地方議員の担い手不足が指摘されて久しい。その背景の一つとされるのが報酬の低さだ。千葉県内を調べてみると、月額20万円にも届かない自治体もある。大卒の初任給を下回るような水準に、当事者からは「これだけでは生活できない」との声も上がる。なぜこのような事態となっているのか。【林帆南】
月収20万円にしても…議員が足りない人口7000人の村 「この金額では若い人は参加しにくい」 神崎町議会の大原秀雄議長(70)は自分たちが受け取る報酬について、率直に語った。

同町の議員報酬は月額17万4000円と県内の54市町村で最低の水準だ。しかも特殊な「天引き」があるため、実際に受け取る額はもっと少ない。同町では政務活動費が支給されず、各議員が毎月3万円を拠出して積み立てることで、視察や研修の経費を賄っているのだ。 サラリーマンをしながら、平日に開催される議会に出席するのは難しい。だが、議員活動一筋では生計を立てられない。現役世代に立候補を促すには、今の報酬ではハードルが高いというわけだ。 実際、町議10人のうち6人が70代だ。農業などの自営業を主な収入源としている人が多く、年金を受給しながら活動する議員もいる。議員報酬だけで生計を立てる人はいない。 ただ、「低額」の報酬にも根拠はある。1978年に全国町村議会議長会が示した「首長の給料の30%ないし31%相当額」というモデルだ。神崎町ではこの基準に基づき、議員報酬は長らく20万3000円に設定されていた。だが、財政運営の厳しさを理由に2003年から段階的に引き下げ、約15%削減した。町長も3割カットしている。 その後、町財政は改善したものの、町長も町議も復元には至っていない。大原議長は「報酬を下げても支障はなく、町民も『そんなもんでいい』という感覚になった」と話す。 深刻な担い手不足を受け、県内では議員報酬の増額を模索する動きも出てきた。ただ、議会内での合意形成は難しいようだ。 9月に予定されている次期町議選から定数を2人減らして10人とする御宿町議会。この定数削減に合わせ、月額21万5000円の議員報酬を引き上げるべきだとの声が一部の町議から上がった。議会内で意見は真っ二つに割れたが、議会事務局によると、「町民の目線を重視し、報酬は据え置くことになった」という。 同じく次期町議選から定数を2人削減する睦沢町議会でも、報酬引き上げを訴える議員がいたが、合意には至らなかった。 なぜ報酬の引き上げに二の足を踏むのか。県東部のある町議は「議員の活動内容は個人差があるが、報酬を上げた場合に町民の理解を得られるだけの仕事ができている自信はない」と打ち明ける。 報酬の妥当性などを監視する立場の県市民オンブズマン連絡会議の廣瀬理夫代表幹事は「議員の役割は大きくなっている。理想から言えば、議員が活動に専念でき、生活が安定する報酬であるべきだ」と語る。一方で「報酬が適正かどうかは議員1人当たりの人口や財政規模、活動内容を踏まえて判断すべきだ」と指摘している。千葉県内の市町村議会の議員報酬など左から自治体、議員報酬、政務活動費、議員1人当たりの人口千葉市 77万円 30万円 1万9560人船橋市 61万3000円 8万円 1万2915人市川市 60万4000円 8万円 1万1813人松戸市 59万円 5万円 1万1286人柏市 57万7000円 8万円 1万2016人市原市 56万2000円 9万円 8294人浦安市 52万円 3万円 8110人習志野市 48万円 3万円 5858人成田市 47万円 6万円 4395人佐倉市 46万円 4万円 5937人八千代市 46万円 4万円 7236人流山市 45万8250円 4万円 7468人木更津市 45万円 2万円 5687人野田市 45万円 2万2500円 5431人君津市 45万円 2万円 3646人富津市 45万円 3万円 2540人我孫子市 44万円 2万5000円 5405人鎌ケ谷市 43万円 2万円 4567人四街道市 43万円 2万円 4733人茂原市 40万5000円 1万4000円 3898人袖ケ浦市 40万円 2万円 2939人印西市 37万円 3万円 4873人東金市 35万5000円 1万4000円 2876人八街市 35万5000円 2万5000円 3311人銚子市 35万円 1万5000円 3082人香取市 35万円 1万円 3168人館山市 34万2000円 約8333円 2441人旭市 34万円 1万円 3115人南房総市 33万7000円 1万円 1903人鴨川市 33万6000円 1万円 1726人匝瑳市 33万5000円 1万2500円 1872人山武市 33万円 1万5000円 2358人いすみ市 32万7000円 3500円 1900人白井市 30万円 3万円 2957人富里市 30万円 1万円 2734人大網白里市 30万円 4150円 2640人勝浦市 28万8000円 1万円 1073人酒々井町 26万5000円 なし 1274人栄町 26万5000円 なし 1408人多古町 22万円 なし 939人東庄町 22万円 なし 907人芝山町 21万9000円 6000円 568人九十九里町 21万5000円 なし 992人御宿町 21万5000円 3500円 556人長生村 21万4000円 3000円 842人長柄町 21万4000円 5000円 534人一宮町 21万3000円 1000円 850人睦沢町 21万3000円 3000円 468人白子町 21万3000円 5000円 711人長南町 21万3000円 4000円 529人鋸南町 21万円 なし 543人大多喜町 20万9000円 7000円 703人横芝光町 20万2000円 2万円 1336人神崎町 17万4000円 なし 543人※議員報酬・政務活動費は3月1日現在。議員報酬を年額で出す自治体は1カ月当たりで算出。議員1人当たりの人口は1月1日現在の人口と3月16日現在の議員定数で算出(小数点以下を四捨五入)。
