遅ればせながら、今年もサンマのシーズンが到来した。北海道の花咲港と厚岸港に初水揚げされたサンマが8月21日、東京・豊洲市場(江東区)にお目見え。昨年より1ヵ月以上も遅い初物で、お待ちかねの期待値が卸値に反映され、高値は築地市場を含め過去最高値の1キロ当たり20万円。1匹当たり2万5000円というご祝儀相場で市場は活気付いた。
初物のサンマは、近年の傾向通り細く脂の乗りはいまひとつ。最高値の初物をゲットした仲卸「山治」の山崎康弘社長は「鮮度が良いいから刺し身だね」と、都内の寿司店や米国の日本料理店に向けの輸出を見越して、初サンマを引き取った。
初荷から数日、北海道の花咲港などに後続漁船の水揚げはなく、豊洲への入荷もぱったり。不漁の継続を裏付ける状況に、諦めの表情を浮かべる仲卸らの表情が目立った。
高値がついた初物のサンマ/筆者撮影
サンマの不漁が深刻化したのは、ここ4~5年のこと。それまで7月の上旬に小型船の漁が初陣を切ってスタート。8月にかけて次第に大型漁船が漁を開始したため、お盆過ぎには、大量のサンマが漁港に水揚げされていた。
例えば、今年の初荷があった8月21日のちょうど6年前、2017年の8月21日には、当時の築地市場に今年の初荷と同じ大きさの生サンマが、キロ700円(卸値)、1匹当たり88円で取引されていた。
すでに100円を切るスーパーの特売対象価格である。今年の初ものと単純比較はできないが、1匹2万5000円と88円。ともにほっそり、旬を控えた「はしり」のサンマに違いない。
サンマは年によって豊漁・不漁の差が激しい魚と言われてきた。日本では数百年前から漁が行われ、戦後の漁船性能の向上などから、1955年には年間約50万トンのサンマを漁獲。庶民の味として親しまれてきた。
58年には史上最高の約58トンを水揚げ。太平洋のサンマをほぼ独占し、秋の味覚として定着させてきたが、90年ごろからロシアに加えて、台湾や韓国がサンマ漁に参入。近年は中国も活発な漁獲を行い、日本のシェアは減少。外国勢の台頭とともに、資源の悪化が顕著となった。
ここ数年は、深刻なサンマ不足に見舞われ、2022年の日本の漁獲量はわずか1万8000トンほど。ピーク時の3%しか獲れなくなった。台湾や中国などを含め、漁業国全体でも、約10トンしか漁獲できない状況になっている。
不漁の要因は、地球温暖化に伴う海水温の上昇や、外国漁船の5月ごろからの先獲り、他の魚種の増加など、いくつか挙げられている。不漁に伴い、流通量が少ないだけでなく、小ぶりで脂の乗りは物足りず、塩焼きにしても決しておいしいとは言えない旬の味に変わってしまったサンマだが、不漁から豊漁へと変わるのはいつになるのかーー。
今春、国立研究開発法人水産研究・研究機構は、「サンマの不漁要因解明について」という報告書をまとめた。それによると、漁獲の減少は「2010年に突然起きた分布の沖合化が契機であったと考えられる」とし、10年以降も「海洋環境や餌環境の変化、他の浮き魚類の出現などにより、サンマ分布の沖合化と資源の減少が継続、進行している」とみている。
これまで、サンマは春から太平洋を北上して、秋に親潮に乗って北海道東沖、三陸沖を南下していたため、大量に漁獲されてきた。ところが、分布の「沖合化」、つまり日本近海から遠く離れて回遊し始めたことで、効率的な漁獲ができず、水揚げが減り続けているようだ。
同機構がサンマ分布の沖合化を「突然起きた」と表現しているように、なぜいきなり日本近海から遠ざかったのか、その理由は明らかでない。
2010年以降も沖合化や資源の減少傾向が顕著になっており、その背景には「近年の親潮の弱化とそれに伴う道東・三陸沖の水温の上昇」(同機構)が挙げられている。
これまで栄養分が豊富な親潮が、秋に千島列島に沿って南へ冷たい海水を運んできたが、近年、「北緯40~41度付近に海水温の高い海域(高水位偏差の壁)が東西方向に広く帯状に形成されている。これを親潮が乗り越えられずに、(日本近海を)南下することができなくなっている」(同機構)と分析する。
冷たい水を好むサンマが、海水温の高い道東・三陸沖の「高水位偏差の壁」で近海から遠ざかり、餌が少ない沖合へ分散して回遊しているため、成長が悪く魚体が小さく、かつ産卵や資源も減り続けているというわけだ。
サンマが日本近海に近付けない一方、餌を競合するイワシやサバは「これ幸い」と多く来遊し、比較的順調に漁獲されている。ちなみに日本で漁獲される天然魚の中で、昨年の生産量トップはイワシで、次がサバである。
同機構は、今年のサンマ漁について「昨年並みの低水準」と予想。漁場は公海が中心とみており、歴史的な不漁は、今年も継続するという見方が支配的だ。
5月ごろの外国漁船による先獲りや、近海でのイワシ、サバの増加といった要因も無関係とは言えないものの、サンマ大不漁の最大の要因が「地球温暖化⇒海水温の上昇」というのなら、不漁から豊漁へと変わるきっかけは見いだしにくい。
今年、日本で災害級の猛暑が続き、世界的にも過去最高の平均気温といったデータが明らかになる現状では、サンマはこれから獲れなくなってしまうという心配さえ、あるのではないか。「秋の味覚・サンマ」が、昔話になる日が近付いているのかもしれない。
不漁が続いているサンマ/筆者撮影