客の中には一晩で1000万円を担当ホストに貢ぐホス狂いや、障害年金を注ぎ込む女性も……。儲けの仕組みや、客層など「ホストクラブの知られざる実態」を新刊『ルポ歌舞伎町』より一部抜粋してお届け。
【画像アリ】歌舞伎町の路上で泣き崩れるホス狂いたち
2019年に歌舞伎町のヤクザマンションへと居を移し、歌舞伎町に入り浸ったルポライター・國友公司氏がそこで見たものとは?(全2回の1回目/後編を読む)
知られざる「ホストクラブの儲けの仕組み」とは? getty
◆◆◆
歌舞伎町ほど金の動きがまざまざとわかる街はない。下半身がパツンパツンに張り詰めた男たちは風俗店に金を落とし、風俗嬢たちは毎晩のようにホストクラブに万札を垂れ流す。
そして彼女たちに寄生するようにスカウトたちはこぼれ汁をすする。歌舞伎町における金の流れは、よく「食物連鎖」と揶揄される。
冬のボーナスを手に入れたサラリーマンは、妻に内緒で歌舞伎町のソープランドを訪れた。ソープ嬢の若い身体を貪り、何事もなかったかのように家に帰った。射精したサラリーマンはそのソープ嬢の背後に広がる世界など考えもしないだろうが、そこは実にいびつな関係で埋め尽くされている。
歌舞伎町の雀荘「L」では、連日のように裏稼業の人間たち――ホスト、スカウト、特殊詐欺グループのメンバー、闇金業者などが賭け麻雀に興じている。
私の麻雀の腕はというと、役は「タンヤオ」しか知らないし、「ポン」と「チー」の違いもわからない。そんな状態で裏稼業の人間たちと麻雀を打つなど、ニッカポッカ姿でウォール街に乗り込むようなものなので、することといえばもっぱら店主やその友人とのおしゃべりである。空いている麻雀卓を勝手に使ってしまっているが、店主はソファで寝ているので問題ないだろう。
歌舞伎町でホストクラブを経営する田口もまた、Lに入り浸る男のひとりだ。まず大前提として、ホストクラブに通う女の子たちの9割以上が風俗嬢であり、彼女たちはホストクラブに通うために風俗で働いている。風俗で働き、大金を稼いだ結果としてホストクラブに通っているわけではなく、あくまでホストクラブありきである。つまり、ホストクラブがなくなれば、彼女たちは店へ出勤しない。それは、田口の店も例外ではない。
「僕の店も少なくとも9割、10割に近いほど客は風俗嬢です。その9割の客にキャバ嬢は入らないんですよ。僕は、キャバ嬢はホストの商売相手にはならないと思っています。風俗嬢とキャバ嬢はメンタルが違うんですよ」
風俗嬢という仕事は身体を売る前提で成り立っているが、キャバ嬢は枕営業があるとはいえ身体を売る前提ではない。基本的に風俗嬢よりもキャバ嬢のほうが自己肯定感は高く保たれ、ホストに貢ぐことによって承認欲求を満たすというような発想にはならないのだ。
ホストクラブは一流店になればなるほど、昼間の世界で成功した女性が訪れるようになると田口は話すが、それもごく一部だ。「風俗嬢ではない」客が来た時点で、嘘をついているか、親が金持ちまたは政治家ではないかとホストは思う。
自称社長の女性は疑ってかかる。ホストクラブで豪遊できるほどの金がある企業を経営しているのなら、そもそもホストクラブで暇を潰している余裕などない。横領でもしているんじゃないかと警戒するし、仮に横領しているとすればいつか「飛ぶ日」が来るため、風俗嬢でもない客が大金を使うことはホストにとっては恐怖なのだ。
「なので残りの1割の客に労力を注ぎ込むくらいなら、風俗嬢だけに的を絞ったほうが圧倒的に効率がいいんですよね。そういったこともあって、客も風俗嬢だけに淘汰されていくんだと思うんです」
厚底のブーツにマイメロのパーカーにMCMのリュック。この典型的なホス狂いファッションは、歌舞伎町を歩いていると、夜でも朝でも必ず目にする。そしてとなりには担当ホストと思わしき男がおり、アフター用の飲食店やラブホテルに入っていく。となりに担当ホストがいない場合は、声をかけてくる客引きやスカウトたちを、虫けらを見るような目で追い払いながら、担当ホストのいるホストクラブに猛進する。
