東京大学広報室が発行する広報誌「淡青(たんせい)」。2022年9月に発行された「vol.45 素朴な疑問vs東大」の記事が、「おもろい」とツイッターに投稿され、9万以上の「いいね」を獲得しています。
【写真】「どうして疲れると眠たくなるの?」の答えは?「どうして疲れると眠たくなるの?」「秋にモミジが赤くなるのはなぜ?」「どうして楽しい時間があっという間に過ぎるの?」。そんな素朴な疑問に対して、教授や准教授などの教員が答えた「淡青 vol.45 素朴な疑問vs東大」。無料で配布されている冊子を紹介した、YouTuberの栗林(@dramaticlove6)さんと、「淡青」の担当者にお話を聞きました。

投稿には「いいなあ。絶対にこの冊子おもしろいやん。読みたい」「面白そうだしオンラインでPDF版も公開してるのでブックマークした(笑)」、「どうして楽しい時間はあっという間に過ぎるの? を子ども達に読んであげたら、興味津々で聞いてた。特に3歳の息子は体内に時計があるって話、進み方が速くなったり遅くなったりする事が興味深かった様子。おなかを指差して『ここに時計ある?みんな、ある?』って気にしてた かわいいね!」などの声が寄せられました。大きな反響があった「淡青 vol.45」について、特にどんなところが面白いと思ったのか、栗林さんにお話を伺いました。”権威の塊”な東大教授が、素朴な質問に答えるギャップと説得力ある回答!――「淡青」を読んだのは初めてですか?「ウェブ版に何度か目を通したことがあるくらいで、冊子の形で手に入れて読んだのは初めてです」――「淡青」はいつから、どんなきっかけで読み始めましたか。「今号以前には、SNSでシェアされているものを何度か見たことがありました。vol.41の『コロナ禍と東大』の特集は記憶に残っています。医療や経済からだけでなく、哲学や教育学からもコロナ禍が考察されていて、物事を多面的に見る難しさや面白さを感じました。今号は大学の門に設置してあるラックに置いてあることに偶然気づいて手に入れました。バックナンバーもウェブで見れるため、いくつか目を通してみました。vol.39の『UTokyo 30s(Thirties)淡青色の三十代たち』やvol.37『猫と東大』は身近な話題であることもあり、面白く読みました」――「淡青 vol.45」の企画「素朴な疑問vs東大」は、特にどういったところが面白く感じましたか。「『東大教授』という権威の塊のような固い肩書きを持つ人たちが『どうして疲れると眠くなるの?』のような素朴で柔らかな質問に答えるという意外性と、最前線の研究に基づいた説得力のある回答が面白かったです」“素朴”だけど、実は満を持しての企画だった!そんな「淡青」は、一体どんな風に作られているのか。東京大学広報室の室長、杉山清彦教授(大学院総合文化研究科)と広報課職員の高井次郎さんにたずねました。――「淡青 vol.45」について話題になっていますが、大学にも反響は届いていますか。「ネットでにぎやかに取り上げられているのは知っています。ネット上でPDF版が見られますが、紙媒体の冊子の請求もたくさん来ています」(杉山教授)「『淡青』の冊子は卒業生など親睦団体の『東大校友会』登録者に送っているほか、大学の入学案内資料などを扱うテレメールというシステムで送っています。テレメールでは1号につき200部しか納入していませんでした。しかし、今回請求が多く、200部がすぐにはけてしまった。そのあと750部入れ、昨日(9月27日)も100部入れました。テレメールを介さない、高校の先生からの請求もありました」(高井さん)――これほど「淡青」が注目を集めたことは、今までありましたか。「2018年に発行された『淡青 vol.37 猫と東大。』の時も大きな反響がありました。それ以来ですね(配布終了・オンラインでPDFを公開)」(高井さん)――「淡青」の編集を行っているのは?「教員と職員で構成される東京大学広報室の広報誌部会です。みんなでアイデアを出し合い、取材は記者として職員が行います。広報担当の教員はそれぞれ学問の分野の専門性を活かして携わっています。昨年度から『東大校友会ニュース』が『淡青』の最後の5ページ分に合体して校友向けのページもできました。誌面づくりは別々に行っていますが、同窓会組織の校友会の担当さんたちと一緒に目を通して仕上げています」(杉山教授)――毎回特集はどのように決めていますか。「広報誌部会の10人ほどのチームで、高井さんが中心になってブレインストーミングでアイデアを出します。大学から内容まで指図されているわけではないので、大学の宣伝そのものではなく、その時々に話題になっているもの、東大の“今”がわかる読み物にするよう心がけています。総長交代など大学として伝えるべきことと、東大の現在の話題とを、チームのメンバーそれぞれが考えながらバランスをとって特集を決めています」(杉山教授)――今回、特集を「素朴な疑問vs東大」にした理由はなんですか。「オフィシャルな回答として言うなら、紙媒体の裏表紙にあたる36ページに記載した通り『東大の研究に興味を持ってほしいから』。もうひとつ理由があって、今ならNHKの『チコちゃんに叱られる!』のような、TVや出版物で以前からある素朴な疑問に専門家が答える形式の特集を1回やってみたかったんです。だから、満を持して実現しました」(杉山教授)――今回の、素朴な疑問そのものを考えられたのは?「広報誌部会のメンバーで出し合いました。