画像PIXTAそういえばアレ、まだ食べてなかったっけ? 冷蔵庫から取り出し印字をチェックすると、賞味期限が3日過ぎている。食べるべきか食べざるべきか、「消費」期限ではないから大丈夫かもしれないけれど……モヤモヤと冷蔵庫の前で思わず立ち尽くした経験者も少なくないはず。そこで「テレ東プラス」では、賞味期限とは何かを改めて深掘り。アンケートで実態を調査し、結果を踏まえて専門家に話を聞きました。

賞味期限切れを口にした経験は95%以上Yahoo!ニュースを通じて、全国の10~60代以上の男女2000人にアンケートを実施(2022年8月1日)した結果「これまで賞味期限を過ぎた食べ物を口にしたことがある」と答えたのはなんと95.8%。気になる「その食べ物、飲み物(複数回答)」は、乾麺や菓子、缶詰までさまざま。即席麺やレトルト食品がやや多く、加工肉がやや少ない点はあるものの、ばらつきがみられます。「賞味期限を過ぎても『食べていい』と判断する基準(複数回答)」は匂いが81.3%とトップで、食材の種類や色での判断も5割以上。自由回答では「加熱できるかどうか」「糸を引いているか」「食べてみて味に変化がないか」などのコメントが寄せられました。「賞味期限に関して印象的なエピソード(自由回答)」では「(賞味期限が)10年前のビールを飲んだ」「4年過ぎていたレトルトカレーを食べたが普通だった」という強者がいる一方で「家族に、賞味期限が過ぎた物を絶対食べない者がいる」というコメントも。賞味期限とは何か。アンケートの集計内容や寄せられた意見や疑問をもとに、食品安全に詳しい消費生活アドバイザーの蒲生恵美さんにお話をうかがいました。 期限が過ぎた方がおいしい?画像PIXTAQ.そもそも賞味期限とはどのようなものか、お聞かせください。「賞味期限とは、その名の通り『おいしく食べられる期限』のことです。『過ぎたら食べない方がいい期限』の消費期限とは異なります。期限表示が加工食品に導入されたのは1995年。それまでは一部を除いて製造年月日を書くよう定められていました。しかし時代の移り変わりとともに、製造・加工技術や容器包装が進化し、流通や保存環境も改善されて、人々の予想を超えて食品が長もちするようになっていきました。そこで『つくられたのがこの時期ならこれくらいもつだろう』と各自に判断してもらうよりはメーカーとして味や品質の保証期間を明記しようということになり、海外でもすでに導入が進んでいた期限表示をするようになったのです。賞味期限は、食品の特性に応じて粘り気や酸度・糖度はどうか(理化学検査)、食中毒の原因となる微生物の有無や細菌数はどうか(微生物検査)、訓練された人が実際に食べて味や香りを調べる(官能検査)などの検査結果や積み重ねられた知見をもとに設定されています」Q.「賞味期限と消費期限が別々なのがややこしい。統一できないか」との意見もありました。「どちらかに一本化してほしいとのご意見は私もいただきます。ですが、食品は数日で傷むものから数年もつものまで多様です。風味が落ちても食べられる期間がまだまだあるというものも多いため、消費期限に統一すると、今度は『じゃあいつまでがおいしいのか』という疑問が生まれてきてしまいます。それなら品質が保たれ、おいしく食べられる目安を示した方が、利用タイミングが分かって現実的ではないか、という考え方もできます。2021(令和3)年の消費者意識調査(消費者庁)によると、賞味期限と消費期限が異なると認知している人は71.9%。2つの期限の使い分けについてある程度は浸透しているのではないでしょうか」Q.「賞味期限を過ぎてから食べた食品」がどんなものか、アンケート結果がばらけました。「気にすべきは食品の種類より、その食品がどんな状態にあるかです。繰り返しますが賞味期限は『おいしく食べられる期限』。限度はありますが、賞味期限を過ぎたら絶対に食べてはいけないわけではありません。ただ、そこには前提条件があります。それは『未開封』であることと『表示された方法で保存しているか』です。商品に印字された賞味期限は、この2つが守られて発揮します。すでに開封していたり、要冷蔵と書かれているのに常温で保存していたりすると賞味期限日よりも早く品質が劣化する可能性があります。まずは保存方法をきちんと守ること、そして開封したら賞味期限の日付にかかわらず、早めに食べ切るようにしましょう」Q.食べられるかどうかを匂いで判断する回答者が最も多い結果になりました。この判断方法についてどう思われますか。「良いと思います。臭いでの判断のほかにも、変色していないか、カビが生えていないかなどの色のチェックも有効です。それから、包装が正しく保たれているかどうかの確認もおすすめ。容器がどこかにぶつかって穴が開いたり、へこんでいたりすると未開封の状態が保たれず、賞味期限より前に品質が劣化する可能性があります。難しいのが、食中毒の判断です。食品に食中毒菌が増殖していても味や色、臭いが変わらないことがほとんどで気づくのは困難です。食品を清潔に取り扱い、低温保存や早めの消費を徹底したり、ものによっては加熱して細菌やウイルスをやっつけたりするのも有効な手段といえるでしょう」Q.一方で、キムチなどの発酵食品や缶詰などは、賞味期限を過ぎてからがおいしいと言う回答者もいました。「味の良し悪しは主観のため、事業者が設定した期限を過ぎてからの方がおいしいと感じる人がいても不思議ではありません。かくいう私もキムチは発酵が進んだすっぱいものが好きですし、缶詰も製造してすぐよりも時間が経った方がおいしくなるという人もいます。匂いや見た目などをチェックし、安全に食べられる範囲で、自分がおいしいと感じるタイミングで召し上がってください」Q.同じような食品でも日本と海外で賞味期限が異なると聞きます。これはなぜでしょうか。「賞味期限の設定は、どう製造し、加工し、流通し、保存するかによって変わります。ですから同じように見える食品でも、製造方法や流通方法が変われば食品に与える影響が変わり、賞味期限が異なることは十分にあります。日本国内でも近しい商品に異なる賞味期限が設定されているのはそのためで、製造・流通方法等に加えて気温や湿度まで違う海外ならなおさらというわけです」Q.本来は食べられるのに廃棄される「食品ロス」がいまも問題になっています。賞味期限の見直しは食品ロス減にどうつながっていくのでしょうか。「期限の見直しは、食品ロス削減のための大事な対策の一つです。そのため国が音頭を取り、いくつかの対策が進められています。食品ロスに影響を与えているのは、日本独自の商習慣『3分の1ルール』です。3分の1ルールとは、食品が流通する過程で、食品メーカー、卸売業界、小売業者が製造日から賞味期限までの期間を3分割して、卸売業者は自身が受け持つ3分の1の期間のうちに小売業者に納品しなくてはいけない、というもの。このルールがあるため納品が遅れてしまうと、賞味期限が残っていようと食品はメーカー返品や廃棄の道をたどります。これが食品ロスの発生原因の一つだと指摘され、最近では見直す動きも出てきています。また、賞味期限が1日でも逆転する食品は納品できないという商習慣への対策として、大手食品・飲料メーカーを中心に賞味期限の表示を『年月』へ変更する取り組みも拡大しています。日付管理は品質保持のために大事ですが、数か月もつ食品で賞味期限が1日違うだけで品質が大きく変わることはありません。食品表示基準では、賞味期限が3ヵ月以上ある食品は『年月日』ではなく『年月』表示が元々できるのですが、実際にはこれまでなかなか浸透していませんでした」Q.これらの取り組みで賞味期限が延びていくのでしょうか。「年月表示に切り替えると月末までを担保しなくてはならないため、本来『11月29日』まであった賞味期限が『10月』の表記になり、むしろ期限が短縮されてしまいます。また3分の1ルールも2分の1に緩和すると、小売店では単純に販売期間が短くなってしまいます。そこで、この両方の問題への解決策として期待されるのが、科学的知見に基づいた賞味期限の見直し(延長)です。例えばインスタントラーメンの袋麺なら従来の賞味期限は6ヵ月、カップ麺は5ヵ月が一般的でしたが、製造・包装技術の進歩を鑑みて、改めて科学的に検証した結果、それぞれ1~2ヶ月(袋麺8ヵ月、カップ麺6ヵ月)の延長が可能とわかりました。食品ロス対策をきっかけに賞味期限が再検証され、おいしく食べられる期限が延びたのは喜ばしいこと。インスタントラーメンだけでなく、他の食品でも改めて賞味期間を見直す動きは活発になってきています」Q.賞味期限に対する潮流も変わってきたように感じます。「2000から2010年ごろまでは少しでもルール違反なら廃棄すべきという風潮がありました。ですがいま企業がもったいない行為をすれば、消費者からむしろ叩かれます。また、消費者庁は安全性と関わらないような表示ミスの場合は、表示を貼り直してそのまま売りましょうと推奨しています。そのほかにも賞味期限切れの商品を売るスーパーが歓迎されたり、エコフレンドリーの企業が評価されたりと『もったいない』への意識は人々の中で高まっています。正しい知識を身につけ、ときには五感を駆使して、賞味期限と向き合っていただければと思います」【公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会 蒲生恵美(がもう えみ)】慶応義塾大学文学部卒。雪印乳業株式会社、目白大学助手・講師を経て、(公社)日本輸入食品安全推進協会事務局長。(公社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会所属。行政委員等として、内閣府食品安全委員会リスクコミュニケーション専門調査会、農林水産省JAS規格調査会、東京都食品安全情報評価委員会、東京都食品安全審議会、消費者庁栄養成分表示検討会、消費者委員会食品表示部会等の委員を務める。(取材・文/森田浩明)
