スーパーマーケットが「セルフレジ」を悪用した万引き被害に頭を悩ませている。
バーコードの読み取りや精算を客が自ら行うセルフレジは、人件費削減への期待などから普及が進むが、万引き犯に「人の目」の少なさにつけこまれた格好だ。故意の万引きと悪意のない精算ミスを見分けづらい難点もある。店側は、レジに客を撮影するカメラを取り付けるなど対策を急ぐ。(河津佑哉)
■非対面・非接触
「『ピッ』という音を聞いて、レジを通ったと思った」。今年2月、北九州市のスーパーでウイスキーなどを盗んだとして、福岡県警に窃盗容疑で現行犯逮捕された中学校の男性教員(60歳代)は当初、こう供述した。
事件はセルフレジで起きた。警察の調べに男性教員は、バーコードを読み取った音を聞いた、と主張して否認した。
しかし、調べが進むと容疑を認め、前日と前々日にも同様の手口で商品を盗んでいたことも判明。男性教員は不起訴となったが、3月に懲戒免職された。
全国スーパーマーケット協会(東京)によると、セルフレジは2003年に大手で導入が始まった。21年の調査では、客が全ての操作を行う「フルセルフレジ」を置く店の割合は19年の11・4%から21年に23・5%へ上昇。店員が商品をレジに通して精算は客が行う「セミセルフレジ」も合わせると、さらに身近になっている。
人手不足に加え、新型コロナウイルスの影響で店員と客の接触を減らす傾向も普及を後押しする。その反面で、NPO法人「全国万引犯罪防止機構」の担当者は「セルフレジを導入した後に万引き被害が増えたケースが目立つ」と懸念を示す。
■無罪判決も
セルフレジの特徴は「非対面・非接触」にある。その利点ゆえに店員の目は届きにくく、万引き犯は大胆な犯行に走りがちだ。
20年6月、熊本県宇城市の店舗でアイスクリームを盗んだ疑いで、男性消防士(20歳代、懲戒免職)が現行犯逮捕された。その手口は、8個の商品のうち4個をリュックに入れ、セルフレジで精算せずに持ち出そうとする単純なものだった。
一方で、関東や九州などで300店舗以上を展開するスーパーの担当者は「故意にレジを通さなかったのか、ミスなのかを見極めるのが難しい」と明かす。
無罪判決も出た。奈良市のスーパーのセルフレジで、水槽を買い物カートに載せたまま代金を支払わなかったとして、40歳代の女性が窃盗罪に問われたが、奈良地裁は今年1月、「他の商品の精算に気を取られて、水槽の精算を忘れても不自然ではない」として無罪を言い渡した。検察側は控訴せず、無罪が確定した。
■犯罪抑止狙い
万引き被害が経営に及ぼす影響は大きく、事業者は対策を強化している。関西や中部に展開する大手スーパーは、セルフレジに客の顔を撮影するカメラを設置。別の大手は、かごの中身と会計後の商品の重さが同じか検知するシステムも導入した。
九州で約20店舗を運営するスーパーも、昨年6月にセルフレジを導入した際、機器ごとに客の手元を映すカメラを設置。さらにレジ近くに店員1人を配置する。担当者は「『見られている』との意識が犯行の抑止につながってほしい。被害に遭っても犯人の特定に役立つ」と話す。
一方で、客が不用意な振る舞いをして、店に万引き犯と間違われる恐れもある。
万引き対策専門家の伊東ゆうさんは、誤解を避けるための心がけとして、▽店内に余計な荷物を持ち込まない▽エコバッグは口を閉じるか、カバンに入れておく▽カバンに手を入れる頻度を減らす――などを推奨。「買い物を巡る環境は変わった。気持ちよく買い物するためのマナーと捉えてほしい」と呼びかける。