身体の中にたまった有害物質や老廃物を排出することを意味する「デトックス」。『解毒』を意味する英語の略語だが、“毒素”の定義があいまいで、きちんとした定義もない。便利な言葉として健康ビジネスに利用されているのが現状だ。
この記事のすべての写真を見るサウナで汗をかいてもデトックス効果はない 例えば、サウナやホットヨガのブームにより、よく耳にするようになったはずだ。 確かにたくさん汗をかけば、気分がスッキリする人は多いだろうが、サウナに「デトックス効果」があるという説は間違いだ。

「そもそも人間が汗をかくのは体温を下げるため。汗から有害物質があきらかに出ているという文献はありません」 と教えてくれたのは、医師の武田慶先生。 学術誌に掲載されたカナダでの研究報告によれば、普段の食生活で体内にたまった有害物質のうち、汗に含まれて出る量は0.02%。激しい運動をしても0・04%程度にとどまるそうだ。「微量で『含有』というレベルにすぎません。これでは“デトックス効果がある”といえませんし、医学的根拠にできないのでは」(武田先生、以下同) それを端的に示すのが飲酒だ。アルコールも身体にとっては有害物質のひとつ。お酒を早く抜く方法として「サウナで汗をかく」という方法をよく聞くが、これは間違い。「サウナで汗をたくさんかいても、体内に吸収されたアルコールは汗と一緒にはほとんど排出されません。逆に脱水症状になりやすいので、気をつけたほうがいいですね」 デトックスという言葉が独り歩きをし、毒素以外のものも含めて“排出する”という意味合いで使われている。「元来、毒素が排出されるのは、尿と便からなんです」 もともと、私たちの身体は、不要なものや有害なものが身体の中に入らない仕組みになっているという。「食品添加物に含まれる有害物質を摂取した場合でも、尿や便で排出してしまえば問題はありません。そのときに『解毒』を行うのが、腎臓と肝臓。この2つが健康であれば、問題なく有害物質を排出できます」水分は多量ではなく十分な量をとって 老廃物や毒素(有害物質)を体内にためないためには、便や尿の排泄が重要だということだ。「腎臓は血液を濾過(ろか)し、毒素や老廃物、余分な塩分と水分を尿として身体の外へ排出する器官です。その尿からは毒素のうち20%程度が排出されるといわれています」 腎臓の働きをよくするためには、水分補給をこまめにするのが効果的。「尿をつくるには水分を十分にとる必要があります。不足して脱水症状になると、腎臓に負担がかかります。ただし、水の1Lを一気飲みしたり、腎臓の処理能力を超える量をとることもよくありません」 おしゃれ女子の間で流行した、果物や野菜を水に入れた「デトックスウォーター」。こちらにも残念ながらデトックス効果の裏付けはない。「水分をとるのは悪いことではありませんが、飲んだからといって身体の中からキレイさっぱり出るかのようなイメージを与えるネーミングには違和感を感じます」 水分をとる目安は、自然な喉の渇きに応じるのがベストだが、高齢になると喉の渇きを自覚しにくいので、意識してとるとよい、とのこと。 腎臓が十分に水分を排出できず、体内に余分な水分がたまってむくむこともある。「医学的には浮腫(ふしゅ)と呼ばれています。夜に足がむくみやすいのは、重力の関係で身体の下にたまるため。筋肉量が少ない女性に起きやすく、ほとんどは問題ありません」 この水分には、細胞に栄養を送ったり、老廃物を除去する役割もある。「本来はふくらはぎの筋肉がポンプの働きをし、血流を促して心臓に血液を戻します。動かない状態が続くと水分が滞るので、運動によってふくらはぎの筋肉を動かして予防を。ふくらはぎをマッサージすることでも改善が期待できます」 むくみに左右差があったり、熱感がある、皮膚が乾燥している場合は病的な可能性も。「すねなど骨の上の皮膚を指で押し、凹み(圧痕)が40秒以上残るのは、少し浮腫が強い状態。慢性的にむくんでいると痕が残らないこともあります。さまざまな原因があるので、痛みがあったり症状が続くなら、医師の診断を仰いでみて」肝臓は有害物質を無力化するフィルター 解毒を行う肝臓には、小腸などの消化管から吸収された毒素が流れ込んでくる。