夫の両親とのつきあいに苦労している女性は多い。昔のように「義父母に仕えなければならない」という“価値観”はさすがに減ってきたが、それでも「嫁にもらった」というような上から目線は消えない。
実際、「8割近くの人が義両親との同居はナシ」だと考えている……、そんな調査結果を株式会社クランピーリアルエステートがまとめている。
20代~30代の男女200人を対象にした同調査では、男性はアリとナシが約半数ずつだったが、女性でナシと回答した人はアリの5倍近くにも上る。同居したくない理由としては「お互いに気を遣うから」「義両親とはある程度の距離感が欲しい」などが挙がった。
できれば距離をとって付き合いたい、同居なんて考えたくもない……、という思いとは裏腹に、夫の実家に同居せざるを得ない事情がある女性もいる。
経済的な事情から義父母との同居を余儀なくされたアカリさん、彼女の事例をもとに「他人の家族」との付き合いの難しさについて考えていく。
「私は夫の複雑な家庭環境に飲み込まれていったような気がします」
そういうのは、アカリさん(38歳・仮名=以下同)だ。10年前に2歳年上のヨシノリさんと結婚した。2年つきあっていたのだが、婚姻届を出してすぐ、夫の会社が倒産してしまった。
「そもそもそれがケチのつき始めというか……。夫は会社が危ないのを知っていたのに私にそれを言わないまま結婚に踏み切った。『言ったら結婚してもらえないと思った』と謝ってくれたけど、考えてみれば、夫はいつもそうやって事後報告なんですよ」
夫の住んでいた賃貸マンションにアカリさんが越して生活が始まったのだが、すぐに家賃が経済的な負担となった。夫は「実家は部屋があいているし、家賃も出さなくてすむ。一時的に実家に住んでふたりで働いてお金をためよう」と言った。反対はできなかった。
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「夫の実家は私の勤務先から30分圏内。時間的には楽になりました。夫はその後、失業保険をもらいながら職探し。義父はまだ働いていたし、義母は結婚前からやさしかったし、『食費もいらないから』って。そういうわけにはいかないので、食費も光熱費も払いますとは言いました」キッチンやお風呂がひとつしかない家で、どういう役割分担をすればいいのかわからなかったが、話し合いもないままに生活が始まったのが何とも不安だった。アカリさんは話そうとしたのだが、「あなたは何も気にせずに働いて」と義母が言うので、それ以上は何も言い出せなかった。二階建ての家は、1階にリビングやキッチン、お風呂、そして義父母の寝室ともう一部屋あった。あとから増築した2階は2部屋で、本来は夫と義妹の部屋だった。義妹はずっと前に家を出ているのでそこも使っていいということだった。同居生活初日、朝起きて階下のリビングへ行くと、夫と義父の席にはすでにトーストと卵料理などが用意されていたが、アカリさんの席には何もない。「私もパンを焼いていいですかと言おうかと思ったんですが、なんだか言うタイミングがなくて。洗面所を使って何も食べずに出勤しました。夫はまだ起きてなくて、義父母に『行ってきます』と言ったけど返事もなくて」翌日はパンではなくご飯だったが、やはりアカリさんの席には何もなかった。義父と夫の席には焼き魚があった。「2日続けてそうだということは、私の分は作る気もないということですよね。それならそうと言ってくれればいいのに、夫の分だけあるのが何とも言えず嫌な気分でした。夫に『あなたは寝ていて知らないだろうけど、私は2日続けて朝食をとらずに出かけたの。自分の分は自分で作っていいのかしらね』と聞いたら、さすがに夫も絶句していましたね。夫は『オレとアカリの分は作らなくていい』と言ったそうです。それからは朝食も夕食も別々なんですが、ときどき義母はわざとのように夕飯を遅く作るんです。時間がかぶるから、私たちの夕飯がすごく遅くなる。数か月そうやって暮らしていたけど、私たちはその間もなぜか食費を払っていたんです。結局、食材のムダも多くなるから4人分を私が作ると突然、義母が言い出した。でも明らかに私の分は量が少ないし、そもそも夕飯のおかずは一品なんですよ。豚肉を焼いただけとか、少ない野菜炒めとか、ひどいときは冷ややっことお味噌汁とか(笑)」払っている食費に見合わないと思いながらも、作ってくれるだけでありがたく思うしかなかった。