月に数百万はザラ、一晩で一千万を担当ホストに貢ぐホス狂いもいる。ホス狂い=メンヘラと言っても過言ではないが、ホストクラブには笑えないメンヘラも来店することがある。「未成年は入れられないので初回の入店時には身分証明書を提示させてるんですけど、障害者手帳を持っている子もたまに来るんですよ。風俗でも働いているとは思うけど、国からも障害年金をもらっていると言っていますから」 向精神薬をテーブルで飲み出すことなど日常茶飯事だ。デパスやヒルナミンを袋にパンパンに詰め、まるでラムネみたいに食べる風俗嬢を「もっと食えー」「それ美味しいの?」と煽る田口ですら、障害者手帳にはちょっとばかり引いてしまった。 売掛の支払日にも風俗嬢たちはファンキーな本性をあらわにする。つい数日前まで「大丈夫、払えるよ」と言っていた女の子が、当日になると「財布を落としたので払えない」「今トラックに跳ねられて両足を骨折した」などと平気で言う。 私も風俗嬢への取材当日2時間前に、「実は昨日から入院していました」とドタキャンされたことがある。バレないと思っているのかおちょくっているのかしらないが、信じられないような嘘を平気でつくというのは風俗嬢を象徴する生態のひとつである。パフェ屋で見たホス狂いたち 2019年の夏頃だったろうか。歌舞伎町のホスト街にあるビルの3階に深夜営業のパフェ屋がオープンした。私はヤクザマンションのベランダからラブホテル街を通るカップルを眺めては、「あれは不倫か」「これはデリヘルか」と考えながら暇を潰していた。目の前の駐車場では大学生らしき女がまた嘔吐している。 どうにも眠れる気分ではないので、私はその深夜営業のパフェ屋に行ってみることにした。深夜2時過ぎ、店内に入ると、カウンターには疲れ切った顔をした女たちが座っていた。左手にスマホを持ちながら、右手でパフェをつまらなそうにかき回している。2人組が3つで女は計6人。彼女たちの会話を聞きながら私もパフェをかき回していたのだが、内容からするに男がひとりで来るような店ではまったくなく、冷や汗が出てきた。「もう1時間も経つのにぜんぜん連絡来ないよ~」「私も……。ナツミはすぐに呼ばれたのにね」 彼女たちは下を向きながらスマホを何度も何度も確認する。ネイルチップで画面を叩く音がどうも気に障る。「あ、連絡来た!」 ひとりの女の顔がパッと明るくなり、一緒に来ていた友人(?)の存在などなかったかのように駆け足で店を出て行った。残された女はさらに顔が暗くなる。そしてまたひとり、ポツリポツリと減っていき、客は2人だけになった。2人は違うグループのようで、会話は一切なく、ネイルチップでスマホを叩く音だけが店内に響いている。 ホストクラブには、店の営業が終了した後に担当ホストとの時間を外で過ごせる「アフター」というシステムがあるが、彼女たちはアフター待ちのホス狂いである。ただ、人気ホストともなると1日に指名が複数入り、退勤後のアフターも数本こなさなければいけない。 営業終了後はミーティングがあるホストクラブも多い。深夜一時以降は法律上、客を店内にいさせることはできないのでアフター待ちの女たちは一旦外に出され、担当ホストからの連絡を待つことになる。 外で待っている女にとって担当ホストは一途な恋の相手であるが、ホストにとっては数ある客のひとりだ。ミーティング後、疲れ切って店内で寝ていたり1本目のアフターでラブホテルに入ってしまい2本目のアフターをすっぽかしたりするのは普通のことだ。 担当ホストに後回しにされてしまった女は朝までパフェをかき回し、始発で帰るかもしくは朝から風俗店に出勤する。最後までパフェ屋に残っていた女の表情を見ると、私まで切ない気持ちになってきた。 しかし、ホストもホストで大変である。キャバクラと違ってホストクラブのアフター代は基本的にホスト側が支払うことになっているからだ。「バカはアフターで赤字作って金が回らなくなる」と田口が言うように、ホストにとってのアフターは好きな人とのデートでもなんでもなく、シビアなものである。「売れているホストはまずアフターをすっぽかすことはないですし、一つ一つ計算してますよ。今日指名してくれた客の売り上げから自分の手取りを計算して、アフターはいくらまでに抑えればこれだけの利益が出るというように」 そうなると一撃の高級シャンパンなどを入れない限りは、女の子も「姫」のような扱いを受けることは難しくなってくる。いつまでも「つるとんたん」からの「バリアン」といったしみったれたアフターで満足しているようではホス狂いの名に恥じるのだ。「7万円で仕入れた酒は100万円で売ります」 たとえば、田口の店でもっとも高い酒は、高級ブランデーとして知られる「ヘネシー・リシャール」。 