「しゃべるなって言ってんだろ。黙ってろ。メシ来るまで」
【画像】「しゃべるなって言ってんだろ」隠し撮りされた看護スタッフによる恫喝 東京都八王子市の精神科病院「滝山病院」。 入院する患者に対して看護師らが日常的に暴行や虐待を繰り返していた疑いが濃厚になっている。手足をベッドに縛りつけて身体拘束する。寝たきりの患者に対して看護師らが乱暴な言葉を吐く。殴る。耳をつまむ。患者が求めるケアをわざとしない。満足に体位交換などをせず、床ずれ(褥瘡)を深刻化させて患者に苦痛を与える。

NHKが1年がかりで取材した圧倒的スクープ 患者が退院したいと訴えても退院させてもらえない。退院する時は死亡した時、という死亡退院の割合が極端に多い。そんな実態が次第に報道されるようになってきた。「このままでは殺されてしまう」。患者たちはそう訴えていた。 思わず目をそむけたくなる……。耳をふさぎたくなる……。おぞましい実態が明らかになりつつある。「滝山病院」に関連して、メディア関係者で実態を察知したのはNHKのドキュメンタリー取材班だった。1年がかりで先行取材し、関係者へのインタビューなどを重ねて、他の社が追随できない圧倒的なスクープを放った。 NHKのドキュメンタリー班が取材していた「滝山病院」の問題は、どのように他社のニュースでも流れるようになったのか。「スクープ報道」と「後追い報道」を時系列でふり返りながら、テレビにおけるニュース取材とドキュメンタリー取材の構造を検証してみたい。NHKによる第一報(2月15日、NHK「ニュース7」より)(1)NHKの「ニュース7」が“独自”報道(第一報、2月15日) 滝山病院についてNHKが最初に放送したのは2月15日(水)の「ニュース7」だった。“独自”という赤い色の字幕をつけて「精神科病院で暴行疑い」と報道した。 “独自”とは、「このニュースは他の報道機関にはないわが社だけの“スクープ取材”だ」との意味である。一般の視聴者にはあまり浸透していない自己満足な表現ではあるが、NHKは報道機関としてのプライドをにじませて放送した。 ニュースは「警視庁 看護師を逮捕 実態を捜査」という見出しで、この日の家宅捜索の映像や東京都が実施した立ち入り検査の映像を見せながら、主に前日に行われた看護師の逮捕に関する情報を伝えた。50代の看護師の男が入院していた男性患者の頭をたたいた暴行容疑で逮捕され、この男を含む4人が他の患者の頭を殴るなどした暴行容疑で警視庁が捜査していることを報じている。「しゃべるなって言ってんだろ。黙ってろ。メシ来るまで」 暴行の疑いがある病室内の隠し撮り映像も放送された。看護スタッフがベッドに寝たきりの患者の横に立ち、患者の頭を繰り返し上から押さえつける様子が見える。〈(看護スタッフ)「おい」って何だよ「すみません」だよな〉 消灯後にベッドの上で声を出していた患者に対して、看護スタッフが枕で複数回上からたたく場面も登場する。食事を前に「もうすぐご飯」と声を出していた男性には看護スタッフが恫喝する。〈(看護スタッフ)「しゃべるなって言ってんだろ。黙ってろ。メシ来るまで」〉 元職員は「他の病院では暴言とか虐待と思えることが目の前で行われていた」と証言していた。そんな衝撃的なニュースだ。 この放送を皮切りにして、テレビや新聞などのニュースで「滝山病院」の報道が次々に出るようになる。 NHKの「スクープ報道」で出し抜かれた他の社の記者たちの立場を想像すると、この段階では警視庁や東京都に問い合わせるしかないだろう。警視庁による家宅捜索や東京都による立ち入り検査の様子は、NHKだけが撮影していて他社には映像素材がない。病室の映像や音声などの持ち主や入手経路もわからない。映像がないので、他のテレビ局は病院の外観を撮影するしかない状態だろう。 この時点ではNHKだけが独走状態で、他の社は追いつくことができない。(2)民放各社による「後追い報道」(第二報、2月16日) 民放各社が、早朝のニュース情報番組にて前夜に撮影した滝山病院の外観映像に警視庁や東京都に問い合わせた情報を流すかたちで短く報道した。 ・日本テレビ「Oha!4 NEWS LIVE」 ・テレビ朝日「グッド!モーニング」 ・TBS「THE TIME,」(3)NHKによる監督官庁の動きの続報(第三報) NHK「おはよう日本」(関東甲信越ローカル放送)で「滝山病院」に対して、“虐待などの研修が不十分”だとして東京都が口頭指導していたことがわかったと報じている。警視庁による家宅捜索や東京都による立ち入り検査の映像を使って放送した。 このニュースはNHKが東京都に対して情報公開請求を行って開示された資料によって、昨年6月に都が病院に対して行った実地指導で口頭指導を受けていた事実を突きとめて報道したもの。情報公開請求の開示は通常かなり時間を要する作業なので、NHKが前もって準備を進めていたことがわかる。 この時点でもNHKの独走状態は続いている。(4)加藤勝信厚生労働相が「虐待疑われる場合 行政指導」(第四報、2月17日) 加藤勝信厚生労働相が、閣議後に行われた記者会見にて「精神科病院における患者に対する虐待や人権侵害はあってはならないことで誠に遺憾」と述べ、虐待が疑われる場合は躊躇なく行政指導を行うよう改めて都道府県などに周知する考えを示した。また、精神科病院での虐待を発見した場合に都道府県などへの通報を義務づける改正精神保健福祉法の来年4月施行に向けた準備を着実に進める考えを示した。 定例になっている閣議後の記者会見でNHKの記者が(1)と(3)をもとに監督官庁の責任者として対応を質問したのだろう。NHKがニュース報道した。(5)弁護士が記者会見 他の社にも暴行の映像などを提供(第五報) ここでようやく民放各社、新聞各社が一斉に「後追い報道」で追いつける状態になった。 患者の支援を行っている相原啓介弁護士が記者会見して、3人の看護師と1人の准看護師に対する刑事告発が警視庁に受理されたことを明らかにした。「滝山病院」での暴力・虐待などの報道を告発したキーパーソンがNHK以外の社にも明らかになったのだ。 相原弁護士は記者会見で以下のように述べた。「数名の心無い職員による偶発的な虐待事件だとは思えない。どちらかというと病院全体に蔓延している疑いを私自身は強く持っている」 映像や画像などがNHK以外の報道機関にも提供され、この後は民放各局で「病室内での暴力」の実態が放送されていく。これ以降は民放や新聞などの「後追い報道」が加わって、「滝山病院」についての報道が一気に広がっていく。 地上波の日本テレビ系列では、午後の時間帯の「ミヤネ屋」(読売テレビ制作)が冒頭から会見映像を報道した。