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そういえばアレ、まだ食べてなかったっけ? 冷蔵庫から取り出し印字をチェックすると、賞味期限が3日過ぎている。食べるべきか食べざるべきか、「消費」期限ではないから大丈夫かもしれないけれど……モヤモヤと冷蔵庫の前で思わず立ち尽くした経験者も少なくないはず。
そこで「テレ東プラス」では、賞味期限とは何かを改めて深掘り。アンケートで実態を調査し、結果を踏まえて専門家に話を聞きました。
賞味期限切れを口にした経験は95%以上Yahoo!ニュースを通じて、全国の10~60代以上の男女2000人にアンケートを実施(2022年8月1日)した結果「これまで賞味期限を過ぎた食べ物を口にしたことがある」と答えたのはなんと95.8%。気になる「その食べ物、飲み物(複数回答)」は、乾麺や菓子、缶詰までさまざま。即席麺やレトルト食品がやや多く、加工肉がやや少ない点はあるものの、ばらつきがみられます。「賞味期限を過ぎても『食べていい』と判断する基準(複数回答)」は匂いが81.3%とトップで、食材の種類や色での判断も5割以上。自由回答では「加熱できるかどうか」「糸を引いているか」「食べてみて味に変化がないか」などのコメントが寄せられました。「賞味期限に関して印象的なエピソード(自由回答)」では「(賞味期限が)10年前のビールを飲んだ」「4年過ぎていたレトルトカレーを食べたが普通だった」という強者がいる一方で「家族に、賞味期限が過ぎた物を絶対食べない者がいる」というコメントも。賞味期限とは何か。アンケートの集計内容や寄せられた意見や疑問をもとに、食品安全に詳しい消費生活アドバイザーの蒲生恵美さんにお話をうかがいました。 期限が過ぎた方がおいしい?画像PIXTAQ.そもそも賞味期限とはどのようなものか、お聞かせください。「賞味期限とは、その名の通り『おいしく食べられる期限』のことです。『過ぎたら食べない方がいい期限』の消費期限とは異なります。期限表示が加工食品に導入されたのは1995年。それまでは一部を除いて製造年月日を書くよう定められていました。しかし時代の移り変わりとともに、製造・加工技術や容器包装が進化し、流通や保存環境も改善されて、人々の予想を超えて食品が長もちするようになっていきました。そこで『つくられたのがこの時期ならこれくらいもつだろう』と各自に判断してもらうよりはメーカーとして味や品質の保証期間を明記しようということになり、海外でもすでに導入が進んでいた期限表示をするようになったのです。賞味期限は、食品の特性に応じて粘り気や酸度・糖度はどうか(理化学検査)、食中毒の原因となる微生物の有無や細菌数はどうか(微生物検査)、訓練された人が実際に食べて味や香りを調べる(官能検査)などの検査結果や積み重ねられた知見をもとに設定されています」Q.「賞味期限と消費期限が別々なのがややこしい。統一できないか」との意見もありました。「どちらかに一本化してほしいとのご意見は私もいただきます。ですが、食品は数日で傷むものから数年もつものまで多様です。風味が落ちても食べられる期間がまだまだあるというものも多いため、消費期限に統一すると、今度は『じゃあいつまでがおいしいのか』という疑問が生まれてきてしまいます。それなら品質が保たれ、おいしく食べられる目安を示した方が、利用タイミングが分かって現実的ではないか、という考え方もできます。2021(令和3)年の消費者意識調査(消費者庁)によると、賞味期限と消費期限が異なると認知している人は71.9%。2つの期限の使い分けについてある程度は浸透しているのではないでしょうか」Q.「賞味期限を過ぎてから食べた食品」がどんなものか、アンケート結果がばらけました。「気にすべきは食品の種類より、その食品がどんな状態にあるかです。繰り返しますが賞味期限は『おいしく食べられる期限』。限度はありますが、賞味期限を過ぎたら絶対に食べてはいけないわけではありません。ただ、そこには前提条件があります。それは『未開封』であることと『表示された方法で保存しているか』です。商品に印字された賞味期限は、この2つが守られて発揮します。すでに開封していたり、要冷蔵と書かれているのに常温で保存していたりすると賞味期限日よりも早く品質が劣化する可能性があります。まずは保存方法をきちんと守ること、そして開封したら賞味期限の日付にかかわらず、早めに食べ切るようにしましょう」Q.食べられるかどうかを匂いで判断する回答者が最も多い結果になりました。この判断方法についてどう思われますか。「良いと思います。臭いでの判断のほかにも、変色していないか、カビが生えていないかなどの色のチェックも有効です。それから、包装が正しく保たれているかどうかの確認もおすすめ。容器がどこかにぶつかって穴が開いたり、へこんでいたりすると未開封の状態が保たれず、賞味期限より前に品質が劣化する可能性があります。難しいのが、食中毒の判断です。食品に食中毒菌が増殖していても味や色、臭いが変わらないことがほとんどで気づくのは困難です。食品を清潔に取り扱い、低温保存や早めの消費を徹底したり、ものによっては加熱して細菌やウイルスをやっつけたりするのも有効な手段といえるでしょう」Q.一方で、キムチなどの発酵食品や缶詰などは、賞味期限を過ぎてからがおいしいと言う回答者もいました。「味の良し悪しは主観のため、事業者が設定した期限を過ぎてからの方がおいしいと感じる人がいても不思議ではありません。かくいう私もキムチは発酵が進んだすっぱいものが好きですし、缶詰も製造してすぐよりも時間が経った方がおいしくなるという人もいます。匂いや見た目などをチェックし、安全に食べられる範囲で、自分がおいしいと感じるタイミングで召し上がってください」Q.同じような食品でも日本と海外で賞味期限が異なると聞きます。これはなぜでしょうか。「賞味期限の設定は、どう製造し、加工し、流通し、保存するかによって変わります。ですから同じように見える食品でも、製造方法や流通方法が変われば食品に与える影響が変わり、賞味期限が異なることは十分にあります。日本国内でも近しい商品に異なる賞味期限が設定されているのはそのためで、製造・流通方法等に加えて気温や湿度まで違う海外ならなおさらというわけです」Q.本来は食べられるのに廃棄される「食品ロス」がいまも問題になっています。賞味期限の見直しは食品ロス減にどうつながっていくのでしょうか。「期限の見直しは、食品ロス削減のための大事な対策の一つです。そのため国が音頭を取り、いくつかの対策が進められています。食品ロスに影響を与えているのは、日本独自の商習慣『3分の1ルール』です。3分の1ルールとは、食品が流通する過程で、食品メーカー、卸売業界、小売業者が製造日から賞味期限までの期間を3分割して、卸売業者は自身が受け持つ3分の1の期間のうちに小売業者に納品しなくてはいけない、というもの。このルールがあるため納品が遅れてしまうと、賞味期限が残っていようと食品はメーカー返品や廃棄の道をたどります。これが食品ロスの発生原因の一つだと指摘され、最近では見直す動きも出てきています。また、賞味期限が1日でも逆転する食品は納品できないという商習慣への対策として、大手食品・飲料メーカーを中心に賞味期限の表示を『年月』へ変更する取り組みも拡大しています。日付管理は品質保持のために大事ですが、数か月もつ食品で賞味期限が1日違うだけで品質が大きく変わることはありません。食品表示基準では、賞味期限が3ヵ月以上ある食品は『年月日』ではなく『年月』表示が元々できるのですが、実際にはこれまでなかなか浸透していませんでした」Q.これらの取り組みで賞味期限が延びていくのでしょうか。「年月表示に切り替えると月末までを担保しなくてはならないため、本来『11月29日』まであった賞味期限が『10月』の表記になり、むしろ期限が短縮されてしまいます。また3分の1ルールも2分の1に緩和すると、小売店では単純に販売期間が短くなってしまいます。