サラリーマンの給料や退職金は上がらず、その反面、税金や社会保険料等の負担は増大しています。今やサラリーマンにとって、自衛手段として能動的に「節税」することが欠かせません。本記事では元国税専門官である小林義崇氏が、新刊著書『会社も税務署も教えてくれない 会社員のための節税のすべて』(PHP研究所)から、サラリーマンの税金がいかに重くなってきているかと、国が容赦なく増税に邁進する背景について解説します。
収入が増えない状況でありながら、負担は徐々に増えているのが昨今の日本です。税金に目が向きがちですが、社会保険料の増加も無視できません。
毎年昇給しているはずなのに、思ったよりも手取りが増えないと感じることはないでしょうか。これは、社会保険料の負担が増えたことによる可能性が高いです。
[図表1]は、1975年(昭和50年)から2022年(令和4年)の「国民負担率」の推移を示したものです。国民負担率とは、国民の所得に占める租税負担と社会保障負担の割合です。
[図表1]国民負担率の推移 出所:財務省ホームページ
これを見ると、とくに社会保障の負担率が伸びていることが分かります。昭和と令和を比べると2倍ほどの開きがあります。
社会保障負担のうち、私たちが主に負担しているのが健康保険料と年金保険料です。サラリーマンの場合、健康保険料と厚生年金保険料が給料などから天引きされています。
これらの社会保険料は、4~6月の平均月給などで決まる標準報酬月額と、ボーナスの千円未満を切り捨てた標準賞与額に基づき、一定の率を掛けて計算されます。
この保険料率が、かつてなく高くなっているのです。健康保険料の保険料率は勤務先の健康保険組合によりますが、主に中小企業の従業員や家族が加入する協会けんぽの場合、1977年度の8.00%から、現在は10%程度に上昇しています。
さらに、2000年度に介護保険が創設され、40歳以上の人は健康保険料に加えて介護保険料も支払う義務があります。協会けんぽに加入している40歳以上の人は、健康保険料と介護保険料の率を合わせて12%程度を負担しなくてはいけません。
厚生年金の保険料についても、2004年10月から毎年0.354%ずつ引き上げられ、2017年9月以降は18.3%となりました。
これらの社会保険料は、勤務先と従業員で折半する形ですが、それでも決して負担が少ないとは言えません。たとえば東京都の会社に勤務する、40歳で、標準報酬月額30万円の人の場合、月々の給料から差し引かれる社会保険料は約4万5,000円に上ります(協会けんぽ、2022年度の保険料率で計算)。
〈労使折半後の社会保険料〉・健康保険料(介護保険料を含む) 1万7,175円・厚生年金保険料 2万7,450円⇒合計4万4,625円収入が月平均30万円であることを考えると、これらの保険料の負担は重たく感じられるのではないでしょうか。収入の約6分の1もの額が引かれ、さらにここから所得税や住民税、雇用保険料も取られてしまうのです。なお、社会保険料は自らの行動で負担を下げるのが困難です。自分の給料や賞与を自分で決められる経営者であれば対策の余地がありますが、普通のサラリーマンは収入をコントロールできないので、収入に応じた社会保険料を負担する他ありません。社会保険料については、保険料を減らすことより、高額療養費制度や出産手当金のような給付を確実に受け取ることを意識したほうがいいです。家計の改善を行うときは、節税により税負担を抑えることが現実的な対策になります。増税のターゲットはサラリーマン・高所得者税金のしくみは毎年変わりますが、近年顕著になっているのがサラリーマンや高所得者をターゲットにした増税です。以下は一例ですが、サラリーマンの税負担に直結する改正がなされています。〈2018年改正〉・年間所得900万円超の人の配偶者控除・配偶者特別控除額を引き下げ〈2020年改正〉・年収850万円超の人の給与所得控除額を引き下げ・公的年金など以外の年間所得1,000万円超の人の公的年金等控除額を引き下げ・年間所得2,400万円超の人の基礎控除額を引き下げサラリーマンの所得税や住民税は、給与所得に基づき計算されます。この給与所得は、給与収入から給与所得控除額を差し引いて計算します。当然ながら給与所得控除額が多いほうが、税金の負担が下がるわけですが、この控除額が度重なる税制改正により減っているのです。1974年から2012年まで給与所得控除に上限はありませんでした。