回答に適任の先生が学内にいるかどうか、引き受けてくれるかどうかわからないので、とにかく質問の候補をたくさん出しました。疑問は文系・理系、古い時代を扱うものから現代のものまで、できるだけ幅広く疑問を取り上げました。東大の大半の学部や研究所を横断するように疑問を取り上げています。東大は学部学科がたくさんあり、組織名を見ただけでは何をやっているのかわからない。特集を通して『こんな研究をする人もいるんだ』と知ってもらえればと思いました」(杉山教授)――アイデアとしてはあったけれど、ボツになってしまった疑問はありますか。「半分くらいはボツになりました。素朴な質問は無限に出てくるけど、回答が難しすぎたり、『わかりません』など一言で終わってしまうものもあったので。最終的に21に絞り込みました」(杉山教授)「学問は頭に詰め込んだ知識を答えるクイズではないことを…」――「素朴な疑問vs東大」は、「どうして疲れると眠たくなるの?」に対して「カルシウムイオンが神経細胞に入るから」と一問一答式に、丁寧な解説をつけるなど、読みやすいようにさまざまな工夫がされています。編集する上で大切にされたことは?「わかりやすさと正確さのバランスは大切にしました。Qの質問とAの答えがくっついて表示されていますが、本当は最後まで読んで答えがわかるように離したかったんです。しかし、デザイナーさんが「それだとダメだ。頭の方でキャッチーに見せないと読んでくれませんよ」と言うので今の形にしました。でも、それで良かったようです」(高井さん)――「秋にモミジが赤くなるのはなぜ?」の回答の、「植物性昆虫に警告を発したいから かも」の“かも”が気に入っている人もいました。「仮説段階の回答の場合、言い切ってしまうと“乱暴”だと怒られてしまうので、“かも”とつけています。作っている時は言い切る方が良いのではとも思いましたが、結果的には良かったです」(高井さん)――ほかに紙面づくりで重視されたことはありますか。「質問が素朴でも回答が簡単とは限らないし、簡単にエッセンスを伝えるのとレベルを落とすのとはちがう。教員にガチンコで答えてもらっていますが、そこは頑張って、できるだけわかりやすい形に落としこむよう努めました。また、ただの一問一答ではなく、学問の入り口になるようにと作ったので、質問に対する答えから、より広い話題に展開している回答もあります。回答者の著作を紹介しているものもあります。読んでもすぐにはわからない回答もあるかもしれませんが、『こういう論理でこうなっているんだ』と、そこから興味を広げていただけたらと思います。学問というものは、頭に詰め込んだ知識を答えるクイズではなく、絶対的な解がない、常に動いている生き物なのだということを伝えたいと思っています」(杉山教授)◇ ◇広報室長の杉山教授は「役所や大学が出すものがつまらないという思い込みを打破したい。大学の専門性や社会とのつながりを感じてもらいたい」と「面白くてなんぼ」の精神で、「淡青」をはじめ東京大学本部の広報を通して、肩ひじ張らない発信を続けていきたいと語っていました。「淡青」に掲載されているインタビューなどの記事は、東京大学公式ホームページ内の「UTokyo FOCUS」でも公開されています。また、東京大学の公式Twitterアカウントでは、「淡青」に掲載されている記事のほか、多彩な投稿が。9月3日の「ドラえもんの誕生日」には、先端科学技術研究センターの稲見昌彦教授が実現したドラえもんの“ひみつ道具”「透明マント」や、3月8日のハチ公の命日には農学部にある「ハチ公と上野英三郎博士像」など、大学にちなんだ柔らかい話題もツイートされていて楽しめます。今回、「淡青」を紹介した栗林さんは、東京大学工学部建築学科を卒業後、大工として働き、東京大学医学部で学んでいます。現在は、「精神科に進むかはまだ分かりませんが、身体と心、全てに携われるような医師になれたらな」と考えています。ユーチューバーとして「チャンネル栗林」で自身の考えを語るとともに、「子育て」「勉強」「働く」などテーマを決めて話し合う「哲学対話」という活動を開催しています」。なぜ、大工から東大理三を受験したのかもYouTubeで紹介しているので、気になった方はぜひ。(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・谷町邦子)
「どうして疲れると眠たくなるの?」「秋にモミジが赤くなるのはなぜ?」「どうして楽しい時間があっという間に過ぎるの?」。そんな素朴な疑問に対して、教授や准教授などの教員が答えた「淡青 vol.45 素朴な疑問vs東大」。無料で配布されている冊子を紹介した、YouTuberの栗林(@dramaticlove6)さんと、「淡青」の担当者にお話を聞きました。
投稿には「いいなあ。絶対にこの冊子おもしろいやん。読みたい」「面白そうだしオンラインでPDF版も公開してるのでブックマークした(笑)」、「どうして楽しい時間はあっという間に過ぎるの? を子ども達に読んであげたら、興味津々で聞いてた。特に3歳の息子は体内に時計があるって話、進み方が速くなったり遅くなったりする事が興味深かった様子。おなかを指差して『ここに時計ある?みんな、ある?』って気にしてた かわいいね!」などの声が寄せられました。
大きな反響があった「淡青 vol.45」について、特にどんなところが面白いと思ったのか、栗林さんにお話を伺いました。
――「淡青」を読んだのは初めてですか?