「この金額では若い人は参加しにくい」
神崎町議会の大原秀雄議長(70)は自分たちが受け取る報酬について、率直に語った。
同町の議員報酬は月額17万4000円と県内の54市町村で最低の水準だ。しかも特殊な「天引き」があるため、実際に受け取る額はもっと少ない。同町では政務活動費が支給されず、各議員が毎月3万円を拠出して積み立てることで、視察や研修の経費を賄っているのだ。
サラリーマンをしながら、平日に開催される議会に出席するのは難しい。だが、議員活動一筋では生計を立てられない。現役世代に立候補を促すには、今の報酬ではハードルが高いというわけだ。
実際、町議10人のうち6人が70代だ。農業などの自営業を主な収入源としている人が多く、年金を受給しながら活動する議員もいる。議員報酬だけで生計を立てる人はいない。
ただ、「低額」の報酬にも根拠はある。1978年に全国町村議会議長会が示した「首長の給料の30%ないし31%相当額」というモデルだ。神崎町ではこの基準に基づき、議員報酬は長らく20万3000円に設定されていた。だが、財政運営の厳しさを理由に2003年から段階的に引き下げ、約15%削減した。町長も3割カットしている。
その後、町財政は改善したものの、町長も町議も復元には至っていない。大原議長は「報酬を下げても支障はなく、町民も『そんなもんでいい』という感覚になった」と話す。
深刻な担い手不足を受け、県内では議員報酬の増額を模索する動きも出てきた。ただ、議会内での合意形成は難しいようだ。
9月に予定されている次期町議選から定数を2人減らして10人とする御宿町議会。この定数削減に合わせ、月額21万5000円の議員報酬を引き上げるべきだとの声が一部の町議から上がった。議会内で意見は真っ二つに割れたが、議会事務局によると、「町民の目線を重視し、報酬は据え置くことになった」という。
同じく次期町議選から定数を2人削減する睦沢町議会でも、報酬引き上げを訴える議員がいたが、合意には至らなかった。
なぜ報酬の引き上げに二の足を踏むのか。県東部のある町議は「議員の活動内容は個人差があるが、報酬を上げた場合に町民の理解を得られるだけの仕事ができている自信はない」と打ち明ける。
報酬の妥当性などを監視する立場の県市民オンブズマン連絡会議の廣瀬理夫代表幹事は「議員の役割は大きくなっている。理想から言えば、議員が活動に専念でき、生活が安定する報酬であるべきだ」と語る。一方で「報酬が適正かどうかは議員1人当たりの人口や財政規模、活動内容を踏まえて判断すべきだ」と指摘している。
千葉県内の市町村議会の議員報酬など
左から自治体、議員報酬、政務活動費、議員1人当たりの人口
千葉市 77万円 30万円 1万9560人
船橋市 61万3000円 8万円 1万2915人
市川市 60万4000円 8万円 1万1813人
松戸市 59万円 5万円 1万1286人
柏市 57万7000円 8万円 1万2016人
市原市 56万2000円 9万円 8294人
浦安市 52万円 3万円 8110人
習志野市 48万円 3万円 5858人
成田市 47万円 6万円 4395人
佐倉市 46万円 4万円 5937人
八千代市 46万円 4万円 7236人
流山市 45万8250円 4万円 7468人
木更津市 45万円 2万円 5687人
野田市 45万円 2万2500円 5431人
君津市 45万円 2万円 3646人
富津市 45万円 3万円 2540人
我孫子市 44万円 2万5000円 5405人
鎌ケ谷市 43万円 2万円 4567人
四街道市 43万円 2万円 4733人
茂原市 40万5000円 1万4000円 3898人
袖ケ浦市 40万円 2万円 2939人
印西市 37万円 3万円 4873人
東金市 35万5000円 1万4000円 2876人
八街市 35万5000円 2万5000円 3311人
銚子市 35万円 1万5000円 3082人
香取市 35万円 1万円 3168人
館山市 34万2000円 約8333円 2441人
旭市 34万円 1万円 3115人
南房総市 33万7000円 1万円 1903人
鴨川市 33万6000円 1万円 1726人
匝瑳市 33万5000円 1万2500円 1872人
山武市 33万円 1万5000円 2358人
いすみ市 32万7000円 3500円 1900人
白井市 30万円 3万円 2957人
富里市 30万円 1万円 2734人
大網白里市 30万円 4150円 2640人
勝浦市 28万8000円 1万円 1073人
酒々井町 26万5000円 なし 1274人
栄町 26万5000円 なし 1408人
多古町 22万円 なし 939人
東庄町 22万円 なし 907人
芝山町 21万9000円 6000円 568人
九十九里町 21万5000円 なし 992人
御宿町 21万5000円 3500円 556人
長生村 21万4000円 3000円 842人
長柄町 21万4000円 5000円 534人
一宮町 21万3000円 1000円 850人
睦沢町 21万3000円 3000円 468人
白子町 21万3000円 5000円 711人
長南町 21万3000円 4000円 529人
鋸南町 21万円 なし 543人
大多喜町 20万9000円 7000円 703人
横芝光町 20万2000円 2万円 1336人
神崎町 17万4000円 なし 543人
※議員報酬・政務活動費は3月1日現在。議員報酬を年額で出す自治体は1カ月当たりで算出。議員1人当たりの人口は1月1日現在の人口と3月16日現在の議員定数で算出(小数点以下を四捨五入)。