鎌倉時代に創建された最明寺(埼玉県川越市小ケ谷)は全国的にも珍しい性的少数者(LGBT)カップルの結婚式を受け入れている寺院。副住職の千田明寛さん(34)は「社会に積極的に関わるお寺づくり」に力を注ぐ。これまでに、乳がんの早期発見を啓発する「ピンクリボン活動」や一人親家庭を支援するフードパントリーなど活動の幅を広げてきた。千田さんは「法事だけの“葬式仏教”から、地域コミュニティーのハブとして役割を果たす新しいお寺づくりをしたい」と意欲を示している。【仲村隆】
夢でしか会えない妻子 今も読まれぬLINEを送る ――LGBTカップルの結婚式を受け入れての反応は。 ◆お釈迦様は生きとし生けるものは幸せであれと、説いています。川越市は2020年5月から同性カップルを公的に認める「パートナーシップ宣誓制度」を導入しました。お寺でもLGBTなど性的少数者への理解を進める動きに加わりたいと考えました。コロナ禍のこともあり、今までに2組が結婚式を挙げたにとどまっていますが、30件ほど問い合わせがあります。 ――10月はピンクリボン運動に参加していますね。 ◆乳がんの患者支援団体「くまがやピンクリボンAYA支部」と一緒に、本堂のライトアップ、スカイランタン揚げ、がんサバイバーの方たちの座禅・ヨガの会などのイベントを行っています。いずれも乳がんの早期発見・治療の重要性を訴えるものです。 きっかけは、病院の緩和病棟でがん患者の方々の話し相手になる傾聴ボランティアをした経験です。患者さんの話を伺ううちに、お寺として、積極的にがん患者の方々に役立ちたいと考えました。 また、こうした運動を手掛ける人たちとネットワークを広げることで、お寺のさまざまな新しい試みにつなげていきたいと考えています。これまでに世界自閉症啓発デー、一人親家庭を支援するフードパントリー、子どもたちに勉強を教える寺子屋活動など活動の範囲が広がっています。 ――大学で国際政治を学んだそうですね。 ◆海外に興味があり、大学では国際政治を学び、元国連難民高等弁務官の故緒方貞子さんが関わった模擬国連のサークルに所属しました。将来は海外を相手にした仕事をしたいと考えていましたが、家庭の事情からお寺を継ぎました。 ――転機は派遣されたインドでの体験だったとか。 ◆15年に宗派から1年間、派遣されました。場所は最も貧しい人たちが住んでいる地域で、お寺が孤児院を運営したり、無医村に医療を提供したりする活動や、災害支援といった社会福祉活動に取り組んでいました。法事もしますが、僧侶たちは絶えず「生きている人たちのためにどう活動するのか」が常に念頭にあり、その姿に心を動かされました。 ――LGBTカップルの結婚式もインドの体験が関わりがあるとか。 ◆インドは仏教発祥の地ですが、ヒンズー教徒が圧倒的に多く、仏教徒は少数派です。日本人僧侶はマイノリティーの極みみたいなものでしたが、差別なく自然に接してもらえました。カースト制などの差別がありますが、インドは宗教、人種、言語など数多く、多様性社会です。それぞれの違いを認めて受け入れることを学びました。この時の経験が、ベースになり、結婚式につながりました。 ――お寺のあるべき姿は。 ◆現代のお寺は葬式仏教と揶揄(やゆ)されるように葬儀などの法事や墓参りといった死後の世界だけの関わりにとどまっています。一方、お寺を支えていただいている檀家(だんか)さんが減り、維持が困難になるお寺も出てきています。 昔のお寺は、病人をいやす病院や、教育を受け持つ寺子屋、困ったことがあると相談できる場所として、地域コミュニティーの中にありました。地域社会に積極的に関わり、地域の人たちに寄り添い、共に行動することがお寺にとって新しい道になると思っています。千田明寛(せんだ・みょうかん) 1988年川越市生まれ。法政大法学部を卒業。天台宗総本山・比叡山延暦寺での修行を経て僧侶の資格を取得。2015年、宗派からインドに派遣された。現在は最明寺の副住職。
――LGBTカップルの結婚式を受け入れての反応は。
◆お釈迦様は生きとし生けるものは幸せであれと、説いています。川越市は2020年5月から同性カップルを公的に認める「パートナーシップ宣誓制度」を導入しました。お寺でもLGBTなど性的少数者への理解を進める動きに加わりたいと考えました。コロナ禍のこともあり、今までに2組が結婚式を挙げたにとどまっていますが、30件ほど問い合わせがあります。
――10月はピンクリボン運動に参加していますね。
◆乳がんの患者支援団体「くまがやピンクリボンAYA支部」と一緒に、本堂のライトアップ、スカイランタン揚げ、がんサバイバーの方たちの座禅・ヨガの会などのイベントを行っています。いずれも乳がんの早期発見・治療の重要性を訴えるものです。
きっかけは、病院の緩和病棟でがん患者の方々の話し相手になる傾聴ボランティアをした経験です。患者さんの話を伺ううちに、お寺として、積極的にがん患者の方々に役立ちたいと考えました。
また、こうした運動を手掛ける人たちとネットワークを広げることで、お寺のさまざまな新しい試みにつなげていきたいと考えています。これまでに世界自閉症啓発デー、一人親家庭を支援するフードパントリー、子どもたちに勉強を教える寺子屋活動など活動の範囲が広がっています。
――大学で国際政治を学んだそうですね。
◆海外に興味があり、大学では国際政治を学び、元国連難民高等弁務官の故緒方貞子さんが関わった模擬国連のサークルに所属しました。将来は海外を相手にした仕事をしたいと考えていましたが、家庭の事情からお寺を継ぎました。
――転機は派遣されたインドでの体験だったとか。
◆15年に宗派から1年間、派遣されました。場所は最も貧しい人たちが住んでいる地域で、お寺が孤児院を運営したり、無医村に医療を提供したりする活動や、災害支援といった社会福祉活動に取り組んでいました。法事もしますが、僧侶たちは絶えず「生きている人たちのためにどう活動するのか」が常に念頭にあり、その姿に心を動かされました。
――LGBTカップルの結婚式もインドの体験が関わりがあるとか。
◆インドは仏教発祥の地ですが、ヒンズー教徒が圧倒的に多く、仏教徒は少数派です。日本人僧侶はマイノリティーの極みみたいなものでしたが、差別なく自然に接してもらえました。カースト制などの差別がありますが、インドは宗教、人種、言語など数多く、多様性社会です。それぞれの違いを認めて受け入れることを学びました。この時の経験が、ベースになり、結婚式につながりました。
――お寺のあるべき姿は。
◆現代のお寺は葬式仏教と揶揄(やゆ)されるように葬儀などの法事や墓参りといった死後の世界だけの関わりにとどまっています。一方、お寺を支えていただいている檀家(だんか)さんが減り、維持が困難になるお寺も出てきています。
昔のお寺は、病人をいやす病院や、教育を受け持つ寺子屋、困ったことがあると相談できる場所として、地域コミュニティーの中にありました。地域社会に積極的に関わり、地域の人たちに寄り添い、共に行動することがお寺にとって新しい道になると思っています。
千田明寛(せんだ・みょうかん)
1988年川越市生まれ。法政大法学部を卒業。天台宗総本山・比叡山延暦寺での修行を経て僧侶の資格を取得。2015年、宗派からインドに派遣された。現在は最明寺の副住職。