代わりにランチで栄養をとっていたとアカリさんは言う。実家に帰ってからの夫は「子ども」に戻ってしまった夫にこの状態をなんとかしてほしいと言っても、夫は親子だから、「そういえばおふくろはもともとあまり料理がうまくなかったんだよね」とおもしろがっているだけ。しかも夫自身、しばらくぶりの同居ということもあって、なぜか急に子ども返りしたかのように母親に甘える光景が目立った。「半年後に再就職が決まったんですが、夫はいち早く義母に報告。私が帰宅すると、パーティが開かれていました。お鮨をとってケーキまであって。お鮨は大きな桶で来ていましたが、なぜか義妹もいて、私の分はなさそうでしたね。夫がいくつか取り置きしてくれていたのでそれは食べましたが、一家4人の団欒になぜか入れなくて、私は早々に2階に引き上げました」そういうとき夫はアカリさんを追ってこない。学生時代、親に反発して家を出て以来、決して仲がいいわけではないと結婚前には言っていたのに、どうやらいつしか親子のわだかまりはなくなっていたようだ。 「再就職して初給料が出たとき、家計について話し合おうと言ったら、『オレたちの分の食費4万円はおかあさんに渡しておいたから、光熱費は今まで通りアカリが払って』と。私はそれまでも光熱費を5万円払っていたんですが、私たち二人で光熱費が5万も増えたとは思えなかった。だから光熱費も知らせてもらいたいと言ったんですが、義母は光熱費がいくらかかっているのか知らせてくれない。あの食費に4万もかかるとも思えないし。そう言ったら家賃代わりだと思えばいいと夫は言うんです。そうやってうやむやにしないで、お金のことはこれからも続くんだからオープンにしてほしいと言ったら、自分で言えばと突き放されました」しかたがないので、ある日、アカリさんは義母に光熱費の話をした。すると義母は「ヨシノリからの小遣いが少ないから」と意味不明なことを口走り、次の瞬間、「なんでもない」と言い訳をする。どういうことなのかさらに尋ねると「ヨシノリに小遣いをもらっている」と白状した。「義父は働いていたし、それなりの給料はあったはず。でも義母は息子に小遣いをもらっていたんです。再就職した夫の収入、詳細は教えてもらえなかったけど、話を聞く分にはそれほど多いとは思えなかった。すると義母は『アカリさんが高給取りなんだから、いいじゃない』と。私は決して高給取りではないし、これから子どもが産まれるかもしれないんだからできるだけ貯金をしたかったんですよ。でもそのあたりを夫と話し合うことができず、私はひとりで悶々としていました」実家に戻ったとたん、夫が「息子役割」に染まってしまい、夫役割を果たせなくなってしまったとアカリさんは言う。結婚して1年足らずで、もうやっていけないかもしれないと思った。* * *冒頭に紹介したアンケートによれば、義両親との同居を「ナシ」だと考える女性は、「食事や生活などのあらゆる場面で気を遣う必要があり疲れそう」といった理由を挙げていた。本記事のアカリさんのように、急に同居が決まり、義父母との家事分担などについて何の相談もできなかった場合、まさにそういうストレスを抱えることになる。しかも、ご覧いただいたように、彼女の義母はかなりの問題人物。食費をもらっているのにもかかわらずアカリさんの食事だけつくらない、じつは息子に小遣いまでもらっていた、など気を遣うのに加え、腹立たしいと感じる場面も多いはずだ。こんなときこそ、彼女と義両親をつなぐ「夫」の存在が大事なのに、頼りの夫は「子ども」化して、厄介なことには首を突っ込まないでいる。夫の実家に同居することは妻にとって“孤立”と紙一重の危うい状況だと言えそうだ。気になるアカリさんのその後について、詳しくは後編記事〈「あなたの子を彼女にあげて」と義妹に言われ…夫とその「おかしな家族」に恐怖を覚えた妻の決断〉でお伝えする。
「夫の実家は私の勤務先から30分圏内。時間的には楽になりました。夫はその後、失業保険をもらいながら職探し。義父はまだ働いていたし、義母は結婚前からやさしかったし、『食費もいらないから』って。そういうわけにはいかないので、食費も光熱費も払いますとは言いました」
