人気ゲーム「ポケットモンスター」を題材にしたトレーディングカード「ポケモンカード(ポケカ)」の取引が過熱している。
新商品の発売日には「ポケカ戦争」とも揶揄(やゆ)される争奪戦が各地で繰り広げられ、高額転売が常態化。女性キャラクターに高値が付くというカード対戦とは別の?新たな価値?も生まれており、子供の遊びにとどまらず、熾烈(しれつ)なマネーゲームと化している。
転売目的で徹夜
「2箱で3万1千円」
4月14日午前。大阪市内の家電量販店前で、自称中国籍の男性がつたない日本語で客引きをしていた。
この日は、ポケカの新パック(5枚入り)の発売日。この量販店では、前日から徹夜で並ぶ人の姿があり、最終的には2千人以上が列をなした。
ボックス1箱(30パック入り)の定価は、税込み5400円。男性の提示額で売れば2箱で約2万円の利益になる。男性の周りには瞬く間に人だかりができ、発売されたばかりのポケカが山積みになっていた。
2箱売ったという30代女性は「徹夜して並んだだけでもうかった」と満足げな表情。定価の倍以上で大量に買い込む価値はあるのか。男性は取材に、「ポケカ需要は高い。利益は出る」と強調した。
ほかにも、購入は1人2箱までにもかかわらず、明らかに2箱以上入った複数の袋を手にする中年男性の姿も。理由を尋ねると、「日本語が分からない」と口を閉ざした。
この日は各地でこうした異様な光景が広がり、ツイッターでは「ポケカ戦争」のハッシュタグとともに、争奪戦の様子が投稿された。フリマアプリにも早速、定価の数倍に上る高額出品が相次いだ。
宝くじ感覚
なぜポケカがここまで注目されるのか。ポケカ専門店「晴れる屋2」(東京)の渡辺翔店長(36)は「ポケモンはカード以外にも、ゲームやアニメなど幅広いコンテンツが展開され、認知度が高い。相乗効果でカード人気も高まっている」と分析する。
ポケカに限らず、トレーディングカードで強力なカードや限定品に高値が付くことは珍しくない。
例えば、人気ポケモン「リザードン」の説明文に誤植があったカードは、出回っている数が少ないだけに希少価値が高まり、ユーチューバーが最高級の美品を5千万円で購入したことも話題となった。
ただ、最近のポケカの付け値はこうした一般的な傾向とは異なる。4月の新商品で初日から30万円近い高価格が付いたのは強力なポケモンではなく、女性キャラクターのレアカード。イラストの効果もあってか、女性キャラが重宝される傾向にある。
渡辺店長は「販売開始前から『当たり』のカードが交流サイト(SNS)などで自然と決められ、それを目当てに買う宝くじ感覚になっている」と話す。
投機の対象に
高騰に目を付けた「ポケカ投資家」まで登場している。取材に応じた「IKE」の名前で活動する30代男性は昨年、購入した5千円のポケカがわずか数カ月で数万円に高騰したのを機に、ポケカへの投機を本格化させた。
SNSの情報から、値上がりが予想されるカードを吟味。量販店などで最新のポケカも購入しながら、フリマアプリなどに出品される過去のレアカードを転売目的で集める。
これまでの利益率は約180%といい、「株などとは違った形で資産形成ができている」と手応えを口にする。
ただ、こうした過熱ぶりは純粋にカードゲームを楽しみたい人の弊害にもなる。小学生以来ポケカで遊び続けている20代男性は「もはや子供ではカードを手に入れるのが難しい。カード本来の楽しさを味わう機会が奪われてしまっているのではないか」と危惧する。
慶応大経済学部の栗野盛光教授(マーケットデザイン)は、転売を許容するか否かは企業側の選択だと前置きした上で、「ポケカのような転売が社会問題となる商品は、企業側にも届けたい客層に平等に購入の機会が与えられるような販売システムを構築する責任がある」と指摘している。(桑村大)