中学校で中間や期末といった定期テストを見直す動きが進んでいる。
こまめな小テストや発表、討論に変えることで「一夜漬け」の知識詰め込みから抜けだすのが狙いだ。生徒が自ら学ぶ態度を育てようと、各校は工夫を重ねている。(福元洋平、江原桂都)
■◆ノート見てOK
「最も江戸幕府を長続きさせた政治改革がどれか、自分の考えを書こう」。
11月4日、岐阜県大垣市立東中学校2年3組では、社会の「単元テスト」が行われた。明治時代の官僚の目線で、江戸時代の政治改革を評価する設定の記述式問題だ。25分間の試験で教科書やノートを自由に見られる。
同校は今年度から、年間3回の定期テストを廃止した。代わりに2~3週間に1回、単元ごとの小テストを行い、発表やリポートも合わせて成績を評価する。一方で、資料なしで知識を問う一問一答式のテストもある。
テスト改革を主導した石橋佳之校長(60)は「出題範囲が広い定期テストは、生徒が一夜漬けに頼り、ヤマを張りがち。直前に詰め込むのは、本当の学力なのか」と疑問を感じていた。当初は「学力が低下する」「評価が難しい」などの声も上がったが、「学びを振り返りやすく、学習習慣も意欲も定着する」と踏み切った。
この日、テストを受けた生徒(14)は「年号や用語を暗記するだけの勉強が変わった。歴史の流れを理解し説明できるよう意識すると、記述式も答えられるようになってきた」と手応えを感じる。
■◆進んで学ぶ
定期テストの見直しの流れは、2018年度に始まった東京都千代田区立麹町中学校による試みが影響したとされる。自ら学ぶ姿勢を育てようと定期テストを単元テストに変え、再挑戦も認めた。同校の長田和義校長は「5年目になり、意欲が上がり、計画的に学ぶ意識も高まってきた」という。
岡山県赤磐市立桜が丘中学校は、20年度から段階的に定期テストをやめ、再挑戦を認める単元テストや思考力や表現力を試す「まとめテスト」を導入した。村松敦校長は「定期テストは生徒に『やらされ感』があったが、生徒が進んで学ぶ空気ができてきた」と話す。今年4月の全国学力テスト(全国学力・学習状況調査)のアンケートでは「分かった点やよく分からなかった点を見直し、次の学習につなげているか」との質問に肯定的に答えた同校生徒の割合は86・9%で、全国平均の74・9%を上回った。
■◆思考力重視
定期テスト廃止の背景には、20年度以降に小中高校で順次、実施された新しい学習指導要領が、知識だけでなく思考力や表現力を重視していることもある。
北海道標津町立標津中学校も今年度から、年4回の定期テストを2回に減らした。飯田雄士校長は「定期テストに頼りがちだった評価を変えたかった」と話す。単元テストのほか、グループ討論やリポートなどをこれまで以上に評価。生徒の学習への姿勢も積極的になった。
■教員負担増加に懸念
ただ、テストの回数増は教員の負担につながりかねない。標津中では中3数学の定期テストを年4回から2回にしたが、年8回の単元テストとあわせて計10回になった。飯田校長は「年間を通じて教員の負担は平準化したが、トータルでは増えたかも」と話す。
定期テストは、ほぼ一発勝負の高校入試の練習になるとの意見もある。東海地方の公立中学校の教頭は「広い範囲から出題される一発型のテストにも慣れないと、他の中学生に差をつけられないか心配」と打ち明ける。
福岡教育大学の鈴木邦治教授(教育経営学)は、「定期テストでは、点を取るための受け身の勉強に陥りがちだが、単元テストやノートの持ち込みは、生徒が課題の意味を考えながら学ぶきっかけになる。変化の激しい現代では一時的な知識より、自ら課題を見つけ学び続ける姿勢が大切で、そうした姿勢を育むには定期テストの見直しも効果的だろう」と話す。