相続に関する争いは千差万別ですが、一番多いケースが、「親が死んだら預金口座が空っぽだった」というケースです。
基本的には親に一番近い子供の一人が、コツコツと親の預金をATMから抜いていた、というのがその真相なのですが、なぜそれが可能なのか、またそれがどんな争いになるのか、具体的な例を見てみましょう。
今回の登場人物は以下の通りです(すべて仮名)。
・母の武藤友美さん(保有資産、都内23区の文教地区に戸建て保有)・長女の一子さん(59歳、結婚しており専業主婦、都内在住)・次女の次美さん(57歳、結婚しており専業主婦、埼玉県在住)
都内に住む武藤友美さんが亡くなったのは2年前のこと。葬儀のとき、友美さんの娘である長女の一子(かずこ)さん、次女の次美(つぐみ)さんの姉妹は、とくにもめることもありませんでした。
〔PHOTO〕iStock
友美さんが夫(つまり、一子さんと次美さんの父親)を亡くして一人暮らしになってからというもの、彼女の身の回りの世話をしていたのは、基本的には一子さんでした。一子さんは友美さんの自宅の近所に住んでいたため、友美さんがデイサービスを必要とするようになってからは、その送り迎えなど日常的な世話の大部分を担っていたのです。一方、次美さんは、埼玉の群馬寄りの地域に住んでいたため、都内に頻繁に出るのは簡単ではありません。友美さんの世話は姉の一子さんにほとんど任せきりという状況でした。200万円を手渡しでさて、そんな二人ですが、葬儀のときに、こんなやりとりがおこなわれていました。姉の一子さんが、次美さんに「次美、これ、母さんから「自分が死んだら次美に渡しておいて」って言われた200万円。受け取って」と言って、200万円を次美さんに渡したのです。こう告げられた次美さんは「ああそうなんだ」という感じで、特に疑問を感じることもなく、お金が入った封筒を受け取りました。当初はこのやりとりに何も思わなかった次美さんですが、しかし、徐々に疑問を持ち始めるようになるのです。〔PHOTO〕iStock 次美さんから私宛に問い合わせを受けたのはそれから半年後のことでした。「江幡さんの記事をネットで見てご連絡しました。その記事は、遺族の一人が故人の遺産をネコババしていたというものだったんですが、もしかするとウチの場合も、母の財産を姉が母の生前にネコババしていたのかもしれません。まさかとは思うんですが…どうも気になって…」次美さんが姉の一子さんに不信感を持ったのはなぜでしょうか。通常は人が死んだら「基礎控除(※)以上の遺産があった場合、10か月以内に相続税の申告が必要」です。このため大体の方は、四十九日が終わるころから相続税の申告手続きに着手します。書類を収集したり、故人がどの程度の資産があるのか把握するために銀行に行ったりするのです。※基礎控除:〔3000万円+600万円×法定相続人〕の額が基礎控除の基準となる。たとえば、父母子の3人家族の場合で父が亡くなった場合、父の遺産が4200万円(3000万円+600万円×母子2人)以上あったら相続申告が必要ということところが、いくら待っても次美さんには、一子さんから相続の手続きに関して連絡がありません。半分忘れかけているときに私の記事を見たことで、不審に感じたのです。渦巻く疑心暗鬼次美さんが最初に私の事務所を訪れた時も「姉が母のお金をネコババしたんじゃないのか?」と、彼女の頭の中は「一子さんは悪者」という考えでいっぱいになっていました。たしかにこのようなケースでは、姉の一子さんが生前体を動かせない母の預金を無断で引き出していたというケースは少なくありません。しかし、この段階では私は積極的に介入することはしませんでした。 なぜなら、万が一、姉妹の間で、完全な相続の争いに発展した場合、弁護士マターとなるからです。そうなれば弁護士に介入してもらうべきなのですが、弁護士に介入してもらうと、遺産の規模や争いの内容にもよりますが、100万円単位の弁護士費用がかかることも少なくないですし、争いが深刻化すれば年単位の時間がかかることも珍しくありません。よって、もし次美さんが「時間とお金がもったいない」と感じるのであれば、相続争いは当事者同士でまずは話し合ってみるべきだと考えていたからです。そして、次美さんは、独力で「執念の行動」に出たのでした。詳しくは【後編】「姉は青ざめた…姉妹の2000万円の遺産相続バトル、妹が突きつけた「動かぬ証拠」」でお伝えします。
友美さんが夫(つまり、一子さんと次美さんの父親)を亡くして一人暮らしになってからというもの、彼女の身の回りの世話をしていたのは、基本的には一子さんでした。一子さんは友美さんの自宅の近所に住んでいたため、友美さんがデイサービスを必要とするようになってからは、その送り迎えなど日常的な世話の大部分を担っていたのです。
一方、次美さんは、埼玉の群馬寄りの地域に住んでいたため、都内に頻繁に出るのは簡単ではありません。友美さんの世話は姉の一子さんにほとんど任せきりという状況でした。
さて、そんな二人ですが、葬儀のときに、こんなやりとりがおこなわれていました。姉の一子さんが、次美さんに「次美、これ、母さんから「自分が死んだら次美に渡しておいて」って言われた200万円。受け取って」と言って、200万円を次美さんに渡したのです。
こう告げられた次美さんは「ああそうなんだ」という感じで、特に疑問を感じることもなく、お金が入った封筒を受け取りました。当初はこのやりとりに何も思わなかった次美さんですが、しかし、徐々に疑問を持ち始めるようになるのです。
