近場で好きな時に、“コンビニ”感覚で通えるフィットネスジムが人気。会社員をおもなターゲットとし、“隙間時間に筋トレや運動に励みたい”ニーズをがっちり捉えている。
【画像】コスパもタイパもばっちり!主要コンビニジムの「月額利用料金表」24時間営業のコンビニジムも 店によっては使い放題プランの月額料金が3千円を切り、入会金も5千円ほど。スタジオやプールのある総合型のジムに比べるとかなりリーズナブルだ。「24時間」営業を売りにした店舗も増えており、「運動用シューズは不要、土足のままで着替えなくてよい」「アプリで運動量を記録できる」など魅力的な宣伝文句が並ぶ。都心部で人気なのはスタッフが常駐しない「無人店舗型」のジムで、スタッフやトレーナーとのコミュニケーションの煩わしさがない気軽さが受け、店舗数は拡大中だ。

専用QRコードで入店でき、アプリのダウンロードでダイエットのアドバイスを受けることなども可。スマートなシステムではあるが、こんな声も。「スタッフが不在の間に、ゴミがあふれて放置されっぱなし」「利用後はセルフで器具を消毒するルールなのに、常備の除菌シートはいつもカラ」「クレーム対応が遅く、問い合わせにも返事がない」……。一部の利用者の辛辣な投稿がSNSにアップされている。「料金が安い理由は、客の“セルフサービス”で成立しているから。スタッフがいなければマシンでケガをしても“自己責任”で片づけられることが多くなり、衛生管理も甘くなる。客層の水準が下がるのも否めません」 日本フィットネス医学協会で理事長を務める坂上翔一郎さんはそう指摘する。スポーツジムのコンサルティングやインストラクター養成も行っている、業界の事情通だ。「トレーナーがいないと、マシンの操作がわからないときにきちんと聞けなかったり、筋肉の使い方や正しいフォームを間違えているときにも指摘されないといった利用者側のデメリットも。ある程度、スポーツジムに通い慣れている人向けにはおすすめです」(坂上さん、以下同) 女性に人気のセルフエステができる某店舗では、利用規約にエステ機器によるヤケドやケガについては自己責任という旨の記載がある。何かあったときのフォロー体制は大丈夫なのか。「万が一、ケガをする危険性があっても『料金が安いのだから仕方ない』というのが、サービスを提供する側の本音だとすると問題ですね。今、利用者が急に増えているコンビニジムですが、そのうち大きな事故につながらないかが心配です」盗難やセクハラつきまといが心配 防犯カメラや利用客に個々に渡される専用のセキュリティーカード、緊急呼び出しボタンなどの安全性をうたってはいるが……。以前コンビニジムを利用したAさんは、自身の苦い体験をこう話す。「ジムでネックレスを外し、そのまま置き忘れてしまいました。気づいて取りに戻りましたが、どこにも見あたらず。運営会社に問い合わせましたが、自己責任といわんばかりにまともに取り合ってもらえなかった」 会費が安いジムでは、荷物を預ける棚に鍵がないオープンラックだったりする。学校の靴箱のようなスペースに荷物を置くというのはいささか不安だ。「仕事帰りにふらっと立ち寄れるというコンセプトですが、貴重品どころか、パソコンの仕事道具などを持ち歩く利用者も多いはず。実際にジムに通う人に話を聞いてみても、トレーニング中にも荷物が見えない『死角』が心配という声は多い。盗難のリスクは看過できません」(坂上さん、以下同) シャワー室がついていないことも多いうえ、更衣室が「男女兼用」のところもある。「残念なことですが、利用者同士のトラブルで女性へのセクハラ、つきまといなどの性的被害は、フィットネス業界では多いんです。どこのジムでも問題になるので、運営会社が知らないとは思えない。スタッフが不在のジムの場合、セキュリティー会社と連携しているから安心、とPRにうたっているところもありますが、客のモラルに頼っている部分も多い」 スペースが広くないジムで、夜間のトレーニング中に、どんな人と一緒になるかもわからない物騒さ。女性がひとりで通うには、勇気と慣れが必要か。 