モラハラ夫の共通点とは――。堀井亜生弁護士の新刊「モラハラ夫と食洗機」(小学館)が話題を呼んでいる。そこに描かれている15の事例はどれも深刻かつ苛烈なモラルハラスメントに見えるのだが、堀井氏は「現実はもっと壮絶で、かなり表現を抑えました」。モラハラ夫にならないためのポイントを教えてもらった。
厚労省が運営するポータルサイト「こころの耳」ではモラハラを「言葉や態度、身ぶりや文書などによって、働く人間の人格や尊厳を傷つけたり、肉体的、精神的に傷を負わせて、その人間が職場を辞めざるを得ない状況に追い込んだり、職場の雰囲気を悪くさせること」と定義しているが、家庭内にも同様の問題が発生する。

「私が弁護士になった17年前、離婚の要因といえば『不倫』『借金』『暴力』が主流でした。ところが近年は『生活費を渡さない』『精神的に虐待する』といった理由で離婚調停を申し立てるケースが増えています。往々にして夫側は『妻にも問題がある』と抵抗するのですが、激しい言動や執拗な脅迫を証拠として提出すると、夫婦関係の破綻が認定され離婚が認められるのです」(堀井弁護士) 本書には食器洗浄機を敵と見なす“家事監督夫”や、エアコンの使用すら許さない“エセSDGs男”、超非効率な家計簿記入を命じる“本末転倒巨大エクセル夫”などトンデモな事例が詳細に紹介されているが、モラハラ夫にはいくつかの共通点があるという。「言動だけでなく職業や経歴、外見すら似ているんです。まず職業でいえば、営業職の人は極めて少ないです。営業をしていればいや応なく自分と異なる価値観の人とやりとりをしなければならないじゃないですか? モラハラ夫は理系出身で外部との交流が少ない大手メーカーに多いのです。学歴は悪くないけど『トップ校には入れなかった…』というコンプレックスも抱えがちです」 プライベートでは、友達が少ないことも共通点だ。「友達がいないから飲み会にも呼ばれませんし、飲み会なんてコスパが悪いと考えるタイプです。当然お酒やギャンブルも浪費だと思っているからやりません。決して収入が低いわけではないのに、心がケチなんです。だからペットも飼わないし、女性と遊ぶようなこともない。インターネットのコメント欄で“正論”を振りかざして、芸能人の浮気を叩くような気質も見られます」 お酒を飲み過ぎない、ギャンブルもしない、浮気もしないのであれば、はたから見れば品行方正のいい夫に見えるだろう。だが、それこそが“落とし穴”になっている。「結婚目的の女性からすると、高スペック男性に映ってしまうんです。『友達がいない』からいつでも会ってくれるし、『趣味がない』から浪費しない。『女っ気がない』から浮気しないとすべてをプラスに変換してしまうのです。実際に恋愛経験の少ない女性が、適齢期になって焦って相手を探して結婚した結果、モラハラ夫だったというケースが非常に多いです」 モラハラ夫かどうかの分岐点は、自分自身が動くかどうかだという。「自分から家事をやることはありません。とにかく威張りたいから謎のルールを設定して妻を縛る。男尊女卑的なところも残っていて、20~30代でも『おかずの品数が少ない』と怒り出す人がいるんです。じゃあ、おかずを増やせば解決するかというと、そうでもない。次の“至らぬ点”を見つけて妻を責め立てるのです。妻や子供、店員さんといった自分よりも立場が弱い人にだけ強く当たるタイプです」 もはや救いようのないレベルだが、いったいどうしてそんな男になってしまったのか。救いの手はないのか?「浮気、ギャンブル、たばこなどへの風当たりが強くなっていった結果、家にまっすぐ帰るのがサラリーマンの理想像のようになってしまったことは要因のひとつでしょう。本人のコンプレックスだけでなく、育った家庭環境も含めてモラハラは根深い社会問題なんだと思います。そうならないためにまずは趣味を見つけ、自分と向き合う時間を大切にしてはどうでしょうか」とアドバイスした。☆ほりい・あおい 弁護士。北海道札幌市出身、中央大学法学部卒業。離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に「ブラック彼氏」などがある。
