月6・13日合併号より