文部科学省は「マスク着用を求めないことを基本」とする通知を全国の教育委員会に出した。新学期から学校でのマスクも“個人の判断”だ。しかし、外す、外さないを学生任せにすることに懸念を示す専門家がいる。「外さなくてもいいは、優しさじゃない」と、学生に「外す勇気を持とう」と語りかける。なぜか。
【映像】マスク依存の若者たち「“外さなくていい”は、優しさじゃない」と考える専門家の懸念マスクの顔パンツ化 着脱の判断を任せるのは「優しさの勘違い」マスク着用は個人の判断となったが、いまも多くの学生がマスク姿だ。民間が行った、小学生から高校生300人への意識調査(※1)によると、子供たちの9割が「“脱マスク”に抵抗がある」と回答している。その理由の上位には、「自分の顔に自信がない」「恥ずかしい」「友達にどう思われるか不安」など、感染対策とは別の、心理的な理由が並んでいる。

若者にとって、自分の見た目を気にすることは当然と言えるかもしれない。コロナ禍でマスク着用が続き、顔全体をさらさないですんだことは、見た目を気にするストレスをある程度軽減していたはずだ。ならば、個人の判断になったからといって、すんなり外せないのもわからなくはない。「自分のペースでいいよ」と声をかけてあげることは、大人の「優しさ」のようにも感じる。しかし、だ。人間関係、コミュニケーション、感情表現などを研究し、若者事情に精通する慶應義塾大学特任准教授の若新雄純さんは、それは優しさではないと一蹴する。「ちょっと自信ないんだっていう顔を、もう一度オープンにさせることはかわいそうだっていうのは、全然優しさじゃないと思うんです。優しさを勘違いしています。苦しくても、もう一度ちゃんと自分の顔はこうであるってことと、向き合わせることが本当の優しさじゃないでしょうか。それができないのは、教育者でも何でもないと思う。子どもたちの未来を考えられていないんじゃないかと思います」自分のありのままを受け入れる その訓練なしで若者の未来はマスクを外させるべき、というと、若者の自由を奪い、若者の気持ちを蔑ろにしているようにも聞こえるかもしれない。しかし、若新さんが問題視しているのは、マスクの着脱というよりも、根底にある、ありのままの自分と向き合うことを棚上げしている点だ。「マスクによって、自分が人と違う顔をしてるということについて、受け入れられなくなることが問題なんです。僕らはそれぞれ違いを持っていて、ある程度は整形とか化粧とかできるかもしれないけど、個人差を持った存在であることをどこかで受け入れなくてはいけません。マスクは他人と自分の違いについて一時的に棚上げしておけるかもしれません。でも、どこまでいっても、私たちは生涯、個人差を持ち続けます。その他人との差を向き合えない人生は、僕はつらいと思う。というのも、自分に自信を持てるかどうかは、自分が社会的に立派になったかどうかよりも、人との違いを受け入れたかどうかに繋がっているからです。みんなとは同じになれない、人とは違う固有の存在である。その違いを受け止められるかどうかってことがすごく大事です。違いを受け入れないまま大人になっていくと、苦しくなる。全部隠したくなっていく。均一化しようとしていく。他人と違うと思っていることについて、ギリギリまで隠しておこうという感覚になりかねないです」「マスクの有無は個性」に異議 違いや境目を隠すのは多様性ではないマスクを着用する前から、多くの学校では制服や校則で、画一的な格好を求めてきた。コロナによって、マスクの着用も強いたことから、さらに若者たちはありのままの自分と向き合う機会を奪われてしまったといえるかもしれない。多様性が重んじられる昨今、若者たちに、人との違いを隠すのではなく、個性を受け入れ、自信を持ってもらうためにはどうしたらいいのか。文部科学省は、新学期からの学校でのマスクの扱いについて「マスク着用を求めないことを基本」とすることを全国の教育委員会に通知した。しかし、「マスクを求めない」よりもう一歩踏み込んで「マスクを外そう」と伝えることが、本当の意味での多様性を学び、自分を受け入れるきっかけになると、若新さんは語る。「多様性の議論が、日本では浅い議論にとどまっています。もともと多様性という言葉には、僕たちはそれぞれ違う部分があって、わかり合えないこともあるし、同じにはなれない、という、厳しい現実と向き合うことです。そのうえで、わかり合えなくても一緒にやるには、一つになれないけど協力するには、と共存の在り方を考えるのが多様性の議論です。しかし、いつの間にか日本では、いろんな人がいていいけど、みんなひとつ、といった、違いや境目をなくそうという議論になってきています。それは間違っています。顔もまさに、見せたくない顔の子もいるじゃん、自分の顔に自信ない子もいるじゃん、だから『違いの境界をなくして隠しましょう』ではなくて、だから『向き合っていきましょう』という議論にすべきです。多様性って言葉は、小中高生に浸透しつつありますが、間違わせちゃいけない。一緒になれない、どこまでいっても僕らは違う。その違いと、どう一緒に生きていくかっていうことを考えてほしい。だからこそ、もう一度勇気を持って、マスクを外そう、人との違いに向き合おう、っていうメッセージを、大人が発するべきだと思います」(3月16日放送・配信『SHARE』より)※1『現役の小・中・高校生「マスク需要」に関する意識調査』東京イセアクリニック 2023年2月17日