年収がいかに高くとも、一定の割合を掛けた金額を差し引いて所得を計算することが可能だったのです。しかし、2013年に給与所得控除額の上限が245万円に設定され、年収1,500万円を超えると控除額が一切増えない形になりました。これは高所得者をターゲットにした増税に他なりません。さらにその後も給与所得控除の改正は続き、[図表2]のとおり縮小されてきました。[図表2]給与所得控除の限度額の推移給与所得控除額の引き下げに加えて、使い勝手のよかった減税措置のいくつかが廃止されたことも気になる点です。私が東京国税局に入った2004年には、65歳以上のほぼすべての人が対象となる「老年者控除」や、所得税の20%、住民税の15%が一律減額される「定率減税」といった制度がありました。これらの制度はとくに手続きをせずとも税負担を下げてくれていたのですが、すでに廃止されています。その一方で、「個人型確定拠出年金(iDeCo)」や「ふるさと納税」のように、新しい節税方法も登場しています。これらは自動的に適用されるものではなく、自身が主体的に動かなくてはいけません。こうした傾向から言えるのは、節税のための行動を何も起こさずにいると、税負担は自然と増えてしまうということです。最初は気にならないとしても、これが何年も積み重なると税負担の差は著しいものになります。相続税が中間層を直撃負担が増えているのは所得税や住民税だけではありません。2019年10月1日から、食品などの一部の商品を除き消費税が10%になりましたし、たばこ税や酒税も総じて増税しています。我々一般庶民になじみのなかった相続税についても2015年に大きな改正があり、申告が必要となる人が大幅に増えています。相続税は、手厚い基礎控除額のおかげで多くの人は申告や納税をする必要がありませんでした。2014年以前の基礎控除額の計算は、「5,000万円+法定相続人の数×1,000万円」というもので、たとえば妻と子2人が相続する場合、基礎控除額は8,000万円となり、これを超える遺産がなければ相続税はかからなかったのです。ところが、2015年以降、基礎控除額は「3,000万円+法定相続人の数×600万円」で計算するようになっています。先ほどと同じく妻と子2人のケースで考えると、基礎控除額は4,800万円ですから、都内に住宅をもっている人などは、相続税の申告が必要になると考えられます。この改正が行われる前は、相続税の申告が必要な人は、全死亡者の4%程度でした。しかし、この割合が今や9%を超えています。相続税の節税が富裕層だけに必要だったのは過去の話です。これからは、多くの人が相続税のルールを知り、節税に取り組む必要があると言えます。さらなる増税もあり得る日本は長らく財政赤字が続いており、これを国債という、いわば国の借金によって賄っています。日本では少子高齢化で働ける人の数が減っているにもかかわらず、年金や医療などの社会保障費が増えています。構造的に税収不足から抜け出すことができず、毎年赤字国債を発行している状況です。こうした状況にあるため、今後も日本政府はさらなる負担増加に踏み切る可能性が高いでしょう。財務省がホームページで公開している「これからの日本のために財政を考える」に今後の増税を予想させるような記述がありますので、いくつか抜粋したいと思います。ホームページに書かれた「財務省の考え」とは[図表3]は「これからの日本のために財政を考える」に掲載されているもので(2023年3月時点)、1990年度と2022年度の歳出・歳入が比較されています。[図表3]日本の財政構造の変化 出所:財務省ホームページ「これからの日本のために財政を考える」これによると、社会保障関連費が約25兆円増えている一方、税収の増加は10兆円ほどに留まっています。そして、同じ資料の中に次のような文言があります。「財政構造を諸外国と比較すると、現在の日本の社会保障支出の規模は対GDP比で国際的に中程度であるのに対し、社会保障以外の支出規模は低い水準であり、これらを賄う税収の規模も低い水準となっています」この記述を見ると、社会保障以外の支出、つまり日本人の税金の負担は決して大きくないため、まだ上げる余地があるという財務省の考えが見えてきます。高齢化が急速に進み、社会保障費が年々増加している日本では、財源不足が深刻化しています。これを補うために、現役世代のみならず、高齢者に対する増税も徐々に実施されていくと考えるのが自然でしょう。[図表4]財務省は「日本の税収の規模は諸外国と比べて低い」と説明している小林 義崇元国税専門官マネーライター