「肝臓はアルコールや薬などの毒素を分解し、身体に影響がないよう無毒化します。また、体内で発生した有毒な物質を無毒化する働きも」 毒素を慢性的にとっていたり、必要以上にとりすぎると、解毒作用が追いつかず、肝臓に負担がかかるので要注意。「解毒を行うのは肝臓ですが、腸はその働きをサポートしています。そのため、解毒のために腸がきちんと働くようにすることも大切。現代人は、ストレスの影響で腸の動きが悪くなりやすいので、ストレスケアにも力を入れましょう」 便秘に悩む人はデトックスを謳ったサプリメントが気になるだろう。しかし、《排便=デトックス》と単純にとらえるのは安易すぎる。「便にも毒素は含まれますが、ほとんどがエネルギー産生したものの老廃物。老廃物もあるので広い意味では、デトックスとはいえるのかもしれませんが……」 さらに健康法のひとつ「断食」の解毒効果についても、武田先生は疑問を持っている。「日々の食生活で疲れた腸や肝臓などの消化器官を休ませ、機能の回復を促すことはできるかもしれません。ただ数日間、食事を止めて、ジュースクレンズをするだけでは、いわゆる『宿便』は排出できないと考えています。下剤を服用しないと大腸を空っぽにすることはできません」 日々の解毒が滞らないためには、やはり食生活がポイントになる。「肝臓であればアルコールの過剰摂取。肥満、高血圧、糖尿病などの基礎疾患がある人は腎臓と肝臓、両方の機能が低下しやすいです。さらに、抗生物質などの薬剤を漫然とのみ続けている人も要注意」 寒い時季、新陳代謝が落ちて体重が重くなったりすると、デトックスという響きが魅力的に思えるだろう。しかし、その効果は幻想かも……ということを覚えておきたい。解毒を行うのは主に2つ!腎臓 …… 水に溶ける性質のある毒素や老廃物を濾過して尿として体外に排出する。腎機能が低下すると尿量が減ったり、貧血になることも。肝臓 …… 水に溶けない毒素を分解し、無毒化。腸に送り、便として排泄する。肝機能が低下すると、倦怠感や食欲不振、黄疸などが起きる。教えてくれたのは……武田慶先生●日本形成外科学会認定専門医。美容外科医。皮膚科医。大学病院で再建や外傷などの手術を多く執刀し、美容皮膚科のTHE ONE.常勤医師に。
例えば、サウナやホットヨガのブームにより、よく耳にするようになったはずだ。
確かにたくさん汗をかけば、気分がスッキリする人は多いだろうが、サウナに「デトックス効果」があるという説は間違いだ。
「そもそも人間が汗をかくのは体温を下げるため。汗から有害物質があきらかに出ているという文献はありません」
と教えてくれたのは、医師の武田慶先生。
学術誌に掲載されたカナダでの研究報告によれば、普段の食生活で体内にたまった有害物質のうち、汗に含まれて出る量は0.02%。激しい運動をしても0・04%程度にとどまるそうだ。
「微量で『含有』というレベルにすぎません。これでは“デトックス効果がある”といえませんし、医学的根拠にできないのでは」(武田先生、以下同)
それを端的に示すのが飲酒だ。アルコールも身体にとっては有害物質のひとつ。お酒を早く抜く方法として「サウナで汗をかく」という方法をよく聞くが、これは間違い。
「サウナで汗をたくさんかいても、体内に吸収されたアルコールは汗と一緒にはほとんど排出されません。逆に脱水症状になりやすいので、気をつけたほうがいいですね」
デトックスという言葉が独り歩きをし、毒素以外のものも含めて“排出する”という意味合いで使われている。
「元来、毒素が排出されるのは、尿と便からなんです」
もともと、私たちの身体は、不要なものや有害なものが身体の中に入らない仕組みになっているという。
「食品添加物に含まれる有害物質を摂取した場合でも、尿や便で排出してしまえば問題はありません。そのときに『解毒』を行うのが、腎臓と肝臓。この2つが健康であれば、問題なく有害物質を排出できます」
老廃物や毒素(有害物質)を体内にためないためには、便や尿の排泄が重要だということだ。
