和歌山県内で特殊詐欺の被害が昨年を上回るペースで増加している。
頻発する手口は警察官や銀行員などを装った「受け子」が自宅を訪れてキャッシュカードをだまし取る「キャッシュカード手交型詐欺」だ。90歳代の母親の被害を寸前に食い止めた海南市の60歳代女性が7月、読売新聞の取材に応じ、容疑者との直接対決を語った。女性は「相手と対面した時の自分の違和感を信じてよかった」と振り返る。(島村瑞稀)
女性は4月13日の午後、自宅からほど近い母の家へ向かった。家庭菜園への水やりを兼ねて様子を見に行くのが日課だったが、この日は家に着いてすぐ違和感を覚えた。
玄関のドアが開きっぱなしになっており、玄関先には見慣れない男性用のバッグと靴があった。胸騒ぎを抑えて居間に向かうと、金髪頭に白いワイシャツ姿の若い男が、母と話をしていた。手には銀行のキャッシュカード。女性の問いかけに対し、自分のことを「私服警察官」と言った。
警察手帳の提示を求めると、男はスマートフォンに保存した明らかに偽物とわかる画像を示した。疑念は確信に変わった。「カードを返してください」と言い、無我夢中で男を追い返した。すぐに鍵を閉め、110番。複数の顔写真の中から容疑者を絞る捜査などをへて、男は逮捕、起訴された。
後から母に聞くと、警視庁で特殊詐欺の捜査を担当しているという人から電話があり「あなたの銀行口座から勝手にお金が引き出されている」と言われたという。しばらくして男が家にやってきたといい、すっかり信じ込んでキャッシュカードを渡してしまったという。
「もしあの日雨が降っていたら、もしもう1時間行くのが遅かったら。考えただけでぞっとする」。母を守るために必死だったが、男は居間にまで上がり込んでおり、襲われていてもおかしくなかったと思うと、震えるほど怖くなる。
父親が1年前に亡くなり、以来、母親は独り暮らしだった。朗らかな人だったが、事件以来、「近所の人のことも信じていいのかわからなくなった」と漏らすことがあるという。「それくらい母は傷ついている。特殊詐欺は弱い者を狙った卑劣な犯罪で、誰でも被害に遭う可能性があると実感した」と悔しそうに言う。
県警生活安全企画課の森田清幹次席は「相手は詐欺のプロ。見知らぬ人から電話でお金の話をされたら、最後まで聞かず『息子が来ているから』『台所で火を使っていて、手が離せなくて』などと言って素早く切るようにしておいてほしい」と注意を呼び掛けた。特殊詐欺についての相談は、県警の「ちょっと確認電話」(0120・508(これは)・878(わなや)、24時間対応)へ。