夏野菜の代表格である「キュウリ」。みずみずしい果肉と、皮のパリッとした食感が夏の食卓を彩ってくれる野菜です。しかし一方で、キュウリに対しては「栄養がないって聞いたことがある」「ほぼ水分なんでしょ?」といった声も聞かれ、「栄養がない野菜」といううわさがまことしやかに流れているようです。
「キュウリには栄養がない」というのは本当なのでしょうか。その真偽について、管理栄養士の岸百合恵さんに聞きました。
Q.まず、「キュウリ」の基本情報を教えてください。
岸さん「キュウリは『黄瓜(きうり)』が語源といわれており、完熟すると黄色くなるところを、実が成熟しないうちに収穫したウリ科の野菜です。日本での代表的な品種は、皮が薄く濃い緑色をしていて、果肉が柔らかい『白いぼキュウリ』です。旬は6~8月の夏場ですが、冬も温室で栽培されているため、一年中流通しています」
Q.ずばり、キュウリには「栄養がない」というのは事実でしょうか。
岸さん「事実ではありません。確かにキュウリは、ギネスブックに『Least calorific fruit』と掲載されています。ただ、これは直訳すると、『最も熱量(カロリー)が低い果実』という意味です。この話が誤解され、『最も栄養が少ない野菜』と広まってしまったといわれています。そのため、『栄養がない』というのは事実ではないのです」
Q.誤解だったとはいえ、なぜここまで広まってしまったと思われますか。
岸さん「カロリーが低いことに加え、実の中身の色が白いこと、味が薄いといったことも、『栄養がない』といわれる要因かもしれません。また、『トマトにはリコピン』『ゴボウといえば食物繊維』のように、野菜ごとにイメージしやすい栄養素があるものですが、キュウリについてはそれが思いつきにくいことも、『栄養がない』というイメージにつながっているのではないでしょうか」
Q.実際のところ、キュウリにはどんな栄養素が含まれているのですか。
岸さん「先述したように、キュウリは『栄養がない』ことはないのですが、約95%が水分で構成されているため、実際のところ『豊富に栄養がある』とも言えません。しかしその中でも、ナトリウム(塩分)を排出する役割や利尿作用があり、むくみの解消にも効果的な『カリウム』と、体の酸化を防いだり、コラーゲン生成を助けたりする働きにより免疫力アップに貢献する『ビタミンC』が比較的多く含まれています。βカロテンや食物繊維も含んでいます。
キュウリを食べる最大のメリットとしては、ほとんどが水分であるがゆえに、熱中症対策に重要な水分摂取ができること、そしてカリウムも含まれているため、失われやすい『ミネラル』が同時に摂取できることです。最近では、脂肪を分解する酵素『ホスホリパーゼ』がキュウリに含まれていることから、ダイエット効果も期待できると注目されています」
Q.ちなみに、キュウリとよく似た見た目をしている「ズッキーニ」とは栄養素に違いがあるのでしょうか。
岸さん「キュウリの分類はウリ科キュウリ属、ズッキーニはウリ科カボチャ属です。栄養成分を比較してみると、どちらもほとんどが水分ですが、ズッキーニの方がカリウムの含有量が少し多いです。ただ、その他の栄養面では大きな違いはありません。
なお、キュウリはサラダや酢の物、漬物にするとおいしいですが、ズッキーニはキュウリよりも皮が硬く、加熱して食べることが多いです。油との相性がよいので、炒め物や揚げ物にするといいですね」
Q.キュウリの栄養を効率よく摂取できる「お勧めの食べ方」とは。
岸さん「キュウリの栄養成分は、『加熱をしない』ことで効率よく摂取できます。ビタミンCやホスホリパーゼは加熱に弱いため、生で食べるのがお勧めです。また、ビタミンCは水溶性なので、さっと水洗いする程度にしましょう。なお、キュウリの皮に含まれる『βカロテン』は、油と合わせることで吸収されやすくなります。カロリーは増えますが、油入りのドレッシングを使うとよいでしょう。
キュウリを塩もみしても栄養価は大きく変わらないので、味を染み込みやすくしたり、水っぽくなるのを防いだりするために、料理によっては塩もみをしておくとよいでしょう。ぬか漬けにすると塩分が少し多くなってしまいますが、ぬかに含まれる栄養素が浸透し、ビタミンB1やB6、カリウム、ビタミンKといった栄養価アップが期待できます。さらに、ぬか床の乳酸菌やキュウリに含まれる食物繊維の効果で、腸内環境の改善に役立つという面もあります。摂取したい栄養素に合わせて、レパートリーを増やしていけるとよいですね」