タイトルは「八王子の精神科病院で看護師が患者に暴言暴行か…告発弁護士が会見」。 弁護士が会見する映像以外は、すでにNHKが報道した病室内の隠し撮り映像や画像、音声などとほぼ同じ内容だ。 民放各社のニュース番組の扱いの字幕部分は以下になる。・日本テレビ「news every.」 〈スタッフによる“暴力”や“暴言” 精神科病院で“虐待”「加害者は十数人」〉・フジテレビ「イット!」 〈悪質 精神科病院で“相談の”暴行”職員逮捕 患者殴り「しゃべるな黙ってろ」〉・テレビ朝日「スーパーJチャンネル」 〈精神科病院“虐待”弁護士が会見 「暴行受け退院したい」相談が〉・テレビ朝日「報道ステーション」 〈精神科病院 違法に身体拘束か 精神科病院で“日常的に虐待”か〉 テレビ朝日は、これまでNHKで放送していなかった病室の隠し撮りの映像を流した。 病室で看護スタッフが「地震だ」と患者が寝ているベッドを激しく揺らし続ける場面、暴言を吐きながら患者の耳をつまんで頭を何度も押さえつける場面も放送した。 一種の虐待やいじめといえる患者への不適切な対応の音声も放送した。〈(患者) 痰とってくれ(看護スタッフ)「くれ」言っているやつはダメだっつってんだろ(患者) 痰とってください(看護スタッフ) 嫌です(笑)。お前のいうことは聞かねえよ(笑)〉(6)東京都が抜き打ちで2度目の立ち入り検査(第六報、2月24日) 病院を監督する東京都は医療法と精神保健福祉法に基づき、2月24日にも臨時の立ち入り検査を実施した。 テレビ朝日「報道ステーション」は、「精神科病院に“抜き打ち”検査」という見出しの字幕で、立ち入り検査が早朝に行われた“抜き打ち”だとスタジオで伝えた。その後に、滝山病院を運営する医療法人社団の朝倉孝二理事長を直撃する映像を放送した。〈(記者)「日常的に暴行があった」という指摘を理事長として把握していたか?(理事長)全く把握してないです(記者)被害者や被害者の家族に対してコメントはあるか?(理事長)弁護士と相談してから話をさせてください〉 質問から逃れるように小走りに歩きながらのインタビューだった。 一連の問題が報じられるなか、公式な場に姿を見せない滝山病院側。その責任者の名前と顔が初めてメディアに登場した映像だった。「後追い」のテレビ朝日が、NHKも持っていない素材を放送して意地を見せた報道だった。 いくらすごい「スクープ報道」でも、他の報道機関が追いかけて報道してくれないことには社会全体に広がっていかない。自分の社の独走状態がずっと続いてしまうと、社会的な広がりをもたない狭い範囲の報道になりかねない。どこかで他の社にも報道合戦に参入してもらう必要がある。 今回のNHKの「スクープ報道」では、記者会見のタイミングなどを弁護士とNHKがよく相談したのだろうと推測できる。行政のトップである厚労相にも反応をぶつけて政治的にも問題に関心が広がったタイミングでの記者会見の設定は見事というほかない。「スクープ報道」と「後追い報道」は、“抜いた抜かれた”という勝ち負けの勝負というばかりではない。ときに抜かれた側=「後追い報道」の側が努力することで、スクープした側も取材していない報道素材を加えることがある。結果的に報道全体の内容が補完されて質が上がっていくのである。そんな双方向の作用の片鱗が少し見えたようなテレビ朝日の報道だった。「ここね、人が人を殺すとこなんです…」相次ぐ患者の“死亡退院”をスクープしたのはNHKだった へ続く(水島 宏明)
東京都八王子市の精神科病院「滝山病院」。
入院する患者に対して看護師らが日常的に暴行や虐待を繰り返していた疑いが濃厚になっている。手足をベッドに縛りつけて身体拘束する。寝たきりの患者に対して看護師らが乱暴な言葉を吐く。殴る。耳をつまむ。患者が求めるケアをわざとしない。満足に体位交換などをせず、床ずれ(褥瘡)を深刻化させて患者に苦痛を与える。
患者が退院したいと訴えても退院させてもらえない。退院する時は死亡した時、という死亡退院の割合が極端に多い。そんな実態が次第に報道されるようになってきた。「このままでは殺されてしまう」。患者たちはそう訴えていた。
思わず目をそむけたくなる……。耳をふさぎたくなる……。おぞましい実態が明らかになりつつある。
「滝山病院」に関連して、メディア関係者で実態を察知したのはNHKのドキュメンタリー取材班だった。1年がかりで先行取材し、関係者へのインタビューなどを重ねて、他の社が追随できない圧倒的なスクープを放った。
NHKのドキュメンタリー班が取材していた「滝山病院」の問題は、どのように他社のニュースでも流れるようになったのか。「スクープ報道」と「後追い報道」を時系列でふり返りながら、テレビにおけるニュース取材とドキュメンタリー取材の構造を検証してみたい。
NHKによる第一報(2月15日、NHK「ニュース7」より)
滝山病院についてNHKが最初に放送したのは2月15日(水)の「ニュース7」だった。“独自”という赤い色の字幕をつけて「精神科病院で暴行疑い」と報道した。
“独自”とは、「このニュースは他の報道機関にはないわが社だけの“スクープ取材”だ」との意味である。一般の視聴者にはあまり浸透していない自己満足な表現ではあるが、NHKは報道機関としてのプライドをにじませて放送した。
ニュースは「警視庁 看護師を逮捕 実態を捜査」という見出しで、この日の家宅捜索の映像や東京都が実施した立ち入り検査の映像を見せながら、主に前日に行われた看護師の逮捕に関する情報を伝えた。50代の看護師の男が入院していた男性患者の頭をたたいた暴行容疑で逮捕され、この男を含む4人が他の患者の頭を殴るなどした暴行容疑で警視庁が捜査していることを報じている。