ただそれにも売り方がある。「うちの店では大体、原価7%。7万円で仕入れた酒100万円で売ります。リシャールは40万円のときもあるので、1本500万以上ですね。リシャールを頼んだとしても開けさせないし持ち帰らせない。持ち帰りたいなら自分で酒屋行って買えって話ですから」 当然、未開封の「ヘネシー・リシャール」は、別の日に再び500万円で売られることになる。仕入れ値が浮いたぶん、ホストに渡すバックも増やすことができる。「ホストクラブは人件費が高いですから。客100万円使ったらホストには45万円渡しています。そこから酒の原価、広告費や経費などもろもろ差し引かれますから」 田口がプレイヤーだった15年ほど前までは、ホストのバック率はもっと低かったというが、大手グループ(groupdandy、AIR GROUP、冬月グループなど)の台頭により、プレイヤーファーストの給与体系になり、業界全体がその基準に従わなければならなくなった。大手グループよりも条件が悪ければ、規模の小さい店からはプレイヤーが離れていく一方だからだ。「昔は“辞めたければ辞めろ”ってぶん殴るのが普通でしたが、今は“頑張って続けてみようよ”ってプレイヤーに言う立場ですからね。僕の店では、『入店から3か月は叱るな』『暴力は禁止』というルールを定めていますよ」「客の9割は風俗嬢」ホストクラブに通う女性ほど「風俗落ち」してしまう“恐るべき理由” へ続く(國友 公司/Webオリジナル(外部転載))
月に数百万はザラ、一晩で一千万を担当ホストに貢ぐホス狂いもいる。ホス狂い=メンヘラと言っても過言ではないが、ホストクラブには笑えないメンヘラも来店することがある。
「未成年は入れられないので初回の入店時には身分証明書を提示させてるんですけど、障害者手帳を持っている子もたまに来るんですよ。風俗でも働いているとは思うけど、国からも障害年金をもらっていると言っていますから」
向精神薬をテーブルで飲み出すことなど日常茶飯事だ。デパスやヒルナミンを袋にパンパンに詰め、まるでラムネみたいに食べる風俗嬢を「もっと食えー」「それ美味しいの?」と煽る田口ですら、障害者手帳にはちょっとばかり引いてしまった。
売掛の支払日にも風俗嬢たちはファンキーな本性をあらわにする。つい数日前まで「大丈夫、払えるよ」と言っていた女の子が、当日になると「財布を落としたので払えない」「今トラックに跳ねられて両足を骨折した」などと平気で言う。 私も風俗嬢への取材当日2時間前に、「実は昨日から入院していました」とドタキャンされたことがある。バレないと思っているのかおちょくっているのかしらないが、信じられないような嘘を平気でつくというのは風俗嬢を象徴する生態のひとつである。パフェ屋で見たホス狂いたち 2019年の夏頃だったろうか。歌舞伎町のホスト街にあるビルの3階に深夜営業のパフェ屋がオープンした。私はヤクザマンションのベランダからラブホテル街を通るカップルを眺めては、「あれは不倫か」「これはデリヘルか」と考えながら暇を潰していた。目の前の駐車場では大学生らしき女がまた嘔吐している。 どうにも眠れる気分ではないので、私はその深夜営業のパフェ屋に行ってみることにした。深夜2時過ぎ、店内に入ると、カウンターには疲れ切った顔をした女たちが座っていた。左手にスマホを持ちながら、右手でパフェをつまらなそうにかき回している。2人組が3つで女は計6人。彼女たちの会話を聞きながら私もパフェをかき回していたのだが、内容からするに男がひとりで来るような店ではまったくなく、冷や汗が出てきた。「もう1時間も経つのにぜんぜん連絡来ないよ~」「私も……。ナツミはすぐに呼ばれたのにね」 彼女たちは下を向きながらスマホを何度も何度も確認する。ネイルチップで画面を叩く音がどうも気に障る。「あ、連絡来た!」 ひとりの女の顔がパッと明るくなり、一緒に来ていた友人(?)の存在などなかったかのように駆け足で店を出て行った。残された女はさらに顔が暗くなる。そしてまたひとり、ポツリポツリと減っていき、客は2人だけになった。2人は違うグループのようで、会話は一切なく、ネイルチップでスマホを叩く音だけが店内に響いている。 ホストクラブには、店の営業が終了した後に担当ホストとの時間を外で過ごせる「アフター」というシステムがあるが、彼女たちはアフター待ちのホス狂いである。