発達障害の認知度が年々高まっている。従来は子供の問題だと思われてきたが、実は一定数の割合で「大人にも発達障害の人がいる」という事実が知られるようになった。それによって「自分もそうかもしれない」と疑う人が増え、職場では混乱も起きているという。あなたの同僚や部下にもいるかもしれない、「大人の発達障害」の最前線を追った。◆発達障害にはどう対応すべきなのか?
発達障害について理解や認知が広がったことで、職場でもオープンにする当事者も増えたが、その一方で、受け入れる側の企業では「どう対応すればいいんだろう」という悩みが増えている。そこで今回は周りの人はどうすべきか、専門家にアドバイスを聞いた。
◆発達障害を本人に指摘してもいいのか?
Q1.発達障害の傾向で仕事で困っている人がいる。本人に指摘をすることは解決にがるか?
A.専門家からのアドバイス
「仲のいい同僚などであっても、やはりいきなり『発達障害じゃないの?』などと指摘するのはお勧めできません」そう話すのは精神科医の益田裕介氏だ。もちろん、本人が傷つくからという理由もある。ただそれ以外に、「ミスの理由が発達障害とは別の可能性もあるから」と続ける。
「何度注意しても同じミスを繰り返したり、コミュニケーションがうまく取れないなど、発達障害の特性と合致する点が多かったとしても、ほかに原因がある可能性も考えられます。例えばストレスや不安が高まったことによるうつ病の可能性もあるし、もしかしたらただパソコンの調子が悪くて仕事のパフォーマンスが落ちているだけかもしれない。安易な決めつけは禁物です」
一口に発達障害といってもいろんなタイプがある。そこで「発達障害かどうか以前に、本人が苦手なことを聞き、適切な解決方法を探すことが大切だ」と続ける。
「例えば感覚過敏で騒音が苦手な人なら、業務中にイヤホンを着けるだけでだいぶ働きやすくなったりします。目立つ特性だけを見て発達障害だと指摘するのではなく、本人に寄り添い、話をしたうえで『医師に相談してみたら』とアドバイスしたほうがスムーズに受け入れられやすいと思います」
◆部下から「実は発達障害なんです」と言われたら?
Q2.部下から「実は発達障害なんです」と相談されたらどうすればいい?
A.専門家からのアドバイス
あなたが上司の場合、部下から急に相談されることも起こり得る。そのときに、どう受け止めるべきか。公認心理師・臨床発達心理士の佐藤恵美氏が解説する。
「発達障害という診断名を受け止めるのは大切ですが、それだけでは何の解決にもなりません。大事なことは診断名ではなく、業務遂行に影響する障害特性が何か、どう工夫や調整をすればよいのか、ということです。
もし相談を受けたら、診断結果を聞くだけでなく、指示(情報)の与え方や、理解の確認やすり合わせ、途中経過のモニター、定期的なワンオンワンミーティングでの困りごと対応など、障害特性を踏まえてできることを話し合うことが大切です」
◆普段からのコミュニケーションが重要に
益田氏は「普段からコミュニケーションを取っておくことも大切だ」と話す。
「発達障害の特性によって、こちらから問いかけても伝わりにくいケースが多いので、具体的なトラブル事例などを交えて聞き出すことが求められます。そして、会社のサポートが必要なら人事部にも伝えたほうがいいですが、そこでも本人の意向を尊重すること。認知が広まっているとはいえデリケートな問題なので、『どこまで伝えて大丈夫なのか』を、一歩踏み込んで聞いてあげることが大切です」

◆「自分が疲れない」ための距離の取り方は?
Q3.「気を使ってむしろ自分が疲れる」そうならないための距離の取り方は?
A.専門家からのアドバイス
発達障害の当事者と接する際、「カサンドラ症候群」に陥る人もいる。これはアスペルガー症候群(ASD)の特性を持つパートナーや家族と情緒的なコミュニケーションがうまく取れず、周りの人に不安や抑うつなどの症状が表れる状態のこと。最近ではSNSで「職場カサンドラ」という言葉もある。
「『いくら言っても伝わらない』『なぜそんな言い方をするのか』など、イライラを募らせたり傷ついたりしてしまうという声も聞きます。当事者に悪意はないにもかかわらず、定型発達(健常)の人には彼らの言動が理解できず、ついネガティブな意図を想像してしまうのです。
ですから、自分も相手も傷つかずに最善の対応が取れるようになるためには、発達障害の人の考え方について正しい知識を得るための研修などを行うのも有効です」(佐藤氏)
◆「カサンドラ症候群」にならないために
益田氏は「感情的にならず、配慮をしたほうが結果的に全員がラクになる」と話す。
「社員の適正配置は上司や会社の仕事。特性で苦手な部分を『もっと頑張れ』とイライラするのではなく、得意な部分を見つけて適正配置するのが本来の仕事です。必要以上に踏み込みすぎず、ある種ドライに自分のやれる範囲で接することも、職場カサンドラにならないためには大切でしょう」
【精神科医・益田裕介氏】早稲田メンタルクリニック院長。日々の業務に加え、YouTube「精神科医がこころの病気を解説するCh」でも積極的に情報を発信中
【「メンタルサポート&コンサル沖縄」代表・佐藤恵美氏】精神保健福祉士・公認心理師・臨床発達心理士。産業精神保健を専門とし、職場と働く人に向けてメンタルヘルスサービスを提供する
取材・文/週刊SPA!編集部 撮影/菊竹 規 モデル/黒木俊穂