「しゃべるなって言ってんだろ。黙ってろ。メシ来るまで」 暴行の疑いがある病室内の隠し撮り映像も放送された。看護スタッフがベッドに寝たきりの患者の横に立ち、患者の頭を繰り返し上から押さえつける様子が見える。〈(看護スタッフ)「おい」って何だよ「すみません」だよな〉 消灯後にベッドの上で声を出していた患者に対して、看護スタッフが枕で複数回上からたたく場面も登場する。食事を前に「もうすぐご飯」と声を出していた男性には看護スタッフが恫喝する。〈(看護スタッフ)「しゃべるなって言ってんだろ。黙ってろ。メシ来るまで」〉 元職員は「他の病院では暴言とか虐待と思えることが目の前で行われていた」と証言していた。そんな衝撃的なニュースだ。 この放送を皮切りにして、テレビや新聞などのニュースで「滝山病院」の報道が次々に出るようになる。 NHKの「スクープ報道」で出し抜かれた他の社の記者たちの立場を想像すると、この段階では警視庁や東京都に問い合わせるしかないだろう。警視庁による家宅捜索や東京都による立ち入り検査の様子は、NHKだけが撮影していて他社には映像素材がない。病室の映像や音声などの持ち主や入手経路もわからない。映像がないので、他のテレビ局は病院の外観を撮影するしかない状態だろう。 この時点ではNHKだけが独走状態で、他の社は追いつくことができない。(2)民放各社による「後追い報道」(第二報、2月16日) 民放各社が、早朝のニュース情報番組にて前夜に撮影した滝山病院の外観映像に警視庁や東京都に問い合わせた情報を流すかたちで短く報道した。 ・日本テレビ「Oha!4 NEWS LIVE」 ・テレビ朝日「グッド!モーニング」 ・TBS「THE TIME,」(3)NHKによる監督官庁の動きの続報(第三報) NHK「おはよう日本」(関東甲信越ローカル放送)で「滝山病院」に対して、“虐待などの研修が不十分”だとして東京都が口頭指導していたことがわかったと報じている。警視庁による家宅捜索や東京都による立ち入り検査の映像を使って放送した。 このニュースはNHKが東京都に対して情報公開請求を行って開示された資料によって、昨年6月に都が病院に対して行った実地指導で口頭指導を受けていた事実を突きとめて報道したもの。情報公開請求の開示は通常かなり時間を要する作業なので、NHKが前もって準備を進めていたことがわかる。 この時点でもNHKの独走状態は続いている。(4)加藤勝信厚生労働相が「虐待疑われる場合 行政指導」(第四報、2月17日) 加藤勝信厚生労働相が、閣議後に行われた記者会見にて「精神科病院における患者に対する虐待や人権侵害はあってはならないことで誠に遺憾」と述べ、虐待が疑われる場合は躊躇なく行政指導を行うよう改めて都道府県などに周知する考えを示した。また、精神科病院での虐待を発見した場合に都道府県などへの通報を義務づける改正精神保健福祉法の来年4月施行に向けた準備を着実に進める考えを示した。 定例になっている閣議後の記者会見でNHKの記者が(1)と(3)をもとに監督官庁の責任者として対応を質問したのだろう。NHKがニュース報道した。(5)弁護士が記者会見 他の社にも暴行の映像などを提供(第五報) ここでようやく民放各社、新聞各社が一斉に「後追い報道」で追いつける状態になった。 患者の支援を行っている相原啓介弁護士が記者会見して、3人の看護師と1人の准看護師に対する刑事告発が警視庁に受理されたことを明らかにした。「滝山病院」での暴力・虐待などの報道を告発したキーパーソンがNHK以外の社にも明らかになったのだ。 相原弁護士は記者会見で以下のように述べた。「数名の心無い職員による偶発的な虐待事件だとは思えない。どちらかというと病院全体に蔓延している疑いを私自身は強く持っている」 映像や画像などがNHK以外の報道機関にも提供され、この後は民放各局で「病室内での暴力」の実態が放送されていく。これ以降は民放や新聞などの「後追い報道」が加わって、「滝山病院」についての報道が一気に広がっていく。 地上波の日本テレビ系列では、午後の時間帯の「ミヤネ屋」(読売テレビ制作)が冒頭から会見映像を報道した。タイトルは「八王子の精神科病院で看護師が患者に暴言暴行か…告発弁護士が会見」。 弁護士が会見する映像以外は、すでにNHKが報道した病室内の隠し撮り映像や画像、音声などとほぼ同じ内容だ。 民放各社のニュース番組の扱いの字幕部分は以下になる。・日本テレビ「news every.」 〈スタッフによる“暴力”や“暴言” 精神科病院で“虐待”「加害者は十数人」〉・フジテレビ「イット!」 〈悪質 精神科病院で“相談の”暴行”職員逮捕 患者殴り「しゃべるな黙ってろ」〉・テレビ朝日「スーパーJチャンネル」 〈精神科病院“虐待”弁護士が会見 「暴行受け退院したい」相談が〉・テレビ朝日「報道ステーション」 〈精神科病院 違法に身体拘束か 精神科病院で“日常的に虐待”か〉 テレビ朝日は、これまでNHKで放送していなかった病室の隠し撮りの映像を流した。 病室で看護スタッフが「地震だ」と患者が寝ているベッドを激しく揺らし続ける場面、暴言を吐きながら患者の耳をつまんで頭を何度も押さえつける場面も放送した。 一種の虐待やいじめといえる患者への不適切な対応の音声も放送した。〈(患者) 痰とってくれ(看護スタッフ)「くれ」言っているやつはダメだっつってんだろ(患者) 痰とってください(看護スタッフ) 嫌です(笑)。お前のいうことは聞かねえよ(笑)〉(6)東京都が抜き打ちで2度目の立ち入り検査(第六報、2月24日) 病院を監督する東京都は医療法と精神保健福祉法に基づき、2月24日にも臨時の立ち入り検査を実施した。 テレビ朝日「報道ステーション」は、「精神科病院に“抜き打ち”検査」という見出しの字幕で、立ち入り検査が早朝に行われた“抜き打ち”だとスタジオで伝えた。その後に、滝山病院を運営する医療法人社団の朝倉孝二理事長を直撃する映像を放送した。〈(記者)「日常的に暴行があった」という指摘を理事長として把握していたか?(理事長)全く把握してないです(記者)被害者や被害者の家族に対してコメントはあるか?(理事長)弁護士と相談してから話をさせてください〉 質問から逃れるように小走りに歩きながらのインタビューだった。 一連の問題が報じられるなか、公式な場に姿を見せない滝山病院側。その責任者の名前と顔が初めてメディアに登場した映像だった。「後追い」のテレビ朝日が、NHKも持っていない素材を放送して意地を見せた報道だった。 いくらすごい「スクープ報道」でも、他の報道機関が追いかけて報道してくれないことには社会全体に広がっていかない。自分の社の独走状態がずっと続いてしまうと、社会的な広がりをもたない狭い範囲の報道になりかねない。どこかで他の社にも報道合戦に参入してもらう必要がある。 今回のNHKの「スクープ報道」では、記者会見のタイミングなどを弁護士とNHKがよく相談したのだろうと推測できる。行政のトップである厚労相にも反応をぶつけて政治的にも問題に関心が広がったタイミングでの記者会見の設定は見事というほかない。「スクープ報道」と「後追い報道」は、“抜いた抜かれた”という勝ち負けの勝負というばかりではない。ときに抜かれた側=「後追い報道」の側が努力することで、スクープした側も取材していない報道素材を加えることがある。結果的に報道全体の内容が補完されて質が上がっていくのである。そんな双方向の作用の片鱗が少し見えたようなテレビ朝日の報道だった。「ここね、人が人を殺すとこなんです…」相次ぐ患者の“死亡退院”をスクープしたのはNHKだった へ続く(水島 宏明)