そこで、この両方の問題への解決策として期待されるのが、科学的知見に基づいた賞味期限の見直し(延長)です。例えばインスタントラーメンの袋麺なら従来の賞味期限は6ヵ月、カップ麺は5ヵ月が一般的でしたが、製造・包装技術の進歩を鑑みて、改めて科学的に検証した結果、それぞれ1~2ヶ月(袋麺8ヵ月、カップ麺6ヵ月)の延長が可能とわかりました。食品ロス対策をきっかけに賞味期限が再検証され、おいしく食べられる期限が延びたのは喜ばしいこと。インスタントラーメンだけでなく、他の食品でも改めて賞味期間を見直す動きは活発になってきています」Q.賞味期限に対する潮流も変わってきたように感じます。「2000から2010年ごろまでは少しでもルール違反なら廃棄すべきという風潮がありました。ですがいま企業がもったいない行為をすれば、消費者からむしろ叩かれます。また、消費者庁は安全性と関わらないような表示ミスの場合は、表示を貼り直してそのまま売りましょうと推奨しています。そのほかにも賞味期限切れの商品を売るスーパーが歓迎されたり、エコフレンドリーの企業が評価されたりと『もったいない』への意識は人々の中で高まっています。正しい知識を身につけ、ときには五感を駆使して、賞味期限と向き合っていただければと思います」【公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会 蒲生恵美(がもう えみ)】慶応義塾大学文学部卒。雪印乳業株式会社、目白大学助手・講師を経て、(公社)日本輸入食品安全推進協会事務局長。(公社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会所属。行政委員等として、内閣府食品安全委員会リスクコミュニケーション専門調査会、農林水産省JAS規格調査会、東京都食品安全情報評価委員会、東京都食品安全審議会、消費者庁栄養成分表示検討会、消費者委員会食品表示部会等の委員を務める。(取材・文/森田浩明)
賞味期限切れを口にした経験は95%以上Yahoo!ニュースを通じて、全国の10~60代以上の男女2000人にアンケートを実施(2022年8月1日)した結果「これまで賞味期限を過ぎた食べ物を口にしたことがある」と答えたのはなんと95.8%。気になる「その食べ物、飲み物(複数回答)」は、乾麺や菓子、缶詰までさまざま。即席麺やレトルト食品がやや多く、加工肉がやや少ない点はあるものの、ばらつきがみられます。「賞味期限を過ぎても『食べていい』と判断する基準(複数回答)」は匂いが81.3%とトップで、食材の種類や色での判断も5割以上。自由回答では「加熱できるかどうか」「糸を引いているか」「食べてみて味に変化がないか」などのコメントが寄せられました。「賞味期限に関して印象的なエピソード(自由回答)」では「(賞味期限が)10年前のビールを飲んだ」「4年過ぎていたレトルトカレーを食べたが普通だった」という強者がいる一方で「家族に、賞味期限が過ぎた物を絶対食べない者がいる」というコメントも。賞味期限とは何か。アンケートの集計内容や寄せられた意見や疑問をもとに、食品安全に詳しい消費生活アドバイザーの蒲生恵美さんにお話をうかがいました。 期限が過ぎた方がおいしい?画像PIXTAQ.そもそも賞味期限とはどのようなものか、お聞かせください。「賞味期限とは、その名の通り『おいしく食べられる期限』のことです。『過ぎたら食べない方がいい期限』の消費期限とは異なります。期限表示が加工食品に導入されたのは1995年。それまでは一部を除いて製造年月日を書くよう定められていました。しかし時代の移り変わりとともに、製造・加工技術や容器包装が進化し、流通や保存環境も改善されて、人々の予想を超えて食品が長もちするようになっていきました。そこで『つくられたのがこの時期ならこれくらいもつだろう』と各自に判断してもらうよりはメーカーとして味や品質の保証期間を明記しようということになり、海外でもすでに導入が進んでいた期限表示をするようになったのです。賞味期限は、食品の特性に応じて粘り気や酸度・糖度はどうか(理化学検査)、食中毒の原因となる微生物の有無や細菌数はどうか(微生物検査)、訓練された人が実際に食べて味や香りを調べる(官能検査)などの検査結果や積み重ねられた知見をもとに設定されています」Q.「賞味期限と消費期限が別々なのがややこしい。統一できないか」との意見もありました。「どちらかに一本化してほしいとのご意見は私もいただきます。ですが、食品は数日で傷むものから数年もつものまで多様です。風味が落ちても食べられる期間がまだまだあるというものも多いため、消費期限に統一すると、今度は『じゃあいつまでがおいしいのか』という疑問が生まれてきてしまいます。それなら品質が保たれ、おいしく食べられる目安を示した方が、利用タイミングが分かって現実的ではないか、という考え方もできます。2021(令和3)年の消費者意識調査(消費者庁)によると、賞味期限と消費期限が異なると認知している人は71.9%。2つの期限の使い分けについてある程度は浸透しているのではないでしょうか」Q.「賞味期限を過ぎてから食べた食品」がどんなものか、アンケート結果がばらけました。「気にすべきは食品の種類より、その食品がどんな状態にあるかです。繰り返しますが賞味期限は『おいしく食べられる期限』。限度はありますが、賞味期限を過ぎたら絶対に食べてはいけないわけではありません。ただ、そこには前提条件があります。それは『未開封』であることと『表示された方法で保存しているか』です。商品に印字された賞味期限は、この2つが守られて発揮します。すでに開封していたり、要冷蔵と書かれているのに常温で保存していたりすると賞味期限日よりも早く品質が劣化する可能性があります。まずは保存方法をきちんと守ること、そして開封したら賞味期限の日付にかかわらず、早めに食べ切るようにしましょう」Q.食べられるかどうかを匂いで判断する回答者が最も多い結果になりました。この判断方法についてどう思われますか。「良いと思います。臭いでの判断のほかにも、変色していないか、カビが生えていないかなどの色のチェックも有効です。それから、包装が正しく保たれているかどうかの確認もおすすめ。容器がどこかにぶつかって穴が開いたり、へこんでいたりすると未開封の状態が保たれず、賞味期限より前に品質が劣化する可能性があります。難しいのが、食中毒の判断です。食品に食中毒菌が増殖していても味や色、臭いが変わらないことがほとんどで気づくのは困難です。食品を清潔に取り扱い、低温保存や早めの消費を徹底したり、ものによっては加熱して細菌やウイルスをやっつけたりするのも有効な手段といえるでしょう」Q.一方で、キムチなどの発酵食品や缶詰などは、賞味期限を過ぎてからがおいしいと言う回答者もいました。「味の良し悪しは主観のため、事業者が設定した期限を過ぎてからの方がおいしいと感じる人がいても不思議ではありません。かくいう私もキムチは発酵が進んだすっぱいものが好きですし、缶詰も製造してすぐよりも時間が経った方がおいしくなるという人もいます。匂いや見た目などをチェックし、安全に食べられる範囲で、自分がおいしいと感じるタイミングで召し上がってください」Q.同じような食品でも日本と海外で賞味期限が異なると聞きます。これはなぜでしょうか。「賞味期限の設定は、どう製造し、加工し、流通し、保存するかによって変わります。ですから同じように見える食品でも、製造方法や流通方法が変われば食品に与える影響が変わり、賞味期限が異なることは十分にあります。日本国内でも近しい商品に異なる賞味期限が設定されているのはそのためで、製造・流通方法等に加えて気温や湿度まで違う海外ならなおさらというわけです」Q.本来は食べられるのに廃棄される「食品ロス」がいまも問題になっています。賞味期限の見直しは食品ロス減にどうつながっていくのでしょうか。「期限の見直しは、食品ロス削減のための大事な対策の一つです。そのため国が音頭を取り、いくつかの対策が進められています。食品ロスに影響を与えているのは、日本独自の商習慣『3分の1ルール』です。3分の1ルールとは、食品が流通する過程で、食品メーカー、卸売業界、小売業者が製造日から賞味期限までの期間を3分割して、卸売業者は自身が受け持つ3分の1の期間のうちに小売業者に納品しなくてはいけない、というもの。このルールがあるため納品が遅れてしまうと、賞味期限が残っていようと食品はメーカー返品や廃棄の道をたどります。これが食品ロスの発生原因の一つだと指摘され、最近では見直す動きも出てきています。また、賞味期限が1日でも逆転する食品は納品できないという商習慣への対策として、大手食品・飲料メーカーを中心に賞味期限の表示を『年月』へ変更する取り組みも拡大しています。日付管理は品質保持のために大事ですが、数か月もつ食品で賞味期限が1日違うだけで品質が大きく変わることはありません。