茨城県鹿嶋市の国道で6月に女性2人が車にはねられて死亡した事故で、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致傷)容疑で逮捕された神栖市、会社員の男(36)が、加速して赤信号の交差点に進入していたことが、捜査関係者への取材でわかった。
県警などは、故意に信号を無視したとして、法定刑の重い危険運転致死の適用を視野に在宅で捜査を進めている。
発表によると、男は6月18日夜、鹿嶋市神向寺の国道51号で、横断歩道を渡っていた鉾田市荒地、久保田朋子さん(43)と同市烟田、塙優子さん(63)を車ではねた疑いが持たれている。2人は頭や胸を強く打って死亡。県警は容疑を過失運転致死に切り替え、水戸地検に送検後、男は釈放されていた。
捜査関係者によると、ドライブレコーダーなどから、車は現場から南約300メートルの交差点を青信号で通過した後、現場の交差点に赤信号で進入し、2人をはねたという。約100メートル手前から既に信号は赤になっており、その直前からやや加速した後、ほぼ減速しないまま信号を無視した。
県警は先月中旬、男を現場に立ち会わせて実況見分を行い、これまでの調べで信号を故意に無視したという趣旨の供述をしていることから危険運転致死の適用が可能と判断。県警の捜査結果なども踏まえ、水戸地検が今後、起訴罪名を判断する。
事故現場は県立カシマサッカースタジアム(鹿嶋市)前の交差点で、見通しの良い片側2車線の直線道路。事故前にはサッカーJ1・鹿島アントラーズの試合が行われており、亡くなった2人は試合の運営スタッフで、帰る途中だったという。
■娘の死「生きていけない」
「あの子がいないと生きていけない……」。亡くなった久保田朋子さんの母親(75)が取材に応じ、突然最愛の娘を失った悲しみを打ち明けた。
母親は1年半ほど前に脳梗塞(こうそく)を患った。後遺症で足が不自由になり、久保田さんの鉾田市の自宅で娘に頼る生活を余儀なくされた。
娘はいつも優しく介抱してくれた。買い物に行ってくれたり、付き添って手を引いてゆっくり歩いてくれたりと、不自由な生活でも一緒に過ごす時間は増えた。
一番の楽しみは、久保田さんが生き生きと語る鹿島アントラーズの話を聞くこと。運営スタッフとして携わり、「カシマスタジアムに行くと、選手やファンに勇気をもらえて、気持ちがスッキリする」。試合の日、うれしそうに出かける姿を見るのが喜びだった。
現場付近は以前、久保田さんと来たことがあった。「お母さん、ここを渡ってスタジアムに行くんだよ」。案内されて横断歩道を歩く時も娘は慎重だった。「まだ渡らない方がいい」。足が悪い自分のために、車がいないことを最後まで確認して手をつないで渡った。
そんな娘を思い出すように母親は声を振り絞った。「慎重だった娘が、まさかこんな事故に遭うなんて信じられない。亡くなったことが本当に悔しくて、生きているのがつらい」