「FREE HUGS」と書かれたボードを持って街頭に立ち、通行人と抱擁する活動がある。見知らぬ人々とも互いに親しみを持つ意義で、アメリカから世界中に広がったフリー・ハグ(フリー・ハグズ)運動は、日本でも2006年ごろから見られた。
その一部が、統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の信者たちによる活動であったことが分かった。
ある二世信者の女性Aさんから寄せられたのは、統一教会の関連団体の記録である。フリー・ハグ運動をした日時や場所、メンバーの名前、ハグした人数、そして日本と韓国それぞれの街頭で「FREE HUGS」のボードを持った若者たちの写真数十点が資料となっている。資料にある時期は2013年から2017年まで。日本は東京・渋谷や上野、千葉、名古屋、福岡、岡山、宮崎、宮城など20ヵ所以上、韓国はソウル、テジョンなど6ヵ所だ。
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Aさんもその一部に参加した。統一教会の本部からではなく、Aさんが所属していた統一教会系の平和活動団体のリーダー格の韓国人男性からこう言われたという。「大衆が全員、この信仰を持つことができればいいが、そうではないから私たちは大衆全体を救うことはできない。でも、ひとりひとりの個人は助けられる。一度にひとりだけを抱きしめて愛を伝える。まずひとりを愛さなければ大勢は愛せない。この活動を見れば、誰かは賛同して輪に入ってくるだろう。私はこれまで4万人を抱きしめた。そこから新たな仲間が何百人も生まれている。だから、あなたたちも4万人を目標としてほしい。その努力は湖に水を注ぐように途方もないものだが、誰かが水を注がなければ湖は枯渇する。これは自分のためではなく、家族のためにやること。あなたが教会に通うのと同じこと。何も考えずに始めなさい」この活動自体に何も害はなく、見方によっては意義があるのもたしかだ。近年、日韓の外交関係においては険悪なムードが続いているが、このイベントにおいては、日本と韓国の国旗を並べて「友好」とするボードが出される。また日本での活動においては「私は韓国人です。ハグしませんか」と書かれたボードが出されることもあり、実際には政治ニュースほど韓国の人々が敵意を持っていない感覚を伝えることができていた。2019年には、日韓関係が悪化するなか、ある日本人の青年が「FREE HUG FOR PEACE」と書かれたボードを持ってソウルの繁華街に立ち、多くの人が素通りする中で、次第にハグに応じる若者が出てきたというドキュメント映像がメディアで紹介され、感動を呼んだこともあった。 「きつい活動だった」しかし、このムーブメントが統一教会の信者獲得の入口になっているとなれば、話はややこしくなる。「誰かは賛同し、そこから新たな仲間が」というのはまるで布教活動。4万人の目標を与えられたAさんは、仕事を休んで収入を減らしてまで各地でフリーハグ運動をした。「正直、きつい活動だった」と振り返る。「あまりやりたくなかったけど、指示されて自分だけやらないわけにはいかなかった。3人か4人のチームに分かれてハグを続けました。ハグした相手がどうというより、何人できたか成果だけが気になっていました。でも、通行人の撮影した私の活動写真がネットで晒され、キモいと書かれていたこともあって…。つらかったです」平和活動のボランティアに見えて、宗教団体から半強制的にやらされたものだったわけだ。特にAさんはこれまでも、「恋愛禁止」を命じられたうえ「許可なく信者以外と遊んではいけない」と言われて育ってきた。こうした、周囲の交友関係を遮断するようなやり方は、海外では「人権侵害のカルト団体」の行動と見なされるものである。フリーハグを看板に、問題の多い組織に勧誘する流れは、まるで真の目的を隠した詐欺的な人集めにも見えてしまう。 複雑な問題ただ、これは教会が上から統率したものではなく、いわば関連団体が独自におこなっている活動となるだけに、教会がこれについて「関知していない」と言えばそれまでだ。Aさんが困惑するのは「だからといってフリーハグ運動自体を問題だと言えないこと」でもある。「フリーハグは統一教会だけがやっているわけじゃないですよね。本当にボランティアでやっている人たちもいます。だから、フリーハグ運動は家庭連合の勧誘かもしれないから気をつけて! なんて言えない。純粋にやっている人に迷惑がかかっちゃう」Aさんがそこに思いが至ったのは、2017年に別のフリーハグ運動の女性4人と知り合ったことがきっかけだった。彼女たちはどこにも属していない独自の活動で、単に韓流ドラマやK-POPを好きになったことで行った韓国旅行から、日韓友好を強く願うようになっただけだった。フリーハグ運動のテーマは隣国との友好に限らず、国境なき民間交流を促したいというムーブメント自体には意義があると考えられる。「そこに水を差したくないので、これまで黙っていたんです」とAさん。Aさん自身はいまだ「信者の親を悲しませたくない」ということから信者のままだが「いま家庭連合が批判されているのは正直ホッとしている」と言う。「信者としては白い目で見られるからつらいけど、連合もこれでむやみに布教や寄付活動をやりにくくなったと思います」 彼女は現在、信者ではない男性に片想いしており、いずれ脱会して自由な恋愛をしたいという。「信者じゃなくなったら、友達になったフリーハグの人たちと一緒に、宗教に関係ないフリーハグやりたいとも思うかもしれません」ある意味、これもフリーハグ運動による効果ではあった。
