「少年自然の家」や「青年の家」など宿泊を伴う野外活動や合宿などで利用する青少年教育施設の廃止が相次いでいる。
自治体が中心に運営する施設で、3月には堺市の施設が閉鎖された。兵庫県の施設も運営団体の解散が決まり、惜しむ声が出ている。少子化による利用者の減少や建物の老朽化のほか、野外活動に対する意識の変化などもあり、20年間で250か所以上廃止され、跡地利用も課題となっている。(行田航)
■惜しむ声
文部科学省によると、自然環境の中で集団宿泊生活を通した健全な青少年の育成を図ろうと、1958年度に青年の家、70年度に少年自然の家を国の補助制度で整備できるようになると、各地で設置が進んだ。
しかし、利用者は年々減少。2002年度に325か所あった少年自然の家は、21年度は195か所に。02年度に221か所あった青年の家(宿泊型)も約4割になった。
堺市が所有する市立日高少年自然の家(和歌山県日高町)は1975年に設置された。海岸沿いにあり、カヌーやカヤック、シュノーケリングなどが体験でき、2010年度には年間約2万人が利用。しかし、19年度には約1万3500人まで減少した。
市は厳しい財政事情や少子化などから自然の家廃止を決定。市の担当者は「ホテル事業者などへの売却を目指し、スピード感を持って進めたい」と話すが、今後の活用方法の見通しはたっていない。
兵庫県西宮市や丹波市など阪神・丹波両地域の10市町が出資する丹波少年自然の家(丹波市)では2月、23年度末に運営する事務組合の解散を決めた。施設によると、この夏休みの利用者から「自然体験プログラムがたくさんあり、なくなるのは残念」などの声が寄せられたという。
■意識の変化
施設廃止の背景には、少子化や建物の老朽化だけでなく、利用者の意識の変化もある。
海沿いに立つ堺市立日高少年自然の家では、東日本大震災(2011年)以降、津波の危険性などから利用を不安視する意見が保護者らから出ていたという。利用者が減少した一因として、市の担当者は「遠方での活動は、万一の時に対応が難しいため、学校側が慎重になっている感じがあった」と話す。
また最近では、宿泊を伴う活動は教員の負担が大きいなどの声が上がっているといい、ある学校関係者は「日帰りで終わらせるなど、活動時間を短くするケースも出ている」と打ち明ける。
施設廃止後、民間企業が運営を引き継ぎ再建を果たす例や、外国人技能実習生向けの住居に改修するケースなどがある。
しかし、多くは跡地の有効活用が難しく、更地にしたり何年も利用法が決まらなかったりしている。大きな理由として、自然豊かな山間部や海沿いの遠隔地に施設があり、交通の利便性の悪いことや、老朽化した建物の改修にコストがかかることが挙げられる。
5施設ある県立施設のうち1か所を26年に廃止する千葉県の担当者は「建物が古いので解体して更地にする可能性がある」と語る。
南学・東洋大客員教授(公共施設マネジメント)は「利用者の低迷は全国的な課題で、今後も施設の廃止は増えるだろう。施設を使わないまま放置すると、最終的にコストが膨らむ可能性がある。自治体は早期に将来的な需要を見極め、計画的に施設の活用や処分方法を定めるべきだ」と指摘する。
◆青少年教育施設=自然観察やキャンプ、オリエンテーリングなどの野外活動を行うための教育施設。小学生向けの「少年自然の家」と中高生向けの「青年の家」がある。ほかにも「野外活動センター」などの名称で運営されている。国立の施設もあるが、大半は都道府県や市町村が運営している。