食品表示基準では、賞味期限が3ヵ月以上ある食品は『年月日』ではなく『年月』表示が元々できるのですが、実際にはこれまでなかなか浸透していませんでした」Q.これらの取り組みで賞味期限が延びていくのでしょうか。「年月表示に切り替えると月末までを担保しなくてはならないため、本来『11月29日』まであった賞味期限が『10月』の表記になり、むしろ期限が短縮されてしまいます。また3分の1ルールも2分の1に緩和すると、小売店では単純に販売期間が短くなってしまいます。そこで、この両方の問題への解決策として期待されるのが、科学的知見に基づいた賞味期限の見直し(延長)です。例えばインスタントラーメンの袋麺なら従来の賞味期限は6ヵ月、カップ麺は5ヵ月が一般的でしたが、製造・包装技術の進歩を鑑みて、改めて科学的に検証した結果、それぞれ1~2ヶ月(袋麺8ヵ月、カップ麺6ヵ月)の延長が可能とわかりました。食品ロス対策をきっかけに賞味期限が再検証され、おいしく食べられる期限が延びたのは喜ばしいこと。インスタントラーメンだけでなく、他の食品でも改めて賞味期間を見直す動きは活発になってきています」Q.賞味期限に対する潮流も変わってきたように感じます。「2000から2010年ごろまでは少しでもルール違反なら廃棄すべきという風潮がありました。ですがいま企業がもったいない行為をすれば、消費者からむしろ叩かれます。また、消費者庁は安全性と関わらないような表示ミスの場合は、表示を貼り直してそのまま売りましょうと推奨しています。そのほかにも賞味期限切れの商品を売るスーパーが歓迎されたり、エコフレンドリーの企業が評価されたりと『もったいない』への意識は人々の中で高まっています。正しい知識を身につけ、ときには五感を駆使して、賞味期限と向き合っていただければと思います」【公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会 蒲生恵美(がもう えみ)】慶応義塾大学文学部卒。雪印乳業株式会社、目白大学助手・講師を経て、(公社)日本輸入食品安全推進協会事務局長。(公社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会所属。行政委員等として、内閣府食品安全委員会リスクコミュニケーション専門調査会、農林水産省JAS規格調査会、東京都食品安全情報評価委員会、東京都食品安全審議会、消費者庁栄養成分表示検討会、消費者委員会食品表示部会等の委員を務める。(取材・文/森田浩明)
Yahoo!ニュースを通じて、全国の10~60代以上の男女2000人にアンケートを実施(2022年8月1日)した結果「これまで賞味期限を過ぎた食べ物を口にしたことがある」と答えたのはなんと95.8%。
気になる「その食べ物、飲み物(複数回答)」は、乾麺や菓子、缶詰までさまざま。即席麺やレトルト食品がやや多く、加工肉がやや少ない点はあるものの、ばらつきがみられます。
「賞味期限を過ぎても『食べていい』と判断する基準(複数回答)」は匂いが81.3%とトップで、食材の種類や色での判断も5割以上。自由回答では「加熱できるかどうか」「糸を引いているか」「食べてみて味に変化がないか」などのコメントが寄せられました。
「賞味期限に関して印象的なエピソード(自由回答)」では「(賞味期限が)10年前のビールを飲んだ」「4年過ぎていたレトルトカレーを食べたが普通だった」という強者がいる一方で「家族に、賞味期限が過ぎた物を絶対食べない者がいる」というコメントも。
賞味期限とは何か。アンケートの集計内容や寄せられた意見や疑問をもとに、食品安全に詳しい消費生活アドバイザーの蒲生恵美さんにお話をうかがいました。
期限が過ぎた方がおいしい?画像PIXTAQ.そもそも賞味期限とはどのようなものか、お聞かせください。「賞味期限とは、その名の通り『おいしく食べられる期限』のことです。『過ぎたら食べない方がいい期限』の消費期限とは異なります。期限表示が加工食品に導入されたのは1995年。それまでは一部を除いて製造年月日を書くよう定められていました。しかし時代の移り変わりとともに、製造・加工技術や容器包装が進化し、流通や保存環境も改善されて、人々の予想を超えて食品が長もちするようになっていきました。そこで『つくられたのがこの時期ならこれくらいもつだろう』と各自に判断してもらうよりはメーカーとして味や品質の保証期間を明記しようということになり、海外でもすでに導入が進んでいた期限表示をするようになったのです。賞味期限は、食品の特性に応じて粘り気や酸度・糖度はどうか(理化学検査)、食中毒の原因となる微生物の有無や細菌数はどうか(微生物検査)、訓練された人が実際に食べて味や香りを調べる(官能検査)などの検査結果や積み重ねられた知見をもとに設定されています」Q.「賞味期限と消費期限が別々なのがややこしい。統一できないか」との意見もありました。「どちらかに一本化してほしいとのご意見は私もいただきます。ですが、食品は数日で傷むものから数年もつものまで多様です。風味が落ちても食べられる期間がまだまだあるというものも多いため、消費期限に統一すると、今度は『じゃあいつまでがおいしいのか』という疑問が生まれてきてしまいます。それなら品質が保たれ、おいしく食べられる目安を示した方が、利用タイミングが分かって現実的ではないか、という考え方もできます。2021(令和3)年の消費者意識調査(消費者庁)によると、賞味期限と消費期限が異なると認知している人は71.9%。2つの期限の使い分けについてある程度は浸透しているのではないでしょうか」Q.「賞味期限を過ぎてから食べた食品」がどんなものか、アンケート結果がばらけました。「気にすべきは食品の種類より、その食品がどんな状態にあるかです。繰り返しますが賞味期限は『おいしく食べられる期限』。限度はありますが、賞味期限を過ぎたら絶対に食べてはいけないわけではありません。ただ、そこには前提条件があります。それは『未開封』であることと『表示された方法で保存しているか』です。商品に印字された賞味期限は、この2つが守られて発揮します。すでに開封していたり、要冷蔵と書かれているのに常温で保存していたりすると賞味期限日よりも早く品質が劣化する可能性があります。まずは保存方法をきちんと守ること、そして開封したら賞味期限の日付にかかわらず、早めに食べ切るようにしましょう」Q.食べられるかどうかを匂いで判断する回答者が最も多い結果になりました。この判断方法についてどう思われますか。「良いと思います。臭いでの判断のほかにも、変色していないか、カビが生えていないかなどの色のチェックも有効です。それから、包装が正しく保たれているかどうかの確認もおすすめ。容器がどこかにぶつかって穴が開いたり、へこんでいたりすると未開封の状態が保たれず、賞味期限より前に品質が劣化する可能性があります。難しいのが、食中毒の判断です。食品に食中毒菌が増殖していても味や色、臭いが変わらないことがほとんどで気づくのは困難です。食品を清潔に取り扱い、低温保存や早めの消費を徹底したり、ものによっては加熱して細菌やウイルスをやっつけたりするのも有効な手段といえるでしょう」Q.一方で、キムチなどの発酵食品や缶詰などは、賞味期限を過ぎてからがおいしいと言う回答者もいました。「味の良し悪しは主観のため、事業者が設定した期限を過ぎてからの方がおいしいと感じる人がいても不思議ではありません。かくいう私もキムチは発酵が進んだすっぱいものが好きですし、缶詰も製造してすぐよりも時間が経った方がおいしくなるという人もいます。匂いや見た目などをチェックし、安全に食べられる範囲で、自分がおいしいと感じるタイミングで召し上がってください」Q.同じような食品でも日本と海外で賞味期限が異なると聞きます。これはなぜでしょうか。「賞味期限の設定は、どう製造し、加工し、流通し、保存するかによって変わります。ですから同じように見える食品でも、製造方法や流通方法が変われば食品に与える影響が変わり、賞味期限が異なることは十分にあります。日本国内でも近しい商品に異なる賞味期限が設定されているのはそのためで、製造・流通方法等に加えて気温や湿度まで違う海外ならなおさらというわけです」Q.本来は食べられるのに廃棄される「食品ロス」がいまも問題になっています。賞味期限の見直しは食品ロス減にどうつながっていくのでしょうか。「期限の見直しは、食品ロス削減のための大事な対策の一つです。そのため国が音頭を取り、いくつかの対策が進められています。食品ロスに影響を与えているのは、日本独自の商習慣『3分の1ルール』です。3分の1ルールとは、食品が流通する過程で、食品メーカー、卸売業界、小売業者が製造日から賞味期限までの期間を3分割して、卸売業者は自身が受け持つ3分の1の期間のうちに小売業者に納品しなくてはいけない、というもの。このルールがあるため納品が遅れてしまうと、賞味期限が残っていようと食品はメーカー返品や廃棄の道をたどります。