キッチンやお風呂がひとつしかない家で、どういう役割分担をすればいいのかわからなかったが、話し合いもないままに生活が始まったのが何とも不安だった。アカリさんは話そうとしたのだが、「あなたは何も気にせずに働いて」と義母が言うので、それ以上は何も言い出せなかった。
二階建ての家は、1階にリビングやキッチン、お風呂、そして義父母の寝室ともう一部屋あった。あとから増築した2階は2部屋で、本来は夫と義妹の部屋だった。義妹はずっと前に家を出ているのでそこも使っていいということだった。
同居生活初日、朝起きて階下のリビングへ行くと、夫と義父の席にはすでにトーストと卵料理などが用意されていたが、アカリさんの席には何もない。
「私もパンを焼いていいですかと言おうかと思ったんですが、なんだか言うタイミングがなくて。洗面所を使って何も食べずに出勤しました。夫はまだ起きてなくて、義父母に『行ってきます』と言ったけど返事もなくて」
翌日はパンではなくご飯だったが、やはりアカリさんの席には何もなかった。義父と夫の席には焼き魚があった。
「2日続けてそうだということは、私の分は作る気もないということですよね。それならそうと言ってくれればいいのに、夫の分だけあるのが何とも言えず嫌な気分でした。夫に『あなたは寝ていて知らないだろうけど、私は2日続けて朝食をとらずに出かけたの。自分の分は自分で作っていいのかしらね』と聞いたら、さすがに夫も絶句していましたね。夫は『オレとアカリの分は作らなくていい』と言ったそうです。
それからは朝食も夕食も別々なんですが、ときどき義母はわざとのように夕飯を遅く作るんです。時間がかぶるから、私たちの夕飯がすごく遅くなる。数か月そうやって暮らしていたけど、私たちはその間もなぜか食費を払っていたんです。結局、食材のムダも多くなるから4人分を私が作ると突然、義母が言い出した。でも明らかに私の分は量が少ないし、そもそも夕飯のおかずは一品なんですよ。豚肉を焼いただけとか、少ない野菜炒めとか、ひどいときは冷ややっことお味噌汁とか(笑)」
払っている食費に見合わないと思いながらも、作ってくれるだけでありがたく思うしかなかった。代わりにランチで栄養をとっていたとアカリさんは言う。
夫にこの状態をなんとかしてほしいと言っても、夫は親子だから、「そういえばおふくろはもともとあまり料理がうまくなかったんだよね」とおもしろがっているだけ。しかも夫自身、しばらくぶりの同居ということもあって、なぜか急に子ども返りしたかのように母親に甘える光景が目立った。
「半年後に再就職が決まったんですが、夫はいち早く義母に報告。私が帰宅すると、パーティが開かれていました。お鮨をとってケーキまであって。お鮨は大きな桶で来ていましたが、なぜか義妹もいて、私の分はなさそうでしたね。夫がいくつか取り置きしてくれていたのでそれは食べましたが、一家4人の団欒になぜか入れなくて、私は早々に2階に引き上げました」
そういうとき夫はアカリさんを追ってこない。学生時代、親に反発して家を出て以来、決して仲がいいわけではないと結婚前には言っていたのに、どうやらいつしか親子のわだかまりはなくなっていたようだ。
「再就職して初給料が出たとき、家計について話し合おうと言ったら、『オレたちの分の食費4万円はおかあさんに渡しておいたから、光熱費は今まで通りアカリが払って』と。私はそれまでも光熱費を5万円払っていたんですが、私たち二人で光熱費が5万も増えたとは思えなかった。だから光熱費も知らせてもらいたいと言ったんですが、義母は光熱費がいくらかかっているのか知らせてくれない。あの食費に4万もかかるとも思えないし。そう言ったら家賃代わりだと思えばいいと夫は言うんです。そうやってうやむやにしないで、お金のことはこれからも続くんだからオープンにしてほしいと言ったら、自分で言えばと突き放されました」しかたがないので、ある日、アカリさんは義母に光熱費の話をした。すると義母は「ヨシノリからの小遣いが少ないから」と意味不明なことを口走り、次の瞬間、「なんでもない」と言い訳をする。どういうことなのかさらに尋ねると「ヨシノリに小遣いをもらっている」と白状した。「義父は働いていたし、それなりの給料はあったはず。でも義母は息子に小遣いをもらっていたんです。再就職した夫の収入、詳細は教えてもらえなかったけど、話を聞く分にはそれほど多いとは思えなかった。すると義母は『アカリさんが高給取りなんだから、いいじゃない』と。