滋賀県日野(ひの)町で昭和59年に酒店経営の女性=当時(69)=を殺害し金庫を奪ったとする強盗殺人罪で無期懲役が確定し、平成23年に75歳で病死した阪原弘(ひろむ)元受刑者の再審(裁判のやり直し)開始を認めた大阪高裁決定について、大阪高検は6日、最高裁に不服を申し立てる特別抗告をした。
戦後に発生し死刑や無期懲役が確定した事件で、「死後再審」が高裁段階で認められたのは初めてだった。特別抗告は憲法違反や判例違反がある場合に限って行うことができる。
2月27日の大阪高裁決定は、元受刑者の犯行を裏付ける直接証拠がない中で、確定判決(平成7年の大津地裁)が有罪の根拠とした遺体発見現場の「引き当て捜査」の信用性を疑問視した。捜査報告書では、元受刑者が一連の遺棄行為を遺体に模した人形を持ったままスムーズに再現できたことになっていたが、再審請求審で検察が初めて開示した捜査過程を撮影したネガフィルムには、それと食い違う内容が記録されていたからだ。
さらに事件当日のアリバイも虚偽とは言い切れないと指摘し、「確定判決の事実認定には合理的な疑いが生じた」と結論付けた。
事件を巡っては、店の常連客だった元受刑者が事件の約3年後に犯行を認め、昭和63年に逮捕。公判では一転して「自白を強要された」と無罪を主張したが1、2審ともに無期懲役の判決とされ、平成12年に最高裁で確定し服役した。病死後の平成24年に遺族が第2次再審請求を申し立て、30年に大津地裁が再審開始を決定。今年2月に大阪高裁が決定を支持した。
地裁・高裁の再審開始決定を最高裁が取り消し、再審請求を棄却したのは過去に1件のみ。