これが食品ロスの発生原因の一つだと指摘され、最近では見直す動きも出てきています。また、賞味期限が1日でも逆転する食品は納品できないという商習慣への対策として、大手食品・飲料メーカーを中心に賞味期限の表示を『年月』へ変更する取り組みも拡大しています。日付管理は品質保持のために大事ですが、数か月もつ食品で賞味期限が1日違うだけで品質が大きく変わることはありません。食品表示基準では、賞味期限が3ヵ月以上ある食品は『年月日』ではなく『年月』表示が元々できるのですが、実際にはこれまでなかなか浸透していませんでした」Q.これらの取り組みで賞味期限が延びていくのでしょうか。「年月表示に切り替えると月末までを担保しなくてはならないため、本来『11月29日』まであった賞味期限が『10月』の表記になり、むしろ期限が短縮されてしまいます。また3分の1ルールも2分の1に緩和すると、小売店では単純に販売期間が短くなってしまいます。そこで、この両方の問題への解決策として期待されるのが、科学的知見に基づいた賞味期限の見直し(延長)です。例えばインスタントラーメンの袋麺なら従来の賞味期限は6ヵ月、カップ麺は5ヵ月が一般的でしたが、製造・包装技術の進歩を鑑みて、改めて科学的に検証した結果、それぞれ1~2ヶ月(袋麺8ヵ月、カップ麺6ヵ月)の延長が可能とわかりました。食品ロス対策をきっかけに賞味期限が再検証され、おいしく食べられる期限が延びたのは喜ばしいこと。インスタントラーメンだけでなく、他の食品でも改めて賞味期間を見直す動きは活発になってきています」Q.賞味期限に対する潮流も変わってきたように感じます。「2000から2010年ごろまでは少しでもルール違反なら廃棄すべきという風潮がありました。ですがいま企業がもったいない行為をすれば、消費者からむしろ叩かれます。また、消費者庁は安全性と関わらないような表示ミスの場合は、表示を貼り直してそのまま売りましょうと推奨しています。そのほかにも賞味期限切れの商品を売るスーパーが歓迎されたり、エコフレンドリーの企業が評価されたりと『もったいない』への意識は人々の中で高まっています。正しい知識を身につけ、ときには五感を駆使して、賞味期限と向き合っていただければと思います」【公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会 蒲生恵美(がもう えみ)】慶応義塾大学文学部卒。雪印乳業株式会社、目白大学助手・講師を経て、(公社)日本輸入食品安全推進協会事務局長。(公社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会所属。行政委員等として、内閣府食品安全委員会リスクコミュニケーション専門調査会、農林水産省JAS規格調査会、東京都食品安全情報評価委員会、東京都食品安全審議会、消費者庁栄養成分表示検討会、消費者委員会食品表示部会等の委員を務める。(取材・文/森田浩明)
期限が過ぎた方がおいしい?画像PIXTAQ.そもそも賞味期限とはどのようなものか、お聞かせください。「賞味期限とは、その名の通り『おいしく食べられる期限』のことです。『過ぎたら食べない方がいい期限』の消費期限とは異なります。期限表示が加工食品に導入されたのは1995年。それまでは一部を除いて製造年月日を書くよう定められていました。しかし時代の移り変わりとともに、製造・加工技術や容器包装が進化し、流通や保存環境も改善されて、人々の予想を超えて食品が長もちするようになっていきました。そこで『つくられたのがこの時期ならこれくらいもつだろう』と各自に判断してもらうよりはメーカーとして味や品質の保証期間を明記しようということになり、海外でもすでに導入が進んでいた期限表示をするようになったのです。賞味期限は、食品の特性に応じて粘り気や酸度・糖度はどうか(理化学検査)、食中毒の原因となる微生物の有無や細菌数はどうか(微生物検査)、訓練された人が実際に食べて味や香りを調べる(官能検査)などの検査結果や積み重ねられた知見をもとに設定されています」Q.「賞味期限と消費期限が別々なのがややこしい。統一できないか」との意見もありました。「どちらかに一本化してほしいとのご意見は私もいただきます。ですが、食品は数日で傷むものから数年もつものまで多様です。風味が落ちても食べられる期間がまだまだあるというものも多いため、消費期限に統一すると、今度は『じゃあいつまでがおいしいのか』という疑問が生まれてきてしまいます。それなら品質が保たれ、おいしく食べられる目安を示した方が、利用タイミングが分かって現実的ではないか、という考え方もできます。2021(令和3)年の消費者意識調査(消費者庁)によると、賞味期限と消費期限が異なると認知している人は71.9%。2つの期限の使い分けについてある程度は浸透しているのではないでしょうか」Q.「賞味期限を過ぎてから食べた食品」がどんなものか、アンケート結果がばらけました。「気にすべきは食品の種類より、その食品がどんな状態にあるかです。繰り返しますが賞味期限は『おいしく食べられる期限』。限度はありますが、賞味期限を過ぎたら絶対に食べてはいけないわけではありません。ただ、そこには前提条件があります。それは『未開封』であることと『表示された方法で保存しているか』です。商品に印字された賞味期限は、この2つが守られて発揮します。すでに開封していたり、要冷蔵と書かれているのに常温で保存していたりすると賞味期限日よりも早く品質が劣化する可能性があります。まずは保存方法をきちんと守ること、そして開封したら賞味期限の日付にかかわらず、早めに食べ切るようにしましょう」Q.食べられるかどうかを匂いで判断する回答者が最も多い結果になりました。この判断方法についてどう思われますか。「良いと思います。臭いでの判断のほかにも、変色していないか、カビが生えていないかなどの色のチェックも有効です。それから、包装が正しく保たれているかどうかの確認もおすすめ。容器がどこかにぶつかって穴が開いたり、へこんでいたりすると未開封の状態が保たれず、賞味期限より前に品質が劣化する可能性があります。難しいのが、食中毒の判断です。食品に食中毒菌が増殖していても味や色、臭いが変わらないことがほとんどで気づくのは困難です。食品を清潔に取り扱い、低温保存や早めの消費を徹底したり、ものによっては加熱して細菌やウイルスをやっつけたりするのも有効な手段といえるでしょう」Q.一方で、キムチなどの発酵食品や缶詰などは、賞味期限を過ぎてからがおいしいと言う回答者もいました。「味の良し悪しは主観のため、事業者が設定した期限を過ぎてからの方がおいしいと感じる人がいても不思議ではありません。かくいう私もキムチは発酵が進んだすっぱいものが好きですし、缶詰も製造してすぐよりも時間が経った方がおいしくなるという人もいます。匂いや見た目などをチェックし、安全に食べられる範囲で、自分がおいしいと感じるタイミングで召し上がってください」Q.同じような食品でも日本と海外で賞味期限が異なると聞きます。これはなぜでしょうか。「賞味期限の設定は、どう製造し、加工し、流通し、保存するかによって変わります。ですから同じように見える食品でも、製造方法や流通方法が変われば食品に与える影響が変わり、賞味期限が異なることは十分にあります。日本国内でも近しい商品に異なる賞味期限が設定されているのはそのためで、製造・流通方法等に加えて気温や湿度まで違う海外ならなおさらというわけです」Q.本来は食べられるのに廃棄される「食品ロス」がいまも問題になっています。賞味期限の見直しは食品ロス減にどうつながっていくのでしょうか。「期限の見直しは、食品ロス削減のための大事な対策の一つです。そのため国が音頭を取り、いくつかの対策が進められています。食品ロスに影響を与えているのは、日本独自の商習慣『3分の1ルール』です。3分の1ルールとは、食品が流通する過程で、食品メーカー、卸売業界、小売業者が製造日から賞味期限までの期間を3分割して、卸売業者は自身が受け持つ3分の1の期間のうちに小売業者に納品しなくてはいけない、というもの。このルールがあるため納品が遅れてしまうと、賞味期限が残っていようと食品はメーカー返品や廃棄の道をたどります。これが食品ロスの発生原因の一つだと指摘され、最近では見直す動きも出てきています。また、賞味期限が1日でも逆転する食品は納品できないという商習慣への対策として、大手食品・飲料メーカーを中心に賞味期限の表示を『年月』へ変更する取り組みも拡大しています。日付管理は品質保持のために大事ですが、数か月もつ食品で賞味期限が1日違うだけで品質が大きく変わることはありません。食品表示基準では、賞味期限が3ヵ月以上ある食品は『年月日』ではなく『年月』表示が元々できるのですが、実際にはこれまでなかなか浸透していませんでした」Q.これらの取り組みで賞味期限が延びていくのでしょうか。「年月表示に切り替えると月末までを担保しなくてはならないため、本来『11月29日』まであった賞味期限が『10月』の表記になり、むしろ期限が短縮されてしまいます。