京都大が女性教員の採用に本腰を入れ始めた。
国立大学協会の調査で2017年以降の毎年、女性教員の比率が「旧7帝大で最下位」という、不名誉な記録が続いてきたことが背景にある。今春、14・4%(5月時点)の比率を27年度に20%まで引き上げる推進計画を打ち出し、「アメとムチ」を使い分けて学部・研究科に女性教員の採用を促している。(増田弘治)
■推進計画
国立大学協会の調査では、「旧7帝大」(東京大、京都大、北海道大、東北大、名古屋大、大阪大、九州大)で比較すると、京大の女性教員比率は17年から毎年最下位で、21年の13・2%は全国立大(86校)の中で75番目という低い水準だった。12年(9・9%)以降は毎年おおむね比率が上がってきたものの、近年は0・3~0・5ポイント増にとどまってきた。
その京大でも、21年5月1日からの1年間で1・2ポイント増と、近年になかった伸びを記録した。京大ダイバーシティ推進室の中村一也室長は「09年以降2度にわたる推進計画の策定に加え、ジェンダー平等の機運が社会的に高まったことが背景にある」と分析する。
そのうえで中村室長は「こうした傾向に拍車をかける意味でも、新年度からの新たな推進計画で『20%』という、より具体的な数値目標を示し、早急に女性が働きやすい環境を整える必要がある」と話す。
■無意識のバイアス
女性教員の採用が伸びない背景には、「女性は理系に向かない」「結婚すれば辞めてしまう」などの偏見を意味する「無意識のバイアス」がある。京大は新たな推進計画で、学内に根強く残るこうした偏見を取り除く必要性を挙げた。
京大出身で人文社会学系研究科の教員を務める女性は「出産や育児で指導教員に『相談なんか怖くてできない』という空気が根強い。大学院生時代に妊娠の可能性を感じた時、頭に浮かんだのは『教授に見放され、教員にはなれない』という不安だった」と明かす。教員になった後も「子どもを産むなら、研究室での地位が安定してから」という意識につきまとわれた。
推進計画が示された後、学内では「5年なんかでできるわけがない。50年かけてやるべきことだ」と不満の声が漏れたという。こうした意見に、男性教員からも「時流をつかみ損ねた発言だ。20%の目標はあまりに高いが、意識を高めて計画を進めるべき時だ」と批判の声が上がる。
■アメとムチ
学内では「今後は『女性限定採用』にするほかない」との意見もある。
約100人の教員を抱える自然科学系研究科の女性教員比率は3%(3人)。大学側からは「27年度までに11人増の13%に引き上げ」が求められており、毎年2~3人の女性教員を募集する必要がある。
この研究科は准教授、講師、助教の採用で女性限定にすることを決め、7月初旬に実行に踏み切った。
京大は、女性限定公募を決めた学部・研究科には、女性用休憩室などの設備を整える経費を補助する制度を新設する。こうした「アメ」により、施策が推進しやすくなることを狙う。
一方、「ムチ」も用意されている。学部・研究科ごとに設定された数値目標が達成できなかった場合、定員の削減に踏み込むというペナルティーだ。推進計画の中間段階で目標達成困難と考えられる学部・研究科で原因を精査し、支援する方針だが、ここまでしないと、機運が高まらないという危機感の表れでもある。
男女共同参画を担当する稲垣恭子副学長は「集団の中に一定数の女性が参加するようになれば、男性にも女性にも安心感が生まれ、その後は一気に、女性比率は高まる。そのことは京大でも特定の学部・研究科で、実証済みだ。20%の目標は厳しいかもしれないが、その数字が当たり前になり、さらに向上することには大いに期待できる」と語る。