業界をリードするライザップグループの「チョコザップ」は都市圏を中心に出店を急速に拡大、全国に2000店舗にまで伸ばすという。コンビニジムが順調に増え続けているというのであれば、「女性専用店舗」が登場してもいいものだが、現在は数えるほどというのが現状だ。入会したものの続けられない理由「運動したいなと常々思っていても、本格的なジム通いは挫折してしまう」、そんな層にフィットしていることは間違いない。テレワークなど働き方も多様化し、思いついたときにエクササイズできるのはうれしいことだ。「ジム運営に必要なのは手軽な価格だけではなく、安心感が持て、『運動を続けてみようかな』というモチベーションをキープさせること。ただ料金を下げて、入会してもらえればいいという話ではない」 ジムの会員を増やすうえでは、「価格」とともに「客の継続率」も重要。最初の取りつきやすさだけでは結局、会員が離れてしまいがちになるので、どこの店舗も「継続」「定着」にはいちばん苦心している。「セルフでトレーニングしていても、物足りなさや面倒さでやめちゃう、という声もある。理想的なのは、定期の会員料金を格安に設定したうえで、必要なときにスタッフの指導や専門器具の貸し出しが受けられるような“追加オプションのシステム”を設けること。 スタッフ常駐にもつながるので、防犯対策はもちろん、会員にとってもジム側にとってもメリットが生まれます。そして、何よりも女性専用の時間帯や、店舗の環境を充実させること。しかし、話題性と集客に走るコンビニジム側は、現状ではそんなところまでは考えられていない。客の自己責任という名の“野放し状態”になっている面も否めません」 健康や身体づくりだけでなく、セキュリティー面にもしっかり配慮し、安心して通える環境を提供してもらいたい。お話を伺ったのは日本フィットネス医学協会理事長・坂上翔一郎さん早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了。日本フィットネス医学協会理事長、Total Health Academy代表。Instagramアカウント(@kinniku_sensei)で身体づくりや栄養にまつわる情報を日々発信中。<取材・文/オフィス三銃士>
店によっては使い放題プランの月額料金が3千円を切り、入会金も5千円ほど。スタジオやプールのある総合型のジムに比べるとかなりリーズナブルだ。
「24時間」営業を売りにした店舗も増えており、「運動用シューズは不要、土足のままで着替えなくてよい」「アプリで運動量を記録できる」など魅力的な宣伝文句が並ぶ。都心部で人気なのはスタッフが常駐しない「無人店舗型」のジムで、スタッフやトレーナーとのコミュニケーションの煩わしさがない気軽さが受け、店舗数は拡大中だ。
専用QRコードで入店でき、アプリのダウンロードでダイエットのアドバイスを受けることなども可。スマートなシステムではあるが、こんな声も。
「スタッフが不在の間に、ゴミがあふれて放置されっぱなし」
「利用後はセルフで器具を消毒するルールなのに、常備の除菌シートはいつもカラ」
「クレーム対応が遅く、問い合わせにも返事がない」……。一部の利用者の辛辣な投稿がSNSにアップされている。
「料金が安い理由は、客の“セルフサービス”で成立しているから。スタッフがいなければマシンでケガをしても“自己責任”で片づけられることが多くなり、衛生管理も甘くなる。客層の水準が下がるのも否めません」
日本フィットネス医学協会で理事長を務める坂上翔一郎さんはそう指摘する。スポーツジムのコンサルティングやインストラクター養成も行っている、業界の事情通だ。
「トレーナーがいないと、マシンの操作がわからないときにきちんと聞けなかったり、筋肉の使い方や正しいフォームを間違えているときにも指摘されないといった利用者側のデメリットも。ある程度、スポーツジムに通い慣れている人向けにはおすすめです」(坂上さん、以下同)
女性に人気のセルフエステができる某店舗では、利用規約にエステ機器によるヤケドやケガについては自己責任という旨の記載がある。何かあったときのフォロー体制は大丈夫なのか。
