大手食品加工メーカーのはごろもフーズ(静岡市)が、自社製品のツナ缶に虫が混入しブランドイメージが傷ついたのは下請け業者の責任だとして約8億9000万円の損害賠償を求めた訴訟で、約1億3000万円の支払い命令判決を不服として、被告の興津食品(同)は11月17日、東京高裁に控訴した。代理人の増田英行弁護士は約11億円の賠償を求め反訴したことも明らかにした。
池上浩司社長らが静岡県庁で記者会見し、改めてお詫びをした上で「細心の注意を払っても、偶発的な混入は毎年わずかでも発生してしまうのが実情です。(売上減少やコールセンター設置費用など)大企業の損害までも補填しなければならないというのは、どうしても納得できません」と控訴の理由を述べた。
50年以上取引してきた同社の工場は更地となり、実質廃業状態となっている。3代目の池上社長は「はごろもとは運命共同体だと思ってた。でも思い違いだったのかなって…100人超の従業員を抱え、工場を閉じた時は胸の張り裂ける思いでした」と涙ながらに語った。
支払い命令の約1億3000万円について、代理人の増田弁護士は「通常の危機管理に予想される対応の費用は下請けが負うべきとされた」と説明。コールセンターの設置費用やクレーム対応の人件費や手土産代、売れなくなった返品の原価相当額などで、「理解は難しい」とした。
一方で、はごろもの営業戦略にまつわる部分の責任については認められていないという。池上社長によると、問題発覚の当時、はごろもがマスコミなど外部の対応を引き受け、どんな顧客対応をするかもまったく知らされていなかった。
はごろも側はホームページで謝罪をしたものの、会見などによる説明はしなかった。増田弁護士は、こうした事後対応が裏目に出た結果“炎上”を招いたと説明。「食品の危機管理マニュアルにそぐわないことをした責任すべてを下請けのせいにするのは間違っている」と強調した。
興津側によると、はごろもはツナ缶だけで年1億個をつくっており、混入は年十数件あるという。増田弁護士は「多いとみるのか、少ないとみるのかはそれぞれだが、前提として必ずしも避けられないなかで、責任をすべて負うべきなのか裁判所に考えてほしい」と話す。
●3代続いた会社をたたむ苦渋の決断興津食品は、静岡県内でツナ缶をつくるはごろもの下請け業者としては、一、二を争う規模の「優良企業」(増田弁護士)だった。廃業は業界でも大きな衝撃として受け止められた。工場を閉鎖する2カ月前には、7000万円をかけて業界初の包装機械を導入し、視察も相次いでいた。しかし、それも鉄くずとなった。池上社長は当時の苦渋の決断を振り返る。「30億円かかる新工場を建てたとしても、その後発注するかは約束できないとまで言われました。『廃業せざるを得ない』と書かれたひな形の紙を差し出され、ここにサインをと迫られましたが、それはできなかった」はごろも側は契約打ち切りではなく、社長の自主判断で廃業したと主張しているが、興津側は「優越的地位の濫用に当たる」としている。「昭和から平成にかけて缶詰会社の倒産が相次ぐ中、61歳の私の子ども時代から興津が成長できたのは、はごろものおかげだと感謝しています。こんな形で決別するなんて、夢にも思っていませんでした。ささいなミスも許されないと努力してきたが、混入したことについては不快な思いをさせて申し訳ないと思っています。ただ、この判決が前例になってはいけない。食品業界だけでなく、日本の経済全体の問題です。第二、第三の興津食品をつくってはならない」
興津食品は、静岡県内でツナ缶をつくるはごろもの下請け業者としては、一、二を争う規模の「優良企業」(増田弁護士)だった。廃業は業界でも大きな衝撃として受け止められた。工場を閉鎖する2カ月前には、7000万円をかけて業界初の包装機械を導入し、視察も相次いでいた。しかし、それも鉄くずとなった。
池上社長は当時の苦渋の決断を振り返る。
「30億円かかる新工場を建てたとしても、その後発注するかは約束できないとまで言われました。『廃業せざるを得ない』と書かれたひな形の紙を差し出され、ここにサインをと迫られましたが、それはできなかった」
はごろも側は契約打ち切りではなく、社長の自主判断で廃業したと主張しているが、興津側は「優越的地位の濫用に当たる」としている。
「昭和から平成にかけて缶詰会社の倒産が相次ぐ中、61歳の私の子ども時代から興津が成長できたのは、はごろものおかげだと感謝しています。こんな形で決別するなんて、夢にも思っていませんでした。
ささいなミスも許されないと努力してきたが、混入したことについては不快な思いをさせて申し訳ないと思っています。ただ、この判決が前例になってはいけない。食品業界だけでなく、日本の経済全体の問題です。第二、第三の興津食品をつくってはならない」