厚労省が運営するポータルサイト「こころの耳」ではモラハラを「言葉や態度、身ぶりや文書などによって、働く人間の人格や尊厳を傷つけたり、肉体的、精神的に傷を負わせて、その人間が職場を辞めざるを得ない状況に追い込んだり、職場の雰囲気を悪くさせること」と定義しているが、家庭内にも同様の問題が発生する。
「私が弁護士になった17年前、離婚の要因といえば『不倫』『借金』『暴力』が主流でした。ところが近年は『生活費を渡さない』『精神的に虐待する』といった理由で離婚調停を申し立てるケースが増えています。往々にして夫側は『妻にも問題がある』と抵抗するのですが、激しい言動や執拗な脅迫を証拠として提出すると、夫婦関係の破綻が認定され離婚が認められるのです」(堀井弁護士)
本書には食器洗浄機を敵と見なす“家事監督夫”や、エアコンの使用すら許さない“エセSDGs男”、超非効率な家計簿記入を命じる“本末転倒巨大エクセル夫”などトンデモな事例が詳細に紹介されているが、モラハラ夫にはいくつかの共通点があるという。
「言動だけでなく職業や経歴、外見すら似ているんです。まず職業でいえば、営業職の人は極めて少ないです。営業をしていればいや応なく自分と異なる価値観の人とやりとりをしなければならないじゃないですか? モラハラ夫は理系出身で外部との交流が少ない大手メーカーに多いのです。学歴は悪くないけど『トップ校には入れなかった…』というコンプレックスも抱えがちです」
プライベートでは、友達が少ないことも共通点だ。
「友達がいないから飲み会にも呼ばれませんし、飲み会なんてコスパが悪いと考えるタイプです。当然お酒やギャンブルも浪費だと思っているからやりません。決して収入が低いわけではないのに、心がケチなんです。だからペットも飼わないし、女性と遊ぶようなこともない。インターネットのコメント欄で“正論”を振りかざして、芸能人の浮気を叩くような気質も見られます」
お酒を飲み過ぎない、ギャンブルもしない、浮気もしないのであれば、はたから見れば品行方正のいい夫に見えるだろう。だが、それこそが“落とし穴”になっている。
「結婚目的の女性からすると、高スペック男性に映ってしまうんです。『友達がいない』からいつでも会ってくれるし、『趣味がない』から浪費しない。『女っ気がない』から浮気しないとすべてをプラスに変換してしまうのです。実際に恋愛経験の少ない女性が、適齢期になって焦って相手を探して結婚した結果、モラハラ夫だったというケースが非常に多いです」
モラハラ夫かどうかの分岐点は、自分自身が動くかどうかだという。
「自分から家事をやることはありません。とにかく威張りたいから謎のルールを設定して妻を縛る。男尊女卑的なところも残っていて、20~30代でも『おかずの品数が少ない』と怒り出す人がいるんです。じゃあ、おかずを増やせば解決するかというと、そうでもない。次の“至らぬ点”を見つけて妻を責め立てるのです。妻や子供、店員さんといった自分よりも立場が弱い人にだけ強く当たるタイプです」
もはや救いようのないレベルだが、いったいどうしてそんな男になってしまったのか。救いの手はないのか?
「浮気、ギャンブル、たばこなどへの風当たりが強くなっていった結果、家にまっすぐ帰るのがサラリーマンの理想像のようになってしまったことは要因のひとつでしょう。本人のコンプレックスだけでなく、育った家庭環境も含めてモラハラは根深い社会問題なんだと思います。そうならないためにまずは趣味を見つけ、自分と向き合う時間を大切にしてはどうでしょうか」とアドバイスした。
☆ほりい・あおい 弁護士。北海道札幌市出身、中央大学法学部卒業。離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に「ブラック彼氏」などがある。