マスク着用は個人の判断となったが、いまも多くの学生がマスク姿だ。民間が行った、小学生から高校生300人への意識調査(※1)によると、子供たちの9割が「“脱マスク”に抵抗がある」と回答している。その理由の上位には、「自分の顔に自信がない」「恥ずかしい」「友達にどう思われるか不安」など、感染対策とは別の、心理的な理由が並んでいる。
若者にとって、自分の見た目を気にすることは当然と言えるかもしれない。コロナ禍でマスク着用が続き、顔全体をさらさないですんだことは、見た目を気にするストレスをある程度軽減していたはずだ。ならば、個人の判断になったからといって、すんなり外せないのもわからなくはない。「自分のペースでいいよ」と声をかけてあげることは、大人の「優しさ」のようにも感じる。
しかし、だ。人間関係、コミュニケーション、感情表現などを研究し、若者事情に精通する慶應義塾大学特任准教授の若新雄純さんは、それは優しさではないと一蹴する。
「ちょっと自信ないんだっていう顔を、もう一度オープンにさせることはかわいそうだっていうのは、全然優しさじゃないと思うんです。優しさを勘違いしています。
苦しくても、もう一度ちゃんと自分の顔はこうであるってことと、向き合わせることが本当の優しさじゃないでしょうか。それができないのは、教育者でも何でもないと思う。子どもたちの未来を考えられていないんじゃないかと思います」
マスクを外させるべき、というと、若者の自由を奪い、若者の気持ちを蔑ろにしているようにも聞こえるかもしれない。しかし、若新さんが問題視しているのは、マスクの着脱というよりも、根底にある、ありのままの自分と向き合うことを棚上げしている点だ。
「マスクによって、自分が人と違う顔をしてるということについて、受け入れられなくなることが問題なんです。
僕らはそれぞれ違いを持っていて、ある程度は整形とか化粧とかできるかもしれないけど、個人差を持った存在であることをどこかで受け入れなくてはいけません。
マスクは他人と自分の違いについて一時的に棚上げしておけるかもしれません。でも、どこまでいっても、私たちは生涯、個人差を持ち続けます。その他人との差を向き合えない人生は、僕はつらいと思う。
というのも、自分に自信を持てるかどうかは、自分が社会的に立派になったかどうかよりも、人との違いを受け入れたかどうかに繋がっているからです。みんなとは同じになれない、人とは違う固有の存在である。その違いを受け止められるかどうかってことがすごく大事です。
違いを受け入れないまま大人になっていくと、苦しくなる。全部隠したくなっていく。均一化しようとしていく。他人と違うと思っていることについて、ギリギリまで隠しておこうという感覚になりかねないです」
マスクを着用する前から、多くの学校では制服や校則で、画一的な格好を求めてきた。コロナによって、マスクの着用も強いたことから、さらに若者たちはありのままの自分と向き合う機会を奪われてしまったといえるかもしれない。
多様性が重んじられる昨今、若者たちに、人との違いを隠すのではなく、個性を受け入れ、自信を持ってもらうためにはどうしたらいいのか。
文部科学省は、新学期からの学校でのマスクの扱いについて「マスク着用を求めないことを基本」とすることを全国の教育委員会に通知した。しかし、「マスクを求めない」よりもう一歩踏み込んで「マスクを外そう」と伝えることが、本当の意味での多様性を学び、自分を受け入れるきっかけになると、若新さんは語る。
「多様性の議論が、日本では浅い議論にとどまっています。
もともと多様性という言葉には、僕たちはそれぞれ違う部分があって、わかり合えないこともあるし、同じにはなれない、という、厳しい現実と向き合うことです。そのうえで、わかり合えなくても一緒にやるには、一つになれないけど協力するには、と共存の在り方を考えるのが多様性の議論です。
しかし、いつの間にか日本では、いろんな人がいていいけど、みんなひとつ、といった、違いや境目をなくそうという議論になってきています。それは間違っています。
顔もまさに、見せたくない顔の子もいるじゃん、自分の顔に自信ない子もいるじゃん、だから『違いの境界をなくして隠しましょう』ではなくて、だから『向き合っていきましょう』という議論にすべきです。
多様性って言葉は、小中高生に浸透しつつありますが、間違わせちゃいけない。一緒になれない、どこまでいっても僕らは違う。その違いと、どう一緒に生きていくかっていうことを考えてほしい。
だからこそ、もう一度勇気を持って、マスクを外そう、人との違いに向き合おう、っていうメッセージを、大人が発するべきだと思います」
(3月16日放送・配信『SHARE』より)
※1『現役の小・中・高校生「マスク需要」に関する意識調査』東京イセアクリニック 2023年2月17日