ただ、人気ホストともなると1日に指名が複数入り、退勤後のアフターも数本こなさなければいけない。 営業終了後はミーティングがあるホストクラブも多い。深夜一時以降は法律上、客を店内にいさせることはできないのでアフター待ちの女たちは一旦外に出され、担当ホストからの連絡を待つことになる。 外で待っている女にとって担当ホストは一途な恋の相手であるが、ホストにとっては数ある客のひとりだ。ミーティング後、疲れ切って店内で寝ていたり1本目のアフターでラブホテルに入ってしまい2本目のアフターをすっぽかしたりするのは普通のことだ。 担当ホストに後回しにされてしまった女は朝までパフェをかき回し、始発で帰るかもしくは朝から風俗店に出勤する。最後までパフェ屋に残っていた女の表情を見ると、私まで切ない気持ちになってきた。 しかし、ホストもホストで大変である。キャバクラと違ってホストクラブのアフター代は基本的にホスト側が支払うことになっているからだ。「バカはアフターで赤字作って金が回らなくなる」と田口が言うように、ホストにとってのアフターは好きな人とのデートでもなんでもなく、シビアなものである。「売れているホストはまずアフターをすっぽかすことはないですし、一つ一つ計算してますよ。今日指名してくれた客の売り上げから自分の手取りを計算して、アフターはいくらまでに抑えればこれだけの利益が出るというように」 そうなると一撃の高級シャンパンなどを入れない限りは、女の子も「姫」のような扱いを受けることは難しくなってくる。いつまでも「つるとんたん」からの「バリアン」といったしみったれたアフターで満足しているようではホス狂いの名に恥じるのだ。「7万円で仕入れた酒は100万円で売ります」 たとえば、田口の店でもっとも高い酒は、高級ブランデーとして知られる「ヘネシー・リシャール」。 ただそれにも売り方がある。「うちの店では大体、原価7%。7万円で仕入れた酒100万円で売ります。リシャールは40万円のときもあるので、1本500万以上ですね。リシャールを頼んだとしても開けさせないし持ち帰らせない。持ち帰りたいなら自分で酒屋行って買えって話ですから」 当然、未開封の「ヘネシー・リシャール」は、別の日に再び500万円で売られることになる。仕入れ値が浮いたぶん、ホストに渡すバックも増やすことができる。「ホストクラブは人件費が高いですから。客100万円使ったらホストには45万円渡しています。そこから酒の原価、広告費や経費などもろもろ差し引かれますから」 田口がプレイヤーだった15年ほど前までは、ホストのバック率はもっと低かったというが、大手グループ(groupdandy、AIR GROUP、冬月グループなど)の台頭により、プレイヤーファーストの給与体系になり、業界全体がその基準に従わなければならなくなった。大手グループよりも条件が悪ければ、規模の小さい店からはプレイヤーが離れていく一方だからだ。「昔は“辞めたければ辞めろ”ってぶん殴るのが普通でしたが、今は“頑張って続けてみようよ”ってプレイヤーに言う立場ですからね。僕の店では、『入店から3か月は叱るな』『暴力は禁止』というルールを定めていますよ」「客の9割は風俗嬢」ホストクラブに通う女性ほど「風俗落ち」してしまう“恐るべき理由” へ続く(國友 公司/Webオリジナル(外部転載))
売掛の支払日にも風俗嬢たちはファンキーな本性をあらわにする。つい数日前まで「大丈夫、払えるよ」と言っていた女の子が、当日になると「財布を落としたので払えない」「今トラックに跳ねられて両足を骨折した」などと平気で言う。
私も風俗嬢への取材当日2時間前に、「実は昨日から入院していました」とドタキャンされたことがある。バレないと思っているのかおちょくっているのかしらないが、信じられないような嘘を平気でつくというのは風俗嬢を象徴する生態のひとつである。
2019年の夏頃だったろうか。歌舞伎町のホスト街にあるビルの3階に深夜営業のパフェ屋がオープンした。私はヤクザマンションのベランダからラブホテル街を通るカップルを眺めては、「あれは不倫か」「これはデリヘルか」と考えながら暇を潰していた。目の前の駐車場では大学生らしき女がまた嘔吐している。