「ウェブ版に何度か目を通したことがあるくらいで、冊子の形で手に入れて読んだのは初めてです」
――「淡青」はいつから、どんなきっかけで読み始めましたか。
「今号以前には、SNSでシェアされているものを何度か見たことがありました。vol.41の『コロナ禍と東大』の特集は記憶に残っています。医療や経済からだけでなく、哲学や教育学からもコロナ禍が考察されていて、物事を多面的に見る難しさや面白さを感じました。
今号は大学の門に設置してあるラックに置いてあることに偶然気づいて手に入れました。バックナンバーもウェブで見れるため、いくつか目を通してみました。vol.39の『UTokyo 30s(Thirties)淡青色の三十代たち』やvol.37『猫と東大』は身近な話題であることもあり、面白く読みました」
――「淡青 vol.45」の企画「素朴な疑問vs東大」は、特にどういったところが面白く感じましたか。
「『東大教授』という権威の塊のような固い肩書きを持つ人たちが『どうして疲れると眠くなるの?』のような素朴で柔らかな質問に答えるという意外性と、最前線の研究に基づいた説得力のある回答が面白かったです」
そんな「淡青」は、一体どんな風に作られているのか。東京大学広報室の室長、杉山清彦教授(大学院総合文化研究科)と広報課職員の高井次郎さんにたずねました。
――「淡青 vol.45」について話題になっていますが、大学にも反響は届いていますか。
「ネットでにぎやかに取り上げられているのは知っています。ネット上でPDF版が見られますが、紙媒体の冊子の請求もたくさん来ています」(杉山教授)
「『淡青』の冊子は卒業生など親睦団体の『東大校友会』登録者に送っているほか、大学の入学案内資料などを扱うテレメールというシステムで送っています。テレメールでは1号につき200部しか納入していませんでした。しかし、今回請求が多く、200部がすぐにはけてしまった。そのあと750部入れ、昨日(9月27日)も100部入れました。テレメールを介さない、高校の先生からの請求もありました」(高井さん)
――これほど「淡青」が注目を集めたことは、今までありましたか。
「2018年に発行された『淡青 vol.37 猫と東大。』の時も大きな反響がありました。それ以来ですね(配布終了・オンラインでPDFを公開)」(高井さん)
――「淡青」の編集を行っているのは?
「教員と職員で構成される東京大学広報室の広報誌部会です。みんなでアイデアを出し合い、取材は記者として職員が行います。広報担当の教員はそれぞれ学問の分野の専門性を活かして携わっています。
昨年度から『東大校友会ニュース』が『淡青』の最後の5ページ分に合体して校友向けのページもできました。誌面づくりは別々に行っていますが、同窓会組織の校友会の担当さんたちと一緒に目を通して仕上げています」(杉山教授)
――毎回特集はどのように決めていますか。
「広報誌部会の10人ほどのチームで、高井さんが中心になってブレインストーミングでアイデアを出します。大学から内容まで指図されているわけではないので、大学の宣伝そのものではなく、その時々に話題になっているもの、東大の“今”がわかる読み物にするよう心がけています。総長交代など大学として伝えるべきことと、東大の現在の話題とを、チームのメンバーそれぞれが考えながらバランスをとって特集を決めています」(杉山教授)
――今回、特集を「素朴な疑問vs東大」にした理由はなんですか。
「オフィシャルな回答として言うなら、紙媒体の裏表紙にあたる36ページに記載した通り『東大の研究に興味を持ってほしいから』。もうひとつ理由があって、今ならNHKの『チコちゃんに叱られる!』のような、TVや出版物で以前からある素朴な疑問に専門家が答える形式の特集を1回やってみたかったんです。だから、満を持して実現しました」(杉山教授)
――今回の、素朴な疑問そのものを考えられたのは?
