夫婦の3組に1組が離婚する時代、再婚や事実婚のカップルも珍しくなくなり、親世代が認知症という家庭も少なくなくなった……。家族のかたちが大きく変容するなか、身近になった相続問題で悩む人は増えている。今回は遺言書が無効になってしまうという悪夢のようなトラブルのケースを紹介する。
◆祖父が遺した遺言書には法的効力が無かった
長年介護してきた祖父が所有する2億円もの不動産をめぐり、従弟との骨肉の財産争いに巻き込まれているのがSEとして働く田中実さん(仮名・35歳)だ。
「祖父の遺言書では、『不動産は、長年世話をしてくれた実子である父、そして母、孫である僕と妹の4人にすべて譲る』と書かれていました。でも、祖父が残した遺言書は弁護士の指導で作成したのではなく、祖父の自筆でした。
数年前から認められた自筆証書遺言書としても、印鑑や日付がないために法的な効力がなさそうだと判明したんです」
◆音信不通だった叔母が現れ「遺産をよこせ」と主張
そこに突如として現れたのが、父の亡くなった妹(叔母)の子供2人だった。
「20年近く音信不通だったのにどこかで祖父の死を聞きつけたのか、『自分たちにも遺産をよこせ』と主張し始めたんです。
もし、遺言書の効力が認められれば、従弟2人には合計5000万円の遺留分を渡すだけで済みますが、遺言書が無効なら遺産の半分の1億円が渡ってしまう……」
◆祖父の介護を長年やってきたのに、なぜ……
田中さんが憤る理由は、まだほかにもある。
「そもそも私たち家族が生前の祖父の介護を長年苦労して行ってきたのに、突然出てきた従弟に財産を取られるのは納得できません。
生前、祖父にきちんとした遺言書を作ってもらえば、こんなことにはならなかったのに……。悔やんでも悔やみきれません」
現在も協議の決着はついていないという。故人の晩年に長く寄り添った親族こそ遺言書の用意を促すべきだろう。◆木野綾子弁護士が教える解決法
「確かに、押印と日付がなければ遺言書は無効です。しかし、紛れもなく父親の自筆であるなら、様式は整っていなくても、『父はそういう意思だった』と主張し、相続人全員が合意すれば、これに沿った遺産分割協議を行うこともあり得ます」(木野綾子弁護士)
【法律事務所キノール東京代表弁護士 木野綾子氏】裁判所勤務を経て弁護士。上級相続診断士。家族信託専門士。共著に『新しい常識 家族間契約の知識と実践』(日本法令)など
取材・文/週刊SPA!編集部