〈労使折半後の社会保険料〉
・健康保険料(介護保険料を含む) 1万7,175円
・厚生年金保険料 2万7,450円
⇒合計4万4,625円
収入が月平均30万円であることを考えると、これらの保険料の負担は重たく感じられるのではないでしょうか。収入の約6分の1もの額が引かれ、さらにここから所得税や住民税、雇用保険料も取られてしまうのです。
なお、社会保険料は自らの行動で負担を下げるのが困難です。自分の給料や賞与を自分で決められる経営者であれば対策の余地がありますが、普通のサラリーマンは収入をコントロールできないので、収入に応じた社会保険料を負担する他ありません。
社会保険料については、保険料を減らすことより、高額療養費制度や出産手当金のような給付を確実に受け取ることを意識したほうがいいです。
家計の改善を行うときは、節税により税負担を抑えることが現実的な対策になります。
税金のしくみは毎年変わりますが、近年顕著になっているのがサラリーマンや高所得者をターゲットにした増税です。以下は一例ですが、サラリーマンの税負担に直結する改正がなされています。
〈2018年改正〉・年間所得900万円超の人の配偶者控除・配偶者特別控除額を引き下げ〈2020年改正〉・年収850万円超の人の給与所得控除額を引き下げ・公的年金など以外の年間所得1,000万円超の人の公的年金等控除額を引き下げ・年間所得2,400万円超の人の基礎控除額を引き下げサラリーマンの所得税や住民税は、給与所得に基づき計算されます。この給与所得は、給与収入から給与所得控除額を差し引いて計算します。当然ながら給与所得控除額が多いほうが、税金の負担が下がるわけですが、この控除額が度重なる税制改正により減っているのです。1974年から2012年まで給与所得控除に上限はありませんでした。年収がいかに高くとも、一定の割合を掛けた金額を差し引いて所得を計算することが可能だったのです。しかし、2013年に給与所得控除額の上限が245万円に設定され、年収1,500万円を超えると控除額が一切増えない形になりました。これは高所得者をターゲットにした増税に他なりません。さらにその後も給与所得控除の改正は続き、[図表2]のとおり縮小されてきました。[図表2]給与所得控除の限度額の推移給与所得控除額の引き下げに加えて、使い勝手のよかった減税措置のいくつかが廃止されたことも気になる点です。私が東京国税局に入った2004年には、65歳以上のほぼすべての人が対象となる「老年者控除」や、所得税の20%、住民税の15%が一律減額される「定率減税」といった制度がありました。これらの制度はとくに手続きをせずとも税負担を下げてくれていたのですが、すでに廃止されています。その一方で、「個人型確定拠出年金(iDeCo)」や「ふるさと納税」のように、新しい節税方法も登場しています。これらは自動的に適用されるものではなく、自身が主体的に動かなくてはいけません。こうした傾向から言えるのは、節税のための行動を何も起こさずにいると、税負担は自然と増えてしまうということです。最初は気にならないとしても、これが何年も積み重なると税負担の差は著しいものになります。相続税が中間層を直撃負担が増えているのは所得税や住民税だけではありません。2019年10月1日から、食品などの一部の商品を除き消費税が10%になりましたし、たばこ税や酒税も総じて増税しています。我々一般庶民になじみのなかった相続税についても2015年に大きな改正があり、申告が必要となる人が大幅に増えています。相続税は、手厚い基礎控除額のおかげで多くの人は申告や納税をする必要がありませんでした。2014年以前の基礎控除額の計算は、「5,000万円+法定相続人の数×1,000万円」というもので、たとえば妻と子2人が相続する場合、基礎控除額は8,000万円となり、これを超える遺産がなければ相続税はかからなかったのです。ところが、2015年以降、基礎控除額は「3,000万円+法定相続人の数×600万円」で計算するようになっています。先ほどと同じく妻と子2人のケースで考えると、基礎控除額は4,800万円ですから、都内に住宅をもっている人などは、相続税の申告が必要になると考えられます。この改正が行われる前は、相続税の申告が必要な人は、全死亡者の4%程度でした。