少子化は、もはや今の日本にとって最大の課題。そんな中「子どもがほしくないZ世代が約5割」という報道がさらに重みを増している(写真:takeuchi masato/PIXTA)
このところ、「子どもがほしくない若者が増えている」というニュースをよく目にする。先日もBIGLOBEが「『将来、子どもがほしくない』 Z世代の約5割」という調査結果を出し、話題となった。
「結婚・出産を控える最大の要因は経済的な貧困化にある」とよく言われるが、はたして本当だろうか? 『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』で若者の実態に鋭く迫った金間氏が、子どもを持ちたくない深層心理を分析する。
「『将来、子どもがほしくない』 Z世代の約5割」――。
2023年2月21日に、BIGLOBEがこんなタイトルでプレスリリースを発表し、多くのメディアがこれを取り上げた。
厚生労働省が公表した2022年の人口動態統計によると、外国人と、海外で生まれた日本人の子どもを含めた出生数は79万9728人で、前年比4万3169人(5.1%)の減少となった。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、外国人を含む出生数が79万人台になるのは2033年とされている。つまりは「少子化の前倒し」が起こっている格好だ。同研究所の推定が楽観的なものだったわけではない。にもかかわらず、11年分も前倒しで推定値が現実に“達成”されてしまっている。少子化は、もはや今の日本にとって最大の課題。そういう認識が浸透した中で「子どもがほしくないZ世代が約5割」という報道はさらに重みを増す。まずは、情報の正確な把握から始めよう。BIGLOBEは2023年2月7日からの3日間で「子育てに関するZ世代の意識調査」というアンケート調査を実施した。調査対象は、全国の18歳から25歳までの未婚で子どもがいない男女457人で、将来の結婚と子どもについて、次の4択で質問をしている。以下、カッコ内の%が回答結果だ。 将来結婚して、子どもがほしい(44.9%) 将来結婚というかたちにこだわらなくても子どもはほしい(9.4%) 将来結婚はしたいが、子どもはほしくない(9.6%) 将来結婚もしたくないし、子どももほしくない(36.1%)BIGLOBEは、とい鮃腓錣擦45.7%(=約5割)を「将来、子どもがほしくない」と考える層として扱っている。Z世代の54%は子どもがほしいやはり驚く結果だ。これがニュースになるのはよくわかる。特にい36.1%というのはかなり多い印象だ。逆には思ったよりも少ないか。Z世代は、先輩世代がこの選択をしているのを比較的多く見ているはずなので、それを踏まえて「イマイチ」という判断をしているのかもしれない。,44.9%をどう解釈するかは、意見が割れそうだ。「子ども持とうと考えている若者も半分はいるってことでしょ」と考える人は多いかもしれない。△魏辰┐襪函∋劼匹發ほしいと考えるZ世代は54.3%いるということになる。私がこのデータに関して考えるべきと思うポイントは3つある。1つ目は、子どもがほしい54.3%を大事にしたいということだ。あくまで願望を問う調査だから、実際にこれらのうち、どのくらいが結婚し、子どもを持つかはわからない。だからこそ、この層には先輩世代ができるかぎりのことをしてあげたい。現在進行形で議論している経済的支援や福利厚生の充実も、この層には有効だろう。今後は、特に心理的負荷の低減を考えたい。今の日本は少子化、つまり子どもが少なく大人だらけの社会である。にもかかわらず、なぜか子の親は、大人社会の中で心理的に孤立しがちではないだろうか。「正しい子育てをしなければ、周りからどう見られるかわからない」。そんな“圧”を感じながらの子育ては、本来の幸せとはほど遠い。2つ目は、調査対象者の設定についてである。「全国の18歳から25歳までの未婚で子どもがいない男女457人」。つまり、未婚で子どものいない人がサンプル集団だ。ということは、すでに子育てしているZ世代は除かれている。よって、「Z世代の約5割が子どもを望んでない」と発信するのはミスリードといえる。第一子出生年齢の平均値は年々上がっている。とはいえ、25歳までに第一子を出産する女性は、子どもを持つ総数の20%を超える。社会全体では平均的な出産年齢(30歳前後)を想定した支援策ばかりが目立つが、もっと若いうちから子育てを始める人たちへの理解や支援も充実させるべきだ。18歳から25歳といえば大学生や大学院生が該当するが、私自身これまで15年間大学に勤めていて、そういった支援策をまだほとんど聞かない。「若者の貧困化」は本当の原因ではないそして3つ目に考えたいのが、なぜ今の若者の多くは子育てしたくないか、だ。いっぱい書きたいことはあるが、紙幅の都合上、論点を(多くの識者が論じている)お金に絞ろう。BIGLOBEのデータによると、「子どもがほしいと思わない理由」として、「お金の問題」を選択したのは17.7%だ。同様に「お金の問題以外」を42.1%が、「両方」を40.2%が選択している。つまり、57.9%(17.7+40.2)の人が、お金が課題だと回答していることになる。