また3分の1ルールも2分の1に緩和すると、小売店では単純に販売期間が短くなってしまいます。そこで、この両方の問題への解決策として期待されるのが、科学的知見に基づいた賞味期限の見直し(延長)です。例えばインスタントラーメンの袋麺なら従来の賞味期限は6ヵ月、カップ麺は5ヵ月が一般的でしたが、製造・包装技術の進歩を鑑みて、改めて科学的に検証した結果、それぞれ1~2ヶ月(袋麺8ヵ月、カップ麺6ヵ月)の延長が可能とわかりました。食品ロス対策をきっかけに賞味期限が再検証され、おいしく食べられる期限が延びたのは喜ばしいこと。インスタントラーメンだけでなく、他の食品でも改めて賞味期間を見直す動きは活発になってきています」Q.賞味期限に対する潮流も変わってきたように感じます。「2000から2010年ごろまでは少しでもルール違反なら廃棄すべきという風潮がありました。ですがいま企業がもったいない行為をすれば、消費者からむしろ叩かれます。また、消費者庁は安全性と関わらないような表示ミスの場合は、表示を貼り直してそのまま売りましょうと推奨しています。そのほかにも賞味期限切れの商品を売るスーパーが歓迎されたり、エコフレンドリーの企業が評価されたりと『もったいない』への意識は人々の中で高まっています。正しい知識を身につけ、ときには五感を駆使して、賞味期限と向き合っていただければと思います」【公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会 蒲生恵美(がもう えみ)】慶応義塾大学文学部卒。雪印乳業株式会社、目白大学助手・講師を経て、(公社)日本輸入食品安全推進協会事務局長。(公社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会所属。行政委員等として、内閣府食品安全委員会リスクコミュニケーション専門調査会、農林水産省JAS規格調査会、東京都食品安全情報評価委員会、東京都食品安全審議会、消費者庁栄養成分表示検討会、消費者委員会食品表示部会等の委員を務める。(取材・文/森田浩明)
期限が過ぎた方がおいしい?画像PIXTAQ.そもそも賞味期限とはどのようなものか、お聞かせください。「賞味期限とは、その名の通り『おいしく食べられる期限』のことです。『過ぎたら食べない方がいい期限』の消費期限とは異なります。期限表示が加工食品に導入されたのは1995年。それまでは一部を除いて製造年月日を書くよう定められていました。しかし時代の移り変わりとともに、製造・加工技術や容器包装が進化し、流通や保存環境も改善されて、人々の予想を超えて食品が長もちするようになっていきました。そこで『つくられたのがこの時期ならこれくらいもつだろう』と各自に判断してもらうよりはメーカーとして味や品質の保証期間を明記しようということになり、海外でもすでに導入が進んでいた期限表示をするようになったのです。賞味期限は、食品の特性に応じて粘り気や酸度・糖度はどうか(理化学検査)、食中毒の原因となる微生物の有無や細菌数はどうか(微生物検査)、訓練された人が実際に食べて味や香りを調べる(官能検査)などの検査結果や積み重ねられた知見をもとに設定されています」Q.「賞味期限と消費期限が別々なのがややこしい。統一できないか」との意見もありました。「どちらかに一本化してほしいとのご意見は私もいただきます。ですが、食品は数日で傷むものから数年もつものまで多様です。風味が落ちても食べられる期間がまだまだあるというものも多いため、消費期限に統一すると、今度は『じゃあいつまでがおいしいのか』という疑問が生まれてきてしまいます。それなら品質が保たれ、おいしく食べられる目安を示した方が、利用タイミングが分かって現実的ではないか、という考え方もできます。2021(令和3)年の消費者意識調査(消費者庁)によると、賞味期限と消費期限が異なると認知している人は71.9%。2つの期限の使い分けについてある程度は浸透しているのではないでしょうか」Q.「賞味期限を過ぎてから食べた食品」がどんなものか、アンケート結果がばらけました。「気にすべきは食品の種類より、その食品がどんな状態にあるかです。繰り返しますが賞味期限は『おいしく食べられる期限』。限度はありますが、賞味期限を過ぎたら絶対に食べてはいけないわけではありません。ただ、そこには前提条件があります。それは『未開封』であることと『表示された方法で保存しているか』です。商品に印字された賞味期限は、この2つが守られて発揮します。すでに開封していたり、要冷蔵と書かれているのに常温で保存していたりすると賞味期限日よりも早く品質が劣化する可能性があります。まずは保存方法をきちんと守ること、そして開封したら賞味期限の日付にかかわらず、早めに食べ切るようにしましょう」Q.食べられるかどうかを匂いで判断する回答者が最も多い結果になりました。この判断方法についてどう思われますか。「良いと思います。臭いでの判断のほかにも、変色していないか、カビが生えていないかなどの色のチェックも有効です。それから、包装が正しく保たれているかどうかの確認もおすすめ。容器がどこかにぶつかって穴が開いたり、へこんでいたりすると未開封の状態が保たれず、賞味期限より前に品質が劣化する可能性があります。難しいのが、食中毒の判断です。食品に食中毒菌が増殖していても味や色、臭いが変わらないことがほとんどで気づくのは困難です。食品を清潔に取り扱い、低温保存や早めの消費を徹底したり、ものによっては加熱して細菌やウイルスをやっつけたりするのも有効な手段といえるでしょう」Q.一方で、キムチなどの発酵食品や缶詰などは、賞味期限を過ぎてからがおいしいと言う回答者もいました。「味の良し悪しは主観のため、事業者が設定した期限を過ぎてからの方がおいしいと感じる人がいても不思議ではありません。かくいう私もキムチは発酵が進んだすっぱいものが好きですし、缶詰も製造してすぐよりも時間が経った方がおいしくなるという人もいます。匂いや見た目などをチェックし、安全に食べられる範囲で、自分がおいしいと感じるタイミングで召し上がってください」Q.同じような食品でも日本と海外で賞味期限が異なると聞きます。これはなぜでしょうか。「賞味期限の設定は、どう製造し、加工し、流通し、保存するかによって変わります。ですから同じように見える食品でも、製造方法や流通方法が変われば食品に与える影響が変わり、賞味期限が異なることは十分にあります。日本国内でも近しい商品に異なる賞味期限が設定されているのはそのためで、製造・流通方法等に加えて気温や湿度まで違う海外ならなおさらというわけです」Q.本来は食べられるのに廃棄される「食品ロス」がいまも問題になっています。賞味期限の見直しは食品ロス減にどうつながっていくのでしょうか。「期限の見直しは、食品ロス削減のための大事な対策の一つです。そのため国が音頭を取り、いくつかの対策が進められています。食品ロスに影響を与えているのは、日本独自の商習慣『3分の1ルール』です。3分の1ルールとは、食品が流通する過程で、食品メーカー、卸売業界、小売業者が製造日から賞味期限までの期間を3分割して、卸売業者は自身が受け持つ3分の1の期間のうちに小売業者に納品しなくてはいけない、というもの。このルールがあるため納品が遅れてしまうと、賞味期限が残っていようと食品はメーカー返品や廃棄の道をたどります。これが食品ロスの発生原因の一つだと指摘され、最近では見直す動きも出てきています。また、賞味期限が1日でも逆転する食品は納品できないという商習慣への対策として、大手食品・飲料メーカーを中心に賞味期限の表示を『年月』へ変更する取り組みも拡大しています。日付管理は品質保持のために大事ですが、数か月もつ食品で賞味期限が1日違うだけで品質が大きく変わることはありません。食品表示基準では、賞味期限が3ヵ月以上ある食品は『年月日』ではなく『年月』表示が元々できるのですが、実際にはこれまでなかなか浸透していませんでした」Q.これらの取り組みで賞味期限が延びていくのでしょうか。「年月表示に切り替えると月末までを担保しなくてはならないため、本来『11月29日』まであった賞味期限が『10月』の表記になり、むしろ期限が短縮されてしまいます。また3分の1ルールも2分の1に緩和すると、小売店では単純に販売期間が短くなってしまいます。そこで、この両方の問題への解決策として期待されるのが、科学的知見に基づいた賞味期限の見直し(延長)です。例えばインスタントラーメンの袋麺なら従来の賞味期限は6ヵ月、カップ麺は5ヵ月が一般的でしたが、製造・包装技術の進歩を鑑みて、改めて科学的に検証した結果、それぞれ1~2ヶ月(袋麺8ヵ月、カップ麺6ヵ月)の延長が可能とわかりました。食品ロス対策をきっかけに賞味期限が再検証され、おいしく食べられる期限が延びたのは喜ばしいこと。