Aさんもその一部に参加した。統一教会の本部からではなく、Aさんが所属していた統一教会系の平和活動団体のリーダー格の韓国人男性からこう言われたという。
「大衆が全員、この信仰を持つことができればいいが、そうではないから私たちは大衆全体を救うことはできない。でも、ひとりひとりの個人は助けられる。一度にひとりだけを抱きしめて愛を伝える。まずひとりを愛さなければ大勢は愛せない。この活動を見れば、誰かは賛同して輪に入ってくるだろう。
私はこれまで4万人を抱きしめた。そこから新たな仲間が何百人も生まれている。だから、あなたたちも4万人を目標としてほしい。その努力は湖に水を注ぐように途方もないものだが、誰かが水を注がなければ湖は枯渇する。これは自分のためではなく、家族のためにやること。あなたが教会に通うのと同じこと。何も考えずに始めなさい」
この活動自体に何も害はなく、見方によっては意義があるのもたしかだ。近年、日韓の外交関係においては険悪なムードが続いているが、このイベントにおいては、日本と韓国の国旗を並べて「友好」とするボードが出される。また日本での活動においては「私は韓国人です。ハグしませんか」と書かれたボードが出されることもあり、実際には政治ニュースほど韓国の人々が敵意を持っていない感覚を伝えることができていた。
2019年には、日韓関係が悪化するなか、ある日本人の青年が「FREE HUG FOR PEACE」と書かれたボードを持ってソウルの繁華街に立ち、多くの人が素通りする中で、次第にハグに応じる若者が出てきたというドキュメント映像がメディアで紹介され、感動を呼んだこともあった。
「きつい活動だった」しかし、このムーブメントが統一教会の信者獲得の入口になっているとなれば、話はややこしくなる。「誰かは賛同し、そこから新たな仲間が」というのはまるで布教活動。4万人の目標を与えられたAさんは、仕事を休んで収入を減らしてまで各地でフリーハグ運動をした。「正直、きつい活動だった」と振り返る。「あまりやりたくなかったけど、指示されて自分だけやらないわけにはいかなかった。3人か4人のチームに分かれてハグを続けました。ハグした相手がどうというより、何人できたか成果だけが気になっていました。でも、通行人の撮影した私の活動写真がネットで晒され、キモいと書かれていたこともあって…。つらかったです」平和活動のボランティアに見えて、宗教団体から半強制的にやらされたものだったわけだ。特にAさんはこれまでも、「恋愛禁止」を命じられたうえ「許可なく信者以外と遊んではいけない」と言われて育ってきた。こうした、周囲の交友関係を遮断するようなやり方は、海外では「人権侵害のカルト団体」の行動と見なされるものである。フリーハグを看板に、問題の多い組織に勧誘する流れは、まるで真の目的を隠した詐欺的な人集めにも見えてしまう。 複雑な問題ただ、これは教会が上から統率したものではなく、いわば関連団体が独自におこなっている活動となるだけに、教会がこれについて「関知していない」と言えばそれまでだ。Aさんが困惑するのは「だからといってフリーハグ運動自体を問題だと言えないこと」でもある。「フリーハグは統一教会だけがやっているわけじゃないですよね。本当にボランティアでやっている人たちもいます。だから、フリーハグ運動は家庭連合の勧誘かもしれないから気をつけて! なんて言えない。純粋にやっている人に迷惑がかかっちゃう」Aさんがそこに思いが至ったのは、2017年に別のフリーハグ運動の女性4人と知り合ったことがきっかけだった。彼女たちはどこにも属していない独自の活動で、単に韓流ドラマやK-POPを好きになったことで行った韓国旅行から、日韓友好を強く願うようになっただけだった。フリーハグ運動のテーマは隣国との友好に限らず、国境なき民間交流を促したいというムーブメント自体には意義があると考えられる。「そこに水を差したくないので、これまで黙っていたんです」とAさん。Aさん自身はいまだ「信者の親を悲しませたくない」ということから信者のままだが「いま家庭連合が批判されているのは正直ホッとしている」と言う。「信者としては白い目で見られるからつらいけど、連合もこれでむやみに布教や寄付活動をやりにくくなったと思います」 彼女は現在、信者ではない男性に片想いしており、いずれ脱会して自由な恋愛をしたいという。「信者じゃなくなったら、友達になったフリーハグの人たちと一緒に、宗教に関係ないフリーハグやりたいとも思うかもしれません」ある意味、これもフリーハグ運動による効果ではあった。