暴行の疑いがある病室内の隠し撮り映像も放送された。看護スタッフがベッドに寝たきりの患者の横に立ち、患者の頭を繰り返し上から押さえつける様子が見える。
〈(看護スタッフ)
「おい」って何だよ
「すみません」だよな〉
消灯後にベッドの上で声を出していた患者に対して、看護スタッフが枕で複数回上からたたく場面も登場する。食事を前に「もうすぐご飯」と声を出していた男性には看護スタッフが恫喝する。
〈(看護スタッフ)
「しゃべるなって言ってんだろ。黙ってろ。メシ来るまで」〉
元職員は「他の病院では暴言とか虐待と思えることが目の前で行われていた」と証言していた。そんな衝撃的なニュースだ。 この放送を皮切りにして、テレビや新聞などのニュースで「滝山病院」の報道が次々に出るようになる。 NHKの「スクープ報道」で出し抜かれた他の社の記者たちの立場を想像すると、この段階では警視庁や東京都に問い合わせるしかないだろう。警視庁による家宅捜索や東京都による立ち入り検査の様子は、NHKだけが撮影していて他社には映像素材がない。病室の映像や音声などの持ち主や入手経路もわからない。映像がないので、他のテレビ局は病院の外観を撮影するしかない状態だろう。 この時点ではNHKだけが独走状態で、他の社は追いつくことができない。(2)民放各社による「後追い報道」(第二報、2月16日) 民放各社が、早朝のニュース情報番組にて前夜に撮影した滝山病院の外観映像に警視庁や東京都に問い合わせた情報を流すかたちで短く報道した。 ・日本テレビ「Oha!4 NEWS LIVE」 ・テレビ朝日「グッド!モーニング」 ・TBS「THE TIME,」(3)NHKによる監督官庁の動きの続報(第三報) NHK「おはよう日本」(関東甲信越ローカル放送)で「滝山病院」に対して、“虐待などの研修が不十分”だとして東京都が口頭指導していたことがわかったと報じている。警視庁による家宅捜索や東京都による立ち入り検査の映像を使って放送した。 このニュースはNHKが東京都に対して情報公開請求を行って開示された資料によって、昨年6月に都が病院に対して行った実地指導で口頭指導を受けていた事実を突きとめて報道したもの。情報公開請求の開示は通常かなり時間を要する作業なので、NHKが前もって準備を進めていたことがわかる。 この時点でもNHKの独走状態は続いている。(4)加藤勝信厚生労働相が「虐待疑われる場合 行政指導」(第四報、2月17日) 加藤勝信厚生労働相が、閣議後に行われた記者会見にて「精神科病院における患者に対する虐待や人権侵害はあってはならないことで誠に遺憾」と述べ、虐待が疑われる場合は躊躇なく行政指導を行うよう改めて都道府県などに周知する考えを示した。また、精神科病院での虐待を発見した場合に都道府県などへの通報を義務づける改正精神保健福祉法の来年4月施行に向けた準備を着実に進める考えを示した。 定例になっている閣議後の記者会見でNHKの記者が(1)と(3)をもとに監督官庁の責任者として対応を質問したのだろう。NHKがニュース報道した。(5)弁護士が記者会見 他の社にも暴行の映像などを提供(第五報) ここでようやく民放各社、新聞各社が一斉に「後追い報道」で追いつける状態になった。 患者の支援を行っている相原啓介弁護士が記者会見して、3人の看護師と1人の准看護師に対する刑事告発が警視庁に受理されたことを明らかにした。「滝山病院」での暴力・虐待などの報道を告発したキーパーソンがNHK以外の社にも明らかになったのだ。 相原弁護士は記者会見で以下のように述べた。「数名の心無い職員による偶発的な虐待事件だとは思えない。どちらかというと病院全体に蔓延している疑いを私自身は強く持っている」 映像や画像などがNHK以外の報道機関にも提供され、この後は民放各局で「病室内での暴力」の実態が放送されていく。これ以降は民放や新聞などの「後追い報道」が加わって、「滝山病院」についての報道が一気に広がっていく。 地上波の日本テレビ系列では、午後の時間帯の「ミヤネ屋」(読売テレビ制作)が冒頭から会見映像を報道した。タイトルは「八王子の精神科病院で看護師が患者に暴言暴行か…告発弁護士が会見」。 弁護士が会見する映像以外は、すでにNHKが報道した病室内の隠し撮り映像や画像、音声などとほぼ同じ内容だ。 民放各社のニュース番組の扱いの字幕部分は以下になる。・日本テレビ「news every.」 〈スタッフによる“暴力”や“暴言” 精神科病院で“虐待”「加害者は十数人」〉・フジテレビ「イット!」 〈悪質 精神科病院で“相談の”暴行”職員逮捕 患者殴り「しゃべるな黙ってろ」〉・テレビ朝日「スーパーJチャンネル」 〈精神科病院“虐待”弁護士が会見 「暴行受け退院したい」相談が〉・テレビ朝日「報道ステーション」 〈精神科病院 違法に身体拘束か 精神科病院で“日常的に虐待”か〉 テレビ朝日は、これまでNHKで放送していなかった病室の隠し撮りの映像を流した。 病室で看護スタッフが「地震だ」と患者が寝ているベッドを激しく揺らし続ける場面、暴言を吐きながら患者の耳をつまんで頭を何度も押さえつける場面も放送した。 一種の虐待やいじめといえる患者への不適切な対応の音声も放送した。〈(患者) 痰とってくれ(看護スタッフ)「くれ」言っているやつはダメだっつってんだろ(患者) 痰とってください(看護スタッフ) 嫌です(笑)。お前のいうことは聞かねえよ(笑)〉(6)東京都が抜き打ちで2度目の立ち入り検査(第六報、2月24日) 病院を監督する東京都は医療法と精神保健福祉法に基づき、2月24日にも臨時の立ち入り検査を実施した。 テレビ朝日「報道ステーション」は、「精神科病院に“抜き打ち”検査」という見出しの字幕で、立ち入り検査が早朝に行われた“抜き打ち”だとスタジオで伝えた。その後に、滝山病院を運営する医療法人社団の朝倉孝二理事長を直撃する映像を放送した。〈(記者)「日常的に暴行があった」という指摘を理事長として把握していたか?(理事長)全く把握してないです(記者)被害者や被害者の家族に対してコメントはあるか?(理事長)弁護士と相談してから話をさせてください〉 質問から逃れるように小走りに歩きながらのインタビューだった。 一連の問題が報じられるなか、公式な場に姿を見せない滝山病院側。その責任者の名前と顔が初めてメディアに登場した映像だった。「後追い」のテレビ朝日が、NHKも持っていない素材を放送して意地を見せた報道だった。 