「結婚・出産を控える最大の要因は経済的な貧困化にある」。こういった指摘は以前からされていて、BIGLOBEの調査結果もこれに符合する。政策上は、これらの結果を受けて、経済的支援の充実を検討する構造にある。ただ、ちょっと待ってほしい。ここにはまだ疑問の余地がある。論点を浮き彫りにするために、あえて言い方を変えてみよう。「今の若者は、もう少しお金があったら結婚・出産する人が増える」あなたはこの仮説の真偽をどう考えるだろうか?若者たちの間で「〇〇離れ」が進んでいるという。クルマ離れ、旅行離れ、お酒離れ、恋愛離れ、結婚離れ。これらの主な原因として「若者の貧困化」を挙げる人がいる。日本の経済状況が不安定化し、勤め先での雇用の安定や定期昇給が見込めない中で、結婚や子育てに関する金銭的、労力的負担が大きく、諦めるしかなくなっている……というわけだ。こうした「若者の貧困化」説に、私は違和感を覚える。じゃあ、お金があったらクルマを買い、お酒を飲み、彼氏彼女を作るのか? 将来、課長、部長と昇進して給料も上がると思えたら、旅行に行き、結婚し、出産するのか?仮に若者が貧困化しているとして、それは「子どもを持つことを望んでいるが、それを選択できない理由」としては成立する。しかし、そもそも「子どもを持ちたくない理由」に適用していいのかどうかは疑問だ。まだある。なぜ若者は、子育てにそんなにお金がかかると思っているのだろうか? 具体的に何をイメージして「お金がかかる」と考えているのか?子育てでも周りから浮きたくない私の見立てはこうだ。今の若者、特に「いい子症候群の若者たち」は、平均的水準にとどまることを絶対の最重要課題のように捉えている。ここでいう平均とは、自分の周りを観察した結果から得られる平均的姿を指し、そこからこぼれることに強い恐怖を感じる。と同時に、そこから抜け出し、目立ったり、成功したりすることに、ほとんど興味関心を持たない。このことが子育てにも当てはまる。実際、BIGLOBEのデータも同じことを示唆しているように思える。「(自身と同様もしくは以上に)習い事や進学が難しいなら、子どもはあきらめるか人数を減らしたい」という人は63.7%、「(自身と同様もしくは以上に)習い事や進学ができるような支援があれば、子どもの人数を増やしたい」という人は66.5%に上るのだ。自分や周りの人を見渡し、その平均的水準からこぼれ落ちるようなことは絶対に嫌。当然、子どももそんな状態には置けない。周りに合わせることが「正解」であって、自分もそう育てられた。そのために、お金が必要だ。しかし、それだけの稼ぎが得られるとは思えない。だから子どもは諦める……。仮にこの説が正しいとすると、今の若者の多くは「子育てはお金がかかる」というより、「周りに合わせた子育てはお金がかかる」と考えていることになる。何とももどかしい状況だが、実は私のこの仮説、現在進行形で子育てをしている人ほど「わかる」と言ってくれる。あなたはどう考えますか?(金間 大介 : 金沢大学融合研究域融合科学系教授、東京大学未来ビジョン研究センター客員教授)
厚生労働省が公表した2022年の人口動態統計によると、外国人と、海外で生まれた日本人の子どもを含めた出生数は79万9728人で、前年比4万3169人(5.1%)の減少となった。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、外国人を含む出生数が79万人台になるのは2033年とされている。つまりは「少子化の前倒し」が起こっている格好だ。
同研究所の推定が楽観的なものだったわけではない。にもかかわらず、11年分も前倒しで推定値が現実に“達成”されてしまっている。
少子化は、もはや今の日本にとって最大の課題。そういう認識が浸透した中で「子どもがほしくないZ世代が約5割」という報道はさらに重みを増す。
まずは、情報の正確な把握から始めよう。
BIGLOBEは2023年2月7日からの3日間で「子育てに関するZ世代の意識調査」というアンケート調査を実施した。調査対象は、全国の18歳から25歳までの未婚で子どもがいない男女457人で、将来の結婚と子どもについて、次の4択で質問をしている。以下、カッコ内の%が回答結果だ。
将来結婚して、子どもがほしい(44.9%)
将来結婚というかたちにこだわらなくても子どもはほしい(9.4%)
将来結婚はしたいが、子どもはほしくない(9.6%)
将来結婚もしたくないし、子どももほしくない(36.1%)
BIGLOBEは、とい鮃腓錣擦45.7%(=約5割)を「将来、子どもがほしくない」と考える層として扱っている。
やはり驚く結果だ。これがニュースになるのはよくわかる。特にい36.1%というのはかなり多い印象だ。逆には思ったよりも少ないか。Z世代は、先輩世代がこの選択をしているのを比較的多く見ているはずなので、それを踏まえて「イマイチ」という判断をしているのかもしれない。
,44.9%をどう解釈するかは、意見が割れそうだ。「子ども持とうと考えている若者も半分はいるってことでしょ」と考える人は多いかもしれない。△魏辰┐襪函∋劼匹發ほしいと考えるZ世代は54.3%いるということになる。