〔PHOTO〕iStock
次美さんから私宛に問い合わせを受けたのはそれから半年後のことでした。「江幡さんの記事をネットで見てご連絡しました。その記事は、遺族の一人が故人の遺産をネコババしていたというものだったんですが、もしかするとウチの場合も、母の財産を姉が母の生前にネコババしていたのかもしれません。まさかとは思うんですが…どうも気になって…」次美さんが姉の一子さんに不信感を持ったのはなぜでしょうか。通常は人が死んだら「基礎控除(※)以上の遺産があった場合、10か月以内に相続税の申告が必要」です。このため大体の方は、四十九日が終わるころから相続税の申告手続きに着手します。書類を収集したり、故人がどの程度の資産があるのか把握するために銀行に行ったりするのです。※基礎控除:〔3000万円+600万円×法定相続人〕の額が基礎控除の基準となる。たとえば、父母子の3人家族の場合で父が亡くなった場合、父の遺産が4200万円(3000万円+600万円×母子2人)以上あったら相続申告が必要ということところが、いくら待っても次美さんには、一子さんから相続の手続きに関して連絡がありません。半分忘れかけているときに私の記事を見たことで、不審に感じたのです。渦巻く疑心暗鬼次美さんが最初に私の事務所を訪れた時も「姉が母のお金をネコババしたんじゃないのか?」と、彼女の頭の中は「一子さんは悪者」という考えでいっぱいになっていました。たしかにこのようなケースでは、姉の一子さんが生前体を動かせない母の預金を無断で引き出していたというケースは少なくありません。しかし、この段階では私は積極的に介入することはしませんでした。 なぜなら、万が一、姉妹の間で、完全な相続の争いに発展した場合、弁護士マターとなるからです。そうなれば弁護士に介入してもらうべきなのですが、弁護士に介入してもらうと、遺産の規模や争いの内容にもよりますが、100万円単位の弁護士費用がかかることも少なくないですし、争いが深刻化すれば年単位の時間がかかることも珍しくありません。よって、もし次美さんが「時間とお金がもったいない」と感じるのであれば、相続争いは当事者同士でまずは話し合ってみるべきだと考えていたからです。そして、次美さんは、独力で「執念の行動」に出たのでした。詳しくは【後編】「姉は青ざめた…姉妹の2000万円の遺産相続バトル、妹が突きつけた「動かぬ証拠」」でお伝えします。
次美さんから私宛に問い合わせを受けたのはそれから半年後のことでした。
「江幡さんの記事をネットで見てご連絡しました。その記事は、遺族の一人が故人の遺産をネコババしていたというものだったんですが、もしかするとウチの場合も、母の財産を姉が母の生前にネコババしていたのかもしれません。まさかとは思うんですが…どうも気になって…」
次美さんが姉の一子さんに不信感を持ったのはなぜでしょうか。
通常は人が死んだら「基礎控除(※)以上の遺産があった場合、10か月以内に相続税の申告が必要」です。このため大体の方は、四十九日が終わるころから相続税の申告手続きに着手します。書類を収集したり、故人がどの程度の資産があるのか把握するために銀行に行ったりするのです。
※基礎控除:〔3000万円+600万円×法定相続人〕の額が基礎控除の基準となる。たとえば、父母子の3人家族の場合で父が亡くなった場合、父の遺産が4200万円(3000万円+600万円×母子2人)以上あったら相続申告が必要ということ
ところが、いくら待っても次美さんには、一子さんから相続の手続きに関して連絡がありません。半分忘れかけているときに私の記事を見たことで、不審に感じたのです。
次美さんが最初に私の事務所を訪れた時も「姉が母のお金をネコババしたんじゃないのか?」と、彼女の頭の中は「一子さんは悪者」という考えでいっぱいになっていました。
たしかにこのようなケースでは、姉の一子さんが生前体を動かせない母の預金を無断で引き出していたというケースは少なくありません。しかし、この段階では私は積極的に介入することはしませんでした。
なぜなら、万が一、姉妹の間で、完全な相続の争いに発展した場合、弁護士マターとなるからです。そうなれば弁護士に介入してもらうべきなのですが、弁護士に介入してもらうと、遺産の規模や争いの内容にもよりますが、100万円単位の弁護士費用がかかることも少なくないですし、争いが深刻化すれば年単位の時間がかかることも珍しくありません。よって、もし次美さんが「時間とお金がもったいない」と感じるのであれば、相続争いは当事者同士でまずは話し合ってみるべきだと考えていたからです。そして、次美さんは、独力で「執念の行動」に出たのでした。詳しくは【後編】「姉は青ざめた…姉妹の2000万円の遺産相続バトル、妹が突きつけた「動かぬ証拠」」でお伝えします。
なぜなら、万が一、姉妹の間で、完全な相続の争いに発展した場合、弁護士マターとなるからです。そうなれば弁護士に介入してもらうべきなのですが、弁護士に介入してもらうと、遺産の規模や争いの内容にもよりますが、100万円単位の弁護士費用がかかることも少なくないですし、争いが深刻化すれば年単位の時間がかかることも珍しくありません。よって、もし次美さんが「時間とお金がもったいない」と感じるのであれば、相続争いは当事者同士でまずは話し合ってみるべきだと考えていたからです。
そして、次美さんは、独力で「執念の行動」に出たのでした。詳しくは【後編】「姉は青ざめた…姉妹の2000万円の遺産相続バトル、妹が突きつけた「動かぬ証拠」」でお伝えします。