しかし、この割合が今や9%を超えています。相続税の節税が富裕層だけに必要だったのは過去の話です。これからは、多くの人が相続税のルールを知り、節税に取り組む必要があると言えます。さらなる増税もあり得る日本は長らく財政赤字が続いており、これを国債という、いわば国の借金によって賄っています。日本では少子高齢化で働ける人の数が減っているにもかかわらず、年金や医療などの社会保障費が増えています。構造的に税収不足から抜け出すことができず、毎年赤字国債を発行している状況です。こうした状況にあるため、今後も日本政府はさらなる負担増加に踏み切る可能性が高いでしょう。財務省がホームページで公開している「これからの日本のために財政を考える」に今後の増税を予想させるような記述がありますので、いくつか抜粋したいと思います。ホームページに書かれた「財務省の考え」とは[図表3]は「これからの日本のために財政を考える」に掲載されているもので(2023年3月時点)、1990年度と2022年度の歳出・歳入が比較されています。[図表3]日本の財政構造の変化 出所:財務省ホームページ「これからの日本のために財政を考える」これによると、社会保障関連費が約25兆円増えている一方、税収の増加は10兆円ほどに留まっています。そして、同じ資料の中に次のような文言があります。「財政構造を諸外国と比較すると、現在の日本の社会保障支出の規模は対GDP比で国際的に中程度であるのに対し、社会保障以外の支出規模は低い水準であり、これらを賄う税収の規模も低い水準となっています」この記述を見ると、社会保障以外の支出、つまり日本人の税金の負担は決して大きくないため、まだ上げる余地があるという財務省の考えが見えてきます。高齢化が急速に進み、社会保障費が年々増加している日本では、財源不足が深刻化しています。これを補うために、現役世代のみならず、高齢者に対する増税も徐々に実施されていくと考えるのが自然でしょう。[図表4]財務省は「日本の税収の規模は諸外国と比べて低い」と説明している小林 義崇元国税専門官マネーライター
〈2018年改正〉
・年間所得900万円超の人の配偶者控除・配偶者特別控除額を引き下げ
〈2020年改正〉・年収850万円超の人の給与所得控除額を引き下げ・公的年金など以外の年間所得1,000万円超の人の公的年金等控除額を引き下げ・年間所得2,400万円超の人の基礎控除額を引き下げサラリーマンの所得税や住民税は、給与所得に基づき計算されます。この給与所得は、給与収入から給与所得控除額を差し引いて計算します。当然ながら給与所得控除額が多いほうが、税金の負担が下がるわけですが、この控除額が度重なる税制改正により減っているのです。1974年から2012年まで給与所得控除に上限はありませんでした。年収がいかに高くとも、一定の割合を掛けた金額を差し引いて所得を計算することが可能だったのです。しかし、2013年に給与所得控除額の上限が245万円に設定され、年収1,500万円を超えると控除額が一切増えない形になりました。これは高所得者をターゲットにした増税に他なりません。さらにその後も給与所得控除の改正は続き、[図表2]のとおり縮小されてきました。[図表2]給与所得控除の限度額の推移給与所得控除額の引き下げに加えて、使い勝手のよかった減税措置のいくつかが廃止されたことも気になる点です。私が東京国税局に入った2004年には、65歳以上のほぼすべての人が対象となる「老年者控除」や、所得税の20%、住民税の15%が一律減額される「定率減税」といった制度がありました。これらの制度はとくに手続きをせずとも税負担を下げてくれていたのですが、すでに廃止されています。その一方で、「個人型確定拠出年金(iDeCo)」や「ふるさと納税」のように、新しい節税方法も登場しています。これらは自動的に適用されるものではなく、自身が主体的に動かなくてはいけません。こうした傾向から言えるのは、節税のための行動を何も起こさずにいると、税負担は自然と増えてしまうということです。最初は気にならないとしても、これが何年も積み重なると税負担の差は著しいものになります。相続税が中間層を直撃負担が増えているのは所得税や住民税だけではありません。2019年10月1日から、食品などの一部の商品を除き消費税が10%になりましたし、たばこ税や酒税も総じて増税しています。