私は決して高給取りではないし、これから子どもが産まれるかもしれないんだからできるだけ貯金をしたかったんですよ。でもそのあたりを夫と話し合うことができず、私はひとりで悶々としていました」実家に戻ったとたん、夫が「息子役割」に染まってしまい、夫役割を果たせなくなってしまったとアカリさんは言う。結婚して1年足らずで、もうやっていけないかもしれないと思った。* * *冒頭に紹介したアンケートによれば、義両親との同居を「ナシ」だと考える女性は、「食事や生活などのあらゆる場面で気を遣う必要があり疲れそう」といった理由を挙げていた。本記事のアカリさんのように、急に同居が決まり、義父母との家事分担などについて何の相談もできなかった場合、まさにそういうストレスを抱えることになる。しかも、ご覧いただいたように、彼女の義母はかなりの問題人物。食費をもらっているのにもかかわらずアカリさんの食事だけつくらない、じつは息子に小遣いまでもらっていた、など気を遣うのに加え、腹立たしいと感じる場面も多いはずだ。こんなときこそ、彼女と義両親をつなぐ「夫」の存在が大事なのに、頼りの夫は「子ども」化して、厄介なことには首を突っ込まないでいる。夫の実家に同居することは妻にとって“孤立”と紙一重の危うい状況だと言えそうだ。気になるアカリさんのその後について、詳しくは後編記事〈「あなたの子を彼女にあげて」と義妹に言われ…夫とその「おかしな家族」に恐怖を覚えた妻の決断〉でお伝えする。
「再就職して初給料が出たとき、家計について話し合おうと言ったら、『オレたちの分の食費4万円はおかあさんに渡しておいたから、光熱費は今まで通りアカリが払って』と。私はそれまでも光熱費を5万円払っていたんですが、私たち二人で光熱費が5万も増えたとは思えなかった。だから光熱費も知らせてもらいたいと言ったんですが、義母は光熱費がいくらかかっているのか知らせてくれない。あの食費に4万もかかるとも思えないし。
そう言ったら家賃代わりだと思えばいいと夫は言うんです。そうやってうやむやにしないで、お金のことはこれからも続くんだからオープンにしてほしいと言ったら、自分で言えばと突き放されました」
しかたがないので、ある日、アカリさんは義母に光熱費の話をした。すると義母は「ヨシノリからの小遣いが少ないから」と意味不明なことを口走り、次の瞬間、「なんでもない」と言い訳をする。どういうことなのかさらに尋ねると「ヨシノリに小遣いをもらっている」と白状した。
「義父は働いていたし、それなりの給料はあったはず。でも義母は息子に小遣いをもらっていたんです。再就職した夫の収入、詳細は教えてもらえなかったけど、話を聞く分にはそれほど多いとは思えなかった。すると義母は『アカリさんが高給取りなんだから、いいじゃない』と。私は決して高給取りではないし、これから子どもが産まれるかもしれないんだからできるだけ貯金をしたかったんですよ。でもそのあたりを夫と話し合うことができず、私はひとりで悶々としていました」
実家に戻ったとたん、夫が「息子役割」に染まってしまい、夫役割を果たせなくなってしまったとアカリさんは言う。結婚して1年足らずで、もうやっていけないかもしれないと思った。
* * *
冒頭に紹介したアンケートによれば、義両親との同居を「ナシ」だと考える女性は、「食事や生活などのあらゆる場面で気を遣う必要があり疲れそう」といった理由を挙げていた。
本記事のアカリさんのように、急に同居が決まり、義父母との家事分担などについて何の相談もできなかった場合、まさにそういうストレスを抱えることになる。
しかも、ご覧いただいたように、彼女の義母はかなりの問題人物。食費をもらっているのにもかかわらずアカリさんの食事だけつくらない、じつは息子に小遣いまでもらっていた、など気を遣うのに加え、腹立たしいと感じる場面も多いはずだ。
こんなときこそ、彼女と義両親をつなぐ「夫」の存在が大事なのに、頼りの夫は「子ども」化して、厄介なことには首を突っ込まないでいる。夫の実家に同居することは妻にとって“孤立”と紙一重の危うい状況だと言えそうだ。
気になるアカリさんのその後について、詳しくは後編記事〈「あなたの子を彼女にあげて」と義妹に言われ…夫とその「おかしな家族」に恐怖を覚えた妻の決断〉でお伝えする。