インスタントラーメンだけでなく、他の食品でも改めて賞味期間を見直す動きは活発になってきています」Q.賞味期限に対する潮流も変わってきたように感じます。「2000から2010年ごろまでは少しでもルール違反なら廃棄すべきという風潮がありました。ですがいま企業がもったいない行為をすれば、消費者からむしろ叩かれます。また、消費者庁は安全性と関わらないような表示ミスの場合は、表示を貼り直してそのまま売りましょうと推奨しています。そのほかにも賞味期限切れの商品を売るスーパーが歓迎されたり、エコフレンドリーの企業が評価されたりと『もったいない』への意識は人々の中で高まっています。正しい知識を身につけ、ときには五感を駆使して、賞味期限と向き合っていただければと思います」【公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会 蒲生恵美(がもう えみ)】慶応義塾大学文学部卒。雪印乳業株式会社、目白大学助手・講師を経て、(公社)日本輸入食品安全推進協会事務局長。(公社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会所属。行政委員等として、内閣府食品安全委員会リスクコミュニケーション専門調査会、農林水産省JAS規格調査会、東京都食品安全情報評価委員会、東京都食品安全審議会、消費者庁栄養成分表示検討会、消費者委員会食品表示部会等の委員を務める。(取材・文/森田浩明)
期限が過ぎた方がおいしい?画像PIXTAQ.そもそも賞味期限とはどのようなものか、お聞かせください。「賞味期限とは、その名の通り『おいしく食べられる期限』のことです。『過ぎたら食べない方がいい期限』の消費期限とは異なります。期限表示が加工食品に導入されたのは1995年。それまでは一部を除いて製造年月日を書くよう定められていました。しかし時代の移り変わりとともに、製造・加工技術や容器包装が進化し、流通や保存環境も改善されて、人々の予想を超えて食品が長もちするようになっていきました。そこで『つくられたのがこの時期ならこれくらいもつだろう』と各自に判断してもらうよりはメーカーとして味や品質の保証期間を明記しようということになり、海外でもすでに導入が進んでいた期限表示をするようになったのです。賞味期限は、食品の特性に応じて粘り気や酸度・糖度はどうか(理化学検査)、食中毒の原因となる微生物の有無や細菌数はどうか(微生物検査)、訓練された人が実際に食べて味や香りを調べる(官能検査)などの検査結果や積み重ねられた知見をもとに設定されています」Q.「賞味期限と消費期限が別々なのがややこしい。統一できないか」との意見もありました。「どちらかに一本化してほしいとのご意見は私もいただきます。ですが、食品は数日で傷むものから数年もつものまで多様です。風味が落ちても食べられる期間がまだまだあるというものも多いため、消費期限に統一すると、今度は『じゃあいつまでがおいしいのか』という疑問が生まれてきてしまいます。それなら品質が保たれ、おいしく食べられる目安を示した方が、利用タイミングが分かって現実的ではないか、という考え方もできます。2021(令和3)年の消費者意識調査(消費者庁)によると、賞味期限と消費期限が異なると認知している人は71.9%。2つの期限の使い分けについてある程度は浸透しているのではないでしょうか」Q.「賞味期限を過ぎてから食べた食品」がどんなものか、アンケート結果がばらけました。「気にすべきは食品の種類より、その食品がどんな状態にあるかです。繰り返しますが賞味期限は『おいしく食べられる期限』。限度はありますが、賞味期限を過ぎたら絶対に食べてはいけないわけではありません。ただ、そこには前提条件があります。それは『未開封』であることと『表示された方法で保存しているか』です。商品に印字された賞味期限は、この2つが守られて発揮します。すでに開封していたり、要冷蔵と書かれているのに常温で保存していたりすると賞味期限日よりも早く品質が劣化する可能性があります。まずは保存方法をきちんと守ること、そして開封したら賞味期限の日付にかかわらず、早めに食べ切るようにしましょう」Q.食べられるかどうかを匂いで判断する回答者が最も多い結果になりました。この判断方法についてどう思われますか。「良いと思います。臭いでの判断のほかにも、変色していないか、カビが生えていないかなどの色のチェックも有効です。それから、包装が正しく保たれているかどうかの確認もおすすめ。容器がどこかにぶつかって穴が開いたり、へこんでいたりすると未開封の状態が保たれず、賞味期限より前に品質が劣化する可能性があります。難しいのが、食中毒の判断です。食品に食中毒菌が増殖していても味や色、臭いが変わらないことがほとんどで気づくのは困難です。食品を清潔に取り扱い、低温保存や早めの消費を徹底したり、ものによっては加熱して細菌やウイルスをやっつけたりするのも有効な手段といえるでしょう」Q.一方で、キムチなどの発酵食品や缶詰などは、賞味期限を過ぎてからがおいしいと言う回答者もいました。「味の良し悪しは主観のため、事業者が設定した期限を過ぎてからの方がおいしいと感じる人がいても不思議ではありません。かくいう私もキムチは発酵が進んだすっぱいものが好きですし、缶詰も製造してすぐよりも時間が経った方がおいしくなるという人もいます。匂いや見た目などをチェックし、安全に食べられる範囲で、自分がおいしいと感じるタイミングで召し上がってください」Q.同じような食品でも日本と海外で賞味期限が異なると聞きます。これはなぜでしょうか。「賞味期限の設定は、どう製造し、加工し、流通し、保存するかによって変わります。ですから同じように見える食品でも、製造方法や流通方法が変われば食品に与える影響が変わり、賞味期限が異なることは十分にあります。日本国内でも近しい商品に異なる賞味期限が設定されているのはそのためで、製造・流通方法等に加えて気温や湿度まで違う海外ならなおさらというわけです」Q.本来は食べられるのに廃棄される「食品ロス」がいまも問題になっています。賞味期限の見直しは食品ロス減にどうつながっていくのでしょうか。「期限の見直しは、食品ロス削減のための大事な対策の一つです。そのため国が音頭を取り、いくつかの対策が進められています。食品ロスに影響を与えているのは、日本独自の商習慣『3分の1ルール』です。3分の1ルールとは、食品が流通する過程で、食品メーカー、卸売業界、小売業者が製造日から賞味期限までの期間を3分割して、卸売業者は自身が受け持つ3分の1の期間のうちに小売業者に納品しなくてはいけない、というもの。このルールがあるため納品が遅れてしまうと、賞味期限が残っていようと食品はメーカー返品や廃棄の道をたどります。これが食品ロスの発生原因の一つだと指摘され、最近では見直す動きも出てきています。また、賞味期限が1日でも逆転する食品は納品できないという商習慣への対策として、大手食品・飲料メーカーを中心に賞味期限の表示を『年月』へ変更する取り組みも拡大しています。日付管理は品質保持のために大事ですが、数か月もつ食品で賞味期限が1日違うだけで品質が大きく変わることはありません。食品表示基準では、賞味期限が3ヵ月以上ある食品は『年月日』ではなく『年月』表示が元々できるのですが、実際にはこれまでなかなか浸透していませんでした」Q.これらの取り組みで賞味期限が延びていくのでしょうか。「年月表示に切り替えると月末までを担保しなくてはならないため、本来『11月29日』まであった賞味期限が『10月』の表記になり、むしろ期限が短縮されてしまいます。また3分の1ルールも2分の1に緩和すると、小売店では単純に販売期間が短くなってしまいます。そこで、この両方の問題への解決策として期待されるのが、科学的知見に基づいた賞味期限の見直し(延長)です。例えばインスタントラーメンの袋麺なら従来の賞味期限は6ヵ月、カップ麺は5ヵ月が一般的でしたが、製造・包装技術の進歩を鑑みて、改めて科学的に検証した結果、それぞれ1~2ヶ月(袋麺8ヵ月、カップ麺6ヵ月)の延長が可能とわかりました。食品ロス対策をきっかけに賞味期限が再検証され、おいしく食べられる期限が延びたのは喜ばしいこと。インスタントラーメンだけでなく、他の食品でも改めて賞味期間を見直す動きは活発になってきています」Q.賞味期限に対する潮流も変わってきたように感じます。「2000から2010年ごろまでは少しでもルール違反なら廃棄すべきという風潮がありました。ですがいま企業がもったいない行為をすれば、消費者からむしろ叩かれます。また、消費者庁は安全性と関わらないような表示ミスの場合は、表示を貼り直してそのまま売りましょうと推奨しています。そのほかにも賞味期限切れの商品を売るスーパーが歓迎されたり、エコフレンドリーの企業が評価されたりと『もったいない』への意識は人々の中で高まっています。正しい知識を身につけ、ときには五感を駆使して、賞味期限と向き合っていただければと思います」【公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会 蒲生恵美(がもう えみ)】慶応義塾大学文学部卒。雪印乳業株式会社、目白大学助手・講師を経て、(公社)日本輸入食品安全推進協会事務局長。(公社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会所属。行政委員等として、内閣府食品安全委員会リスクコミュニケーション専門調査会、農林水産省JAS規格調査会、東京都食品安全情報評価委員会、東京都食品安全審議会、消費者庁栄養成分表示検討会、消費者委員会食品表示部会等の委員を務める。(取材・文/森田浩明)