「万が一、ケガをする危険性があっても『料金が安いのだから仕方ない』というのが、サービスを提供する側の本音だとすると問題ですね。今、利用者が急に増えているコンビニジムですが、そのうち大きな事故につながらないかが心配です」
防犯カメラや利用客に個々に渡される専用のセキュリティーカード、緊急呼び出しボタンなどの安全性をうたってはいるが……。以前コンビニジムを利用したAさんは、自身の苦い体験をこう話す。
「ジムでネックレスを外し、そのまま置き忘れてしまいました。気づいて取りに戻りましたが、どこにも見あたらず。運営会社に問い合わせましたが、自己責任といわんばかりにまともに取り合ってもらえなかった」
会費が安いジムでは、荷物を預ける棚に鍵がないオープンラックだったりする。学校の靴箱のようなスペースに荷物を置くというのはいささか不安だ。
「仕事帰りにふらっと立ち寄れるというコンセプトですが、貴重品どころか、パソコンの仕事道具などを持ち歩く利用者も多いはず。実際にジムに通う人に話を聞いてみても、トレーニング中にも荷物が見えない『死角』が心配という声は多い。盗難のリスクは看過できません」(坂上さん、以下同)
シャワー室がついていないことも多いうえ、更衣室が「男女兼用」のところもある。
「残念なことですが、利用者同士のトラブルで女性へのセクハラ、つきまといなどの性的被害は、フィットネス業界では多いんです。どこのジムでも問題になるので、運営会社が知らないとは思えない。スタッフが不在のジムの場合、セキュリティー会社と連携しているから安心、とPRにうたっているところもありますが、客のモラルに頼っている部分も多い」
スペースが広くないジムで、夜間のトレーニング中に、どんな人と一緒になるかもわからない物騒さ。女性がひとりで通うには、勇気と慣れが必要か。
業界をリードするライザップグループの「チョコザップ」は都市圏を中心に出店を急速に拡大、全国に2000店舗にまで伸ばすという。コンビニジムが順調に増え続けているというのであれば、「女性専用店舗」が登場してもいいものだが、現在は数えるほどというのが現状だ。
「運動したいなと常々思っていても、本格的なジム通いは挫折してしまう」、そんな層にフィットしていることは間違いない。テレワークなど働き方も多様化し、思いついたときにエクササイズできるのはうれしいことだ。
「ジム運営に必要なのは手軽な価格だけではなく、安心感が持て、『運動を続けてみようかな』というモチベーションをキープさせること。ただ料金を下げて、入会してもらえればいいという話ではない」
ジムの会員を増やすうえでは、「価格」とともに「客の継続率」も重要。最初の取りつきやすさだけでは結局、会員が離れてしまいがちになるので、どこの店舗も「継続」「定着」にはいちばん苦心している。
「セルフでトレーニングしていても、物足りなさや面倒さでやめちゃう、という声もある。理想的なのは、定期の会員料金を格安に設定したうえで、必要なときにスタッフの指導や専門器具の貸し出しが受けられるような“追加オプションのシステム”を設けること。
スタッフ常駐にもつながるので、防犯対策はもちろん、会員にとってもジム側にとってもメリットが生まれます。そして、何よりも女性専用の時間帯や、店舗の環境を充実させること。しかし、話題性と集客に走るコンビニジム側は、現状ではそんなところまでは考えられていない。客の自己責任という名の“野放し状態”になっている面も否めません」
健康や身体づくりだけでなく、セキュリティー面にもしっかり配慮し、安心して通える環境を提供してもらいたい。
早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了。日本フィットネス医学協会理事長、Total Health Academy代表。Instagramアカウント(@kinniku_sensei)で身体づくりや栄養にまつわる情報を日々発信中。
<取材・文/オフィス三銃士>