我々一般庶民になじみのなかった相続税についても2015年に大きな改正があり、申告が必要となる人が大幅に増えています。相続税は、手厚い基礎控除額のおかげで多くの人は申告や納税をする必要がありませんでした。2014年以前の基礎控除額の計算は、「5,000万円+法定相続人の数×1,000万円」というもので、たとえば妻と子2人が相続する場合、基礎控除額は8,000万円となり、これを超える遺産がなければ相続税はかからなかったのです。ところが、2015年以降、基礎控除額は「3,000万円+法定相続人の数×600万円」で計算するようになっています。先ほどと同じく妻と子2人のケースで考えると、基礎控除額は4,800万円ですから、都内に住宅をもっている人などは、相続税の申告が必要になると考えられます。この改正が行われる前は、相続税の申告が必要な人は、全死亡者の4%程度でした。しかし、この割合が今や9%を超えています。相続税の節税が富裕層だけに必要だったのは過去の話です。これからは、多くの人が相続税のルールを知り、節税に取り組む必要があると言えます。さらなる増税もあり得る日本は長らく財政赤字が続いており、これを国債という、いわば国の借金によって賄っています。日本では少子高齢化で働ける人の数が減っているにもかかわらず、年金や医療などの社会保障費が増えています。構造的に税収不足から抜け出すことができず、毎年赤字国債を発行している状況です。こうした状況にあるため、今後も日本政府はさらなる負担増加に踏み切る可能性が高いでしょう。財務省がホームページで公開している「これからの日本のために財政を考える」に今後の増税を予想させるような記述がありますので、いくつか抜粋したいと思います。ホームページに書かれた「財務省の考え」とは[図表3]は「これからの日本のために財政を考える」に掲載されているもので(2023年3月時点)、1990年度と2022年度の歳出・歳入が比較されています。[図表3]日本の財政構造の変化 出所:財務省ホームページ「これからの日本のために財政を考える」これによると、社会保障関連費が約25兆円増えている一方、税収の増加は10兆円ほどに留まっています。そして、同じ資料の中に次のような文言があります。「財政構造を諸外国と比較すると、現在の日本の社会保障支出の規模は対GDP比で国際的に中程度であるのに対し、社会保障以外の支出規模は低い水準であり、これらを賄う税収の規模も低い水準となっています」この記述を見ると、社会保障以外の支出、つまり日本人の税金の負担は決して大きくないため、まだ上げる余地があるという財務省の考えが見えてきます。高齢化が急速に進み、社会保障費が年々増加している日本では、財源不足が深刻化しています。これを補うために、現役世代のみならず、高齢者に対する増税も徐々に実施されていくと考えるのが自然でしょう。[図表4]財務省は「日本の税収の規模は諸外国と比べて低い」と説明している小林 義崇元国税専門官マネーライター
〈2020年改正〉
・年収850万円超の人の給与所得控除額を引き下げ
・公的年金など以外の年間所得1,000万円超の人の公的年金等控除額を引き下げ
・年間所得2,400万円超の人の基礎控除額を引き下げ
サラリーマンの所得税や住民税は、給与所得に基づき計算されます。この給与所得は、給与収入から給与所得控除額を差し引いて計算します。当然ながら給与所得控除額が多いほうが、税金の負担が下がるわけですが、この控除額が度重なる税制改正により減っているのです。
1974年から2012年まで給与所得控除に上限はありませんでした。年収がいかに高くとも、一定の割合を掛けた金額を差し引いて所得を計算することが可能だったのです。
しかし、2013年に給与所得控除額の上限が245万円に設定され、年収1,500万円を超えると控除額が一切増えない形になりました。これは高所得者をターゲットにした増税に他なりません。さらにその後も給与所得控除の改正は続き、[図表2]のとおり縮小されてきました。
[図表2]給与所得控除の限度額の推移
給与所得控除額の引き下げに加えて、使い勝手のよかった減税措置のいくつかが廃止されたことも気になる点です。
私が東京国税局に入った2004年には、65歳以上のほぼすべての人が対象となる「老年者控除」や、所得税の20%、住民税の15%が一律減額される「定率減税」といった制度がありました。
