ホテルのゴミ箱に、公園のトイレに、駐車場に…2022年も生れたばかりの赤ちゃんを遺棄する痛ましい事件が相次いだ。またか、と胸を痛めた方も多いはずだ。かつて予期せぬ妊娠に葛藤し、運よく支援にたどり着いた女性は、「SOSを発する難しさ」が背景にあると訴える。
【写真を見る】「生後4日で娘と別れた…」予期せぬ妊娠で葛藤した22歳の母が告白 相次ぐ嬰児虐待死 孤立する女性を支援に繋げるには■「責められる…」予期せぬ妊娠で女性の脳裏に浮かぶのはニュースで度々報じられる生れたばかりの赤ちゃんの虐待死。それを他人事ではないと感じている女性がいる。Aさんは2020年、22歳の時に予期せぬ妊娠をした。

Aさん「え、まさか…どうしよう…頭が真っ白でした」生理が来ないなとは思っていた。それでも、フリーターでその日暮らしの生活をしていたAさんは、立ち止まって先のことを考える余裕はなかったという。しかし、鏡に映った自分のお腹にふくらみを感じ、勇気を出して薬局で妊娠検査キットを買った。結果は「陽性」。生理が来なかった期間を計算してみると、既に中絶はできない段階だった。Aさんは途方に暮れるが、親には相談できなかった。子どものころ親の虐待を受けていて、一時期、児童養護施設でも生活した。トラウマを抱え、妊娠したことを親に伝えれば、怒鳴られるのではないかと、かつての虐待がフラッシュバックしたという。また相手の男性にも伝えられなかった。相手と自分との関係性から、言うことができなかったという。Aさんは「自分は弱いです。弱いところに立たされているなって感じています」と当時の状況を振り返る。誰にも相談できない。おなかの赤ちゃんは日に日に大きくなる。焦る中で、Aさんは、スマホで妊娠に関する相談を受け付ける電話番号を見つける。しかし、実際に電話をかけるのは簡単ではなかったという。Aさん「なんで、そこまで気づかなかったんですか?とか、責められるのかなって思いました。後ろめたい気持ちでした」一本の電話。それが支援につながるかどうかの、大きな分かれ道だった。■拒絶され、叱責され…積み重なった人間不信と複雑な事情Aさんは、勇気をふり絞って、相談の電話をかける。電話を受けたのは、民間の特別養子縁組斡旋事業部「ベビースマイル」で相談員をする鈴木久美子さんだった。鈴木さんは、これまでに1000人以上の妊娠の相談を受けてきた。Aさんに限らず、孤立する女性たちの多くが、予期せぬ妊娠で葛藤しても、相談すること、SOSを発することにはハードルがあると話す。特別養子縁組斡旋事業部「ベビースマイル」 鈴木久美子さん「予期せぬ妊娠をして、他に相談するところがない孤立した女性たちは、人間不信だったり、人を頼ることに不安を感じている傾向があります。背景には、これまで助けを求めても拒絶されたり、叱責された経験が積み重なっているからだと思います。なので、予期せぬ妊娠をしたと相談したら、怒られるんじゃないか、責められるんじゃないかと不安で、SOSを発するのがとても難しいのだと思います」相談さえしてくれれば、実際の対応は真逆だという。女性を、責めたり、怒ったりすることは絶対にしない。特に大切にしているのは、“常識”で判断しないということだ。鈴木久美子さん「私のところには、中絶できない段階にある女性の相談が多く来ます。常識で考えると、初期の段階で妊娠に気づきますよね。ですので、なんで気づかないの?って、多くの人は女性たちに厳しい目を向けがちです。だけど、本人にしてみたら、気づかなかったことが真実なんです。だから、常識的には気づくよね、ではなく、彼女の話を聞いて、彼女の状況を受け入れて、じゃあ、こうサポートしていこうと、彼女の状況に寄り添って支援を進めていく必要があります」予期せぬ妊娠で孤立する女性に、常識で判断せず、寄り添う支援が必要なことを示すこんなデータもある。特定非営利活動法人ピッコラーレが「にんしんSOS東京」につながった相談記録を集計分析した『妊娠葛藤白書』によると、若年層で中絶ができない段階での相談は、一般的な妊婦とは状況がかなり違うことを指摘している。相談内容が、家族関係、社会環境、経済環境、相手など、本人以外に起因するものが多く、自分だけでは解決できない複雑な困難を抱えているというのだ。