いくらすごい「スクープ報道」でも、他の報道機関が追いかけて報道してくれないことには社会全体に広がっていかない。自分の社の独走状態がずっと続いてしまうと、社会的な広がりをもたない狭い範囲の報道になりかねない。どこかで他の社にも報道合戦に参入してもらう必要がある。 今回のNHKの「スクープ報道」では、記者会見のタイミングなどを弁護士とNHKがよく相談したのだろうと推測できる。行政のトップである厚労相にも反応をぶつけて政治的にも問題に関心が広がったタイミングでの記者会見の設定は見事というほかない。「スクープ報道」と「後追い報道」は、“抜いた抜かれた”という勝ち負けの勝負というばかりではない。ときに抜かれた側=「後追い報道」の側が努力することで、スクープした側も取材していない報道素材を加えることがある。結果的に報道全体の内容が補完されて質が上がっていくのである。そんな双方向の作用の片鱗が少し見えたようなテレビ朝日の報道だった。「ここね、人が人を殺すとこなんです…」相次ぐ患者の“死亡退院”をスクープしたのはNHKだった へ続く(水島 宏明)
元職員は「他の病院では暴言とか虐待と思えることが目の前で行われていた」と証言していた。そんな衝撃的なニュースだ。
この放送を皮切りにして、テレビや新聞などのニュースで「滝山病院」の報道が次々に出るようになる。
NHKの「スクープ報道」で出し抜かれた他の社の記者たちの立場を想像すると、この段階では警視庁や東京都に問い合わせるしかないだろう。警視庁による家宅捜索や東京都による立ち入り検査の様子は、NHKだけが撮影していて他社には映像素材がない。病室の映像や音声などの持ち主や入手経路もわからない。映像がないので、他のテレビ局は病院の外観を撮影するしかない状態だろう。
この時点ではNHKだけが独走状態で、他の社は追いつくことができない。
民放各社が、早朝のニュース情報番組にて前夜に撮影した滝山病院の外観映像に警視庁や東京都に問い合わせた情報を流すかたちで短く報道した。
・日本テレビ「Oha!4 NEWS LIVE」 ・テレビ朝日「グッド!モーニング」 ・TBS「THE TIME,」
(3)NHKによる監督官庁の動きの続報(第三報) NHK「おはよう日本」(関東甲信越ローカル放送)で「滝山病院」に対して、“虐待などの研修が不十分”だとして東京都が口頭指導していたことがわかったと報じている。警視庁による家宅捜索や東京都による立ち入り検査の映像を使って放送した。 このニュースはNHKが東京都に対して情報公開請求を行って開示された資料によって、昨年6月に都が病院に対して行った実地指導で口頭指導を受けていた事実を突きとめて報道したもの。情報公開請求の開示は通常かなり時間を要する作業なので、NHKが前もって準備を進めていたことがわかる。 この時点でもNHKの独走状態は続いている。(4)加藤勝信厚生労働相が「虐待疑われる場合 行政指導」(第四報、2月17日) 加藤勝信厚生労働相が、閣議後に行われた記者会見にて「精神科病院における患者に対する虐待や人権侵害はあってはならないことで誠に遺憾」と述べ、虐待が疑われる場合は躊躇なく行政指導を行うよう改めて都道府県などに周知する考えを示した。また、精神科病院での虐待を発見した場合に都道府県などへの通報を義務づける改正精神保健福祉法の来年4月施行に向けた準備を着実に進める考えを示した。 定例になっている閣議後の記者会見でNHKの記者が(1)と(3)をもとに監督官庁の責任者として対応を質問したのだろう。NHKがニュース報道した。(5)弁護士が記者会見 他の社にも暴行の映像などを提供(第五報) ここでようやく民放各社、新聞各社が一斉に「後追い報道」で追いつける状態になった。 患者の支援を行っている相原啓介弁護士が記者会見して、3人の看護師と1人の准看護師に対する刑事告発が警視庁に受理されたことを明らかにした。「滝山病院」での暴力・虐待などの報道を告発したキーパーソンがNHK以外の社にも明らかになったのだ。 相原弁護士は記者会見で以下のように述べた。「数名の心無い職員による偶発的な虐待事件だとは思えない。どちらかというと病院全体に蔓延している疑いを私自身は強く持っている」 映像や画像などがNHK以外の報道機関にも提供され、この後は民放各局で「病室内での暴力」の実態が放送されていく。これ以降は民放や新聞などの「後追い報道」が加わって、「滝山病院」についての報道が一気に広がっていく。 地上波の日本テレビ系列では、午後の時間帯の「ミヤネ屋」(読売テレビ制作)が冒頭から会見映像を報道した。タイトルは「八王子の精神科病院で看護師が患者に暴言暴行か…告発弁護士が会見」。 弁護士が会見する映像以外は、すでにNHKが報道した病室内の隠し撮り映像や画像、音声などとほぼ同じ内容だ。 民放各社のニュース番組の扱いの字幕部分は以下になる。・日本テレビ「news every.」 〈スタッフによる“暴力”や“暴言” 精神科病院で“虐待”「加害者は十数人」〉・フジテレビ「イット!」 〈悪質 精神科病院で“相談の”暴行”職員逮捕 患者殴り「しゃべるな黙ってろ」〉・テレビ朝日「スーパーJチャンネル」 〈精神科病院“虐待”弁護士が会見 「暴行受け退院したい」相談が〉・テレビ朝日「報道ステーション」 〈精神科病院 違法に身体拘束か 精神科病院で“日常的に虐待”か〉 テレビ朝日は、これまでNHKで放送していなかった病室の隠し撮りの映像を流した。 病室で看護スタッフが「地震だ」と患者が寝ているベッドを激しく揺らし続ける場面、暴言を吐きながら患者の耳をつまんで頭を何度も押さえつける場面も放送した。 一種の虐待やいじめといえる患者への不適切な対応の音声も放送した。〈(患者) 痰とってくれ(看護スタッフ)「くれ」言っているやつはダメだっつってんだろ(患者) 痰とってください(看護スタッフ) 嫌です(笑)。お前のいうことは聞かねえよ(笑)〉(6)東京都が抜き打ちで2度目の立ち入り検査(第六報、2月24日) 病院を監督する東京都は医療法と精神保健福祉法に基づき、2月24日にも臨時の立ち入り検査を実施した。 テレビ朝日「報道ステーション」は、「精神科病院に“抜き打ち”検査」という見出しの字幕で、立ち入り検査が早朝に行われた“抜き打ち”だとスタジオで伝えた。その後に、滝山病院を運営する医療法人社団の朝倉孝二理事長を直撃する映像を放送した。〈(記者)「日常的に暴行があった」という指摘を理事長として把握していたか?(理事長)全く把握してないです(記者)被害者や被害者の家族に対してコメントはあるか?(理事長)弁護士と相談してから話をさせてください〉 質問から逃れるように小走りに歩きながらのインタビューだった。 