これらの制度はとくに手続きをせずとも税負担を下げてくれていたのですが、すでに廃止されています。
その一方で、「個人型確定拠出年金(iDeCo)」や「ふるさと納税」のように、新しい節税方法も登場しています。これらは自動的に適用されるものではなく、自身が主体的に動かなくてはいけません。
こうした傾向から言えるのは、節税のための行動を何も起こさずにいると、税負担は自然と増えてしまうということです。最初は気にならないとしても、これが何年も積み重なると税負担の差は著しいものになります。
負担が増えているのは所得税や住民税だけではありません。2019年10月1日から、食品などの一部の商品を除き消費税が10%になりましたし、たばこ税や酒税も総じて増税しています。
我々一般庶民になじみのなかった相続税についても2015年に大きな改正があり、申告が必要となる人が大幅に増えています。
相続税は、手厚い基礎控除額のおかげで多くの人は申告や納税をする必要がありませんでした。2014年以前の基礎控除額の計算は、「5,000万円+法定相続人の数×1,000万円」というもので、たとえば妻と子2人が相続する場合、基礎控除額は8,000万円となり、これを超える遺産がなければ相続税はかからなかったのです。
ところが、2015年以降、基礎控除額は「3,000万円+法定相続人の数×600万円」で計算するようになっています。
先ほどと同じく妻と子2人のケースで考えると、基礎控除額は4,800万円ですから、都内に住宅をもっている人などは、相続税の申告が必要になると考えられます。
この改正が行われる前は、相続税の申告が必要な人は、全死亡者の4%程度でした。しかし、この割合が今や9%を超えています。
相続税の節税が富裕層だけに必要だったのは過去の話です。これからは、多くの人が相続税のルールを知り、節税に取り組む必要があると言えます。
日本は長らく財政赤字が続いており、これを国債という、いわば国の借金によって賄っています。日本では少子高齢化で働ける人の数が減っているにもかかわらず、年金や医療などの社会保障費が増えています。
構造的に税収不足から抜け出すことができず、毎年赤字国債を発行している状況です。
こうした状況にあるため、今後も日本政府はさらなる負担増加に踏み切る可能性が高いでしょう。
財務省がホームページで公開している「これからの日本のために財政を考える」に今後の増税を予想させるような記述がありますので、いくつか抜粋したいと思います。
[図表3]は「これからの日本のために財政を考える」に掲載されているもので(2023年3月時点)、1990年度と2022年度の歳出・歳入が比較されています。
[図表3]日本の財政構造の変化 出所:財務省ホームページ「これからの日本のために財政を考える」
これによると、社会保障関連費が約25兆円増えている一方、税収の増加は10兆円ほどに留まっています。そして、同じ資料の中に次のような文言があります。
「財政構造を諸外国と比較すると、現在の日本の社会保障支出の規模は対GDP比で国際的に中程度であるのに対し、社会保障以外の支出規模は低い水準であり、これらを賄う税収の規模も低い水準となっています」この記述を見ると、社会保障以外の支出、つまり日本人の税金の負担は決して大きくないため、まだ上げる余地があるという財務省の考えが見えてきます。高齢化が急速に進み、社会保障費が年々増加している日本では、財源不足が深刻化しています。これを補うために、現役世代のみならず、高齢者に対する増税も徐々に実施されていくと考えるのが自然でしょう。[図表4]財務省は「日本の税収の規模は諸外国と比べて低い」と説明している小林 義崇元国税専門官マネーライター
「財政構造を諸外国と比較すると、現在の日本の社会保障支出の規模は対GDP比で国際的に中程度であるのに対し、社会保障以外の支出規模は低い水準であり、これらを賄う税収の規模も低い水準となっています」
この記述を見ると、社会保障以外の支出、つまり日本人の税金の負担は決して大きくないため、まだ上げる余地があるという財務省の考えが見えてきます。
高齢化が急速に進み、社会保障費が年々増加している日本では、財源不足が深刻化しています。これを補うために、現役世代のみならず、高齢者に対する増税も徐々に実施されていくと考えるのが自然でしょう。
[図表4]財務省は「日本の税収の規模は諸外国と比べて低い」と説明している
小林 義崇
元国税専門官
マネーライター