■倒れた家具、濁り水…嘆きの声
震度6強の地震に見舞われた石川県珠洲(すず)市では、6日朝から雨が降り、住民らは傷んだ屋根や窓をブルーシートで覆う作業を急いだ。
家具が倒れた室内の片付けに追われ、断水や濁り水で水道が使えない状態も続く。夕方には土砂災害の恐れから避難指示が出され、住民からは、思うように進まない復旧に嘆きの声が漏れた。
■給水車に一安心
珠洲市正院町地区では、地震で家の本棚やたんすが倒れる被害が相次ぎ、住民らは片付けに追われた。女性(89)の自宅では、2階につながる木製のはしご階段が崩れ落ち、倒れた洋服だんすがちゃぶ台を押しつぶすなどした。女性は「どこから手を着けていいのかわからない」と途方に暮れていた。
同市では水道管が破損し、6日午後8時時点で128世帯が断水している。水は出るものの、鉄さびなどが混じって飲料に使えない世帯もあり、朝から給水車が水を配った。
同市若山町地区の農協施設には給水車が2台派遣され、ペットボトルやタンクを持った住民らが次々と訪れた。妻と母との3人暮らしの男性(62)は、朝食を作ろうと蛇口をひねると濁った水が出たといい、「飲み水や食器洗いに使う」とトラックの荷台にタンクを積み込んだ。同市岩坂町のパート女性(61)は15リットルのタンク2個を手に「きれいな水がもらえて安心した」と話した。
市は7日も給水を行う予定で、担当者は「早期復旧を目指す」としている。
■シートで雨対策
正院町地区で妻と子ども2人の4人で暮らす会社員(62)の自宅は、地震で給湯器が倒れたとみられ、ガラス戸が割れた。ブルーシートを貼り付けて雨が入らないようにしたが、「風が強くなるとシートが持たないかもしれない」と心配そうに語った。
市は6日、雨対策として、壊れた家の屋根や窓を覆う応急措置用にブルーシートを住民に配った。住宅の被害が目立つ正院町地区の正院公民館では150枚を用意したが、配布を始めてから1時間ほどですべてなくなった。
納屋の扉が外れるなどの被害が出たという近くの住人は「昨夜ホームセンターに行ったが、閉まっていた。シートは家のどこかにあるかもしれないが、探せる状態ではないので助かる」と話した。
業者には屋根修理の依頼が相次いでいる。同県能登町の「岩本瓦工業」では、瓦が落ちるなどした屋根の応急処置の依頼が6日だけで20~30件入った。岩本行弘代表(31)は「依頼は昨年6月の地震の2倍以上で、屋根の損傷も激しい。すぐには対応できないと伝えざるを得ない」と苦しげな表情を浮かべた。
■続く避難
珠洲市は7日にかけて雨が強まるとして、6日午後5時過ぎ、土砂災害の恐れがある山間部などの約740世帯、約1630人に避難指示を出した。
避難所となっている同市蛸島町の蛸島公民館には6日午後8時時点で住民ら6人が身を寄せていた。妻の実家の手入れに来ていた京都府の男性(70)は「昨日もここで過ごしたが、地震が頻発して寝られず、精神的にきつかった。連日の避難は厳しい」とぐったりした様子だった。
■観光地「大きなショック」
地震は、コロナ禍前のにぎわいが戻りつつあった観光業にも打撃を与えた。関係者からは、今後の影響を懸念する声が上がる。
「増えてきたお客さんを一気に失ってしまった」。珠洲市で観光振興を行うNPO法人「能登すずなり」の職員(37)は肩を落とした。
市内にある約40軒の宿泊施設は、地震の影響で約30軒が臨時休業した。今年の大型連休は昨年に比べて大幅に予約が増え、3~6日は満室の施設も多かった。
NPOが運営する道の駅「すずなり」にも大勢の観光客が訪れ、約50台の駐車場は連日、満車の状態だった。地震後は6日昼過ぎまで臨時閉店を迫られ、職員は「売り上げが好調だっただけに、ショックは大きい」と漏らした。
珠洲市の温泉宿「よしが浦温泉ランプの宿」は施設に被害がなく、通常通り営業した。6日は全14室が予約で埋まっていたが、4組からキャンセルが入った。
ほかの予約客からも「余震は大丈夫か」といった問い合わせが相次いでいるという。従業員(37)は「コロナ禍の終わりが見え、観光客の増加に期待していた。能登半島に足を運ぶ人が減らなければいいが……」と話した。