どうにも眠れる気分ではないので、私はその深夜営業のパフェ屋に行ってみることにした。深夜2時過ぎ、店内に入ると、カウンターには疲れ切った顔をした女たちが座っていた。左手にスマホを持ちながら、右手でパフェをつまらなそうにかき回している。2人組が3つで女は計6人。彼女たちの会話を聞きながら私もパフェをかき回していたのだが、内容からするに男がひとりで来るような店ではまったくなく、冷や汗が出てきた。
「もう1時間も経つのにぜんぜん連絡来ないよ~」「私も……。ナツミはすぐに呼ばれたのにね」
彼女たちは下を向きながらスマホを何度も何度も確認する。ネイルチップで画面を叩く音がどうも気に障る。
「あ、連絡来た!」
ひとりの女の顔がパッと明るくなり、一緒に来ていた友人(?)の存在などなかったかのように駆け足で店を出て行った。残された女はさらに顔が暗くなる。そしてまたひとり、ポツリポツリと減っていき、客は2人だけになった。2人は違うグループのようで、会話は一切なく、ネイルチップでスマホを叩く音だけが店内に響いている。
ホストクラブには、店の営業が終了した後に担当ホストとの時間を外で過ごせる「アフター」というシステムがあるが、彼女たちはアフター待ちのホス狂いである。ただ、人気ホストともなると1日に指名が複数入り、退勤後のアフターも数本こなさなければいけない。
営業終了後はミーティングがあるホストクラブも多い。深夜一時以降は法律上、客を店内にいさせることはできないのでアフター待ちの女たちは一旦外に出され、担当ホストからの連絡を待つことになる。
外で待っている女にとって担当ホストは一途な恋の相手であるが、ホストにとっては数ある客のひとりだ。ミーティング後、疲れ切って店内で寝ていたり1本目のアフターでラブホテルに入ってしまい2本目のアフターをすっぽかしたりするのは普通のことだ。
担当ホストに後回しにされてしまった女は朝までパフェをかき回し、始発で帰るかもしくは朝から風俗店に出勤する。最後までパフェ屋に残っていた女の表情を見ると、私まで切ない気持ちになってきた。
しかし、ホストもホストで大変である。キャバクラと違ってホストクラブのアフター代は基本的にホスト側が支払うことになっているからだ。「バカはアフターで赤字作って金が回らなくなる」と田口が言うように、ホストにとってのアフターは好きな人とのデートでもなんでもなく、シビアなものである。
「売れているホストはまずアフターをすっぽかすことはないですし、一つ一つ計算してますよ。今日指名してくれた客の売り上げから自分の手取りを計算して、アフターはいくらまでに抑えればこれだけの利益が出るというように」
そうなると一撃の高級シャンパンなどを入れない限りは、女の子も「姫」のような扱いを受けることは難しくなってくる。いつまでも「つるとんたん」からの「バリアン」といったしみったれたアフターで満足しているようではホス狂いの名に恥じるのだ。
たとえば、田口の店でもっとも高い酒は、高級ブランデーとして知られる「ヘネシー・リシャール」。
ただそれにも売り方がある。
「うちの店では大体、原価7%。7万円で仕入れた酒100万円で売ります。リシャールは40万円のときもあるので、1本500万以上ですね。リシャールを頼んだとしても開けさせないし持ち帰らせない。持ち帰りたいなら自分で酒屋行って買えって話ですから」
当然、未開封の「ヘネシー・リシャール」は、別の日に再び500万円で売られることになる。仕入れ値が浮いたぶん、ホストに渡すバックも増やすことができる。
「ホストクラブは人件費が高いですから。客100万円使ったらホストには45万円渡しています。そこから酒の原価、広告費や経費などもろもろ差し引かれますから」
田口がプレイヤーだった15年ほど前までは、ホストのバック率はもっと低かったというが、大手グループ(groupdandy、AIR GROUP、冬月グループなど)の台頭により、プレイヤーファーストの給与体系になり、業界全体がその基準に従わなければならなくなった。大手グループよりも条件が悪ければ、規模の小さい店からはプレイヤーが離れていく一方だからだ。
「昔は“辞めたければ辞めろ”ってぶん殴るのが普通でしたが、今は“頑張って続けてみようよ”ってプレイヤーに言う立場ですからね。僕の店では、『入店から3か月は叱るな』『暴力は禁止』というルールを定めていますよ」
「客の9割は風俗嬢」ホストクラブに通う女性ほど「風俗落ち」してしまう“恐るべき理由” へ続く
(國友 公司/Webオリジナル(外部転載))