しかし、このムーブメントが統一教会の信者獲得の入口になっているとなれば、話はややこしくなる。「誰かは賛同し、そこから新たな仲間が」というのはまるで布教活動。4万人の目標を与えられたAさんは、仕事を休んで収入を減らしてまで各地でフリーハグ運動をした。「正直、きつい活動だった」と振り返る。
「あまりやりたくなかったけど、指示されて自分だけやらないわけにはいかなかった。3人か4人のチームに分かれてハグを続けました。ハグした相手がどうというより、何人できたか成果だけが気になっていました。でも、通行人の撮影した私の活動写真がネットで晒され、キモいと書かれていたこともあって…。つらかったです」
平和活動のボランティアに見えて、宗教団体から半強制的にやらされたものだったわけだ。特にAさんはこれまでも、「恋愛禁止」を命じられたうえ「許可なく信者以外と遊んではいけない」と言われて育ってきた。こうした、周囲の交友関係を遮断するようなやり方は、海外では「人権侵害のカルト団体」の行動と見なされるものである。
フリーハグを看板に、問題の多い組織に勧誘する流れは、まるで真の目的を隠した詐欺的な人集めにも見えてしまう。
複雑な問題ただ、これは教会が上から統率したものではなく、いわば関連団体が独自におこなっている活動となるだけに、教会がこれについて「関知していない」と言えばそれまでだ。Aさんが困惑するのは「だからといってフリーハグ運動自体を問題だと言えないこと」でもある。「フリーハグは統一教会だけがやっているわけじゃないですよね。本当にボランティアでやっている人たちもいます。だから、フリーハグ運動は家庭連合の勧誘かもしれないから気をつけて! なんて言えない。純粋にやっている人に迷惑がかかっちゃう」Aさんがそこに思いが至ったのは、2017年に別のフリーハグ運動の女性4人と知り合ったことがきっかけだった。彼女たちはどこにも属していない独自の活動で、単に韓流ドラマやK-POPを好きになったことで行った韓国旅行から、日韓友好を強く願うようになっただけだった。フリーハグ運動のテーマは隣国との友好に限らず、国境なき民間交流を促したいというムーブメント自体には意義があると考えられる。「そこに水を差したくないので、これまで黙っていたんです」とAさん。Aさん自身はいまだ「信者の親を悲しませたくない」ということから信者のままだが「いま家庭連合が批判されているのは正直ホッとしている」と言う。「信者としては白い目で見られるからつらいけど、連合もこれでむやみに布教や寄付活動をやりにくくなったと思います」 彼女は現在、信者ではない男性に片想いしており、いずれ脱会して自由な恋愛をしたいという。「信者じゃなくなったら、友達になったフリーハグの人たちと一緒に、宗教に関係ないフリーハグやりたいとも思うかもしれません」ある意味、これもフリーハグ運動による効果ではあった。
ただ、これは教会が上から統率したものではなく、いわば関連団体が独自におこなっている活動となるだけに、教会がこれについて「関知していない」と言えばそれまでだ。Aさんが困惑するのは「だからといってフリーハグ運動自体を問題だと言えないこと」でもある。
「フリーハグは統一教会だけがやっているわけじゃないですよね。本当にボランティアでやっている人たちもいます。だから、フリーハグ運動は家庭連合の勧誘かもしれないから気をつけて! なんて言えない。純粋にやっている人に迷惑がかかっちゃう」
Aさんがそこに思いが至ったのは、2017年に別のフリーハグ運動の女性4人と知り合ったことがきっかけだった。彼女たちはどこにも属していない独自の活動で、単に韓流ドラマやK-POPを好きになったことで行った韓国旅行から、日韓友好を強く願うようになっただけだった。フリーハグ運動のテーマは隣国との友好に限らず、国境なき民間交流を促したいというムーブメント自体には意義があると考えられる。
「そこに水を差したくないので、これまで黙っていたんです」とAさん。Aさん自身はいまだ「信者の親を悲しませたくない」ということから信者のままだが「いま家庭連合が批判されているのは正直ホッとしている」と言う。
「信者としては白い目で見られるからつらいけど、連合もこれでむやみに布教や寄付活動をやりにくくなったと思います」
彼女は現在、信者ではない男性に片想いしており、いずれ脱会して自由な恋愛をしたいという。「信者じゃなくなったら、友達になったフリーハグの人たちと一緒に、宗教に関係ないフリーハグやりたいとも思うかもしれません」ある意味、これもフリーハグ運動による効果ではあった。
彼女は現在、信者ではない男性に片想いしており、いずれ脱会して自由な恋愛をしたいという。
「信者じゃなくなったら、友達になったフリーハグの人たちと一緒に、宗教に関係ないフリーハグやりたいとも思うかもしれません」
ある意味、これもフリーハグ運動による効果ではあった。