特殊な環境に置かれている女性たちにとって、一般的で常識と思われるアドバイスは問題解決には至らない。それどころか、女性をより孤立させる可能性もあると、鈴木さんは警鐘を鳴らす。鈴木久美子さん「こうしたほうがいいよ、あなたのために言っているんだよ、というような常識を押しつけるようなアドバイスはしないようにしています。それを言うと孤立した女性たちは、この人は自分をわかってくれない、と感じて、再び自分の殻にこもってしまいます。追い込まれた女性が瞬間的に出すSOSを察知して、あなたはどうしたい?と女性の声に耳を傾ける支援が重要なのだと、皆さんに知ってもらいたいです」■「強い女性になってほしい…」相談の末、Aさんが選んだのは鈴木さんに相談したのち、様々な支援を受けながら、Aさんは2020年に女の赤ちゃんを出産した。自分で育てたい。そう思ったが、経済的に困窮するなか、長く続く子育てが本当にできるのか、なにより、子どもの幸せのためには何がいいのか、悩んだという。そして、特別養子縁組制度を利用して、生後4日の娘を子どもに恵まれなかった家族に託す選択をした。もし相談していなかったら、どうなっていただろう…。そんな気持ちから、自分と同じように予期せぬ妊娠で悩んでいる女性たちに相談をためらわないでほしいと願っている。Aさん「私は、相談の電話をしてみたら、一緒に考えようって優しく言ってもらって、いろんな選択肢を教えてもらえました。相談して良かったです。ですので、思いがけない妊娠をして困っている人がいたら、勇気を出して、相談してほしいと思います」Aさんのスマホには赤ちゃんの写真がたくさん保存されている。その一枚一枚が宝物だ。会うことができない寂しさはもちろんあるが、赤ちゃんにとって最善な選択だったと、赤ちゃんの未来に希望を持っている。Aさん「赤ちゃんには、いっぱいご飯を食べて、いっぱい遊んで、いっぱい勉強して、立派な女性になってほしいです。弱くはなってほしくない。強い女性であってほしいです」Aさんはそう言って、遠くを見つめながら笑った。◆妊娠の悩みをひとりで抱えている方へ◆妊娠して困ったときには、全国に誰でも相談ができる窓口があります。「妊娠 SOS」などで検索すれば今住んでいる地域の相談窓口がきっと見つかるはずです。「なんで妊娠に気づかなかったの?」と怒られることはありません。安心して、自分の気持ちを話してみてください。
ニュースで度々報じられる生れたばかりの赤ちゃんの虐待死。それを他人事ではないと感じている女性がいる。Aさんは2020年、22歳の時に予期せぬ妊娠をした。
Aさん「え、まさか…どうしよう…頭が真っ白でした」
生理が来ないなとは思っていた。それでも、フリーターでその日暮らしの生活をしていたAさんは、立ち止まって先のことを考える余裕はなかったという。しかし、鏡に映った自分のお腹にふくらみを感じ、勇気を出して薬局で妊娠検査キットを買った。結果は「陽性」。生理が来なかった期間を計算してみると、既に中絶はできない段階だった。
Aさんは途方に暮れるが、親には相談できなかった。子どものころ親の虐待を受けていて、一時期、児童養護施設でも生活した。トラウマを抱え、妊娠したことを親に伝えれば、怒鳴られるのではないかと、かつての虐待がフラッシュバックしたという。
また相手の男性にも伝えられなかった。相手と自分との関係性から、言うことができなかったという。Aさんは「自分は弱いです。弱いところに立たされているなって感じています」と当時の状況を振り返る。
誰にも相談できない。おなかの赤ちゃんは日に日に大きくなる。焦る中で、Aさんは、スマホで妊娠に関する相談を受け付ける電話番号を見つける。しかし、実際に電話をかけるのは簡単ではなかったという。
Aさん「なんで、そこまで気づかなかったんですか?とか、責められるのかなって思いました。後ろめたい気持ちでした」
一本の電話。それが支援につながるかどうかの、大きな分かれ道だった。
Aさんは、勇気をふり絞って、相談の電話をかける。電話を受けたのは、民間の特別養子縁組斡旋事業部「ベビースマイル」で相談員をする鈴木久美子さんだった。