画像PIXTA
Q.そもそも賞味期限とはどのようなものか、お聞かせください。
「賞味期限とは、その名の通り『おいしく食べられる期限』のことです。『過ぎたら食べない方がいい期限』の消費期限とは異なります。期限表示が加工食品に導入されたのは1995年。それまでは一部を除いて製造年月日を書くよう定められていました。
しかし時代の移り変わりとともに、製造・加工技術や容器包装が進化し、流通や保存環境も改善されて、人々の予想を超えて食品が長もちするようになっていきました。そこで『つくられたのがこの時期ならこれくらいもつだろう』と各自に判断してもらうよりはメーカーとして味や品質の保証期間を明記しようということになり、海外でもすでに導入が進んでいた期限表示をするようになったのです。
賞味期限は、食品の特性に応じて粘り気や酸度・糖度はどうか(理化学検査)、食中毒の原因となる微生物の有無や細菌数はどうか(微生物検査)、訓練された人が実際に食べて味や香りを調べる(官能検査)などの検査結果や積み重ねられた知見をもとに設定されています」
Q.「賞味期限と消費期限が別々なのがややこしい。統一できないか」との意見もありました。
「どちらかに一本化してほしいとのご意見は私もいただきます。ですが、食品は数日で傷むものから数年もつものまで多様です。風味が落ちても食べられる期間がまだまだあるというものも多いため、消費期限に統一すると、今度は『じゃあいつまでがおいしいのか』という疑問が生まれてきてしまいます。それなら品質が保たれ、おいしく食べられる目安を示した方が、利用タイミングが分かって現実的ではないか、という考え方もできます。
2021(令和3)年の消費者意識調査(消費者庁)によると、賞味期限と消費期限が異なると認知している人は71.9%。2つの期限の使い分けについてある程度は浸透しているのではないでしょうか」
Q.「賞味期限を過ぎてから食べた食品」がどんなものか、アンケート結果がばらけました。
「気にすべきは食品の種類より、その食品がどんな状態にあるかです。繰り返しますが賞味期限は『おいしく食べられる期限』。限度はありますが、賞味期限を過ぎたら絶対に食べてはいけないわけではありません。ただ、そこには前提条件があります。それは『未開封』であることと『表示された方法で保存しているか』です。
商品に印字された賞味期限は、この2つが守られて発揮します。すでに開封していたり、要冷蔵と書かれているのに常温で保存していたりすると賞味期限日よりも早く品質が劣化する可能性があります。まずは保存方法をきちんと守ること、そして開封したら賞味期限の日付にかかわらず、早めに食べ切るようにしましょう」
Q.食べられるかどうかを匂いで判断する回答者が最も多い結果になりました。この判断方法についてどう思われますか。
「良いと思います。臭いでの判断のほかにも、変色していないか、カビが生えていないかなどの色のチェックも有効です。それから、包装が正しく保たれているかどうかの確認もおすすめ。容器がどこかにぶつかって穴が開いたり、へこんでいたりすると未開封の状態が保たれず、賞味期限より前に品質が劣化する可能性があります。
難しいのが、食中毒の判断です。食品に食中毒菌が増殖していても味や色、臭いが変わらないことがほとんどで気づくのは困難です。食品を清潔に取り扱い、低温保存や早めの消費を徹底したり、ものによっては加熱して細菌やウイルスをやっつけたりするのも有効な手段といえるでしょう」
Q.一方で、キムチなどの発酵食品や缶詰などは、賞味期限を過ぎてからがおいしいと言う回答者もいました。
「味の良し悪しは主観のため、事業者が設定した期限を過ぎてからの方がおいしいと感じる人がいても不思議ではありません。かくいう私もキムチは発酵が進んだすっぱいものが好きですし、缶詰も製造してすぐよりも時間が経った方がおいしくなるという人もいます。匂いや見た目などをチェックし、安全に食べられる範囲で、自分がおいしいと感じるタイミングで召し上がってください」
Q.同じような食品でも日本と海外で賞味期限が異なると聞きます。これはなぜでしょうか。
「賞味期限の設定は、どう製造し、加工し、流通し、保存するかによって変わります。ですから同じように見える食品でも、製造方法や流通方法が変われば食品に与える影響が変わり、賞味期限が異なることは十分にあります。日本国内でも近しい商品に異なる賞味期限が設定されているのはそのためで、製造・流通方法等に加えて気温や湿度まで違う海外ならなおさらというわけです」
Q.本来は食べられるのに廃棄される「食品ロス」がいまも問題になっています。賞味期限の見直しは食品ロス減にどうつながっていくのでしょうか。
「期限の見直しは、食品ロス削減のための大事な対策の一つです。そのため国が音頭を取り、いくつかの対策が進められています。食品ロスに影響を与えているのは、日本独自の商習慣『3分の1ルール』です。
3分の1ルールとは、食品が流通する過程で、食品メーカー、卸売業界、小売業者が製造日から賞味期限までの期間を3分割して、卸売業者は自身が受け持つ3分の1の期間のうちに小売業者に納品しなくてはいけない、というもの。このルールがあるため納品が遅れてしまうと、賞味期限が残っていようと食品はメーカー返品や廃棄の道をたどります。これが食品ロスの発生原因の一つだと指摘され、最近では見直す動きも出てきています。
また、賞味期限が1日でも逆転する食品は納品できないという商習慣への対策として、大手食品・飲料メーカーを中心に賞味期限の表示を『年月』へ変更する取り組みも拡大しています。日付管理は品質保持のために大事ですが、数か月もつ食品で賞味期限が1日違うだけで品質が大きく変わることはありません。食品表示基準では、賞味期限が3ヵ月以上ある食品は『年月日』ではなく『年月』表示が元々できるのですが、実際にはこれまでなかなか浸透していませんでした」
Q.これらの取り組みで賞味期限が延びていくのでしょうか。
「年月表示に切り替えると月末までを担保しなくてはならないため、本来『11月29日』まであった賞味期限が『10月』の表記になり、むしろ期限が短縮されてしまいます。また3分の1ルールも2分の1に緩和すると、小売店では単純に販売期間が短くなってしまいます。
そこで、この両方の問題への解決策として期待されるのが、科学的知見に基づいた賞味期限の見直し(延長)です。例えばインスタントラーメンの袋麺なら従来の賞味期限は6ヵ月、カップ麺は5ヵ月が一般的でしたが、製造・包装技術の進歩を鑑みて、改めて科学的に検証した結果、それぞれ1~2ヶ月(袋麺8ヵ月、カップ麺6ヵ月)の延長が可能とわかりました。
食品ロス対策をきっかけに賞味期限が再検証され、おいしく食べられる期限が延びたのは喜ばしいこと。インスタントラーメンだけでなく、他の食品でも改めて賞味期間を見直す動きは活発になってきています」
Q.賞味期限に対する潮流も変わってきたように感じます。
「2000から2010年ごろまでは少しでもルール違反なら廃棄すべきという風潮がありました。ですがいま企業がもったいない行為をすれば、消費者からむしろ叩かれます。また、消費者庁は安全性と関わらないような表示ミスの場合は、表示を貼り直してそのまま売りましょうと推奨しています。
そのほかにも賞味期限切れの商品を売るスーパーが歓迎されたり、エコフレンドリーの企業が評価されたりと『もったいない』への意識は人々の中で高まっています。正しい知識を身につけ、ときには五感を駆使して、賞味期限と向き合っていただければと思います」
【公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会 蒲生恵美(がもう えみ)】慶応義塾大学文学部卒。雪印乳業株式会社、目白大学助手・講師を経て、(公社)日本輸入食品安全推進協会事務局長。(公社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会所属。行政委員等として、内閣府食品安全委員会リスクコミュニケーション専門調査会、農林水産省JAS規格調査会、東京都食品安全情報評価委員会、東京都食品安全審議会、消費者庁栄養成分表示検討会、消費者委員会食品表示部会等の委員を務める。