NHKのBS番組「河瀬直美が見つめた東京五輪」(昨年12月放送)で、オリンピック反対のデモに参加している男性が金銭で動員された、と事実ではない字幕が付けられた問題で、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会(委員長・小町谷育子弁護士)は9日、「重大な放送倫理違反があった」とする意見書を発表した。
五輪番組字幕、NHK「誤り」と認める 番組は、東京五輪の公式記録映画監督の河瀬直美さんとその制作チームに密着したドキュメンタリー。問題となったのは、競技場の外にいた男性がインタビューを受けるシーンで、NHKは「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」と字幕を付けた。しかし実際に男性が五輪反対デモに参加していた事実はなく、金銭のやり取りについても確証は得られていなかった。

BPOは、NHKがこれらの不備があったまま編集・放送した点について、NHKと日本民間放送連盟が策定している「放送倫理基本綱領」(1996年制定)や、NHKの放送ガイドラインに反していると認定。事実に反する内容を放送した最大の要因を「取材の基本を欠いて事実確認をおろそかにした」と指摘した。 さらに、組織的な問題にも言及。番組試写が6回も行われていながらチェック機能が働かなかったと述べ、その理由を.妊發篌匆餘親阿悗隆愎瓦稜さ⊆荳爐鮹甘したディレクターが入局20年ほどで実績があり信頼があったため、とした。 また、「デモの価値をおとしめようという悪意が介在していたかは不明」としつつも、ディレクターは男性の発言が五輪デモではない別のデモに関するものと明確に認識しながらも、五輪反対デモに関する発言に「すり替えて」編集していたと認定。「結果としてデモの価値をおとしめた。参加者はお金で動員されたものという印象を与えたことは無視できない」と苦言を呈した。 BPOは9日記者会見し、放送倫理検証委の井桁大介委員は「五輪反対デモで金銭が授受されているという事実でない内容が半ば捏造(ねつぞう)的に放送された。悪意や明確な意図があったわけではないと思うが、重過失に匹敵する」と厳しく指摘した。 一方、NHKは同日、コメントを発表。「取材や制作のあらゆる段階で真実に迫ろうとする放送の基本的な姿勢を再確認し、視聴者のみなさまの信頼に応えられる番組を取材・制作してまいります」とした。 問題を巡っては、NHKの調査チームが今年2月、調査報告書を発表。字幕の内容は誤りだったことを認め、謝罪していた。【松原由佳、稲垣衆史】視聴者への裏切り、NHKのコメントは不十分 影山貴彦・同志社女子大教授(メディアエンターテインメント論)の話 BPOが「重大な放送倫理違反」とした結論は妥当だ。東京五輪開催の賛否について世論が二分される中、多様な立場を伝えるべき公共放送で、反対派をおとしめるような内容を放送したことはミスリードにつながり、視聴者への裏切りでもある。問題のシーンに至る経緯をみると限りなく捏造(ねつぞう)に近く、罪深い行為だ。これほど重大な指摘を受けたにもかかわらず、NHKが出したコメントは通り一遍で不十分だ。
番組は、東京五輪の公式記録映画監督の河瀬直美さんとその制作チームに密着したドキュメンタリー。問題となったのは、競技場の外にいた男性がインタビューを受けるシーンで、NHKは「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」と字幕を付けた。しかし実際に男性が五輪反対デモに参加していた事実はなく、金銭のやり取りについても確証は得られていなかった。
BPOは、NHKがこれらの不備があったまま編集・放送した点について、NHKと日本民間放送連盟が策定している「放送倫理基本綱領」(1996年制定)や、NHKの放送ガイドラインに反していると認定。事実に反する内容を放送した最大の要因を「取材の基本を欠いて事実確認をおろそかにした」と指摘した。
さらに、組織的な問題にも言及。番組試写が6回も行われていながらチェック機能が働かなかったと述べ、その理由を.妊發篌匆餘親阿悗隆愎瓦稜さ⊆荳爐鮹甘したディレクターが入局20年ほどで実績があり信頼があったため、とした。
また、「デモの価値をおとしめようという悪意が介在していたかは不明」としつつも、ディレクターは男性の発言が五輪デモではない別のデモに関するものと明確に認識しながらも、五輪反対デモに関する発言に「すり替えて」編集していたと認定。「結果としてデモの価値をおとしめた。参加者はお金で動員されたものという印象を与えたことは無視できない」と苦言を呈した。
BPOは9日記者会見し、放送倫理検証委の井桁大介委員は「五輪反対デモで金銭が授受されているという事実でない内容が半ば捏造(ねつぞう)的に放送された。悪意や明確な意図があったわけではないと思うが、重過失に匹敵する」と厳しく指摘した。
一方、NHKは同日、コメントを発表。「取材や制作のあらゆる段階で真実に迫ろうとする放送の基本的な姿勢を再確認し、視聴者のみなさまの信頼に応えられる番組を取材・制作してまいります」とした。
問題を巡っては、NHKの調査チームが今年2月、調査報告書を発表。字幕の内容は誤りだったことを認め、謝罪していた。【松原由佳、稲垣衆史】
視聴者への裏切り、NHKのコメントは不十分
影山貴彦・同志社女子大教授(メディアエンターテインメント論)の話 BPOが「重大な放送倫理違反」とした結論は妥当だ。東京五輪開催の賛否について世論が二分される中、多様な立場を伝えるべき公共放送で、反対派をおとしめるような内容を放送したことはミスリードにつながり、視聴者への裏切りでもある。問題のシーンに至る経緯をみると限りなく捏造(ねつぞう)に近く、罪深い行為だ。これほど重大な指摘を受けたにもかかわらず、NHKが出したコメントは通り一遍で不十分だ。