鈴木さんは、これまでに1000人以上の妊娠の相談を受けてきた。Aさんに限らず、孤立する女性たちの多くが、予期せぬ妊娠で葛藤しても、相談すること、SOSを発することにはハードルがあると話す。
特別養子縁組斡旋事業部「ベビースマイル」 鈴木久美子さん「予期せぬ妊娠をして、他に相談するところがない孤立した女性たちは、人間不信だったり、人を頼ることに不安を感じている傾向があります。
背景には、これまで助けを求めても拒絶されたり、叱責された経験が積み重なっているからだと思います。なので、予期せぬ妊娠をしたと相談したら、怒られるんじゃないか、責められるんじゃないかと不安で、SOSを発するのがとても難しいのだと思います」
相談さえしてくれれば、実際の対応は真逆だという。女性を、責めたり、怒ったりすることは絶対にしない。特に大切にしているのは、“常識”で判断しないということだ。
鈴木久美子さん「私のところには、中絶できない段階にある女性の相談が多く来ます。常識で考えると、初期の段階で妊娠に気づきますよね。ですので、なんで気づかないの?って、多くの人は女性たちに厳しい目を向けがちです。だけど、本人にしてみたら、気づかなかったことが真実なんです。
だから、常識的には気づくよね、ではなく、彼女の話を聞いて、彼女の状況を受け入れて、じゃあ、こうサポートしていこうと、彼女の状況に寄り添って支援を進めていく必要があります」
予期せぬ妊娠で孤立する女性に、常識で判断せず、寄り添う支援が必要なことを示すこんなデータもある。
特定非営利活動法人ピッコラーレが「にんしんSOS東京」につながった相談記録を集計分析した『妊娠葛藤白書』によると、若年層で中絶ができない段階での相談は、一般的な妊婦とは状況がかなり違うことを指摘している。相談内容が、家族関係、社会環境、経済環境、相手など、本人以外に起因するものが多く、自分だけでは解決できない複雑な困難を抱えているというのだ。
特殊な環境に置かれている女性たちにとって、一般的で常識と思われるアドバイスは問題解決には至らない。それどころか、女性をより孤立させる可能性もあると、鈴木さんは警鐘を鳴らす。
鈴木久美子さん「こうしたほうがいいよ、あなたのために言っているんだよ、というような常識を押しつけるようなアドバイスはしないようにしています。それを言うと孤立した女性たちは、この人は自分をわかってくれない、と感じて、再び自分の殻にこもってしまいます。
追い込まれた女性が瞬間的に出すSOSを察知して、あなたはどうしたい?と女性の声に耳を傾ける支援が重要なのだと、皆さんに知ってもらいたいです」
鈴木さんに相談したのち、様々な支援を受けながら、Aさんは2020年に女の赤ちゃんを出産した。自分で育てたい。そう思ったが、経済的に困窮するなか、長く続く子育てが本当にできるのか、なにより、子どもの幸せのためには何がいいのか、悩んだという。そして、特別養子縁組制度を利用して、生後4日の娘を子どもに恵まれなかった家族に託す選択をした。
もし相談していなかったら、どうなっていただろう…。そんな気持ちから、自分と同じように予期せぬ妊娠で悩んでいる女性たちに相談をためらわないでほしいと願っている。
Aさん「私は、相談の電話をしてみたら、一緒に考えようって優しく言ってもらって、いろんな選択肢を教えてもらえました。相談して良かったです。ですので、思いがけない妊娠をして困っている人がいたら、勇気を出して、相談してほしいと思います」
Aさんのスマホには赤ちゃんの写真がたくさん保存されている。その一枚一枚が宝物だ。会うことができない寂しさはもちろんあるが、赤ちゃんにとって最善な選択だったと、赤ちゃんの未来に希望を持っている。
Aさん「赤ちゃんには、いっぱいご飯を食べて、いっぱい遊んで、いっぱい勉強して、立派な女性になってほしいです。弱くはなってほしくない。強い女性であってほしいです」
Aさんはそう言って、遠くを見つめながら笑った。
◆妊娠の悩みをひとりで抱えている方へ◆妊娠して困ったときには、全国に誰でも相談ができる窓口があります。「妊娠 SOS」などで検索すれば今住んでいる地域の相談窓口がきっと見つかるはずです。「なんで妊娠に気づかなかったの?」と怒られることはありません。安心して、自分の気持ちを話してみてください。