一連の問題が報じられるなか、公式な場に姿を見せない滝山病院側。その責任者の名前と顔が初めてメディアに登場した映像だった。「後追い」のテレビ朝日が、NHKも持っていない素材を放送して意地を見せた報道だった。 いくらすごい「スクープ報道」でも、他の報道機関が追いかけて報道してくれないことには社会全体に広がっていかない。自分の社の独走状態がずっと続いてしまうと、社会的な広がりをもたない狭い範囲の報道になりかねない。どこかで他の社にも報道合戦に参入してもらう必要がある。 今回のNHKの「スクープ報道」では、記者会見のタイミングなどを弁護士とNHKがよく相談したのだろうと推測できる。行政のトップである厚労相にも反応をぶつけて政治的にも問題に関心が広がったタイミングでの記者会見の設定は見事というほかない。「スクープ報道」と「後追い報道」は、“抜いた抜かれた”という勝ち負けの勝負というばかりではない。ときに抜かれた側=「後追い報道」の側が努力することで、スクープした側も取材していない報道素材を加えることがある。結果的に報道全体の内容が補完されて質が上がっていくのである。そんな双方向の作用の片鱗が少し見えたようなテレビ朝日の報道だった。「ここね、人が人を殺すとこなんです…」相次ぐ患者の“死亡退院”をスクープしたのはNHKだった へ続く(水島 宏明)
NHK「おはよう日本」(関東甲信越ローカル放送)で「滝山病院」に対して、“虐待などの研修が不十分”だとして東京都が口頭指導していたことがわかったと報じている。警視庁による家宅捜索や東京都による立ち入り検査の映像を使って放送した。
このニュースはNHKが東京都に対して情報公開請求を行って開示された資料によって、昨年6月に都が病院に対して行った実地指導で口頭指導を受けていた事実を突きとめて報道したもの。情報公開請求の開示は通常かなり時間を要する作業なので、NHKが前もって準備を進めていたことがわかる。
この時点でもNHKの独走状態は続いている。
加藤勝信厚生労働相が、閣議後に行われた記者会見にて「精神科病院における患者に対する虐待や人権侵害はあってはならないことで誠に遺憾」と述べ、虐待が疑われる場合は躊躇なく行政指導を行うよう改めて都道府県などに周知する考えを示した。また、精神科病院での虐待を発見した場合に都道府県などへの通報を義務づける改正精神保健福祉法の来年4月施行に向けた準備を着実に進める考えを示した。 定例になっている閣議後の記者会見でNHKの記者が(1)と(3)をもとに監督官庁の責任者として対応を質問したのだろう。NHKがニュース報道した。(5)弁護士が記者会見 他の社にも暴行の映像などを提供(第五報) ここでようやく民放各社、新聞各社が一斉に「後追い報道」で追いつける状態になった。 患者の支援を行っている相原啓介弁護士が記者会見して、3人の看護師と1人の准看護師に対する刑事告発が警視庁に受理されたことを明らかにした。「滝山病院」での暴力・虐待などの報道を告発したキーパーソンがNHK以外の社にも明らかになったのだ。 相原弁護士は記者会見で以下のように述べた。「数名の心無い職員による偶発的な虐待事件だとは思えない。どちらかというと病院全体に蔓延している疑いを私自身は強く持っている」 映像や画像などがNHK以外の報道機関にも提供され、この後は民放各局で「病室内での暴力」の実態が放送されていく。これ以降は民放や新聞などの「後追い報道」が加わって、「滝山病院」についての報道が一気に広がっていく。 地上波の日本テレビ系列では、午後の時間帯の「ミヤネ屋」(読売テレビ制作)が冒頭から会見映像を報道した。タイトルは「八王子の精神科病院で看護師が患者に暴言暴行か…告発弁護士が会見」。 弁護士が会見する映像以外は、すでにNHKが報道した病室内の隠し撮り映像や画像、音声などとほぼ同じ内容だ。 民放各社のニュース番組の扱いの字幕部分は以下になる。・日本テレビ「news every.」 〈スタッフによる“暴力”や“暴言” 精神科病院で“虐待”「加害者は十数人」〉・フジテレビ「イット!」 〈悪質 精神科病院で“相談の”暴行”職員逮捕 患者殴り「しゃべるな黙ってろ」〉・テレビ朝日「スーパーJチャンネル」 〈精神科病院“虐待”弁護士が会見 「暴行受け退院したい」相談が〉・テレビ朝日「報道ステーション」 〈精神科病院 違法に身体拘束か 精神科病院で“日常的に虐待”か〉 テレビ朝日は、これまでNHKで放送していなかった病室の隠し撮りの映像を流した。 病室で看護スタッフが「地震だ」と患者が寝ているベッドを激しく揺らし続ける場面、暴言を吐きながら患者の耳をつまんで頭を何度も押さえつける場面も放送した。 一種の虐待やいじめといえる患者への不適切な対応の音声も放送した。〈(患者) 痰とってくれ(看護スタッフ)「くれ」言っているやつはダメだっつってんだろ(患者) 痰とってください(看護スタッフ) 嫌です(笑)。お前のいうことは聞かねえよ(笑)〉(6)東京都が抜き打ちで2度目の立ち入り検査(第六報、2月24日) 病院を監督する東京都は医療法と精神保健福祉法に基づき、2月24日にも臨時の立ち入り検査を実施した。 テレビ朝日「報道ステーション」は、「精神科病院に“抜き打ち”検査」という見出しの字幕で、立ち入り検査が早朝に行われた“抜き打ち”だとスタジオで伝えた。その後に、滝山病院を運営する医療法人社団の朝倉孝二理事長を直撃する映像を放送した。〈(記者)「日常的に暴行があった」という指摘を理事長として把握していたか?(理事長)全く把握してないです(記者)被害者や被害者の家族に対してコメントはあるか?(理事長)弁護士と相談してから話をさせてください〉 質問から逃れるように小走りに歩きながらのインタビューだった。 一連の問題が報じられるなか、公式な場に姿を見せない滝山病院側。その責任者の名前と顔が初めてメディアに登場した映像だった。「後追い」のテレビ朝日が、NHKも持っていない素材を放送して意地を見せた報道だった。 いくらすごい「スクープ報道」でも、他の報道機関が追いかけて報道してくれないことには社会全体に広がっていかない。自分の社の独走状態がずっと続いてしまうと、社会的な広がりをもたない狭い範囲の報道になりかねない。どこかで他の社にも報道合戦に参入してもらう必要がある。 今回のNHKの「スクープ報道」では、記者会見のタイミングなどを弁護士とNHKがよく相談したのだろうと推測できる。行政のトップである厚労相にも反応をぶつけて政治的にも問題に関心が広がったタイミングでの記者会見の設定は見事というほかない。「スクープ報道」と「後追い報道」は、“抜いた抜かれた”という勝ち負けの勝負というばかりではない。ときに抜かれた側=「後追い報道」の側が努力することで、スクープした側も取材していない報道素材を加えることがある。結果的に報道全体の内容が補完されて質が上がっていくのである。そんな双方向の作用の片鱗が少し見えたようなテレビ朝日の報道だった。「ここね、人が人を殺すとこなんです…」相次ぐ患者の“死亡退院”をスクープしたのはNHKだった へ続く(水島 宏明)