「広報誌部会のメンバーで出し合いました。回答に適任の先生が学内にいるかどうか、引き受けてくれるかどうかわからないので、とにかく質問の候補をたくさん出しました。
疑問は文系・理系、古い時代を扱うものから現代のものまで、できるだけ幅広く疑問を取り上げました。東大の大半の学部や研究所を横断するように疑問を取り上げています。東大は学部学科がたくさんあり、組織名を見ただけでは何をやっているのかわからない。特集を通して『こんな研究をする人もいるんだ』と知ってもらえればと思いました」(杉山教授)
――アイデアとしてはあったけれど、ボツになってしまった疑問はありますか。
「半分くらいはボツになりました。素朴な質問は無限に出てくるけど、回答が難しすぎたり、『わかりません』など一言で終わってしまうものもあったので。最終的に21に絞り込みました」(杉山教授)
――「素朴な疑問vs東大」は、「どうして疲れると眠たくなるの?」に対して「カルシウムイオンが神経細胞に入るから」と一問一答式に、丁寧な解説をつけるなど、読みやすいようにさまざまな工夫がされています。編集する上で大切にされたことは?
「わかりやすさと正確さのバランスは大切にしました。Qの質問とAの答えがくっついて表示されていますが、本当は最後まで読んで答えがわかるように離したかったんです。しかし、デザイナーさんが「それだとダメだ。頭の方でキャッチーに見せないと読んでくれませんよ」と言うので今の形にしました。でも、それで良かったようです」(高井さん)
――「秋にモミジが赤くなるのはなぜ?」の回答の、「植物性昆虫に警告を発したいから かも」の“かも”が気に入っている人もいました。
「仮説段階の回答の場合、言い切ってしまうと“乱暴”だと怒られてしまうので、“かも”とつけています。作っている時は言い切る方が良いのではとも思いましたが、結果的には良かったです」(高井さん)
――ほかに紙面づくりで重視されたことはありますか。
「質問が素朴でも回答が簡単とは限らないし、簡単にエッセンスを伝えるのとレベルを落とすのとはちがう。教員にガチンコで答えてもらっていますが、そこは頑張って、できるだけわかりやすい形に落としこむよう努めました。また、ただの一問一答ではなく、学問の入り口になるようにと作ったので、質問に対する答えから、より広い話題に展開している回答もあります。回答者の著作を紹介しているものもあります。
読んでもすぐにはわからない回答もあるかもしれませんが、『こういう論理でこうなっているんだ』と、そこから興味を広げていただけたらと思います。学問というものは、頭に詰め込んだ知識を答えるクイズではなく、絶対的な解がない、常に動いている生き物なのだということを伝えたいと思っています」(杉山教授)
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広報室長の杉山教授は「役所や大学が出すものがつまらないという思い込みを打破したい。大学の専門性や社会とのつながりを感じてもらいたい」と「面白くてなんぼ」の精神で、「淡青」をはじめ東京大学本部の広報を通して、肩ひじ張らない発信を続けていきたいと語っていました。
「淡青」に掲載されているインタビューなどの記事は、東京大学公式ホームページ内の「UTokyo FOCUS」でも公開されています。また、東京大学の公式Twitterアカウントでは、「淡青」に掲載されている記事のほか、多彩な投稿が。9月3日の「ドラえもんの誕生日」には、先端科学技術研究センターの稲見昌彦教授が実現したドラえもんの“ひみつ道具”「透明マント」や、3月8日のハチ公の命日には農学部にある「ハチ公と上野英三郎博士像」など、大学にちなんだ柔らかい話題もツイートされていて楽しめます。
今回、「淡青」を紹介した栗林さんは、東京大学工学部建築学科を卒業後、大工として働き、東京大学医学部で学んでいます。現在は、「精神科に進むかはまだ分かりませんが、身体と心、全てに携われるような医師になれたらな」と考えています。ユーチューバーとして「チャンネル栗林」で自身の考えを語るとともに、「子育て」「勉強」「働く」などテーマを決めて話し合う「哲学対話」という活動を開催しています」。なぜ、大工から東大理三を受験したのかもYouTubeで紹介しているので、気になった方はぜひ。
(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・谷町邦子)