私がこのデータに関して考えるべきと思うポイントは3つある。
1つ目は、子どもがほしい54.3%を大事にしたいということだ。あくまで願望を問う調査だから、実際にこれらのうち、どのくらいが結婚し、子どもを持つかはわからない。だからこそ、この層には先輩世代ができるかぎりのことをしてあげたい。現在進行形で議論している経済的支援や福利厚生の充実も、この層には有効だろう。
今後は、特に心理的負荷の低減を考えたい。今の日本は少子化、つまり子どもが少なく大人だらけの社会である。にもかかわらず、なぜか子の親は、大人社会の中で心理的に孤立しがちではないだろうか。「正しい子育てをしなければ、周りからどう見られるかわからない」。そんな“圧”を感じながらの子育ては、本来の幸せとはほど遠い。
2つ目は、調査対象者の設定についてである。「全国の18歳から25歳までの未婚で子どもがいない男女457人」。つまり、未婚で子どものいない人がサンプル集団だ。ということは、すでに子育てしているZ世代は除かれている。よって、「Z世代の約5割が子どもを望んでない」と発信するのはミスリードといえる。
第一子出生年齢の平均値は年々上がっている。とはいえ、25歳までに第一子を出産する女性は、子どもを持つ総数の20%を超える。社会全体では平均的な出産年齢(30歳前後)を想定した支援策ばかりが目立つが、もっと若いうちから子育てを始める人たちへの理解や支援も充実させるべきだ。18歳から25歳といえば大学生や大学院生が該当するが、私自身これまで15年間大学に勤めていて、そういった支援策をまだほとんど聞かない。
そして3つ目に考えたいのが、なぜ今の若者の多くは子育てしたくないか、だ。いっぱい書きたいことはあるが、紙幅の都合上、論点を(多くの識者が論じている)お金に絞ろう。
BIGLOBEのデータによると、「子どもがほしいと思わない理由」として、「お金の問題」を選択したのは17.7%だ。同様に「お金の問題以外」を42.1%が、「両方」を40.2%が選択している。つまり、57.9%(17.7+40.2)の人が、お金が課題だと回答していることになる。
「結婚・出産を控える最大の要因は経済的な貧困化にある」。こういった指摘は以前からされていて、BIGLOBEの調査結果もこれに符合する。政策上は、これらの結果を受けて、経済的支援の充実を検討する構造にある。
ただ、ちょっと待ってほしい。ここにはまだ疑問の余地がある。論点を浮き彫りにするために、あえて言い方を変えてみよう。
「今の若者は、もう少しお金があったら結婚・出産する人が増える」
あなたはこの仮説の真偽をどう考えるだろうか?
若者たちの間で「〇〇離れ」が進んでいるという。クルマ離れ、旅行離れ、お酒離れ、恋愛離れ、結婚離れ。これらの主な原因として「若者の貧困化」を挙げる人がいる。
日本の経済状況が不安定化し、勤め先での雇用の安定や定期昇給が見込めない中で、結婚や子育てに関する金銭的、労力的負担が大きく、諦めるしかなくなっている……というわけだ。
こうした「若者の貧困化」説に、私は違和感を覚える。じゃあ、お金があったらクルマを買い、お酒を飲み、彼氏彼女を作るのか? 将来、課長、部長と昇進して給料も上がると思えたら、旅行に行き、結婚し、出産するのか?
仮に若者が貧困化しているとして、それは「子どもを持つことを望んでいるが、それを選択できない理由」としては成立する。しかし、そもそも「子どもを持ちたくない理由」に適用していいのかどうかは疑問だ。
まだある。なぜ若者は、子育てにそんなにお金がかかると思っているのだろうか? 具体的に何をイメージして「お金がかかる」と考えているのか?
私の見立てはこうだ。今の若者、特に「いい子症候群の若者たち」は、平均的水準にとどまることを絶対の最重要課題のように捉えている。ここでいう平均とは、自分の周りを観察した結果から得られる平均的姿を指し、そこからこぼれることに強い恐怖を感じる。と同時に、そこから抜け出し、目立ったり、成功したりすることに、ほとんど興味関心を持たない。
このことが子育てにも当てはまる。実際、BIGLOBEのデータも同じことを示唆しているように思える。「(自身と同様もしくは以上に)習い事や進学が難しいなら、子どもはあきらめるか人数を減らしたい」という人は63.7%、「(自身と同様もしくは以上に)習い事や進学ができるような支援があれば、子どもの人数を増やしたい」という人は66.5%に上るのだ。
自分や周りの人を見渡し、その平均的水準からこぼれ落ちるようなことは絶対に嫌。当然、子どももそんな状態には置けない。周りに合わせることが「正解」であって、自分もそう育てられた。そのために、お金が必要だ。しかし、それだけの稼ぎが得られるとは思えない。だから子どもは諦める……。
仮にこの説が正しいとすると、今の若者の多くは「子育てはお金がかかる」というより、「周りに合わせた子育てはお金がかかる」と考えていることになる。何とももどかしい状況だが、実は私のこの仮説、現在進行形で子育てをしている人ほど「わかる」と言ってくれる。
あなたはどう考えますか?
(金間 大介 : 金沢大学融合研究域融合科学系教授、東京大学未来ビジョン研究センター客員教授)