加藤勝信厚生労働相が、閣議後に行われた記者会見にて「精神科病院における患者に対する虐待や人権侵害はあってはならないことで誠に遺憾」と述べ、虐待が疑われる場合は躊躇なく行政指導を行うよう改めて都道府県などに周知する考えを示した。また、精神科病院での虐待を発見した場合に都道府県などへの通報を義務づける改正精神保健福祉法の来年4月施行に向けた準備を着実に進める考えを示した。
定例になっている閣議後の記者会見でNHKの記者が(1)と(3)をもとに監督官庁の責任者として対応を質問したのだろう。NHKがニュース報道した。
ここでようやく民放各社、新聞各社が一斉に「後追い報道」で追いつける状態になった。
患者の支援を行っている相原啓介弁護士が記者会見して、3人の看護師と1人の准看護師に対する刑事告発が警視庁に受理されたことを明らかにした。「滝山病院」での暴力・虐待などの報道を告発したキーパーソンがNHK以外の社にも明らかになったのだ。
相原弁護士は記者会見で以下のように述べた。
「数名の心無い職員による偶発的な虐待事件だとは思えない。どちらかというと病院全体に蔓延している疑いを私自身は強く持っている」
映像や画像などがNHK以外の報道機関にも提供され、この後は民放各局で「病室内での暴力」の実態が放送されていく。これ以降は民放や新聞などの「後追い報道」が加わって、「滝山病院」についての報道が一気に広がっていく。
地上波の日本テレビ系列では、午後の時間帯の「ミヤネ屋」(読売テレビ制作)が冒頭から会見映像を報道した。タイトルは「八王子の精神科病院で看護師が患者に暴言暴行か…告発弁護士が会見」。 弁護士が会見する映像以外は、すでにNHKが報道した病室内の隠し撮り映像や画像、音声などとほぼ同じ内容だ。 民放各社のニュース番組の扱いの字幕部分は以下になる。・日本テレビ「news every.」 〈スタッフによる“暴力”や“暴言” 精神科病院で“虐待”「加害者は十数人」〉・フジテレビ「イット!」 〈悪質 精神科病院で“相談の”暴行”職員逮捕 患者殴り「しゃべるな黙ってろ」〉・テレビ朝日「スーパーJチャンネル」 〈精神科病院“虐待”弁護士が会見 「暴行受け退院したい」相談が〉・テレビ朝日「報道ステーション」 〈精神科病院 違法に身体拘束か 精神科病院で“日常的に虐待”か〉 テレビ朝日は、これまでNHKで放送していなかった病室の隠し撮りの映像を流した。 病室で看護スタッフが「地震だ」と患者が寝ているベッドを激しく揺らし続ける場面、暴言を吐きながら患者の耳をつまんで頭を何度も押さえつける場面も放送した。 一種の虐待やいじめといえる患者への不適切な対応の音声も放送した。〈(患者) 痰とってくれ(看護スタッフ)「くれ」言っているやつはダメだっつってんだろ(患者) 痰とってください(看護スタッフ) 嫌です(笑)。お前のいうことは聞かねえよ(笑)〉(6)東京都が抜き打ちで2度目の立ち入り検査(第六報、2月24日) 病院を監督する東京都は医療法と精神保健福祉法に基づき、2月24日にも臨時の立ち入り検査を実施した。 テレビ朝日「報道ステーション」は、「精神科病院に“抜き打ち”検査」という見出しの字幕で、立ち入り検査が早朝に行われた“抜き打ち”だとスタジオで伝えた。その後に、滝山病院を運営する医療法人社団の朝倉孝二理事長を直撃する映像を放送した。〈(記者)「日常的に暴行があった」という指摘を理事長として把握していたか?(理事長)全く把握してないです(記者)被害者や被害者の家族に対してコメントはあるか?(理事長)弁護士と相談してから話をさせてください〉 質問から逃れるように小走りに歩きながらのインタビューだった。 一連の問題が報じられるなか、公式な場に姿を見せない滝山病院側。その責任者の名前と顔が初めてメディアに登場した映像だった。「後追い」のテレビ朝日が、NHKも持っていない素材を放送して意地を見せた報道だった。 いくらすごい「スクープ報道」でも、他の報道機関が追いかけて報道してくれないことには社会全体に広がっていかない。自分の社の独走状態がずっと続いてしまうと、社会的な広がりをもたない狭い範囲の報道になりかねない。どこかで他の社にも報道合戦に参入してもらう必要がある。 今回のNHKの「スクープ報道」では、記者会見のタイミングなどを弁護士とNHKがよく相談したのだろうと推測できる。行政のトップである厚労相にも反応をぶつけて政治的にも問題に関心が広がったタイミングでの記者会見の設定は見事というほかない。「スクープ報道」と「後追い報道」は、“抜いた抜かれた”という勝ち負けの勝負というばかりではない。ときに抜かれた側=「後追い報道」の側が努力することで、スクープした側も取材していない報道素材を加えることがある。結果的に報道全体の内容が補完されて質が上がっていくのである。そんな双方向の作用の片鱗が少し見えたようなテレビ朝日の報道だった。「ここね、人が人を殺すとこなんです…」相次ぐ患者の“死亡退院”をスクープしたのはNHKだった へ続く(水島 宏明)
地上波の日本テレビ系列では、午後の時間帯の「ミヤネ屋」(読売テレビ制作)が冒頭から会見映像を報道した。タイトルは「八王子の精神科病院で看護師が患者に暴言暴行か…告発弁護士が会見」。
弁護士が会見する映像以外は、すでにNHKが報道した病室内の隠し撮り映像や画像、音声などとほぼ同じ内容だ。
民放各社のニュース番組の扱いの字幕部分は以下になる。
・日本テレビ「news every.」 〈スタッフによる“暴力”や“暴言” 精神科病院で“虐待”「加害者は十数人」〉・フジテレビ「イット!」 〈悪質 精神科病院で“相談の”暴行”職員逮捕 患者殴り「しゃべるな黙ってろ」〉・テレビ朝日「スーパーJチャンネル」 〈精神科病院“虐待”弁護士が会見 「暴行受け退院したい」相談が〉・テレビ朝日「報道ステーション」 〈精神科病院 違法に身体拘束か 精神科病院で“日常的に虐待”か〉
テレビ朝日は、これまでNHKで放送していなかった病室の隠し撮りの映像を流した。
