火葬場を持つ全国の自治体で、遺骨を骨つぼに納めた後に残った「残骨灰(ざんこつばい)」から金や銀などの貴金属を抽出して換金する取り組みが広がっている。
危機的な財政状況にある京都市も今年初めて実施し、約1億2千万円の収入を見込む。市は「財源目的ではない」とするが、財政難で自主財源を確保したいとの狙いも見え隠れする。残骨灰の取り扱いに明確な定めはなく、各自治体に委ねられているのが現状だが、故人の尊厳を理由に実施しない自治体も。「多死社会」を迎える中で、直面する新たな課題として注目される。
「故人が最期に残されたものなので大切に活用させていただく」。残骨灰から貴金属を抽出・精錬して売却する取り組みを今秋から始めた京都市の担当者はこう話す。
残骨灰は火葬後に残る細かい骨や灰で、中には治療した歯や人工関節、ペースメーカーなどの貴金属が含まれているという。今回の取り組みは市が深刻な財政危機に陥っていることも要因だが、残骨灰の保管場所が限界に近づいているという事情もある。
市では、市営の火葬場「中央斎場」(山科区)の敷地内で袋に入れた残骨灰を保管。平成元年度に1万640件だった火葬件数は、10年度には1万3865件、令和元年度に1万6764件、3年度には1万8747件と増加の一途をたどってきた。4年度末には保管場所が満杯になるとみられ、市は収蔵場所確保のため、残骨灰を細かく粉砕して圧縮するほか、抽出した金属を精錬して売却することを決めた。
市は今秋、保管場所にある昨年1~9月分の残骨灰(約39トン)から、約35キロの貴金属を抽出した。量と売却見込み額の内訳は、金約7・2キロ(約5980万円)▽パラジウム約6・3キロ(約5670万円)▽銀約21キロ(約190万円)▽プラチナ約0・2キロ(約103万円)の計約1億1950万円。金属を抽出し、圧縮された残骨灰は2・3トンまで減容され、再び保管場所に戻した。市では今後もほかの残骨灰についても同様に取り扱うという。
こうした取り組みは全国の自治体でも広がっている。産経新聞の調べでは、全国20政令市のうち、「残骨灰を売却、または貴金属を抽出後に売却」しているのは今年度初めて試験的に実施した札幌、広島の2市を含めた15市。「売却を含めて検討中」が1市で、「売却せず」が4市となっている。売却をしないとしている4市のうち、静岡市や堺市の担当者は「残骨灰は遺骨の一部であり、遺族感情に配慮している」と説明している。
こうした残骨灰の取り扱いについては明確に定められているわけではなく、各自治体に委ねられている。
京都市は制度導入にあたり、「骨つぼに収骨した後に残った骨は遺骨ではなく、火葬場管理者の所有」とする戦前(明治43年と昭和14年)の大審院(現在の最高裁)の判例を根拠としている。市民からの意見聴取や専門家による検討会などは実施しておらず、「今後も考えていない」という。
市では、年2回、斎場内で供養祭を営んでいるなどとした上で、担当者は「市民には十分理解していただけるものと思う」と話す。
一方で、「遺骨は、亡くなった人を感じるものとして大切にされてきた」として疑問を投げかける声も。浄土真宗本願寺派の関係者は「残骨灰の扱いは自治体任せにされてきた面は否めない。遺骨という大切なものであるからこそ、宗教界や専門的知見を持つ人が入って議論すべきではないか」と指摘している。(田中幸美)