少量の摂取でも死に至る劇物のタリウム。
一般には入手困難なため、急性中毒になってもタリウムが原因とは疑われにくく、診断と治療の難しさが指摘されている。
中毒症状に詳しい救急科専門医の薬師寺泰匡(ひろまさ)医師によると、タリウム化合物のうち、特に毒性が強いとされる硫酸タリウムなどは「摂取後すぐに体内への吸収が始まり、数時間で症状が出始める」。嘔吐(おうと)や下痢といった消化器系の初期症状のほか、脱力感やめまいなどの神経症状もみられる。成人の致死量は約1グラム。短時間で意識障害や呼吸困難といった重篤な中毒症状に陥り死亡する場合がある。
その危険性からタリウム化合物は毒劇物取締法で劇物指定され、厳格な管理が義務付けられている。「流通は研究者や企業が研究、工業用に業者から直接購入する場合がほとんど」(薬師寺医師)といい、殺鼠(さっそ)剤として使われなくなってからは、一般に入手するのは難しいとされる。
そのため「タリウム中毒で搬送される人もほとんどおらず、医療従事者でも症状を詳しく知らない人もいるのでは」と薬師寺医師。タリウム中毒の多岐にわたる症状も相まって「中毒を疑う優先度は低い」と話す。たとえ診断できたとしても、適切に治療できる環境の整った医療機関は限られ、症状が進行して重症化しやすいという。