病室で看護スタッフが「地震だ」と患者が寝ているベッドを激しく揺らし続ける場面、暴言を吐きながら患者の耳をつまんで頭を何度も押さえつける場面も放送した。
一種の虐待やいじめといえる患者への不適切な対応の音声も放送した。〈(患者) 痰とってくれ(看護スタッフ)「くれ」言っているやつはダメだっつってんだろ(患者) 痰とってください(看護スタッフ) 嫌です(笑)。お前のいうことは聞かねえよ(笑)〉(6)東京都が抜き打ちで2度目の立ち入り検査(第六報、2月24日) 病院を監督する東京都は医療法と精神保健福祉法に基づき、2月24日にも臨時の立ち入り検査を実施した。 テレビ朝日「報道ステーション」は、「精神科病院に“抜き打ち”検査」という見出しの字幕で、立ち入り検査が早朝に行われた“抜き打ち”だとスタジオで伝えた。その後に、滝山病院を運営する医療法人社団の朝倉孝二理事長を直撃する映像を放送した。〈(記者)「日常的に暴行があった」という指摘を理事長として把握していたか?(理事長)全く把握してないです(記者)被害者や被害者の家族に対してコメントはあるか?(理事長)弁護士と相談してから話をさせてください〉 質問から逃れるように小走りに歩きながらのインタビューだった。 一連の問題が報じられるなか、公式な場に姿を見せない滝山病院側。その責任者の名前と顔が初めてメディアに登場した映像だった。「後追い」のテレビ朝日が、NHKも持っていない素材を放送して意地を見せた報道だった。 いくらすごい「スクープ報道」でも、他の報道機関が追いかけて報道してくれないことには社会全体に広がっていかない。自分の社の独走状態がずっと続いてしまうと、社会的な広がりをもたない狭い範囲の報道になりかねない。どこかで他の社にも報道合戦に参入してもらう必要がある。 今回のNHKの「スクープ報道」では、記者会見のタイミングなどを弁護士とNHKがよく相談したのだろうと推測できる。行政のトップである厚労相にも反応をぶつけて政治的にも問題に関心が広がったタイミングでの記者会見の設定は見事というほかない。「スクープ報道」と「後追い報道」は、“抜いた抜かれた”という勝ち負けの勝負というばかりではない。ときに抜かれた側=「後追い報道」の側が努力することで、スクープした側も取材していない報道素材を加えることがある。結果的に報道全体の内容が補完されて質が上がっていくのである。そんな双方向の作用の片鱗が少し見えたようなテレビ朝日の報道だった。「ここね、人が人を殺すとこなんです…」相次ぐ患者の“死亡退院”をスクープしたのはNHKだった へ続く(水島 宏明)
一種の虐待やいじめといえる患者への不適切な対応の音声も放送した。
〈(患者)
痰とってくれ
(看護スタッフ)
「くれ」言っているやつはダメだっつってんだろ
(患者)
痰とってください
(看護スタッフ)
嫌です(笑)。お前のいうことは聞かねえよ(笑)〉
病院を監督する東京都は医療法と精神保健福祉法に基づき、2月24日にも臨時の立ち入り検査を実施した。
テレビ朝日「報道ステーション」は、「精神科病院に“抜き打ち”検査」という見出しの字幕で、立ち入り検査が早朝に行われた“抜き打ち”だとスタジオで伝えた。その後に、滝山病院を運営する医療法人社団の朝倉孝二理事長を直撃する映像を放送した。
〈(記者)「日常的に暴行があった」という指摘を理事長として把握していたか?(理事長)全く把握してないです(記者)被害者や被害者の家族に対してコメントはあるか?(理事長)弁護士と相談してから話をさせてください〉 質問から逃れるように小走りに歩きながらのインタビューだった。 一連の問題が報じられるなか、公式な場に姿を見せない滝山病院側。その責任者の名前と顔が初めてメディアに登場した映像だった。「後追い」のテレビ朝日が、NHKも持っていない素材を放送して意地を見せた報道だった。 いくらすごい「スクープ報道」でも、他の報道機関が追いかけて報道してくれないことには社会全体に広がっていかない。自分の社の独走状態がずっと続いてしまうと、社会的な広がりをもたない狭い範囲の報道になりかねない。どこかで他の社にも報道合戦に参入してもらう必要がある。 今回のNHKの「スクープ報道」では、記者会見のタイミングなどを弁護士とNHKがよく相談したのだろうと推測できる。行政のトップである厚労相にも反応をぶつけて政治的にも問題に関心が広がったタイミングでの記者会見の設定は見事というほかない。「スクープ報道」と「後追い報道」は、“抜いた抜かれた”という勝ち負けの勝負というばかりではない。ときに抜かれた側=「後追い報道」の側が努力することで、スクープした側も取材していない報道素材を加えることがある。結果的に報道全体の内容が補完されて質が上がっていくのである。そんな双方向の作用の片鱗が少し見えたようなテレビ朝日の報道だった。「ここね、人が人を殺すとこなんです…」相次ぐ患者の“死亡退院”をスクープしたのはNHKだった へ続く(水島 宏明)
〈(記者)「日常的に暴行があった」という指摘を理事長として把握していたか?
(理事長)全く把握してないです
(記者)被害者や被害者の家族に対してコメントはあるか?
(理事長)弁護士と相談してから話をさせてください〉
質問から逃れるように小走りに歩きながらのインタビューだった。
一連の問題が報じられるなか、公式な場に姿を見せない滝山病院側。その責任者の名前と顔が初めてメディアに登場した映像だった。「後追い」のテレビ朝日が、NHKも持っていない素材を放送して意地を見せた報道だった。
いくらすごい「スクープ報道」でも、他の報道機関が追いかけて報道してくれないことには社会全体に広がっていかない。自分の社の独走状態がずっと続いてしまうと、社会的な広がりをもたない狭い範囲の報道になりかねない。どこかで他の社にも報道合戦に参入してもらう必要がある。
今回のNHKの「スクープ報道」では、記者会見のタイミングなどを弁護士とNHKがよく相談したのだろうと推測できる。行政のトップである厚労相にも反応をぶつけて政治的にも問題に関心が広がったタイミングでの記者会見の設定は見事というほかない。
「スクープ報道」と「後追い報道」は、“抜いた抜かれた”という勝ち負けの勝負というばかりではない。ときに抜かれた側=「後追い報道」の側が努力することで、スクープした側も取材していない報道素材を加えることがある。結果的に報道全体の内容が補完されて質が上がっていくのである。そんな双方向の作用の片鱗が少し見えたようなテレビ朝日の報道だった。
「ここね、人が人を殺すとこなんです…」相次ぐ患者の“死亡退院”をスクープしたのはNHKだった へ続く
(水島 宏明)