「腎臓は血液を濾過(ろか)し、毒素や老廃物、余分な塩分と水分を尿として身体の外へ排出する器官です。その尿からは毒素のうち20%程度が排出されるといわれています」
腎臓の働きをよくするためには、水分補給をこまめにするのが効果的。
「尿をつくるには水分を十分にとる必要があります。不足して脱水症状になると、腎臓に負担がかかります。ただし、水の1Lを一気飲みしたり、腎臓の処理能力を超える量をとることもよくありません」
おしゃれ女子の間で流行した、果物や野菜を水に入れた「デトックスウォーター」。こちらにも残念ながらデトックス効果の裏付けはない。
「水分をとるのは悪いことではありませんが、飲んだからといって身体の中からキレイさっぱり出るかのようなイメージを与えるネーミングには違和感を感じます」
水分をとる目安は、自然な喉の渇きに応じるのがベストだが、高齢になると喉の渇きを自覚しにくいので、意識してとるとよい、とのこと。
腎臓が十分に水分を排出できず、体内に余分な水分がたまってむくむこともある。
「医学的には浮腫(ふしゅ)と呼ばれています。夜に足がむくみやすいのは、重力の関係で身体の下にたまるため。筋肉量が少ない女性に起きやすく、ほとんどは問題ありません」
この水分には、細胞に栄養を送ったり、老廃物を除去する役割もある。
「本来はふくらはぎの筋肉がポンプの働きをし、血流を促して心臓に血液を戻します。動かない状態が続くと水分が滞るので、運動によってふくらはぎの筋肉を動かして予防を。ふくらはぎをマッサージすることでも改善が期待できます」
むくみに左右差があったり、熱感がある、皮膚が乾燥している場合は病的な可能性も。
「すねなど骨の上の皮膚を指で押し、凹み(圧痕)が40秒以上残るのは、少し浮腫が強い状態。慢性的にむくんでいると痕が残らないこともあります。さまざまな原因があるので、痛みがあったり症状が続くなら、医師の診断を仰いでみて」
解毒を行う肝臓には、小腸などの消化管から吸収された毒素が流れ込んでくる。
「肝臓はアルコールや薬などの毒素を分解し、身体に影響がないよう無毒化します。また、体内で発生した有毒な物質を無毒化する働きも」
毒素を慢性的にとっていたり、必要以上にとりすぎると、解毒作用が追いつかず、肝臓に負担がかかるので要注意。
「解毒を行うのは肝臓ですが、腸はその働きをサポートしています。そのため、解毒のために腸がきちんと働くようにすることも大切。現代人は、ストレスの影響で腸の動きが悪くなりやすいので、ストレスケアにも力を入れましょう」
便秘に悩む人はデトックスを謳ったサプリメントが気になるだろう。しかし、《排便=デトックス》と単純にとらえるのは安易すぎる。
「便にも毒素は含まれますが、ほとんどがエネルギー産生したものの老廃物。老廃物もあるので広い意味では、デトックスとはいえるのかもしれませんが……」
さらに健康法のひとつ「断食」の解毒効果についても、武田先生は疑問を持っている。
「日々の食生活で疲れた腸や肝臓などの消化器官を休ませ、機能の回復を促すことはできるかもしれません。ただ数日間、食事を止めて、ジュースクレンズをするだけでは、いわゆる『宿便』は排出できないと考えています。下剤を服用しないと大腸を空っぽにすることはできません」
日々の解毒が滞らないためには、やはり食生活がポイントになる。
「肝臓であればアルコールの過剰摂取。肥満、高血圧、糖尿病などの基礎疾患がある人は腎臓と肝臓、両方の機能が低下しやすいです。さらに、抗生物質などの薬剤を漫然とのみ続けている人も要注意」
寒い時季、新陳代謝が落ちて体重が重くなったりすると、デトックスという響きが魅力的に思えるだろう。しかし、その効果は幻想かも……ということを覚えておきたい。
腎臓 …… 水に溶ける性質のある毒素や老廃物を濾過して尿として体外に排出する。腎機能が低下すると尿量が減ったり、貧血になることも。
肝臓 …… 水に溶けない毒素を分解し、無毒化。腸に送り、便として排泄する。肝機能が低下すると、倦怠感や食欲不振、黄疸などが起きる。